35 / 56
第35話 フットワーク軽すぎ
しおりを挟む
「で、何をしに来たんだ? さっさとあいつに憑いている霊を刺激して来いよ」
解らないなあと首を捻る桂花に、余計な場面を見ているんじゃねえと弓弦が棘のある声で言う。どうやら二人でやることを知られたくなかったらしい。しかし、刺激してこいなんて聞いていないんだけど。
「私ってそういう役目なの?」
そんな役目を課されているなんて知らないと、桂花は目を丸くしてしまった。すると、陽明がくすくすと笑う。そしてしれっと説明していませんと宣ってくれた。
「い、言われてないのに刺激なんてできませんよ」
「大丈夫です。同席してくれるだけでいいんですよ。多分ですけど、あの霊は緒方さんに反応すると思いますよ。薬師寺だけでも反応するでしょうが、その場合だと落合という知り合いを誤魔化せないし、わざわざ彼に憑りついた意味がない。ざっくりと調べた感じと、緒方さんが見つけてくれた絵から考えても、君に反応することは間違いありません。ですので、早めに相談室に戻ってもらえると助かります」
「は、はあ」
そういうことならばと、桂花は怪しい状況に陥っている休憩室を後にすることにした。後ろからまだまだ二人が言い合う声がしていたが、ともかく透視の間は二人で仲良く作業するようだ。
「ううん。解らないなあ。色々と謎の業界用語が飛び交っているのよね。それにしてもまったく、久々に会ったというのに落合君ったら、何をやっているんだか」
陽明が怪しいのはともかくとして、どうして法明や弓弦に不思議な力があるのだろう。円はいつも手伝っていないから、力はないのだろうか。しかも潤平の霊が自分に反応するというのも、何だか嫌な話だし。ぶつぶつ文句を言いつつ、お茶を淹れてから相談室へと戻った。これを忘れては元も子もない。
「すみません、遅くなりました」
相談室に戻ると、すでに法明が診断書を見ながら望診を行っていた。最後の調剤部分は法明に任されているのだろう。大まかには漢方医が決定しているが、それで大丈夫か。もっと適した薬がないか。それを法明が見定めているのだ。
その目はとても真剣で、普段の笑みを浮かべた顔とはまた違う魅力があった。脈を診て状況を確認し、次に舌の状態の確認に移っていく。
「脈は問題ないですね。舌に関しては色もよくて舌苔もなし。少し歯痕が残っているのが気になりますね。あっ、お茶を飲んで一度リラックスしてくださいね」
入り口でお茶を持ったまま立っている桂花に気づき、法明はにこっと笑った。思わず顔が赤くなったが、そそくさと潤平の前にお茶を置くことで顔を見られないようにした。
「ありがとう。ここのお茶、何だか癖になりますね。毎回味が違うというのも、楽しみの一つになるというか」
「ありがとうございます」
潤平はそんな桂花の様子を気にすることもなく、さっさとお茶へと手を伸ばしている。さらに法明も褒められてにっこりだ。何だか二人だけで解り合う世界があるかのような光景を見せられ、桂花のドキドキも一気に収まり、何とか法明の横に座れるほどに落ち着いた。
「それじゃあ、緒方さんも戻ってきましたので、問診に入りますね。恐らく頭痛の原因が鎌倉の旅行に無理があったためだと思いますので、その確認から」
そして、法明はさらっと霊の仕業を探るべく、尤もらしい理由を付けて鎌倉での行動の確認に入った。そのあまりにさらっとした導入に、この人って詐欺師やらせたらとんでもないことになるのでは。そんなことを思ってしまった。知らないうちにお金を騙し取られそう。
「鎌倉かあ。そんなに無理はしていないと思うんですけどね。まあ今回も風邪を引いたから、俺の思っているより無理しているのかなあ」
そして訊ねられた潤平は、今回の旅行で風邪を引いたという例があるおかげで、あっさりとその時の様子を語ってくれた。朝早くから鎌倉大仏や室生寺、それに鶴岡八幡宮、銭洗い弁財天といったところを回り、ちょっと足を延ばして古都鎌倉の風情を残すという覚園寺をお参りしたのだという。そしてまだ時間があるなと最後に江ノ島に渡ったのだとか。
「覚園寺の拝観時間が三時までだったので、朝の八時くらいから回っていたんですよね。ううん、今考えると無理ありますね」
「そ、そうね」
いくら鎌倉の見て回る範囲が京都よりも狭いとはいえ、それは回り過ぎだろうと桂花はドン引きだ。大学までは東京にいた桂花も、何度か休日に鎌倉に行ったことがあるが、そこまで一気に見て回ったことはない。
解らないなあと首を捻る桂花に、余計な場面を見ているんじゃねえと弓弦が棘のある声で言う。どうやら二人でやることを知られたくなかったらしい。しかし、刺激してこいなんて聞いていないんだけど。
「私ってそういう役目なの?」
そんな役目を課されているなんて知らないと、桂花は目を丸くしてしまった。すると、陽明がくすくすと笑う。そしてしれっと説明していませんと宣ってくれた。
「い、言われてないのに刺激なんてできませんよ」
「大丈夫です。同席してくれるだけでいいんですよ。多分ですけど、あの霊は緒方さんに反応すると思いますよ。薬師寺だけでも反応するでしょうが、その場合だと落合という知り合いを誤魔化せないし、わざわざ彼に憑りついた意味がない。ざっくりと調べた感じと、緒方さんが見つけてくれた絵から考えても、君に反応することは間違いありません。ですので、早めに相談室に戻ってもらえると助かります」
「は、はあ」
そういうことならばと、桂花は怪しい状況に陥っている休憩室を後にすることにした。後ろからまだまだ二人が言い合う声がしていたが、ともかく透視の間は二人で仲良く作業するようだ。
「ううん。解らないなあ。色々と謎の業界用語が飛び交っているのよね。それにしてもまったく、久々に会ったというのに落合君ったら、何をやっているんだか」
陽明が怪しいのはともかくとして、どうして法明や弓弦に不思議な力があるのだろう。円はいつも手伝っていないから、力はないのだろうか。しかも潤平の霊が自分に反応するというのも、何だか嫌な話だし。ぶつぶつ文句を言いつつ、お茶を淹れてから相談室へと戻った。これを忘れては元も子もない。
「すみません、遅くなりました」
相談室に戻ると、すでに法明が診断書を見ながら望診を行っていた。最後の調剤部分は法明に任されているのだろう。大まかには漢方医が決定しているが、それで大丈夫か。もっと適した薬がないか。それを法明が見定めているのだ。
その目はとても真剣で、普段の笑みを浮かべた顔とはまた違う魅力があった。脈を診て状況を確認し、次に舌の状態の確認に移っていく。
「脈は問題ないですね。舌に関しては色もよくて舌苔もなし。少し歯痕が残っているのが気になりますね。あっ、お茶を飲んで一度リラックスしてくださいね」
入り口でお茶を持ったまま立っている桂花に気づき、法明はにこっと笑った。思わず顔が赤くなったが、そそくさと潤平の前にお茶を置くことで顔を見られないようにした。
「ありがとう。ここのお茶、何だか癖になりますね。毎回味が違うというのも、楽しみの一つになるというか」
「ありがとうございます」
潤平はそんな桂花の様子を気にすることもなく、さっさとお茶へと手を伸ばしている。さらに法明も褒められてにっこりだ。何だか二人だけで解り合う世界があるかのような光景を見せられ、桂花のドキドキも一気に収まり、何とか法明の横に座れるほどに落ち着いた。
「それじゃあ、緒方さんも戻ってきましたので、問診に入りますね。恐らく頭痛の原因が鎌倉の旅行に無理があったためだと思いますので、その確認から」
そして、法明はさらっと霊の仕業を探るべく、尤もらしい理由を付けて鎌倉での行動の確認に入った。そのあまりにさらっとした導入に、この人って詐欺師やらせたらとんでもないことになるのでは。そんなことを思ってしまった。知らないうちにお金を騙し取られそう。
「鎌倉かあ。そんなに無理はしていないと思うんですけどね。まあ今回も風邪を引いたから、俺の思っているより無理しているのかなあ」
そして訊ねられた潤平は、今回の旅行で風邪を引いたという例があるおかげで、あっさりとその時の様子を語ってくれた。朝早くから鎌倉大仏や室生寺、それに鶴岡八幡宮、銭洗い弁財天といったところを回り、ちょっと足を延ばして古都鎌倉の風情を残すという覚園寺をお参りしたのだという。そしてまだ時間があるなと最後に江ノ島に渡ったのだとか。
「覚園寺の拝観時間が三時までだったので、朝の八時くらいから回っていたんですよね。ううん、今考えると無理ありますね」
「そ、そうね」
いくら鎌倉の見て回る範囲が京都よりも狭いとはいえ、それは回り過ぎだろうと桂花はドン引きだ。大学までは東京にいた桂花も、何度か休日に鎌倉に行ったことがあるが、そこまで一気に見て回ったことはない。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
本日は桜・恋日和 ーツアーコンダクター 紫都の慕情の旅
光月海愛(こうつきみあ)
恋愛
旅は好きですか?
派遣添乗員(ツアーコンダクター)の桑崎紫都32歳。
もう、仕事がらみの恋愛はしないと思っていたのに…ーー
切ない過去を持つ男女四人の二泊三日の恋慕情。
流れる星は海に還る
藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。
組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。
<登場人物>
辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。
若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。
中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。
ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。
表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる