魔力無しグルコ25歳の備忘録

イイズナそまり

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第二十一話

勇者ナナフシグルコ

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『目覚めよ。勇者ナナフシグルコ』


おお ファンタジーな夢
〈ペンッ〉
顔 何 なんで顔を叩いた?
「ニヤニヤ寝てんじゃないよ」
もっと優しく起こしてよ
「行くよ」
ジャングル探検隊の格好をした店長
「グルコ行くよ」
ボリルまで
「いや、俺、天秤の儀があるから探検隊には入隊しませんよ?」
〈ペンッ〉
「アンタは祭りに行くんだよ」
「昼から行くって言いましたよね?昨夜ドブロク飲み過ぎて忘れちゃいました?」
〈ペンッ〉
「アタシ達は今から南の森だ。昼過ぎに送迎する暇がないんだよ」
「暇がないんだよ」
ボリルまで




「天秤祭り裏の年。皆さん楽しんで下さい」
《パチパチパチパチパチパチ》

ロカン王国シンケー領 領主さんの祭りの挨拶が終わった
「ほんとに一言なんですね」
「そうね」
「そこは節約しなくて良いのに。やる気の無さが伝わり過ぎですよ」
「んー。グルコには分からないわね。領主は魔力が弱まっていて喋る元気がないのよ」
「へぇー」
バチが当たったのかな



円舞台に天秤の儀で使う天秤棒と船形の荷箱が準備される

「ほら、お船に乗ってごらん」
キャッキャッ「おふにぇ」キャッキャッ
「母ちゃん、靴は?」
「そのままで良いよ」
「わかった」
「手伝う?」
「お気持ちだけでいいです」
「ハイハイ」
ヨイショヨイショとよじ登る
「すっかりお兄ちゃんですね」
「最近自覚が強くてね~」
「子供の成長って早いですよね~」
「グルコ隠し子でもいるの?」
「ボリルの事ですよ」
ボソッ「ああ、子供馬か」

「この船ヤバいですね。国立美術館が欲しがりそうです」
「王都から材木商と美術館の館長が領主邸に前乗りしてるって。後で見に来るんじゃないかしら」
やはり来たか ガメつい奴らめ
「なんなら有形文化財に推薦してくれないかな。百年後、国宝や重要文化財に出世させたいです」
「あら、それ賛成。なんたって宝船だもんね」
「宝船ってなあに?」
「神さまを沢山乗せてお空を飛ぶ船よ」
「魔法で飛ぶの?」
「そうよ」
「これも飛ぶの?」
「飛ばせないわ。真似して作っただけよ。古い童話に出てくるの」
古代魔法の中でも有名な飛行魔法は遠い昔に国際法で禁忌となった
その魔術式は魔女によって全て粉砕された
今は童話としてひっそりと語り継がれているだけだ
「グルコも乗ってみる?」
「遠慮します。勇者が乗っちゃダメな気がします」
聖女が乗る宝船 なんか変なバチが当たりそう
「それじゃ、わたしが」
キャッキャッ「かっちゃ」キャッキャッ
「母ちゃん、木のお風呂」
アハハ「そうよね~」


《ザワザワザワザワ》

〈皆さん道を空けてくださ~い〉
〈オーガのお頭が通りますよぉ~〉
〈今年はエルダーオーガですよ~〉
〈道を空けてくださぁ~い〉

《ザワザワザワザワ》

「奥さん、どこであんなデカイ燻製を作ったんですかね」
「裏庭に燻製釜を新調したのよ」
「へぇー。お金持ちですね」
「ギルマスの小遣い減らしたそうよ」
「へぇー。お気の毒さまですね」

《ガヤガヤガヤガヤ》
《ガヤガヤガヤガヤ》

町民達が円舞台に上がって賑わい出した

「地区長さん、うちの子も乗せて良いかしら?」
「あら、どうぞどうぞ。わたしは降りるわね。子供が何人乗るか試しましょ」
「まあ!面白い!」
「ほら、アンタ達も乗りなさい」
「ボクも乗る」
キャッキャッ「やったぁ~」
「ちびっ子集まれ~」
子連れ家族が宝船に集まる 場違い感
人混みは苦手だ サッサと退散するに限る
「俺、弁当買って冒険者ギルドの別館に行きますね」
「別館?」
「仮眠を取ります」
「わかったわ。天秤の儀に遅れないようにね」
「ハイハイ」



 天秤祭りでは町の中以外に森林組合主催のイベントが森の中で開催される
店長とボリルは南の森のイベント『トクダイカブトムシ大会』に参加している
この時期は繁殖期で見つけやすい が オスもメスも凶暴化しているらしい
あの二人は優勝商品のトクダイアゲハ蝶の蛹を狙ってるとか ちょっと意味がわからない



 広場に並ぶ露店をぷらぷら見て回る
昨日の昼からちゃんとした飯を喰ってないので飯粒が喰いたい
弁当屋が露店を出していた 珍しいな
縁台にはメニューが貼られている 準備中かな
「すいませ~ん、玉子焼き弁当を一つくださ~い」
露店の奥 店舗にいる店員に声を掛けた
「あら、勇者ナナフシグルコだわ」
ゲッ
「何その嫌そうな顔」
窓口のねーちゃん ドークツさん 飯粒だらけの手
「商業ギルド忙しいでしょ。何してるんですか?」
ボロボロの飯の塊を握ってる それはおにぎりか?
「あっ!」
喰ったよ
モグモグ「店主さんの娘さんが産気付いちゃって」
うわぁ エプロンで飯粒拭き取ってる
モグモグ「ピンチヒッターしてるのよ」
喰いながらしゃべるなよ
「甘いの?しょっぱいの?」
こんなギルド職員を派遣するなんて余程緊急だったんだな
「じゃあ、甘いのください」
「毎度~。焦がすけど我慢して食べてね」
ちょっと待て
「入っていいですか?」
ドアの前の用心棒さんに声を掛けた
「どうぞ」

「あなたが作るんですか?」
〈コンッコンッ グシャ〉
「あ、こら、店舗は立入禁止~」
「許可貰いましたよ。そんなことより、焦がすって何?作り置きとか無いんですか?」
「しょっぱい玉子焼きはあるの。甘いのはオーダーされてから作るのよ」
「なんで?」
「冷めて固くなると不味いらしいわ」
〈コンッコンッ グシャ〉
「らしいわって?」
「初めて作るのよ。コレ、店主さんのレシピ」
ああ 卵でベタベタの手で
「焦げやすいって書いてあるでしょ」
「出来ないならメニューから外しなさいよ」
「そんな勝手は出来ないわよ。ギルドの名にかけて」
「じゃ、しょっぱいのにします」
「あら残念。もう黒糖入れちゃったわ」
お客様コチラをご覧くださいした 卵でベタベタの手で
「入れ過ぎです。殻も入ってます」
「小さじ一杯計ったわよ。殻は布巾で濾すから大丈夫」
「それ大さじです」
「あらそーなの。じゃあ卵を増やすわね」
〈コンッコンッ グシャ〉
「弁当2個買いなさいね」
〈コンッコンッ グシャ〉
とんでもねーな




 広場から南に下がる街道に大型の町馬車が停車した
領主邸の別館に前乗りで宿泊していた観光客がゾロゾロと降りてくる

〈いらっしゃいませ~〉
〈ようこそお越しくださいました~〉
〈パンフレットどうぞ~〉
〈いらっしゃいませ~〉

他領の貴族達にワラワラと案内係達が群がる

〈商業ギルド2階催事場で宝船グッズを揃えてますので是非お立ち寄りくださ~い〉

 「ねえアナタ、オーク製の食器があるわ」
 「ほお~。珍しいな」
 「見に行きましょ」
 「買い物は後でも良いだろ?」
 「宝船は逃げないわ。数量限定が先よ」
 「あー、そーだなー」

 「お母様、隕石の注連縄飾りがあるわよ」
 「さっきのアレね。凄かったわね~」
 「私は早く宝船が見たいんだが」
 「ミニ注連縄飾り、家族円満ですって」
 「紅白のねじねじリース飾り可愛いわね」
 「私は早く宝船が見たいんだが」
 「あらやだ、お一人様10個ですってよ」
 「3人居るから30個ね」
 「私は早く宝船が見たいんだが」
 「次のお茶会で配りましょ」
 「そうねそうね」
 「私は早く宝船が見たいんだが」
 「お父様、宝船は逃げないわよ」
 「売り切れごめんが先よ」



 焼き鳥屋の露店に煙のカマクラが出現した 早くも行列が出来始めている 流石人気店

一方 ピンチヒッターだけの弁当屋 やっと弁当箱への詰め込み作業が終わった

「10種類、10個ずつ。よし!出来た!」
「君、全種類ツマミ食いしたね」
「美味かった!あとは売るだけね!」
「そーだね」
「それじゃ、あたしはギルドに戻るわね」
「もう好きにして」
「責任を持って完売しなさいね」
「ハイハイ」

俺は自分で焼いた甘い玉子焼きを頬張った 腹ペコだ
水で伸ばして焼いたので冷めても固くならない
「旦那さんも中にどうぞ。これから混みますので早飯にしましょう」
店舗のドアの横が定位置
雇われ用心棒のガチムチ冒険者だと思ってたら店主の旦那さんだった
弁当屋は奥さんが経営していて旦那さんは冒険者

「山菜おにぎり何個食べますか?」
「大きめで3個頼むよ」
「そしたら釜の残り全部使い切りますね」
「ああ、構わないよ」
最後のお焦げが上手いんだよな 小さいおにぎりを頬張る

「余ったオカズも片付けちゃいましょ」
「そうだね」
「来年は、小さい水筒にお茶を入れて売っても良いかもですね」
「そうだね」
ほんと口数が少ないなぁ
あんな出鱈目なピンチヒッターに苦情ひとつ言わないし
洗浄魔法で黙々と洗い物をして片付けてくれるし
こんなに気の利いたA級冒険者もいるんだなぁ
「ごちそうさまでした。お先です」
「えっ?それだけ?」
「元々昼飯は喰わないんですよ。これは遅い朝飯です」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
だからガリガリなんだなって思ってるね
「ごゆっくりどうぞ。何かあったら呼びますので」
「ありがとう」


《ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ》
「お弁当ありますよ~」
《ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ》
「美味しいお弁当いかがっすか~」
《ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ》


「グルコ、何してるの?」
あらま ドロイと妹さんと薬師村のアムチさん
「見ての通り弁当屋のバイトだよ」
「それ何?」
「メガホン。風魔法無いから声が届かなくて」
「そっか。がんばってるね」
「偉いでしょ」
「うん」

「こんにちは。藁紐作りの時に店主さんが黒糖とか沢山買ってくださったのでお礼に参りました」
旦那さん居るけど食事中だし 知らない男性と対面はキツイだろうし呼ばなくていいよね
「あー。なんか、娘さんが産気付いてそちらに行かれたそうですよ」
「まあ。そうなんですね」
「嫁ぎ先は八百屋さんだそうです」
「八百屋知ってる。手伝いに行きたい」
妹さん 今日は顔色が良いな アムチさんの新薬が効いたのかな
「そうね。双子ちゃんらしいから人手がいるはずよ」
そうなんだ 人が沢山いるなら
「お弁当、10個くらい買って行く?」
ダメ元
「うん。そーだね」
「おー 気前がいいなぁ」
「へへ」
「玉子焼きはグルコさんが焼いたの?」
「甘いのは俺です。5個だけですけど」
「そっか、じゃあそれ全部だな。あとはこのボア肉炒め弁当」
「毎度あり~」
「商売繁盛だね」
お 自然な笑顔だな
薬局の新薬をもっと仕入れても良さそうだ
「ありがとうございます」

実はここにいる4人 今年の勇者と聖女なのだ 他にはちびっ子聖女が3人
アムチさんはドロイが村に通い詰めて口説き落とした

「お嫁さんになってくれないなら聖女をやってください」

村長さん達には許可を貰うために鬼の様に食い下がったらしい
まあ仕方無くという流れではあるけど 本人はそこまで嫌々では無さそうだね

「天秤の儀、遅れないでね」
「グルコもね」
「ハイハイ」

《ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ》
「お弁当ありますよ~」
《ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ》
「美味しいお弁当いかがっすか~」
《ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ》


「グルコ、何してるの?」
ゲッ 狐面が来た
「何その嫌そうな顔」
「あ。ひょっとこ踊りは最終日でしたね。強制参加させられるかと勘違いしました」
「バカね。素人が簡単に踊れる理由無いでしょ」
「暇なら弁当買ってくださいよ」
「ここでバイトしてんの?」
「ハイ。因みにアチラ店主の旦那さんです。カッコいいでしょ」
黙ってペコリと頭を下げる
狐の方は挨拶もせずジロジロ見て失礼な態度 魔力感知か?
「肺活量」
「肺活量?」
「あなた、子供の頃に北の森神社で篠笛習った事あるわよね?」
「あります」
旦那さん?
「篠笛を一時間吹き続ける肺活量あるわよね?」
「あります」
旦那さん?
「最終日、ひょっとこ踊りで篠笛をやってくれるなら、このお弁当全部買うわ」
「やります」
「旦那さん!?」
「娘が産気付いてるので弁当を早く完売して駆けつけたいです」
えっ そーだったの?
〈バチンッ〉
「イテッ」
何で俺?しかも平手打ち
「やだ!」
こっちがやだだよ 弁当屋の前で便所と書いたスリッパを使わないのは偉いけど
「娘の一大事に何してんのよ!」
露店にズカズカ乱入 旦那さんの手に金を握らせた
「グルコ!お弁当は冒険者ギルドの5階に配達しなさい!」
「えっ?あの?」
「行くわよ!どこで産むの!?」
「八百屋です」
「了解!」
手で狐を作る

〈コンコーン〉

えええぇぇぇぇぇぇ



「それで?」
「そのまま八百屋に転移しました」
「そーかそーか」
5階大会議室は天秤祭りのスタッフ休憩所になっている
町長や他領の警備関係者も不測の事態に備えて皆んなここで待機する


「マクさん、どこに置きますか?」
「ここに並べましょう。」
「東さん、弁当出して浮かせててください」
〈パッチン〉
「もぉ~ユガに買い出しを頼んだの誰よ」
「くじ引きしたんですよ。」
「わたしが通りかからなかったらグルコ一人で運んだのよ?」
「いえ。隣の店に見張りを頼んでここへ知らせに来るつもりでしたから」
「あら?わたしが勝手にお節介しちゃったのね?」
「とんでもない。助かりましたよ。ありがとうございました」
「まあ、いーわ」
「母ちゃん、母ちゃん」
「ん?なあに?」
「金魚すくい」
「え」
窓際に水面をキラキラさせた大きなタライ
ぐるりと金魚の絵が描いてある
「何故ここに?」
「ああ、スタッフの暇つぶし用です。」
「裏の年は暇だからな。私が知り合いに頼んだのさ」
シンさんテキ屋にも知り合いがいるのね
「東、子供達を遊ばせて良いぞ」
「えーーーー金魚ぉーーー」
「ぼく、やりたい」
「あたちも」
「えーーーー金魚ぉーーー」
うんうん わかるわかる 後で掬った金魚をどうするか問題が発生するからね
うちでもボリルに生き物はとにかくダメだからって何度も何度も言い聞かせてる
コソリ「あれ、金魚じゃないです。」
コソリ「何なのよ?」
コソリ「食用の赤い小魚です。煎って酒のツマミにするんですよ。」
そっと指刺す 魔道コンロとフライパン
コソリ「ここで作るんですか?」
コソリ「煎りたてがサクサクで最高なんです。」
「酒は私が提供してるよ。タダでな」
シンさんの収納魔法は酒屋より品揃えが良い
「アンタ達!どんっどん掬いなさい!」
コロッと態度変えたよ
「は~い」
「にっちゃ、おてて」
「つなぐの?」
「あゆむ」モタモタ
「だっこは?」
「あゆむ」モタモタ

コソリ「東さん、大丈夫なんですか?」
「何が?」
コソリ「掬ったペットを食べちゃうんですよ?」
ふふっ「この子達にペットを飼う概念は与えてないわ」
なんじゃそりゃ

「おじちゃんこんにちは」
「こにゃにゃちわ」
「お邪魔しますね~」
「よお。宝船はどうだった?」
町長さん顔真っ赤だよ 大分飲んでるな
うふふ「素敵でした」
うふふ「そうかそうか」

箱にお金が入ってる
「無料でいいぞ」
「あら、ありがとう」
コソリ「元手分は町長が払っちまってる」
足元の竹籠に破れたブイが溢れてる
コソリ「飲ませ過ぎじゃないの?」
コソリ「たまには気晴らししても良いのさ」

「ぼくね金魚すくい得意なんだよ」
「おじちゃんはこれが大好物なんだ。でもね、下手っぴなんだよ」
「そっか!ぼくが沢山掬ってあげる!」
なるほど 掬って遊ぶのが好きなだけでペットが欲しい訳じゃないのか
「アンタは母ちゃんとやろうね~」
キャッキャッ「あい」
「育て無くて良いから楽チンね」
「育てる?」
「シラスウナギは食べるサイズまで育てられなくて悔しかったわ」
それは難易度高すぎるでしょ


「母ちゃん下手っぴ」
「動くから難しいのよ。大将、この桶、魔法が使えないようにしてるでしょ?」
大将?
「そりゃあそーさ。魔法のイカサマ禁止だよ。営業妨害だ」
ああ シンさんの事か
「母ちゃんがんばって」
「むうぅー」


飽きた 金魚すくい向いてないかも
「そろそろ、俺、別館で仮眠取るので失礼しますね」
とは言うものの立つのもシンドいわ 窓際でポカポカして眠い
「あら、そうだったわね」
「今からなら一時間くらい眠れますね。」
ハッハッハッ「昨夜は緊張して眠れなかったか?」
「そうですね」
明け方までミニ注連縄飾りを作る内職をしてたんだけどね
「あっちに仮眠スペースあるぞ。使えば良いさ」
会議室の端っこに藁敷広げて何人か雑魚寝してる あれはまさか
「領主さん?」
「シンドいってさ。領主のクセに軟弱で困るよなぁ」
「こんな所で良く寝れますね」
「ああ、そーか、防音魔法か」
「わたしが掛けてあげるわよ。タダでね」
「寝心地サイコー魔法もタダなら良いですよ」
ポカポカしてほんと眠い
「それは西のオリジナル魔法だわ」
「無理だな」
「んー高反発クッション魔法は?」
「それもだな」
「んー低反発クッション魔法は?」
「君、西に大分甘やかされてるね」
「そーなんですかねぇ」
「寝たきりの病人並みだよ」
「俺が休むと仕事増えるからですよ」
「なんだかんだ西は面倒見が良いからな。これからも遠慮無く甘えなさい」
「あ。俺が甘えん坊みたいな言い方ですね」
「違うのかい?」
「その通りです。人に頼るの大好きです」
ハッハッハッ「頼られてばかりだがな」
「まあ、そうですけどねぇ」
「それで、ここで仮眠するかい?」
「致しません。別館に行きます」
「わかった。私が送るよ。歩いてだがな」
「近いから大丈夫ですよ?」
「グルコさん、あなたが巻き込まれ体質だからシンさんは心配してるんですよ。」
「そうね。お弁当買いに行ってお弁当作って売ってるんだもの。ありえない巻き込まれっぷりだわ」
確かに
「そういえば、シンさん、今日はお酒飲んで無いんですね?」
「領主の血族は天秤祭り裏の年は禁酒なんだよ」
「へぇー」
「魔力が弱まってるから酒を飲むとダイレクトに肝臓をやられるんだ」
シワシワの声が心地いい
「へぇー」
「裏の年はもう始まってるんだよ」
「へぇー」
「領主の血族の魔力で領土全体に強い結界を張って厄災を防いでるんだ」
「今のシン坊の魔力、うちの子より弱いわ」
「秘密だよ?」
「町民は皆んな知ってるけどね」
ふわぁ~「ふぇ~」

「シン坊、グルコが限界だわ」
「しゃがんだまま船を漕いでます。」
「子供かよ」
「グルコさん秘密の話し大好物なのに反応鈍いから変だと思ってました。」
「あらやだ町長もだわ」
「領主の隣に転がしとくか?」
「そうね」





 『今年の勇者』のアンケート結果
感想トップ3
1位 自分の体なのに勝手に変な力が入る
2位 もう一人の自分がいる感じがした
3位 頭が真っ白になり気づくと持ち上げていた

円舞台は山神さまの魔力が支配する聖域とされている


《そぉらっどっこいしょ~~》

「フンッ!」

《シーーーーーーーーーーーーン》


聖女を乗せた宝船 奉納品を乗せた宝船 天秤棒
重さは優に百貫を超えている

〈えーっとぉ 今年の勇者達に拍手~〉
《パチパチパチパチパチパチ》
〈今年の聖女達に拍手~〉
《パチパチパチパチパチパチ》




【勇者反省会】

「ドロイ君、もっと焦らして欲しかったです」
町長さん
「グルコさんも、せめて担ぐふりをして欲しかったです。」
サブマスさん
「お前、棒に触るだけの勇者って前代未聞だぞ」
冒険さん
「ドロイしか見えなかったわよ。え?いたの?みたいな存在感の薄さ、逆に凄いわ」
東さん

「ヤラセ疑惑は本当だったんですね」

《シーーーーーーーーーーーーン》

「グルコ君、そうでは無いんだ。いきなりMAXの筋力を使うのは体に負担がかかるんだよ。徐々にアクセル開けてって事なんだよ」
シンさんまで
「掛け声たった1回で持ち上げたから観客が不完全燃焼なのよ」
東さん暴露したね
「はあ」
ドロイまで不完全燃焼になったじゃん
百貫以上ある天秤を持ち上げてスッキリしてたのに

「だったら、天秤の儀ごっこ、みたいな軽いノリで観客参加型の遊びをしたらどーですかね?盛り上げるの得意でしょ?」

〈バンバンッ〉
《天才かっ!?》

「ドロイ君、お手柄です」
「はあ」
手のひら返し半端ない
「町長!」
「許可します」
「よし!新しいイベントで大儲けだ!」

〈ダンッ〉
デスクの内線魔法陣を荒々しく叩く
詠唱「5階大会議室!」

「緊急放送、緊急放送。新イベント、天秤の儀ごっこを開催します」
「おい!わんこ蕎麦大会!円舞台のイベントは中止しろ!」
「準備した蕎麦は国道の王都交通課と隕石周辺で働く方達に届けてください」
「天ぷらを祭り予算で購入して良いですか?温かい天ぷら蕎麦をお出ししたいです。」
「マクさんがやり繰り出来るなら構いませんよ」
「出来ます。露店班聞こえましたね?手配してください。」
「イベント班!司会者を呼び戻せ!」
「記録班!魔法写真家!天秤の儀ごっこの観客を写して買わせます!」
「それは良いな。知り合いに祝100回記念の撮影用立て看板を作らせるよ」
「設営班!木材とペンキを手配!」
「商業ギルドから参加景品も提供させて!宝船グッズ!オーク製子供用カトラリーが欲しいわ!」
《それは無理!》
「そうね!」

「皆んな!祭りが終わるまで稼ぎまくるわよ!」

《エイッエイッオー!》

「以上。緊急放送終わり」
〈バンッ〉
「号外で王都と他領に宣伝するね。何かあったら町役場に居るから直ぐ報告してね」
《はい!》
「反省会解散」
《はい!》

〈バーンッ〉
〈ドタドタドタドタドタドタドタ⋯〉



ギルマス執務室に残された今年の勇者と聖女4人
ドアに張られた戒名【勇者反省会】がパラリと剥がれ落ち床に寝そべった
小さく折り畳んでゴミ箱に捨てた

「あの、町の重鎮さん達っていつもこんなんですか?」
「落ち着きが無いお調子者が町を動かしてます」
「祭りが終わるまでと叫んでいたわ」
「裏の年が始まるからです。あらゆる天災や収穫物の凶作に見舞われるんです。奥地は影響がないですよね」
「そうね。特に感じないわ」
「山神さまの恩恵が強い土地だからですよ」
「そうなんですね。なんか不思議です」
「面白いですよね」
うふふ「ええ」

「お兄ちゃん、赤ちゃん見に行きたい」
うふふ「そーだね。出産祝いを買って行こうか」
「あら、そしたらこれ」
山神スミレのデザインが綺麗な薄い化粧箱
「銀の匙。丁度2本です」
「アムチさん、これをどこで?」
「店長さんに新薬発売祝いに戴きました。中身を知らずに受け取ってしまって。村で金属食器は使えない掟があるのでお返ししようかと」
国王が特級薬剤師に与えるやつだ
2本あるのは薬剤師の使命 命の始まりと命の終わりに責任を持つ事を意味する
瑞宝章といい貴重な物を平気でタライ回しするよね
「それは使う物ではありません。薬剤師の勲章みたいな記念品です」
「使わない記念品をくださったの?」
「店長がアムチさんに勲章をあげたかったんですよ」
「まあ、そうなのね。でも、お気持ちだけで十分ですから」
これは価値観の相違だな
「他の方に差し上げたらダメかしら?」
概念を押し付ける必要は無い
「今はアムチさんの物ですから構いませんよ」
「良かった。こんな高価な品、落ち着かなくて困っていたの」
俺みたいに誰かに売ろうとは考えないんだ 真面目だなぁ
「一般的に銀の匙は健康を祈る素敵なおまじないです。双子のお母さん、とても喜びます」
「サミン、僕たちも持ってるよね」
「うん」
「王国のおまじないなんですね」
「ですね」
「それじゃ、八百屋に行こうか」
「あ、俺は帰るよ。もう眠くて」
「わかった。今日はありがとうな」
「こちらこそ」
勇者として円舞台に上がってから体がダルい
これは多分あれだ
契約魔法が解除された反動かもしれない



「着いたら起こしてください」
「あいよぉ~」
裏通りを走る下り線の町馬車は俺の貸切だった
遠慮無く座席に靴を脱いで寝そべった
今日はもう一つ賑やかなイベントの予定がある
店長とボリルが蛹を持ち帰るはずだ
想像しただけで笑える

俺はゆっくり目を閉じた

露店のバイト 大変だけど面白かったなぁ





~勇者ナナフシグルコ 完~
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