悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第31話 社長も大変

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「お腹が空きました」
 しかし、そんな話よりも今は朝ご飯が欲しかった。悠人だってさすがに将来のことにばかり頭を悩ませているほど真面目ではない。ということで、台所に取りに行く。
「あら、おはよう」
「おはようございます」
 台所に顔を出すと、沙希が鍋で何かを煮ている最中だった。何を作っているのだろうと見ると、鍋の中身はサツマイモだった。
「今年は早くから豊作なのよ。全部を石焼き芋にしてたら追いつかないわ。だからお芋のケーキを作ろうと思ってね。今日のおやつに出すから期待しててね」
「へえ。楽しみです。あっ、ご飯は自分で入れますね」
「助かるわ。本当に和臣とは大違い。あの子なんて自分でご飯をよそったこともないのよ」
 あははっと笑う沙希は、言いつつ和臣の部屋の方へと目を向けた。まだ起きて来ないのかと、呆れているようだ。
「本当に何歳になっても朝が弱いんだから。夜にちゃんと寝ないからね」
「作業が忙しいみたいだから、明け方に寝たんでしょうね。昨日の晩も、途中でいなくなっちゃいましたし」
「ああ、そうよね。あの子、昔から何かに夢中になるとそればっかりになるのよ。まあ、だから大学院まで行ってるのよね。私には解らないことばっかりだわ。大学院に行くって言いだした時は、まだ勉強するのってびっくりしたものよ」
「ああ、まあ、そうですねえ。理系じゃないと院ってそんなに考えないみたいですし」
 親にも把握しきれない世界なのかと、釣られるように悠人も部屋の方に目を向ける。だが、物音すらしなかった。これは完全に寝ているのだろう。
「まあ、いいわ。好きなようにやらせようって決めてるからね。熱中できることがあるならそれでよし。十分よ。あとはそれを職業にしてくれれば、親としては文句ないもの」
「そう言えば、和臣さんって昔から家の手伝いをしてないんですよね」
「そうそう。お父さんの方針なのよ。農家の子が農家になるって誰が決めたってね。やりたくないならば無理にやらせる必要はないって言うのよ。たぶん、自分のことがあるから、和臣にそういう苦労をさせたくなかったのかもしれないわ。興味がある時だけ手伝えばいいって」
「へえ」
 そういう親心からかと、手伝いをさせない理由を知って信明を見直していた。昔から気のいい叔父さんだが、心意気も凄かった。普通ならば自分の仕事を継いでほしいと思うだろうに、興味がないならやらなくていいなんて、農家だと尚更簡単には言えないだろう。
「畑はおじさんの代で終わりってことか」
 この風景が見られるのも、信明が元気に畑仕事をできるうちかもしれない。そんなことを考えながらご飯とみそ汁をよそって茶の間に戻ると、和哉は麦茶をのんびりと飲んでいた。こちらは休日モードというところか。しかし、右手は忙しなくスマホの画面をスクロールしていて、完全に休憩しているわけではないらしい。目が凄く真剣だ。
「お仕事ですか」
「あ、うん。ちょっとトラブルがあったらしくてね。メールでどうするかって相談が来たから、その対処法を考えていたんだ。プログラミングって最初はエラーが多いからね。ある企業向けに作ったものだったんだけど、うまく動いていないみたいなんだ」
「へえ」
 やはり仕事だった。悠人がご飯を食べ始める横で、和哉はスマホをぽちぽちとやっていたが、作業効率が悪いとタブレットに切り替え、さらに折り畳み式のキーボードまで取り出す。これではもう、完全に仕事を開始するようなものだ。
「必要な道具っていつでも持ち歩いてるんですか」
「まあね。ウェブの悪いところはいつでも出来てしまうから、都合関係なく仕事が舞い込んでくるってことだな。そしてその場で解決しようとしてしまうってところか。始業終業の時間は決まっているけど、それをあっさり無視しちゃうよね」
「なるほど」
 そんなことをしていると、のそっと和臣が現れた。そして、まだ和哉がいることに驚いたようだ。
「あれ、谷原さん。まだいたんですね」
「ああ、和臣。ようやく出てきたか。実は俺も廃校の利用方法が気になってね。寄ってから帰ろうと思ってたら、仕事する羽目になったんだ」
「なるほど」
 それだけで通じるので、和臣は頷くと台所へと向かった。そして麦茶だけ持って舞い戻ってくる。やはり朝はご飯を食べたくないらしい。しかし、いつも以上にぼんやりとしている。
「ひょっとして、寝てないんですか」
 物音がしないからてっきり寝ているのかと思ったが、そうではなかったらしい。目の下には隈が出来ていた。
「ああ。作業が途中で止められなくてね。でも、ようやく山場を越えたから、今日はゆっくりと出来るよ。学校の利用者も大学関係者と解ったし、何をしているか解ればすっきりだな。まったく、ばあちゃんも何を考えているんだか。一体どうしてその学校の再利用に俺たちを巻き込もうとしているんだろう」
 和臣はふわあっと大きな欠伸をしつつ、思わず志津に向けて文句を言う。どうして妙な怪談仕立てで廃校のことを口にしたのか。この謎がまだ残ったままだ。やはりここをはっきりさせないと、気持ち悪さが残ってしまう。
「そう言えばそうですよね。まるで俺たちを嗾けているような」
「ような、じゃない。嗾けているんだよ。やはり利用者に何かありそうだな。となると、会ってみるより他はないかもしれないが、非常に面倒臭い」
 そんなことを話していると、和哉の仕事も一段落した。ついでにK大のホームページを調べてくれて、利用していそうな研究室をいくつかピックアップする。真っ先に思いつく農学から化学や生物学、さらには技術系の研究室を挙げていく。ひょっとしたらと医学系も可能性として入れていた。
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