11 / 56
第11話 頼りにされる薬剤師
しおりを挟む
「おはようございます。急に寒くなって困りますねえ。四月なのに寒の戻りって、困ったものですよ。って、どうしたんですか」
そこに円が出勤してきて、休憩室を挟んで固まる三人に首を傾げた。
確かに不思議な構図だ。しかも普段言い合っている桂花と弓弦が並んでいるだけでも不思議だろう。
「何でもねえよ。さっ、仕事だな」
「ええ。そうですね。仕事しましょう」
言い合いをしていた二人が結託したことにより、騒がしい朝はこうしてあっさりと始業モードへと切り替わった。法明と円が後ろで首を傾げていることは解ったが、藪蛇にならないようにさっさと動き出す。
そしてまたバタバタとした一日が始まる。今日はやはり寒くなったせいか、風邪の諸症状を示す人が多く訪れた。発熱や咳、鼻水といった訴えが多い。その対応に追われている間にあっという間に午前の営業時間が過ぎて行った。
「疲れたあ」
「いきなり冬のように寒くなったせいか、今日はまた多かったですね。みんな油断して薄着をしちゃったんでしょうか」
「そうだな。昼間暖かいとどうしてもコートを忘れて夜が寒いってことがあるもんな。それに昨日、あの男が来たしな。やっぱり厄介事が起こってるんだろ」
「まあまあ。春らしいじゃないですか。それに篠原さんは関係ないですよ。ちょっと注意してほしいことがあるって言いに来ただけですし」
今日もお昼を食べる時間が少し遅くなったので、休憩室ではそんな会話が展開される。患者が多いと大変なのだが、そこでさらっと陽明のせいにする弓弦の発言はどうなのか。
桂花は首を捻ったが、この件に関しては三人揃ってそれ以上は口にしない。法明が窘めたせいもあるだろうが、まるで口にしたら禍が来るかのようなレベルで、話題にするくせにそれ以上は喋らないのだ。
今日も率先して話題にした弓弦も、すぐに本日のカップ麺である背脂こってり豚骨ラーメンを啜っている。
「そうそう。今日は昼から保険外の調剤が入ってましたね。四月に入ってから初めてじゃないですか」
そして円が話題をそう転換してしまったことで、陽明の話題はそれ以上発展することなく流れてしまった。それに話題となっている保険外の調剤には四月になってから初めてとあって、桂花も初体験だ。今から何をどうやるのか気になっていた。
「そうですね。緒方さんには基本的な部分から一度説明が必要ですね。実はここではオーダーメイドの調合をしていまして、その人の体調に合わせてうちであれこれ調剤することは多いんです。ただ、毎年四月の初めのうちは皆さん、生活環境が変わってすぐだからか、漢方の調剤の依頼にはいらっしゃらないんですよね。漢方薬は慢性的な体調の不調に用いることが多いですから、余計にでしょうね。でも、そろそろ生活も落ち着いてくるでしょうから、依頼が増えるでしょうね。今回は近所の病院からの紹介ですよ。しかもしっかり問診してほしいとのことでした」
「凄いですね。でも、それって漢方医のお仕事ですよね。薬剤師の領分を越えませんか」
「ええ、もちろん総てを行うと法律違反です。ですので、ある程度の部分はお医者さんの指示ですよ。ただ、最後の微調整をうちが任されているって感じでしょうか」
「へえ」
最近では漢方薬を扱うことが多くなった医学界だが、まだまだ扱いに慣れた人は少ない。そこで、こうやって漢方を中心にやっている薬局の薬剤師を頼りにすることが多いのだという。特に法明は的確な判断を下せると、京都府内の医者の間では評判だそうだ。
「それで普段も多いんですね、患者さん」
いくら調剤薬局の七割が個人経営の薬局とはいえ、この蓮華薬師堂薬局の患者は非常に多い。それこそ、大手のチェーン展開している薬局のようだ。
その理由が、病院公認の頼りになる漢方薬局だからということか。ただ単に扱っている漢方の種類が豊富だからという理由だけではなかったらしい。桂花はますます大変なところに就職してしまったものだと、もっと勉強しなければと身が引き締まる。
そこに円が出勤してきて、休憩室を挟んで固まる三人に首を傾げた。
確かに不思議な構図だ。しかも普段言い合っている桂花と弓弦が並んでいるだけでも不思議だろう。
「何でもねえよ。さっ、仕事だな」
「ええ。そうですね。仕事しましょう」
言い合いをしていた二人が結託したことにより、騒がしい朝はこうしてあっさりと始業モードへと切り替わった。法明と円が後ろで首を傾げていることは解ったが、藪蛇にならないようにさっさと動き出す。
そしてまたバタバタとした一日が始まる。今日はやはり寒くなったせいか、風邪の諸症状を示す人が多く訪れた。発熱や咳、鼻水といった訴えが多い。その対応に追われている間にあっという間に午前の営業時間が過ぎて行った。
「疲れたあ」
「いきなり冬のように寒くなったせいか、今日はまた多かったですね。みんな油断して薄着をしちゃったんでしょうか」
「そうだな。昼間暖かいとどうしてもコートを忘れて夜が寒いってことがあるもんな。それに昨日、あの男が来たしな。やっぱり厄介事が起こってるんだろ」
「まあまあ。春らしいじゃないですか。それに篠原さんは関係ないですよ。ちょっと注意してほしいことがあるって言いに来ただけですし」
今日もお昼を食べる時間が少し遅くなったので、休憩室ではそんな会話が展開される。患者が多いと大変なのだが、そこでさらっと陽明のせいにする弓弦の発言はどうなのか。
桂花は首を捻ったが、この件に関しては三人揃ってそれ以上は口にしない。法明が窘めたせいもあるだろうが、まるで口にしたら禍が来るかのようなレベルで、話題にするくせにそれ以上は喋らないのだ。
今日も率先して話題にした弓弦も、すぐに本日のカップ麺である背脂こってり豚骨ラーメンを啜っている。
「そうそう。今日は昼から保険外の調剤が入ってましたね。四月に入ってから初めてじゃないですか」
そして円が話題をそう転換してしまったことで、陽明の話題はそれ以上発展することなく流れてしまった。それに話題となっている保険外の調剤には四月になってから初めてとあって、桂花も初体験だ。今から何をどうやるのか気になっていた。
「そうですね。緒方さんには基本的な部分から一度説明が必要ですね。実はここではオーダーメイドの調合をしていまして、その人の体調に合わせてうちであれこれ調剤することは多いんです。ただ、毎年四月の初めのうちは皆さん、生活環境が変わってすぐだからか、漢方の調剤の依頼にはいらっしゃらないんですよね。漢方薬は慢性的な体調の不調に用いることが多いですから、余計にでしょうね。でも、そろそろ生活も落ち着いてくるでしょうから、依頼が増えるでしょうね。今回は近所の病院からの紹介ですよ。しかもしっかり問診してほしいとのことでした」
「凄いですね。でも、それって漢方医のお仕事ですよね。薬剤師の領分を越えませんか」
「ええ、もちろん総てを行うと法律違反です。ですので、ある程度の部分はお医者さんの指示ですよ。ただ、最後の微調整をうちが任されているって感じでしょうか」
「へえ」
最近では漢方薬を扱うことが多くなった医学界だが、まだまだ扱いに慣れた人は少ない。そこで、こうやって漢方を中心にやっている薬局の薬剤師を頼りにすることが多いのだという。特に法明は的確な判断を下せると、京都府内の医者の間では評判だそうだ。
「それで普段も多いんですね、患者さん」
いくら調剤薬局の七割が個人経営の薬局とはいえ、この蓮華薬師堂薬局の患者は非常に多い。それこそ、大手のチェーン展開している薬局のようだ。
その理由が、病院公認の頼りになる漢方薬局だからということか。ただ単に扱っている漢方の種類が豊富だからという理由だけではなかったらしい。桂花はますます大変なところに就職してしまったものだと、もっと勉強しなければと身が引き締まる。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる