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第6話 草食恐竜類

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 魔法動物研究科は大学のキャンパスの他に広大な敷地の牧場を持っているということを、俺はこの時に初めて知った。なるほど、二階建てクラスの牛がのしのし歩いているのを、たまにしか見かけないはずだ。ついでにその横にある動物園もまた、研究科の持ち物であるという。
「ただ飼育しているだけではあれですから、動物園という形で一般の方にも見て頂いているんですよ」
 動物園の看板に釘付けになっている俺に、救援を求めた田中清乃が朗らかに教えてくれる。
「へえ。今度見てみよう」
 俺は動物園って行ったことないやと、今度の休日の行き先に動物園を加えておいた。魔法が使える世界になってから、動物園という場所は数が少なくなり、またメジャーな娯楽施設でもなくなっていた。
「それより、食中毒を起こした動物は?」
 のんびり見物している場合じゃないだろうと、須藤の注意が飛んでくる。確かに、こっちに気を取られている場合じゃない。
「は、はい。それが草食恐竜類の子たちで」
「え?」
「恐竜ですよ。隕石の衝突の影響でトカゲやワニといった爬虫類が巨大化したものを、恐竜類と呼んでいるんです」
 爬虫類の分類って、いつの間にか恐竜になっていたのか。動物も大きく変化したことは知っているが、恐竜がいたのは初耳だ。
「恐竜類が現われたのは二十年前くらいだから、藤城くんたちが知らないのは仕方ないかなあ。動物の進化過程が凄く早くなっていてね。困ったものよ。恐竜って昔は羽毛のあるものも多かったっていうから、爬虫類に当てはめるのは反対意見も多かったくらいでね」
 田中はそう言うが、顔はいきいきと輝いていて、全く困った様子はなさそうだった。この人もまた生粋の研究者というところか。
「なるほど。それで食中毒の原因も解らないのか?」
 須藤は自分を呼びに来た原因はそれかと納得する。既出の動物だったならば、すでに治療薬が確立しているから、わざわざ見てくれとは言わないはずだ。
「ええ。それに食中毒なんて。たぶん、食べた草が原因なんだろうってことしか解らなくて。ああ、こっちです」
 そう言って案内された場所は大きな体育館のような施設だ。もちろん、そこは運動する施設ではなく、
「きょ、恐竜だ」
 大昔の本で見たことがある、まさに恐竜というビジュアルのトカゲたちの住まいだった。大きさは一匹五メートルはあるだろうか。おかげでバスケのコート三面分はあるはずの施設は、七匹しかいない恐竜が寝そべっているとギリギリのサイズだった。
 恐竜たちは干し草の敷かれた床でぐったりとしている。食中毒を起こして体調が悪いからだろう。
 俺はどうなっているんだろうと恐竜に近づこうとしたが
「電撃で攻撃してくることがあるから、これを着て」
「なっ」
 ゴム製の手袋とつなぎを渡されて驚く。ついでに靴もゴムの長靴に履き替える必要があるという。
「白衣はここに置かせてもらおう」
 そのつなぎが置かれていた三段ボックスに、須藤は白衣を脱いで置く。それに俺たち学生も従った。
「しかし、電撃かあ」
「動物も魔法が使えるからね」
 他のがいいなと思っている俺に、胡桃は当然だよという感じた。
 そう、魔法が使えるのは何も人間の専売特許ではない。動物も漏れなく使えるようになっており、大昔のゲームキャラのように、それぞれ属性魔法が使えるのである。
「見た目的に、電撃よりも他の攻撃をしそうだなって思わない?」
 俺は爬虫類だったという特性を生かしたものじゃないんだなと肩を竦めると
「俺としては火を吐いてほしかったな」
 旅人も違うやつが似合いそうと乗っかってきた。
「そうそう。火炎放射とか使ってくれると面白そうなのに」
「男子、静かに」
 属性魔法談義に花を咲かせようとしていたら、先輩の雅から注意が飛んできた。俺たちは首を竦めると、黙って須藤と雅の後ろに続く。近くに寄ってみると、恐竜たちの元気がないことはよく解った。そもそも人間が近づいても身じろぎさえしない。
「朝、散歩も兼ねて牧場に出すまでは元気だったんです。だから牧場で食べたものが原因だとは思うんですけど、牧場の草は安全を確認したものばかりだし、どうしたか解らないんですよ」
 田中はよしよしと恐竜の頭を撫でて俺たちに説明する。
「ふむ。牧草は栄養バランスを考えて育てられるものだからな。それに総ての成分データが出揃っているものしか使われていない。となると、どこからか種子が飛んできて混ざったか」
 須藤も普通ならば食中毒なんてないはずだと言う。そしてその口の中を覗き込むが、食べた草の痕跡はなかった。
「歯に挟まってくれていたら、特定しやすかったんだがな」
「痛み止めを処方しますか?」
 苦しそうな様子を見て、雅が訊く。しかし、須藤は何が原因か解らないから、下手に薬は使えないと首を横に振る。
「症状は?」
「腹痛と下痢です。嘔吐は今のところありませんが、それは食べた量が少量だったおかげでしょうか」
「だろうな。食中毒の症状として、嘔吐がないのはおかしい。ともかく、こいつらには水を大量に飲ませよう。朝倉先生にも手伝わせるとして、その間に、平岡は一年を連れて牧草のチェックを頼む」
「解りました」
 こうして俺たちは恐竜の傍を後にし、牧場へと向ったのだった。
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