蓮華薬師堂薬局の処方箋

渋川宙

文字の大きさ
43 / 56

第43話 障子から将ちゃん!?

しおりを挟む
「もう、ここはどこなの」
 その頃、桂花は見知らぬ部屋の中で困惑していた。畳の間であるここは、ほんのりと白檀の香りがしていて、まるでお寺の中のようだ。しかし、どう頑張ってもこの部屋から抜け出せない。お寺のような建物の一室だろうことは解るのだが、この六畳間から抜け出すことが出来なかった。
 別にドアに施錠されているわけではない。それどころか、この部屋を仕切るのは障子とふすまだ。だというのに、どこもぴくりとも動かないのだ。押しても引いても一向に動いてくれない。蹴破ればなんとかなるのではと手近な障子を蹴飛ばしてみたが、障子紙に穴が開くことさえなかった。どんっと何かに弾かれて終わってしまう。
「一体何がどうなってるのよ。どうしてこの障子紙、まったく傷がつけられないの。穴が開けば外の様子が見えるのに」
 桂花はぶすぶすと障子に穴を開けようと指を突き刺すが、全く開いてくれない。触れることは可能で、その感触は紙だというのに、攻撃すると弾かれる。だから指を突き刺しても無傷のままだった。どう頑張ってもこの部屋から抜け出せないらしい。
「訳分かんない。というか、だからここはどこなのよ。私、薬局に向かっていたはずなのに」
 まさか自分が誘拐されただなんて思わない桂花は、この特殊な空間にどうやって迷い込んだのかも解っていない。普通に道を歩いていただけなのだ。それなのに、いつの間にかここに迷い込んでいた。ふと気づいた時には、ここにいた。それだけだ。
 だから足元は畳の間だというのに靴を履いたままだった。気味が悪いのでそのまま脱がないままにしているのだが、それにしても、一体どうしてこんな場所にやって来たのだろう。
「ううん。こういうのを狐に化かされたというのかしら」
 何の違和感もなかったのだ。もうすぐ蓮華薬師堂に着く。そう思ったところでふと景色が切り替わり、こんな場所にいたのだ。それはもうびっくりだ。ちゃんとアスファルトで舗装された道を歩いていたというに、いきなり畳の和な空間に放り込まれたのだから、それはもう大騒ぎした。
「もう、どうなってんのこれ。ひょっとして私、寝てるの。さっきまで起きて薬局に行こうとしていたのも夢なのかな。そうだ。そうに違いない。起きろ、私。遅刻するっ。起きて布団を蹴飛ばせ。これは夢だ」
 そんな感じで最初こそ大パニックを起こした桂花だったが徐々に落ち着き、そして今は障子に穴を開けようと奮闘するまでに至っている。だが、現状は何一つ解らないままだ。一体ここがどこで自分がどうなっているのか。まったくもって見当がつかない。
「もう十二時だわ。見事に午前中無断欠勤しちゃってる。って、これが現実に起きていることならば、だけど」
 腕時計を確認して、何がどうなっているんだと項垂れる。しかし、その間も開きそうもない穴を開けようと指を障子紙に突き立てる。何かしていないとおかしくなりそうだ。同時にカバンからスマホを取り出してみてもここは圏外。誰かに助けを求めることも出来なかった。
「もう、私が何をしたっていうのよ。というか、これは何なのよ。もう。いい加減にしてよね。誰か説明してよ」
 そう言いながらドスドスドスドス、桂花は八つ当たりのように障子に指を突き刺し続ける。が、その感触が突如柔らかいものになった。しかも何だか生温かい。
「痛ぁい」
 さらに間の抜けた声。ぎょっとして顔を上げると、指が障子から生えた将ちゃんの鼻の穴に突き刺さっているのが見えた。
「ぎゃああああ」
 色々とびっくりし過ぎて大声で叫ぶと、桂花は飛ぶように障子から離れた。すると顔だけ出ていた将ちゃんの身体がするすると部屋の中に入ってくる。もちろん、障子に穴が開くこともなかった。
「なっ、はあっ」
「よかった。会えた」
「えっ、将ちゃん。将ちゃんで間違いないのね。っていうか、ええっ。どうなってるの。どうして障子から生えてきたの」
 鼻血をたらたら垂らしながらも笑顔の将ちゃんに、桂花は指と将ちゃんと障子を見比べながら混乱するしかなかった。一体どれから処理すればいいのか。脳みそが混乱を起こしていて決められない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

処理中です...