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第21話 緊急・惚れ薬は作れるのか会議

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「つまり、妄想が行き着くところに行っちゃってるわけか」
「そうなんだよ・・・・・・って、え?」
 三人とは違う声が聞こえて、俺はびっくりしてしまう。驚いて振り返ると、そこには会いたくもない大狼の姿があった。今日も医学科らしくスクラブを着ている。が、白衣だらけの薬学科では目立つことこの上ない。
「な、何でお前がここに?」
「別に薬学科の建物にいるのは珍しいことじゃない。朝倉先生との打ち合わせがあるからな。そしたら惚れ薬なんて妙な話題が聞こえてくるから気になってな」
「って、最初から立ち聞きしてたんかい!」
 最悪だなと俺は顔を顰める。が、大狼はその紬という女は危ないなと、しっかり議論に加わる気だ。
「危ないわよね。で、藤城の彼女からの本当の相談は、友達の暴走をどうすればいいか、でしょ」
「彼女じゃねえよ、幼馴染みな」
 胡桃の言葉をしっかり訂正しつつ、確かにそちらが本題だと腕を組む。
「ふむ。聡明そうな彼女のことだ。それが妥当だろう」
 でもって大狼が友葉を褒めるから、なんかむっとする。が、大狼は
「彼女じゃねえんだろ?」
 とにやっと笑いやがった。くっそ腹立つ。
「まあ、ともかく、願望を叶えてやりたい気持ちもあるけど、このままだと問題を起こしかねないし、そうなったら魔法科を退学になって、さらに危ないことを起こすかもしれないから、どうにかしたいんだと」
 俺は仕方ないと、友葉の意見を披露した。これは紬が妄想に耽っている間に、こそこそとやり取りした内容だ。
「ふむ。そうなると、惚れ薬より幻覚を見せる薬でも・・・・・・ああ、しかし、それは隕石衝突前と同じで副作用が強いからな」
「幻覚ねえ・・・・・・って、え?」
 また別の声が聞こえて、俺たちは慌てて振り返る。と、朝倉がいた。
「早瀬君が戻ってこないと思ったら、うちの学生たちと仲が良かったんだね」
 くくっと、朝倉は楽しい話題が聞けたよと満足そうだ。
 しかし、俺はここって立ち聞きする奴が多くないかと頭を抱えたくなる。
「先生だったらどう問題を解決するのがいいと思いますか?」
 すかさずそう質問するのは佳希だ。さすがは、佳希にとって憧れの存在。だが、その風貌は増田と真逆でぼさぼさの冴えないおっさんだ。
「かなり難しい問題だねえ。心の問題っていうのは、魔法が使えるようになった現代でも、なかなか解決しないものだよ」
 朝倉は教室まで入ってくると、どかっと机に座る。完全に居座る気だ。
「ううん。先生から増田先生に打診は、無理ですか?」
 俺は手っ取り早い方法が使えるのではと訊ねたが
「まあ、可能だけども、忙しいからね、彼。そう簡単に学生の問題に協力してくれるとは思えないよ。この間も強力な回復薬を一ダース奪っていったし」
 と、朝倉はスケジュール的に無理だと言ってくれる。意外と仲がいいようだ。
「回復薬って、この間作ったやつですか?」
「そうそう。せっかく在庫が増えたと思ったところを根こそぎやられたからね。また作る羽目になったよ」
 とほほと、朝倉は肩を落とした。先生同士でも色々とあるようだ。が、問題は今それではない。
「ううん。増田先生が説得してくれたら早そうなのに」
「いや、ますます誤解を助長するだろ」
「だよな」
 俺の意見を旅人が瞬時に否定してくれて、俺もがっくり肩を落とす。そう簡単に片づく問題ではないか。
「ううん。でも、会えないままだと思いは募りっぱなしよね。増田先生がせめて魔法科一年のために講演をなさるとかは?」
 胡桃が閃いたと手を挙げる。それに朝倉もそれは可能かもねと頷いた。
「打診はしておこう。しかし、すぐには無理だ。その間、彼女の症状を抑える何かがいる」
「抑える何か」
 俺はそう言われても、解決策なんてなさそうだぞと首を捻る。
「その子に増田以外に夢中になれる男子が現われるとか」
 ぱちんと指を鳴らして大狼が提案する。名前と同じく仕草もキザな野郎だ。
「増田に匹敵するなんて無理だろ」
「まあな」
 俺の言葉に大狼はあっさり頷くが
「惚れ薬が本当にあれば、それは可能だろうね」
 と、朝倉がにやっと笑って怖いことを言ってくれるのだった。



「はい! というわけで、緊急・惚れ薬は作れるのか会議です」
「いやいや。なんでそうなる?」
 俺がツッコんだ相手は遠藤だ。ちなみに教室には他に須藤も塩崎も、そして言い出しっぺの朝倉の姿もある。ついでに大狼も巻き込まれていた。
「なんで俺まで」
 と大狼は不満そうだったが
「乗りかかった船だ。医学科としての意見を頼む」
 朝倉があっけらかんとそう言うので反論の余地なしだった。
「まあ、面白そうな議題よね」
 須藤はくすっと笑い
「新しい薬を作ることは、我々の使命ですからね。とはいえ、惚れ薬が出来た場合、すぐに禁止薬物になりそうですけど」
 塩崎がのほほんと付け加えてくれる。
 よって、一年を中心に先生を巻き込んでの惚れ薬作成は決定事項になってしまった。
「な、なんでこんなことに」
 相談された俺が一番訳が解らない状況だ。が、こうなった理由はやはり増田慶太を守らなければならないという使命感があるからだろう。増田とは、それだけ凄い存在なのだ。
「似たような事案が過去にもあったそうだからね。解決策が出来るのはいいそうだ」
 朝倉が増田から聞き出したと、そんなことまで付け加えてくれる。
 マジか。イケメンも大変だな。
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