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第55話 めっちゃ動揺している
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「そういう月影先輩だって、菩薩っぽくないじゃないですか。菩薩様ってもっと穏やかな存在だと思ってましたけど」
どっちかといえばバンドマンのような風体のくせに。そう指摘すると、だから大学での苦労がこうさせたんだと弓弦はぼやく。菩薩をバンドマンに変化させる大学生活ってどんなものだ。全く想像できない。
「一体何がどういう化学変化を起こせばそういう結果になるんですか。真面目からのキャラ変って言ってましたけど、何かがおかしいですよね。って、そう言えば、大学を出ているんですよね。それって必要だったんですか。だって薬師如来と言えば病を治す仏様ですよね」
「まあね。確かにご利益はそこにある。でも、さすがに昔ながらのやり方では現世でやっていけないだろ。今は西洋医学が主流で薬学の知識も俺たちが持っているものとは全く違うんだから。で、一回はちゃんと勉強しなきゃ駄目だって気づいたんだ。そういうわけで、先に法明が大学に行って、あいつが三年になってから俺と円が行ったんだよ。これで上手い具合に先輩後輩になるしさ」
「その些細な部分って必要なの」
「必要さ。将ちゃん見てたら解るだろ。そもそも身分が違うんだぜ。同僚としての生活ってのがまず解っていない。だから、現世での先輩後輩の感覚と、普段の三尊像としての距離感は全く違うっていうのを実感しておかないとな。それを知る意味でも、適度に離れた時期に行くのがよかったんだ」
「へ、へえ」
よく解らないが、現世で薬局を開局するまでにはあれこれ苦労があったということだろう。その一つがちゃんと大学を出て薬剤師の免許を一度は取るというものだったらしい。そして、現世に合わせて互いの人間関係を改めて構築する必要があったということか。
「そんなことはいいから、早く行けよ。お前が心配するのは俺じゃなくてあっち」
弓弦はそう言ってくいくいっと調剤室を指さす。そこには白衣姿で百味箪笥に向かい合う法明の姿があった。
「はいはい」
将ちゃんと弓弦のおかげでリラックス出来たものの、やっぱり緊張してしまう。桂花は深呼吸をすると、調剤室のドアを開けた。真剣に薬を調合しているらしい法明の姿は、いつ見ても惚れ惚れする。
「おっ、おはようございます」
それにしても、全然そわそわなんてしてないじゃない。そう思った桂花だったが、挨拶をした途端に法明が持っていた小さな乳鉢を落としたので、動揺していないわけではないと知る。がちゃんと派手な音が鳴った。
「おっ、おはようございます」
真っ赤な顔をしてぺこっと頭を下げてすぐに落ちた乳鉢を拾う姿は、恥ずかしくて穴があったら入りたいと体現しているようだった。動きもすごくぎこちない。
「まったく」
その姿に、だからどうして法明の方が先に動揺しちゃうのよと笑ってしまう。あの時だって先に泣いちゃうし、どうにも締まらない人だなと呆れてしまう。でも、そういう人だからこそ、多くの人が協力してくれるのだろう。
「箒を持ってきます」
「お、お願いします」
そう言って顔を上げた法明が真っ赤だったので、桂花はもうおかしくてくすくすと笑ってしまった。それに釣られるように法明も笑い出し、ようやくいつもの朝の様子が戻って来たのだった。
「それで、一体何を調合しようとしていたんですか」
「ああ、はい。お約束の飴を作ろうと思いまして」
「あっ」
乳鉢の破片を無事に片付けてから、二人揃って百味箪笥の前に立って、あの約束を果たそうとしていたのだと法明は笑った。それに、桂花が今度は真っ赤になる。
「あれ、漢方薬を練り込んだものだったんですよね」
「ええ。とはいえ、あれは一部に天界にある薬草を使ったので、どうにも同じにならないんですよ。味が微妙に違ってしまうので、現世でどうやったら再現できるのか。自分で作ったというのに頭を悩ませています」
「ひょっとして、昨日のお休みの間、ずっと考えていたんですか」
「ずっとではないですけど、ええ」
どうしましょうかねえと、法明はのんびりと百味箪笥に書かれている生薬の名前を見つめている。まさかの本人も飴の再現が難しいとは――もちろん天界に生えている生薬を使えば別なのだろうけれども――これは予想外のことだった。しかし、これはチャンスでもある。
「じゃあ、飴は私が頑張って再現してみます。それを確認してもらえますか」
「えっ、はい」
それはつまり、しばらくこの関係を、この場所で続けよう。そう言っているのと同じだ。ふたりは互いの意思を確認できてにこっと笑って見つめ合ってから、二人揃って顔を真っ赤にしてしまう。
駄目だ。ところどころで意識してしまう。そのせいで反応が付き合ったばかりのカップルのようだ。
「ほうほう、これはお熱いことで」
「ぎゃああっ」
「うっ」
しかもその姿をまたもや誰かに見られてしまった。短い悲鳴を二人で上げて振り返ると、カウンターのところでにやにやと笑う陽明の姿があった。その横には止めたのよと言いたげな円の姿もある。いつの間にやら、桂花と法明のやり取りに時間が掛かるだろうと、受付カウンターでは円が開店準備を進めてくれていたようだ。
どっちかといえばバンドマンのような風体のくせに。そう指摘すると、だから大学での苦労がこうさせたんだと弓弦はぼやく。菩薩をバンドマンに変化させる大学生活ってどんなものだ。全く想像できない。
「一体何がどういう化学変化を起こせばそういう結果になるんですか。真面目からのキャラ変って言ってましたけど、何かがおかしいですよね。って、そう言えば、大学を出ているんですよね。それって必要だったんですか。だって薬師如来と言えば病を治す仏様ですよね」
「まあね。確かにご利益はそこにある。でも、さすがに昔ながらのやり方では現世でやっていけないだろ。今は西洋医学が主流で薬学の知識も俺たちが持っているものとは全く違うんだから。で、一回はちゃんと勉強しなきゃ駄目だって気づいたんだ。そういうわけで、先に法明が大学に行って、あいつが三年になってから俺と円が行ったんだよ。これで上手い具合に先輩後輩になるしさ」
「その些細な部分って必要なの」
「必要さ。将ちゃん見てたら解るだろ。そもそも身分が違うんだぜ。同僚としての生活ってのがまず解っていない。だから、現世での先輩後輩の感覚と、普段の三尊像としての距離感は全く違うっていうのを実感しておかないとな。それを知る意味でも、適度に離れた時期に行くのがよかったんだ」
「へ、へえ」
よく解らないが、現世で薬局を開局するまでにはあれこれ苦労があったということだろう。その一つがちゃんと大学を出て薬剤師の免許を一度は取るというものだったらしい。そして、現世に合わせて互いの人間関係を改めて構築する必要があったということか。
「そんなことはいいから、早く行けよ。お前が心配するのは俺じゃなくてあっち」
弓弦はそう言ってくいくいっと調剤室を指さす。そこには白衣姿で百味箪笥に向かい合う法明の姿があった。
「はいはい」
将ちゃんと弓弦のおかげでリラックス出来たものの、やっぱり緊張してしまう。桂花は深呼吸をすると、調剤室のドアを開けた。真剣に薬を調合しているらしい法明の姿は、いつ見ても惚れ惚れする。
「おっ、おはようございます」
それにしても、全然そわそわなんてしてないじゃない。そう思った桂花だったが、挨拶をした途端に法明が持っていた小さな乳鉢を落としたので、動揺していないわけではないと知る。がちゃんと派手な音が鳴った。
「おっ、おはようございます」
真っ赤な顔をしてぺこっと頭を下げてすぐに落ちた乳鉢を拾う姿は、恥ずかしくて穴があったら入りたいと体現しているようだった。動きもすごくぎこちない。
「まったく」
その姿に、だからどうして法明の方が先に動揺しちゃうのよと笑ってしまう。あの時だって先に泣いちゃうし、どうにも締まらない人だなと呆れてしまう。でも、そういう人だからこそ、多くの人が協力してくれるのだろう。
「箒を持ってきます」
「お、お願いします」
そう言って顔を上げた法明が真っ赤だったので、桂花はもうおかしくてくすくすと笑ってしまった。それに釣られるように法明も笑い出し、ようやくいつもの朝の様子が戻って来たのだった。
「それで、一体何を調合しようとしていたんですか」
「ああ、はい。お約束の飴を作ろうと思いまして」
「あっ」
乳鉢の破片を無事に片付けてから、二人揃って百味箪笥の前に立って、あの約束を果たそうとしていたのだと法明は笑った。それに、桂花が今度は真っ赤になる。
「あれ、漢方薬を練り込んだものだったんですよね」
「ええ。とはいえ、あれは一部に天界にある薬草を使ったので、どうにも同じにならないんですよ。味が微妙に違ってしまうので、現世でどうやったら再現できるのか。自分で作ったというのに頭を悩ませています」
「ひょっとして、昨日のお休みの間、ずっと考えていたんですか」
「ずっとではないですけど、ええ」
どうしましょうかねえと、法明はのんびりと百味箪笥に書かれている生薬の名前を見つめている。まさかの本人も飴の再現が難しいとは――もちろん天界に生えている生薬を使えば別なのだろうけれども――これは予想外のことだった。しかし、これはチャンスでもある。
「じゃあ、飴は私が頑張って再現してみます。それを確認してもらえますか」
「えっ、はい」
それはつまり、しばらくこの関係を、この場所で続けよう。そう言っているのと同じだ。ふたりは互いの意思を確認できてにこっと笑って見つめ合ってから、二人揃って顔を真っ赤にしてしまう。
駄目だ。ところどころで意識してしまう。そのせいで反応が付き合ったばかりのカップルのようだ。
「ほうほう、これはお熱いことで」
「ぎゃああっ」
「うっ」
しかもその姿をまたもや誰かに見られてしまった。短い悲鳴を二人で上げて振り返ると、カウンターのところでにやにやと笑う陽明の姿があった。その横には止めたのよと言いたげな円の姿もある。いつの間にやら、桂花と法明のやり取りに時間が掛かるだろうと、受付カウンターでは円が開店準備を進めてくれていたようだ。
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