僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第8話 誰か解決してよ!

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 クマさん型ロボットの製作は順調だった。しかし、それは同時に他の問題を棚上げしていることになる。
「はあ」
 どうするんだと、工具を路人に渡しながら暁良は頭を悩ませる。横にいる翔摩も同じ思いのようだ。
 穂乃花と面会して二日。あれから何の動きもないというのも怖い。
「山名のおっさんが黙っているのが怖いよな」
「えっ?」
 翔摩にだけ言ったつもりが、横にいた路人が反応してしまう。だから暁良は何でもないと慌てるだけだ。
 こいつに見合いの話をすればもっとややこしくなる。本能的にそう思うが故だ。
「何だか変だよな。最近の暁良って」
 しかし相手は仮にも天才。誤魔化すのは難しい。暁良はどうしようと翔摩に助けを求めてしまう。
「色々と相談を受けているそうですよ。ここに来る前の活躍が話題になっているらしくて」
 仕方ないなと、助けを求められた翔摩はそんな適当なことを言う。
 すると路人はなるほど、それで俺のところに相談が来ないのかと不満そうだ。
「いいじゃないか。俺が窓口になっている方が何かと問題がないだろ?」
 ただでさえ興味がなかったら人の話を聞かないくせにと、暁良はこのまま誤魔化すことにする。
「そうだけどさ。赤松のところの盗難事件しか聞かされていないぞ」
 が、路人もそう簡単には引かない。
 他に相談を受けているならば話せとせっついてくる。
「うっ。そうだな。その赤松から相談されているぞ」
 こうなったらと、礼詞の名前を挙げると路人の顔が一気に不満そうになる。
「何であいつまで相談しているんだよ。というか、あいつが暁良に近づくなんて言語道断だ。暁良、あんな奴は無視しろ」
 子どもかよと、路人の言い分に暁良は溜め息を吐く。これは仲直りは遠いなと、礼詞を憐れむしかない。
「無視は無理だろ。あいつ、しつこいし」
  しかし、無視は出来ないと窘めておくしかない。一応、路人と同じく教授なのだ。学生として無視できるはずがない。
「しつこい。確かにな。あいつの性格は非常に粘着質だ。俺も共同研究の時に何度も苦労した。本当に困る」
  路人は相変わらず礼詞の文句をつらつらと連ねた。どこまで鬱憤が溜まっているのか。不満は溜め込むと後が悪いという、いい例だ。
「それ、本人に言ってやったらどうだ?」
  もうケンカしてしまえばいいのでは。互いに子どものくせに大人の対応をしようとするから拗れるのだ。ここは殴り合った方が早い。
「え? 嫌だよ。面倒だもん」
  が、頭脳がやたらと発達している路人は拒否する。ケンカなんて無駄と考えているのだ。拳で解り合うなんて発想はそもそもない。
「解決は遠いな」
  翔摩はどんまいと暁良の肩を叩く。五歳からの確執だ。そしてその頃から大学で学ぶ二人に、世間一般の解決が当てはまらないのは当然だった。



 その頃。問題の礼詞は紀章に呼び出されていた。
「頼む、力を貸してくれ」
  そして言われた一言に戸惑っていた。
「あの……それは路人の見合いに関してですか?」
  察しのいい礼詞は、あまりに切羽詰まった様子で理解する。これは難問を突き付けられそうだ。
「そうだが、知っていたのか?」
  お前には言っていないはずだがと、紀章は嬉しいものの怪訝だ。
「暁良から聞きました。何でも縁談が舞い込んで困っているとか」
  そして自分を身代わりにする気だなと、付き合いの長い礼詞は総て了解済みだ。
「うっ。そうだ。路人に普通の生活が不可能なことは知っているだろ? 結婚なんてもっての他だ。しかし相手のことも考えねばならん」
 これが師匠の言う台詞か?
 礼詞はそう思ったものの口にしなかった。事実礼詞もそう思っている。
「しかし俺で大丈夫でしょうか?相手の方からすれば、どんな奇人変人だろうと構わないと思っているのでは?」
  が、一応は進言しなければと訊ねる。
「そう、そこだ。困ったことに相手はかなり路人を気に入っている。だからこそ、お前に頑張ってもらいたい」
「――えっ?」
  だからこそ頑張れって何を?
 礼詞が目を点にしていると、解っているだろと怒られた。何とも理不尽。
「お前がお嬢様を口説くんだ。もちろん非礼のないように」
  さすがの礼詞もこの命令には唖然とした。しかし反論はしない。
「――善処します」
 出来もしないのに礼詞はそう答えた。そしてすぐに暁良に相談しようと決めていた。
 完全に問題が堂々巡りしているのだが、もちろん礼詞は知るよしもない。




  さて、一方の祐弥は犯人の手掛かりがないかと思案していた。暁良に頼ってはいるが、それだけでは解決しないだろうと踏んでいる。
「なんせあの一色路人の助手だ。何をどうするか、こっちもある程度知っておかないと」
  また変などんでん返しがあっては困る。今回は自分が犯人ではないものの、何だか落ち着かない。
「それにしてもあいつ、ちゃんと調べてるのか?」
  あれから暁良の姿を見かけないがと、まさかクマさん型ロボット製作中とは思いもしない祐弥はサボりかと腹を立てる。
「にしてもないな。せめて犯人が何らかの形跡を残してくれていればいいのに」
  小さな盗難とはいえ、研究室に潜り込んでやっているのだ。どこかに手掛かりがありそうなものだが、どこにも奇妙な変化はない。
「まさか内部犯? でも、盗む理由が解らん」
 文房具や本。ここの研究室にいる人間ならば盗らないものばかりだ。それも礼詞以外全員が被害者というのも不可思議である。
  やはり謎しか出てこないな。祐弥は手掛かりのなさにイライラする。
「はあ。どうしてこう妙なことが起こるんだか」
  せっかく反省してちゃんと研究しようと思ったのにと、人生は上手くいかないものだなと思っていた。




「へえ。路人に見合い」
  その頃。さらにややこしい事態へと動きつつあった。
「楽しまないで下さい。一色先生」
  話を聞き付けたのは路人の母、一色穂波だ。電話を受けて楽しんでいる。
「面白いことになるに決まってるだろ。というか、山名は必ず阻止するはずだ」
  穂波にすればそっちが問題だ。あの男は正しいと思い込んだら一直線のところがある。すでに何かやらかしているに違いない。
「まあ、そうですね。はい」
  詳しくは知らないがと、電話の相手も困惑する。
「それはいい。私ももうすぐ日本に戻る。何か手助けできるだろう」
  あの路人が結婚するはずないけどと、穂波は口元に意地悪な笑みを浮かべていた。
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