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第2章

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 道の駅を出て程なくして、車は険しい峠道に入って行った。長いこと整備されていないのか、路面の状態はかなり悪く、下を向いていたら直ぐに乗り物酔いしてしまいそうだ。

「こりゃ、国道というより酷道だね。気を抜いたら事故りそうだ」

「他に道は無かったのか? 何なら、高速道路を使っても良かったんじゃ・・・・・・」

「高速道路なんか走ってても、真っ直ぐでつまんないでしょ。多少、ウネウネ、凸凹してた方が飽きないさ」

 リュゼは頑に高速道路を使わない。理由は彼女が言ったように、走っていてつまらないからと言う理由と、ブックオフが無いからである。

「おい、アソコに誰かいるぞ」

 坂道の先で男が手を挙げて突っ立っている。身なりからして、恐らくバックパッカーだろう。

「ヒッチハイクかな? ちょっと、止まってみるか」

「乗せてやるつもりか? 」

「行き先次第、かな? 」

 リュゼは男の前で車を停めて窓を開けた。眼鏡を掛けており、何処か誠実そうな雰囲気を感じがする。年齢は30手前ってとこだろうか?

「お困りかい? 」

「ああ、歩きで峠を越えようと思ったのですがね・・・・・・。足を怪我してしまいまして」

 男は落ち着いた声で、バツが悪そうに言った。

「ありゃー、それは困ったね」

「出来れば、J-24地区まで乗っけて行って欲しいのですが・・・・・・。峠を越えた辺りで結構ですよ? 」

「分かった、乗りな。後ろの席が空いてる。荷物で散らかっているけど・・・・・・」

 リュゼはあっさりと了承した。まぁ、ヤバい人間という訳でもなさそうだし、何なら怪我人だし、無視していくのも気が引ける。それに、雲行きも怪しいし、このまま放置して雨に打たれては気の毒だ。

「ありがとうございます! 後でたっぷりお礼をさせて頂きますよ! 」

 男はそう言って頭を下げ、後ろのドアを開け車に乗り込んだ。

「さて、それじゃあ行こうか! 」

「よろしくお願いします」

 そうして、再び車は目的地に向け発進した。

「オッサン、名前は? 」

「私はアキラ。アキラ・チカチーロと申します。貴人方は? 」

「アタシはリュゼ」

「俺はハルだ」

「お2人とも良い名前ですね。お2人は普段何をされているのですか? 」

「アタシ達は普段は車で旅をしているんだ。アキラさんはバックパッカー? 」

「はい、1年程前まではシカミ重工の営業部に勤め、J-28地区に住んでおりましたが、今は会社を辞めて自分探しの旅をしております」

 シカミ重工と言えば、この国の軍需産業のトップをひた走る大企業だ。そこの社員は皆有名大学を卒業したエリートばかりであり、彼もその内の1人だったということは想像に難くない。
 
 そんな職を捨ててまで、自分探しの旅をしているとは・・・・・・。頭の良い連中の考えることはよく分からない。

「えぇ、勿体無ぁ! このご時世、軍需産業程、儲かる仕事も無いのに」

「やり甲斐が無かった訳ではないんですがね・・・・・・」

 そんな会話をしているうちに、雨が降り始めた。雨は瞬く間に激しくなっていき、ワイパーを動かしていても先が全く見えない。

「流石にヤバいな。一旦停めるよ」

 リュゼはハザードをつけて車を路肩に停めた。元々道も悪いし、適当な判断だろう。

「雨、ヤバいな」

「まぁ、直ぐに止むでしょ? アキラさんも良い? 」

「はい、急いでいる訳ではありませんので、ゆっくりで大丈夫ですよ」

 雨は止むどころか更に強くなっていく。車内には雨が屋根に激しく打ちつける音がひたすら響いている。

「3巻はどんな内容かな?」

 リュゼは独り言の様に呟いた。恐らく、アントニオ博士単行本、第3巻のことである。

「さぁな。それにしても、ライバルのアクトニオが未来のヨシオだったなんてな」

「あの展開マジでやばいよねぇ~。世界滅亡のカウントダウンまで始まったし、もう話についていけなさそうだよ」

 アントニオ博士の内容は此処では書ききれない。それ程までに、内容が複雑かつ難解で文字に起こすのが困難なのだ。
 おそらく、読者を置いてきぼりにするのを前提で執筆したのだろう。

「そう言えば、お2人はどの様な関係なのですか? 」

 アキラがそれとなく訊いてきた。

「どういう関係ねぇ・・・・・・? 一緒に旅をしているだけの間柄だけど?」

「いや、凄く仲が良さそうに見えたので。てっきり、恋人同士かと・・・・・・」

 おいおい、意外とズバズバ切り込んでくるなこのオッサン。確かに、側から見たらそう見えるものなのだろうけども。
 尤も、そんな風なことにはこれ迄に一度もなってないが。

「ハハッ、恋人? コイツと? ウチがナイナイ! 」

「まぁ、ありえないな」

 俺らは2人してキッパリと否定した。

「これは、失礼・・・・・・。でも、羨ましい限りですよ。信頼できる相方がいるっていうのは」

「まぁ、そりゃね。趣味も合うし退屈はしないかな。あ、タバコ吸って良い? 」

 リュゼはそう言いながら既に煙草を咥えている。

「やめろよ、窓開けれないんだからさぁ、煙くなるだろ。客人もいるし・・・・・・」

「ああ、私にはお構いなく・・・・・・。臭いには慣れていますので」

「だってよ。それじゃ」

 咥えている煙草に火をつけると、リュゼは外の景色を見ながら暫く無言になった。


 



 

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