クリノクロアの箱庭

soch

文字の大きさ
104 / 162

第百四話 変革

しおりを挟む
「神が嫉妬したからですよ」

「はああ?それこそ何言ってるんだよ!」
「嫉妬って、誰にですか?」
「もちろんエルツ族にですよ。神の子エルツ、そして、そこから枝分かれしていった、神の子孫である魔物。それらは別の神からしたら羨ましい存在だったんです」

そう。羨ましかったんだ。
憧れていたんだ。

「神だぞ!何でも出来る神が何故、ただの一種族を羨ましいと思う!」
「何でも出来ない、からですよ。神の子でありながら、人族や他の種族と同じように、不自由で問題ばかり起こす。争いは尽きず、でも仲間と共に困難に立ち向かう。そういうのに憧れていたんです、神達は」
「何故だ!わざわざ不自由を欲しがるなどおかしいではないか!」
「そうでも無いですよ?国王だって、困難があるからそれを乗り越えた時に喜びがあったり、やりがいがあるでしょ?神は何でも出来るから、そういうのを感じる事が出来ない、、、というか、出来るけど、やれないんだと思いますよ。特に硬い神様はね」
「硬さが関係しているのですか?神の硬度が?」
「ええ、僕の守護女神はかなり柔らか女神なんですけど、いつも困っていて、失敗ばかりしてます。民に寄り添う存在だから、そういう、人に近い事も平気で出来るんです。でも、硬度が高い、つまり硬い神様はそういうのは許されていないんです。神の世界もルールがたくさんあって大変らしいですよ?」
「そ、そうなのですか、、、」

僕が勲章を貰った、神カーネリアンや神ベニトアイトは硬めな神様だ。
そうなると、クロやカルのように、失敗する事は許されず、迷う事すら出来ない。
神としての正しさ、揺るぎなさを民に示す必要がある。
まだ硬度6のベニトアイトや7のカーネリアンは良い方だ。
硬度9や10ともなると完全性を示さなければならなくなる。

だから、神達は二つに割れた。
一部の硬い神は人になろうとしたのだ。
人と交わり、自らをその子孫へと転生させ、神としての神格を落としてでも、不自由な存在へとなったのだ。

そして、それが出来なかった、と言うよりは、ただ、そのタイミングが掴めなかっただけかも知れないけど、人にはなれなかった神達はその不自由を勝ち取った神に嫉妬をした。

あの者達は不自由という自由を持てたのに、自分達は何でも出来るからこそ、出来ないを楽しめない。
神を辞めることも、不自由になる事も出来ないのに、不公平ではないのか、と。

だから、残った硬い神達は、神の子や子孫を人々の敵であるという、間違った認識を長い時間をかけて植え付けて来た。

「悔しいから、せめて嫌われろ、みたいな?」
「な、なるほど。ぶっちゃけるとそうなるのですね」
「ふーむ。いや、しかし、それではただの子供のワガママではないか。駄々を捏ねているだけにしか見えぬ。神がそんな子供じみた事を考えるのか?」
「まあ、神話に出てくる神様も結構ワガママだし、子供っぽい理由で行動してますよ?イタズラ好きの神とかもいますしね」

柔らか女神とかになれば、ほとんど普通の女の子だったし。
あ、神が人に似てるんじゃなくて、人が神に似せて作られたんだね。
だから、神様が人っぽくてもおかしくないんだよ。
そこを無理して、神様だからちゃんとしてなきゃって考えるから、性格がねじれてくるんだよ。

「まあ、お前が言いたい事はおおよそ理解した。つまりあれだろ?エルツや魔物を嫌うのは一部の嫉妬した神の偽装工作のせいだから、考えを改めるべきだと言うんだろう」
「まあ、そんな感じですね」
「理屈は分かったし、恐らくそれは真実なのだろう。だが、現実問題としてはまた別だ。国民の長年積み重なった、エルツや魔物への悪感情は、そう簡単には覆せないぞ」
「ですが、そう悠長に構えていられないんです。今のままだとエルツの国がこの国に攻めてくるんです」
「な?エルツの国が?戦争を仕掛けてくるのか?」
「はい。もう我慢の限界なんだそうです」

何年我慢してきたんだろう。
自分達は神に祝福された種族なんだよ、って何度叫びたかった事か。
実際そう叫んだ事もあったんだろうけど、神の力には敵わなかったんだろう。

「どうすれば回避できる?」
「まずは王国民に御触れを出してください。エルツと魔物のこの国における地位と人権の保証です」
「むむう。それは厳しいな。いや、しかし、やらねばならんな。分かった。触れを出そう。その次は?」
「国内のエルツ族の奴隷の解放と今後の奴隷化の禁止です。ああ、本人が望めば解放しなくても良いですけど」
「いるのかそんな奴」
「まあ、1人は確実に」
「そ、そうか。それも分かった。はああ。国中がひっくり返るぞ。ああ、胃が痛い」

頑張れ、国王。
任せたよ。

「あ、後はその方針は国外に向けて発信してもらいます。エルツの国、シュタール王国にもその旨を伝えて和解と言うか、手打ちにしてもらいます」
「国外には構わないが、シュタール王国とは国交が無いから書面を渡す手段が無い」
「ここに外交大使が居ますよ?この人はシュタール王国第一王女、ディアマント=ツィン=ヘルグリューンさんです」

ディアに伝えてもらうしか無い。
実際、シュタール王国とは国交どころか、人の行き来も殆ど無い。

フォルクヴァルツ王国の南西には、マルブランシュ共和国がある。
南東にはラ・フォルジュ共和国、真南にはデマルティーノ帝国と3つの国が南側に接している。
その3つの国のさらに南にシュタール王国がある。

いや、その間にはドゥンケルハイトの森というのがあり、強力な魔物の住処となっている。
それがあるせいで、他の国とシュタール王国は国交が出来ずに孤立している。

でも、今、考えると、その森の魔物もエルツを守る為の防衛手段なんじゃないかなと、思えてくる。

「ディア。キミには、このフォルクヴァルツがエルツに歩み寄ろうとしているという事を伝えて欲しいんだ。そして、戦争を回避して欲しい」
「しかし、この国は本当に変われるのだろうか。今の話からすると、人々のエルツに対する感情は相当根深いようだが」
「あ、ああ、ヘルグリューン王女。信用は実績でしか得られない。我々はエルツ族に対する考えを改める為に全力を尽くす。すぐに結果は出ないが、それを見届けるまでは、結論を伸ばして貰えないだろうか」
「ふむ、そうだな。フォルクヴァルツ国王よ。フォルクヴァルツ王国が本当にエルツを友として迎えられるように変われるか、注視するように、とシュタール国王に進言しよう」
「おお、ヘルグリューン王女。感謝する」

ディアには、この国がエルツに対する考えを改めると言う事と、実際にどう言う政策で、国の民の認識を正していくのか、教育や制度の改革、奴隷の解放や禁止、エルツの市民権の保証など、急いでまとめて書面にして、シュタール王国へ持って行って貰う。
そうは言っても、こんな重大な事を国王が一人で決められるわけでは無い。
この国は王政であっても独裁では無い。
枢機院にて審議をして、そこを通らなければならない。

内容が内容だけに、すぐに結論が出る訳ではなく、最低でも数日は掛かるようだ。

一旦家に帰って、王宮の結論が出るまでは待つしかない。

「あまり、悠長な事を言ってられないんだけどな」
「仕方ないわよ。エルツ族ってギルドでも、討伐クエストが出るくらいなのよ?私、頭来たからそのクエスト用紙ビリビリに破ってやったわ」
「それ、怒られなかったの?」
「しこたま怒られたわ!でも後悔してない!」

ディアはしばらくはこの家に泊まって貰う事にした。
部屋はフィアとラナの部屋で問題なさそうだったし、何より久し振りに会ったんだから、積もる話もあるだろう。

今は待つしかないけど、今の内に色々と準備はしておいた方がいい。
最悪、また戦争に突入するかもしれないんだから。



「あれえ?おかしいな」
「どったの?ご主人」
「チャットが開けないんだ。メッセージもだけど」
「あらま」
「最近、クロやカル、、、僕の守護女神なんだけど、そこからの連絡が無くってさ。二人とはチャットも出来るようにしたんだけど、動かないんだよ」

チャット欄のクロやカルの名前が薄くなっていて選べないでいる。

「どれどれ?あら、私もご主人とチャット出来ない。フィアちゃんには、、、、出来ないわね」
「私もリーンハルトくんとのメッセージが開かないですね」
「んー、通信遮断?これ、新しいスキルも作れないのかな?」
「スキル作るのにチャットとか使ってるの?」
「あ、いや、何かを何処かからか貰ってきているみたいなんだ、それを元にスキルを作っているんだ」

これは困ったな。
スキル作成は今の所作る予定は無いけど、チャットが出来ないのは何かと不便だ。

アリアを起こそう。いや、起きよう、だな。
えっと、起きろ!じゃなくて、起きるぞ!えいっ!
あれ?自分で起きるってどうやるんだ?
あっちに移っちゃったら、寝たままになりそうだし。

ポーン
『ウェイクアップシグナルを送信しますか?』

「ああ、は、はい」

『ウェイクアップシグナルを送信しました。起動確認』

あ、起きた。
なるほどね。

「おはよう」
「あら、おはよ。ご主人。こっちのご主人と交代でもするの?」
「ううん。チャットは出来ないけど、アリアはどうかなって思ってね。問題なく切り変われるから、別の回線みたいだね」

ディアが国に帰るまでに色々試しておかないとだな。
多分、すんなりシュタール王国がこっちの言う事を全て受け入れるとは思えない。
その為にも、やれる事はしておこう。

「ワクワク」
「リーンハルトくん、また気持ちが声に出てますよ?」

いいじゃん!何でも楽しくやった方がやる気も出るしね。

「ステータスウィンドウ!」

アリアでステータスを出してみる。
うん。出るね。

ステータスはと、、、、。見ても分かんないんだよね。
スキルや魔法は未だにロックされていて、セラフの翼だけが使える状態のままだ。
あれぇ。リン側でいくつか使えるようにしたのに、こっちはまだなのか。

「アザレアの杖と水筒」

『ロックされているか、使用不可能な魔法です』

ありゃりゃ。アリアだと、使えないのか。
ラッパは危な過ぎるから封印しておこう。
代わりにまだ使ったことの無い物を試してみる。

「鞘より抜かれし剣」

変な名前のスキルだな。

『見つかりませんでした』

やっぱりまだ無いんだ。
じゃあ、こっちだな。
リンに切り替える。

「鞘より抜かれし剣」


『警告。鞘より抜かれし剣はインストールされていません。ご使用になるにはインストールが必要です。インストールを実行しますか?』


これは出来そうだ。
そうすると、チャットとかメッセージのような誰かとの通信だけが使えないみたいだな。
このままインストールというのをやっておこう。
インストール後にアリア側で鞘より抜かれし剣を使おうとしたら、やっぱりロックされていると出て使えなかった。
でも、使えるかどうかというのは、リンとアリアとで共有しているのが分かった。

再びリン側で今入れたスキルを試してみる。

「鞘より抜かれし剣」

空中に鞘が現れる。
落ちそうになるのを上手くキャッチする。
剣が入っていない。

ええ!?鞘より抜かれし剣って、抜かれた鞘の方が現れるのかよ!
剣主体なんじゃ無いの?


ポーン
『自動敵性判定にて敵性体が見つかりませんでした。保護機能が作動した為、剣の実体化が失敗しました。スキルを終了します』


鞘も消えてしまった。
敵が居ないと現れないのか。
どんな剣か、見たかったのにな。

あ、そうだ。何か設定が出来ないかな。
ウィンドウで長押しすれば、実体化の設定とか出来そう。

「ステータスウィンドウ!」

……いやいや、リンはステータス出せないんだった……。
そして、アリア側はステータスは出せるけど、ロックされていて見えなかった……。

ううっ、この微妙に手が届かない感……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...