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第13話 お前は人と違うんだぞ!
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今更お前ってどういう奴って訊くのは間抜けだよな。暁良は会議室から研究室へと戻りつつ、どうやって話を切り出すかで悩むことになった。
「ううん。路人が凄い科学者っていうのが、まず解らないんだよ」
色々な人から先生と呼ばれ、ご機嫌を取ろうとされる存在。それは路人が逃走中に起こった殺人事件の現場で知っている。あの時、路人はさらっとロボットの開発者を指摘したり、殺人のトリックを見抜いていたなと、それだけでも凄さは実感できる。
が、いかんせん、あの男は日頃がだらしなさ過ぎる。暁良からすれば手の掛かる大人でしかないのだ。
「これだよ」
研究室に戻って、暁良はこれだから凄さが見えなくなると脱力していた。一人部屋に残された路人は、相変わらずあのクマさん型ロボットの開発に勤しんでいた。これで暁良の仕事が減るというが、どう考えても増やしてくれているとしか思えない。
今も研究室は、泥棒でも入ったのかというくらいに散らかっていた。毎日毎日、こっちがせっせと片付けているというのにと、足の踏み場もなくなった床を見て恨めしく思ってしまう。
「あ、暁良。どこに行ってたんだよ? 翔摩も瑛真もどこかに行っちゃうし」
その路人は暁良が戻ってきて嬉しいようで、満面の笑みだ。このお子様的な反応に、ますます凄さから遠のく。
「あのさあ。お前って本当に教授かよ? つうか、本当に凄いのか?」
こうなったらストレートな質問しか意味をなさない。暁良はびしっと路人の鼻先を指さして訊いた。
「教授であることは否定できないね。だって、ここに研究室があるし、学生も受け持っているし。でも、凄いのかと訊かれても」
路人はううんと、ほとほと困ったような顔をする。
だからそれがさあと、暁良は地団駄を踏みそうになった。聞いた内容と本人の乖離具合が半端ではない。何を信じればいいのか、それすら解らなくなってくる。
「どうしたんだよ? 急に。俺が凄いかどうかなんて、暁良が勝手に決めればいいことだろ?」
あっさりとそう言う路人は、不可解だと首を捻っている。
「勝手に決められないこともあるんだよ。世間一般的には、お前はとんでもなく凄い科学者なんだからな。俺の頭が混乱するんだよ」
仕方ないと、暁良はいつも通りの調子で言い放っていた。すると路人は迷惑な話だよねと乗ってくる。いや、迷惑はお前の性格だと、暁良は思ったが腹の中に仕舞う。
今はこいつが何を考え、どうして逃げようと思ったのか。そこをはっきりさせるのが先だ。
「迷惑って。自分のやったことだろ?」
「ううん。でも、その評価は赤松だけが受け取るべきだと俺は思っている」
路人の主張に、そういえばこいつはずっと礼詞の方が凄いと言いまくっていたなと思い出す。
「何でだよ? 会議でもお前が中心になっているし、いつもお前が意見を求められるんだろ? それに開発したのもお前じゃないのかよ?」
今のところ、俺は礼詞の凄さが解らないぞと暁良は言う。するとそれが誤解なんだと、路人ははっきり言った。
「誤解?」
「そう。俺はイメージしたり、そうだな、人に伝えるのは得意だ。しかしそれを実際にやっていくのは苦手なんだよね。出来るのは赤松。俺が作れるのは、せいぜいこういうものだよ。自分でちゃんとプログラミング出来ないし」
「ええっ」
これほど驚くことがあるか。というか、そのぽんぽんと叩いているクマさん型ロボットはどうなるんだと、質問が渋滞してしまう。
「これの駆動部分は自分で出来るよ。でも、片付けをちゃんとやるっていうプログラミングは、翔摩か瑛真に頼むつもり」
はっきり言いましたよ、この人。と、暁良は作ることになるであろう翔摩に同情してしまった。最後の部分を他人任せってことだ。ということは――
「え? どういうこと?」
ん? しかしそれで研究って成り立つのか。今、煙に巻かれただけではないのか。
暁良はじいっと路人を見る。
「だからね。イメージすることは出来るんだよ。何だろう。理論は組み立てられるんだよね。あと、こういう図工は得意なんだ。誰も認めてくれないけど」
路人はそう言うと、何でだろう、ちゃんとクマになっているよなと確認してくる。たしかにロボットはちゃんとクマと解るし、可愛い。しかしそれは今、関係ない。
「理論だけ? つまり、お前って」
「計算しただけ?」
訊き返すなよと、暁良は怒鳴りそうになる。首を傾げて訊かれても、暁良はその当時を知らないのだ。
「ううん。解らないな。お前の得意なことが計算だってことは、まあ、理解した。しかしそれが凄さと異なるのか?」
暁良はさらに質問を続ける。
「えっと。だから俺だけいても出来ないことが多いって言いたいわけだよ。赤松が俺の理論を理解して、ちゃんと動くものにしてくれる。そういうこと」
路人はどう言えばいいんだろうと、必死に言葉を探す。
「いや、だからお前の方が凄いっていう評価は不当なものではないんだろ?」
何だ、これ。要するに路人の中の凄いが他と違うだけなのではと思えてくる。まあ、礼詞も凄いことは理解できてきた。
「そうかな。思いつくだけだからさ」
「お前は世の中に、思いつきすらしない人間がいることを知っているのか?」
暁良が指摘すると、路人はきょとんとした顔をする。
これだ。色々とずれている原因はこれなのだ。
「なあ。お前って一般的にどうかってのが解らないんだろ」
「そ、そうかも」
路人はそうだ。周囲が出来るから全員出来ると思っていたと真剣だ。
「でもさ。一年半、外で生活してどうだった? 何か違うって気づかなかったのか?」
「ううん。俺が自分一人で生きていくのは難しい。それは理解したかな」
逞しくなったな。
暁良の感想はなぜかそうなった。たしかに一人では生きていけないだろう。そのうち、何かが崩れてきてそこで圧死しているはずだ。それと様々な管理も出来ないだろう。
「つまり、お前は基準がおかしいんだ。自分のやって来たことを思い出せ」
とりあえずここに座って過去を語れ。暁良はそう言ってソファを指さした。
「ううん。何でだろう」
しかし路人は納得できないようだ。が、休憩がてら話すのはいいかと、クマさんぬいぐるみを取ってくると、大人しくソファに座った。そして、路人は過去を思い出すように、遠くを見つめたのだった。
「ううん。路人が凄い科学者っていうのが、まず解らないんだよ」
色々な人から先生と呼ばれ、ご機嫌を取ろうとされる存在。それは路人が逃走中に起こった殺人事件の現場で知っている。あの時、路人はさらっとロボットの開発者を指摘したり、殺人のトリックを見抜いていたなと、それだけでも凄さは実感できる。
が、いかんせん、あの男は日頃がだらしなさ過ぎる。暁良からすれば手の掛かる大人でしかないのだ。
「これだよ」
研究室に戻って、暁良はこれだから凄さが見えなくなると脱力していた。一人部屋に残された路人は、相変わらずあのクマさん型ロボットの開発に勤しんでいた。これで暁良の仕事が減るというが、どう考えても増やしてくれているとしか思えない。
今も研究室は、泥棒でも入ったのかというくらいに散らかっていた。毎日毎日、こっちがせっせと片付けているというのにと、足の踏み場もなくなった床を見て恨めしく思ってしまう。
「あ、暁良。どこに行ってたんだよ? 翔摩も瑛真もどこかに行っちゃうし」
その路人は暁良が戻ってきて嬉しいようで、満面の笑みだ。このお子様的な反応に、ますます凄さから遠のく。
「あのさあ。お前って本当に教授かよ? つうか、本当に凄いのか?」
こうなったらストレートな質問しか意味をなさない。暁良はびしっと路人の鼻先を指さして訊いた。
「教授であることは否定できないね。だって、ここに研究室があるし、学生も受け持っているし。でも、凄いのかと訊かれても」
路人はううんと、ほとほと困ったような顔をする。
だからそれがさあと、暁良は地団駄を踏みそうになった。聞いた内容と本人の乖離具合が半端ではない。何を信じればいいのか、それすら解らなくなってくる。
「どうしたんだよ? 急に。俺が凄いかどうかなんて、暁良が勝手に決めればいいことだろ?」
あっさりとそう言う路人は、不可解だと首を捻っている。
「勝手に決められないこともあるんだよ。世間一般的には、お前はとんでもなく凄い科学者なんだからな。俺の頭が混乱するんだよ」
仕方ないと、暁良はいつも通りの調子で言い放っていた。すると路人は迷惑な話だよねと乗ってくる。いや、迷惑はお前の性格だと、暁良は思ったが腹の中に仕舞う。
今はこいつが何を考え、どうして逃げようと思ったのか。そこをはっきりさせるのが先だ。
「迷惑って。自分のやったことだろ?」
「ううん。でも、その評価は赤松だけが受け取るべきだと俺は思っている」
路人の主張に、そういえばこいつはずっと礼詞の方が凄いと言いまくっていたなと思い出す。
「何でだよ? 会議でもお前が中心になっているし、いつもお前が意見を求められるんだろ? それに開発したのもお前じゃないのかよ?」
今のところ、俺は礼詞の凄さが解らないぞと暁良は言う。するとそれが誤解なんだと、路人ははっきり言った。
「誤解?」
「そう。俺はイメージしたり、そうだな、人に伝えるのは得意だ。しかしそれを実際にやっていくのは苦手なんだよね。出来るのは赤松。俺が作れるのは、せいぜいこういうものだよ。自分でちゃんとプログラミング出来ないし」
「ええっ」
これほど驚くことがあるか。というか、そのぽんぽんと叩いているクマさん型ロボットはどうなるんだと、質問が渋滞してしまう。
「これの駆動部分は自分で出来るよ。でも、片付けをちゃんとやるっていうプログラミングは、翔摩か瑛真に頼むつもり」
はっきり言いましたよ、この人。と、暁良は作ることになるであろう翔摩に同情してしまった。最後の部分を他人任せってことだ。ということは――
「え? どういうこと?」
ん? しかしそれで研究って成り立つのか。今、煙に巻かれただけではないのか。
暁良はじいっと路人を見る。
「だからね。イメージすることは出来るんだよ。何だろう。理論は組み立てられるんだよね。あと、こういう図工は得意なんだ。誰も認めてくれないけど」
路人はそう言うと、何でだろう、ちゃんとクマになっているよなと確認してくる。たしかにロボットはちゃんとクマと解るし、可愛い。しかしそれは今、関係ない。
「理論だけ? つまり、お前って」
「計算しただけ?」
訊き返すなよと、暁良は怒鳴りそうになる。首を傾げて訊かれても、暁良はその当時を知らないのだ。
「ううん。解らないな。お前の得意なことが計算だってことは、まあ、理解した。しかしそれが凄さと異なるのか?」
暁良はさらに質問を続ける。
「えっと。だから俺だけいても出来ないことが多いって言いたいわけだよ。赤松が俺の理論を理解して、ちゃんと動くものにしてくれる。そういうこと」
路人はどう言えばいいんだろうと、必死に言葉を探す。
「いや、だからお前の方が凄いっていう評価は不当なものではないんだろ?」
何だ、これ。要するに路人の中の凄いが他と違うだけなのではと思えてくる。まあ、礼詞も凄いことは理解できてきた。
「そうかな。思いつくだけだからさ」
「お前は世の中に、思いつきすらしない人間がいることを知っているのか?」
暁良が指摘すると、路人はきょとんとした顔をする。
これだ。色々とずれている原因はこれなのだ。
「なあ。お前って一般的にどうかってのが解らないんだろ」
「そ、そうかも」
路人はそうだ。周囲が出来るから全員出来ると思っていたと真剣だ。
「でもさ。一年半、外で生活してどうだった? 何か違うって気づかなかったのか?」
「ううん。俺が自分一人で生きていくのは難しい。それは理解したかな」
逞しくなったな。
暁良の感想はなぜかそうなった。たしかに一人では生きていけないだろう。そのうち、何かが崩れてきてそこで圧死しているはずだ。それと様々な管理も出来ないだろう。
「つまり、お前は基準がおかしいんだ。自分のやって来たことを思い出せ」
とりあえずここに座って過去を語れ。暁良はそう言ってソファを指さした。
「ううん。何でだろう」
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