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第16話 プロの意見は?
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「こんにちは。今日は無理を聞いてくださって、ありがとうございます」
そこに他の患者の対応をしていた法明がやって来て挨拶をする。ぺこっとお辞儀をする法明に、潤平も釣られたようにお辞儀をしていた。
「いえいえ。緒方の上司さんですか。いやあ、イラスト映えしそうな顔をされていますね。白衣もよく似合っている。女性向けライトノベルの主人公みたいだ」
「えっ」
しかし、次に法明の顔をほめるのだから、桂花はびっくりしてしまう。法明もきょとんとした顔をしていた。
「あっ、すみません。初対面の人にいきなりそんなことを言ったら怪しい人ですよね。職業病みたいなものなんで気にしないでください。それに緒方にも言いましたが大丈夫ですよ。しかも同じ苦労をしたことがありますからね。他人事じゃないですよ」
潤平はそう言って苦笑する。それはそうだろう。桂花たちが通っていた学校は進学校。しかも潤平はその中でもトップクラスの頭脳を誇っていた。だから、周囲からは東大か京大かと期待されていたのだ。
「俺の時も周囲の猛反対が凄かったですからね」
潤平は思い出して苦笑する。秀才で期待されている中、いきなりイラストレーターになったのだから、周りは度肝を抜かれたなんてものではない。揉めに揉めた。イラストレーターなんて止めた方がいいという反対の声も多かった。たまたま評価されただけなんだから、この件はきっぱり忘れろなんて言われたこともあるという。
結局、潤平は進学こそしたものの、期待された二つの学校は選ばなかった。勉強したい内容がどちらの大学にもなかったという尤もらしい理由を述べていたが、すでにいくつか仕事の依頼が入っており、実際は受験科目を減らしたかったのは目に見えている。でも、それだけ大騒ぎになることだったのだ。
「その、イラストというのは、そんなにも偏見を持たれるものなんですか」
そんなことがあったと聞かされ、法明は心底驚いていた。そして、イラストレーターとは大変な職業なのかと心配になったようだ。
「ううん。そうですね、偏見があるという点についてですが、つい最近までサブカルがオタクとイコールだったわけですから、それなりの偏見というのは存在するでしょうね。根暗な奴がやるものだと思っている人も未だにいるでしょう。他にも漫画は子どもに悪影響を及ぼすと考えている人は未だにいますよね。少年犯罪が起こると読んでいた漫画が槍玉に挙げられるのも珍しいことじゃないですから」
「そうなんですね」
「まあ、今はクールジャパンなんて言ってサブカルも随分持ち上げられていますから、偏見自体は減ってきています。とはいえ、やっぱりオタクの風当たりは強い。それに偏見という問題以外にも、にもイラストレーターってのは人気の職業で目指す人は多いですが、才能がなければどうしようもない職業です。そのためには並々ならぬ努力しなければならないですし、たとえ才能があったとしても、みんながみんななれるわけじゃない評価されたからと言ってすぐにそれだけで食っていけるわけじゃない、というのもありますね」
「なるほど。単純になりたいと言ってなれるものではないと」
「そうです。それに反対される大きな理由として考えられるのが、収入が安定しないということもありますね。仕事が絶えず入ってくるなんてことはない。収入に波があるし、いつ途絶えるか解らない。プロになってもバイトしている人だっているんです。そういうリスクがずっとついて回る商売でもありますから、両親が反対するのも、まあ無理なからぬところでしょうね」
「ふうむ。難しいんですね」
法明は困ったものだと腕を組む。そこに桂花があの十六茶のような味わいのお茶を運んで相談室に入った。
「どうぞ。薬師寺さんも飲んでください」
「ありがとうございます」
「へえ、変わった香りのするお茶ですね」
潤平はお茶を受け取ると、くんくんと香りを嗅いだ。その仕草は高校生の頃から変わっておらず、見た目は随分と変わったのにと桂花は苦笑してしまう。
「おや、予想に反して甘いんですね」
「ええ。昨日から咳をされている方が多かったので、今日の分は少し甜茶を多めにしているんです」
「ということは、これって薬師寺さんが自分でブレンドしているんですか」
「そうですよ」
にこっと笑う法明に、へえっと感心した様子の潤平だ。そして、イラストってこのお茶は似てますねと付け加える。
そこに他の患者の対応をしていた法明がやって来て挨拶をする。ぺこっとお辞儀をする法明に、潤平も釣られたようにお辞儀をしていた。
「いえいえ。緒方の上司さんですか。いやあ、イラスト映えしそうな顔をされていますね。白衣もよく似合っている。女性向けライトノベルの主人公みたいだ」
「えっ」
しかし、次に法明の顔をほめるのだから、桂花はびっくりしてしまう。法明もきょとんとした顔をしていた。
「あっ、すみません。初対面の人にいきなりそんなことを言ったら怪しい人ですよね。職業病みたいなものなんで気にしないでください。それに緒方にも言いましたが大丈夫ですよ。しかも同じ苦労をしたことがありますからね。他人事じゃないですよ」
潤平はそう言って苦笑する。それはそうだろう。桂花たちが通っていた学校は進学校。しかも潤平はその中でもトップクラスの頭脳を誇っていた。だから、周囲からは東大か京大かと期待されていたのだ。
「俺の時も周囲の猛反対が凄かったですからね」
潤平は思い出して苦笑する。秀才で期待されている中、いきなりイラストレーターになったのだから、周りは度肝を抜かれたなんてものではない。揉めに揉めた。イラストレーターなんて止めた方がいいという反対の声も多かった。たまたま評価されただけなんだから、この件はきっぱり忘れろなんて言われたこともあるという。
結局、潤平は進学こそしたものの、期待された二つの学校は選ばなかった。勉強したい内容がどちらの大学にもなかったという尤もらしい理由を述べていたが、すでにいくつか仕事の依頼が入っており、実際は受験科目を減らしたかったのは目に見えている。でも、それだけ大騒ぎになることだったのだ。
「その、イラストというのは、そんなにも偏見を持たれるものなんですか」
そんなことがあったと聞かされ、法明は心底驚いていた。そして、イラストレーターとは大変な職業なのかと心配になったようだ。
「ううん。そうですね、偏見があるという点についてですが、つい最近までサブカルがオタクとイコールだったわけですから、それなりの偏見というのは存在するでしょうね。根暗な奴がやるものだと思っている人も未だにいるでしょう。他にも漫画は子どもに悪影響を及ぼすと考えている人は未だにいますよね。少年犯罪が起こると読んでいた漫画が槍玉に挙げられるのも珍しいことじゃないですから」
「そうなんですね」
「まあ、今はクールジャパンなんて言ってサブカルも随分持ち上げられていますから、偏見自体は減ってきています。とはいえ、やっぱりオタクの風当たりは強い。それに偏見という問題以外にも、にもイラストレーターってのは人気の職業で目指す人は多いですが、才能がなければどうしようもない職業です。そのためには並々ならぬ努力しなければならないですし、たとえ才能があったとしても、みんながみんななれるわけじゃない評価されたからと言ってすぐにそれだけで食っていけるわけじゃない、というのもありますね」
「なるほど。単純になりたいと言ってなれるものではないと」
「そうです。それに反対される大きな理由として考えられるのが、収入が安定しないということもありますね。仕事が絶えず入ってくるなんてことはない。収入に波があるし、いつ途絶えるか解らない。プロになってもバイトしている人だっているんです。そういうリスクがずっとついて回る商売でもありますから、両親が反対するのも、まあ無理なからぬところでしょうね」
「ふうむ。難しいんですね」
法明は困ったものだと腕を組む。そこに桂花があの十六茶のような味わいのお茶を運んで相談室に入った。
「どうぞ。薬師寺さんも飲んでください」
「ありがとうございます」
「へえ、変わった香りのするお茶ですね」
潤平はお茶を受け取ると、くんくんと香りを嗅いだ。その仕草は高校生の頃から変わっておらず、見た目は随分と変わったのにと桂花は苦笑してしまう。
「おや、予想に反して甘いんですね」
「ええ。昨日から咳をされている方が多かったので、今日の分は少し甜茶を多めにしているんです」
「ということは、これって薬師寺さんが自分でブレンドしているんですか」
「そうですよ」
にこっと笑う法明に、へえっと感心した様子の潤平だ。そして、イラストってこのお茶は似てますねと付け加える。
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