悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第37話 志望校変更

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「いいんだよ。あんたはいっつも不器用だからねえ。このくらいはお安い御用さ。それにしても、大学の先生になってまで不器用なままとは呆れるよ」
「ははっ、申し訳ない」
「それで大学で先生なんてやれてるのかい」
「それはもちろん。大学って言う場所は意外と自由ですし、これでも好きなことは喋れるんですよ」
 志津に指摘されて、久遠は頭を掻きながら苦笑する。確かに普段の様子はこんな感じで口下手で、人付き合いが悪く引っ込み思案だ。しかし、悠人は昨日の和哉に説明する姿を見ているから、マシンガントークが出来ることも知っている。
 というより、昨日の悠人たちを引き入れた時は、こんな引っ込み思案で人付き合いに困っているようには見えなかった。おそらく、最初に和哉がプログラミング会社をやっていることを明かし、同じような人間だと知らせていた効果だろう。やはり理系相手だと普通に喋れる人なのだ。
「そうだ。この子に色々と教えてやってくれないかな。受験生なんだよ。でも何だかよく解ってないみたいでね」
 苦笑する悠人を指差し、志津がすぐにお節介を焼いた。それに悠人は自分でやるよと思ったものの、たぶん、久遠に話すタイミングを与えるためだったのかもしれない。
「ああ、二年生って言ってたっけ」
「はい。高校二年なんですけど、まだはっきりと志望校が決められなくて。大学で何をすればいいのか解らず、どうしようって考えがぐるぐると回ってしまっているんです」
「ふむふむ。理系だよね」
「はい。でも、これといった興味がないままだったんですよね。数学が得意だし、和臣さんも理系だから、そっちでいいかって感じで選んだんで。それに今までは理学部しか考えていなかったというか、他の学部まで調べていなかったというぁ」
「ああ、まあねえ。理系っていうと花形は物理や化学だからね。でも、これからの時代はロボットやあそこの彼、和臣君がやっているようなAIが全盛になってくるからね。工学も捨てたもんじゃないよ。一時はもう散々だったけど、今は技術が発達してコンピュータの性能もいいから、やりたいことを簡単に実現できるようになっているし」
「はい。だから、ちょっと興味が出てきたところというか、工学部も選択肢の一つとして考えようと思っています。先生のやっていることって、ロボットですけど、具体的にどういうことを研究しているのか教えてもらえますか」
「もちろん。何でも聞いてくれ」
 久遠がそう請け合う頃には、志津の姿は傍にはなかった。どこに行ったかと見れば、青年団の人たちと楽しそうに話している。まったく、彼女には敵いそうにない。誰もが頼りにする人は、誰からも信頼される人なんだなと気づく。
「あっ、そうだ。なんならうちの大学を志望しておけばいいよ。これからあの谷原さんたちと協力していく予定なんだ。和臣君がいるT大にも、共同研究を持ちかけるつもりでいる」
「えっ、そうなんですか」
 いつの間にそんな展開にと悠人は驚いたが、たぶん、草刈りの最中だろう。和臣と久遠はずっと日陰にいたから、そういう話で盛り上がっていたのかもしれない。
「あの和臣君って凄いよね。興味持ったことはなんでもやっちゃうタイプっていうか。昨日ちょっと喋ったらさ、うちのロボットに搭載する人工知能の組み立てをやりたいって申し出てくれて、さらに大学側にまで話を通しちゃったんだよね」
「ええ。好きな分野に関する行動力は凄いんです。でもその代わり、農業には一切興味がないんで、家の手伝いはしない主義ですけど」
「ははっ、いいね。非常に研究者らしい。俺にそっくりだ」
「うん。ということは、和臣さんってこのまま大学に残るんでしょうか」
「残るでしょ。あのタイプは社会に出ると苦労するだろうしねえ。下手に企業に入らない方がいいと思うよ。というより、すでに研究室では重要なポジションにいるだろうしね。教授との関係を考えると、残ることは半ば決定してるんじゃないかな」
「なるほど」
 確かにここにいてもずっと研究に掛かり切りのようだし、それだけ色々と任されているということか。その和臣はまだ哲太に絡まれていた。今日くらいは酒を飲めだの肉を食えだのと遊ばれている。和臣はなんとか逃げようとしていたが、周囲の青年団たちが哲太に加担しているため、逃げるのは無理なようだ。
「人工知能とロボットか」
「ああ。ロボット単体だけでも駄目だしAIだけでも駄目な部分がある。そういうのを補えるようになるといいなって思うね。そういう多角的なものだったら、君も興味があるんじゃないかい。今はどちらも追い掛ける。というより、いずれこの分野は統合されていくことだろう。そう思っていればいいんじゃないかな」
「はい」
「待ってる。うちの偏差値もなかなか高いけどね」
「それが問題ですよ。俺、O大でも危ないって言われているのに、この一年で全科目あと十は偏差値を上げなきゃだめですよ」
 今志望している大学よりも偏差値が高いんだよなあと、悠人は苦笑してしまう。でも、ここで出会った人たちと将来何かを作っていけるのだったら、それは楽しいだろう。そのために努力するのだと思えば頑張れそうだ。今までは何となく大学に行くくらいのものだったが、今ならば切実に大学に行きたいと思える。
「目標を明確に持った人間は強い。待ってるよ」
「はい。っと、その前に両親を説得しないと。万が一にも浪人した時のことを考えないと」
「ああ、それはあるね。うん。もし駄目だったら他の大学の工学部や似たような学部に進んでおいて、院からうちの大学に入ってもいいし」
「へえ」
 そういう手もあるのか。まだまだ知らないことばかりだなと悠人は素直に驚く。どうしてそういうことが情報として手に入らないのか。目標が明確でなかったからだろうけど、受験だけでも多くの解らないことがあるものだ。
「あっ、そうだ。まだここにいるのかな」
「え、ええ」
「じゃあ、一度あの校舎でやっている作業の見学においでよ。そこで話す方が具体的に説明しやすいし」
「はい」
 こうしてなぜか最終的に志望校まで変更することになったが、悠人は明確に目標を打ち立てることが出来たのだった。
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