蓮華薬師堂薬局の処方箋

渋川宙

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第13話 どうして漢方薬を?

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「お茶を沸かしているので、後はよろしくお願いします」
「はいよ」
 仕事中の弓弦は無駄口を叩くことはなく、片手をあげて了解と合図を送ってきた。桂花はそれを確認して待合室に戻ると、紙コップにお茶を淹れて相談室へと戻る。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 ふんわりと香る優しい匂いの温かいお茶を前にして、ようやく唯花の顔が少し緩んだ。早速一口飲んでみて、ほっと一息吐いていた。
「美味しいです」
「よかった。それ、僕の特別ブレンドなんですよ」
「そ、そうなんですか」
「ええ。皆さんにリラックスしてもらえるように、毎朝その日の気温や前日までの患者さんの様子から何を使うか決めて用意しているんですよ。漢方薬の知識を使うと、そういう身体が温まるお茶も出来るんです。薬膳という言葉を聞いたことがありませんか。あれも、漢方薬の知識を利用したものですよ」
 にこにこと笑いながら、漢方って身近なものなんですよとアピールする法明はやり手だなと桂花は思った。緊張している理由の一つが、漢方なんて効果の薄い怪しいと思っているのでは。そう推測してのことだろう。
 ここ数年で爆発的に漢方薬の利用が進んだとはいえ、未だに西洋医薬品に劣るものだと考えている人は多いのが現状だ。女子高生の唯花がどう考えているかは解らないが、初めてやって来た患者が怪しいと疑うのも自然だし、そういう推測をするのも自然だった。だからこの話の流れになるのも頷ける。
「薬膳は知ってます。確かサムゲタンもそうですよね」
「ええ。韓国料理の一つであるサムゲタンは、鶏肉の中に高麗人参やオウギなどの漢方ともち米、その他にもクルミなどを詰めて煮た料理で、滋養食として知られています。医食同源という東洋医学の考え方に基づいた料理ですね」
「へえ」
 すらすらとサムゲタン情報を語られ、唯花はすっかりリラックスしたようだった。なるほど、患者をリラックスさせるためにはそういう雑学も必要なのか。非常に勉強になる。
 桂花は自分にはどんな雑談が出来るだろうと考え、何もない事実に恐怖を感じた。もっと薬以外にも視野を広げなければならないようだ。
 あの弓弦だってこの間、八角に関して詳しく語っていたくらいだ。せめて香辛料にも使われる生薬ぐらいはすらすら知識を披露できるようにならないと駄目だ。一人前への道のりは遠く険しいと感じてしまう。
「さて、今回は水野先生からのご紹介でしたね。今村さんにも、そのお茶のように身体に合ったものをお渡ししたいと思っています。ですので、どうぞリラックスして質問に答えて頂ければと思います」
「は、はい」
 しかし、薬の話をしようとすると、また唯花の顔が強張った。これはどういうことだろう。何だか薬そのものにいいイメージがないかのようだ。
 そこでカルテに挟まっていた担当医である水野の書いた診察結果を見る。もちろん、法明も同じものに目を通していた。そこには頭痛、不眠、食欲不振、胃痛という症状が羅列されていた。それらが現れるものとしてすぐに思い浮かぶのは、心に関わる病気だ。
 けれども、受診したのは総合内科。どうやら心の病気であるとは当人も親も判断しなかったらしい。もしくは、精神科や心療内科というものへのイメージが悪かったのだろうか。最近ではうつ病が社会的に認知されているので昔ほどではないが、やはり長年の勘違いもあってどうしてもマイナスイメージが付き纏ってしまう。
 それとも、誤解はないものの長期に通わなければならないというイメージが邪魔したのだろうか。桂花はあれこれと考えてしまう。
 医師の診断書や紹介状には、もちろんそんな詳しい事情は載っていない。しかし、唯花の反応を見ていると、医療そのものにいいイメージを持っているように見えなかった。
 検査の結果、内科的な問題点は見出せなかった。しかし心療内科を受診したくないと言われた。そこで、総合内科の医師は漢方薬による治療へと舵を切ったと考えるべきだろう。
 しかし、そう考えると、いくら漢方薬のプロとはいえ、法明には難しい問題ではないだろうか。漢方薬にはもちろん自律神経を整える薬はいくつもあるが、心の病気だとすると薬だけではどうしようもない問題を含んでいることだろう。
「ひょっとして、今村さんはこれらの症状が出ている心当たりがあるのではないですか。しかし、病院の先生には何となく言い難かった。そこで曖昧な返答を繰り返してしまい、ここを紹介されたのではないですか」
「っつ」
 柔らかい声音で指摘された内容に、唯花はびくっと肩を震わせて恐る恐る法明を見る。その法明はずっとにこにことした顔のままだ。桂花もどういうことかと法明の顔をじっと見てしまう。
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