僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第37話 やっぱり変人なんだろうな、天才だけど

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 色々と拙いことに気づいた一行は、ともかく礼詞の研究室へと向かった。そっと覗いてみると、綺麗に片付いた研究室の中、礼詞が呆然と自席に座っているのが見える。
「果たし状を受け取ってから、ほぼあの状態だ。しかし、大学の業務と講義はちゃんとこなしている。真面目な性格のなせる技だな」
 真一はそう説明して苦笑。一方、暁良と翔摩は大丈夫じゃないなと顔を青ざめる。
「これ以上問題がこじれるのは避けたい」
「それは俺もだ。というか、どうして大学に入学した途端、こんな変なことばっかり」
 暁良としては頭を抱えたい事態の連続だ。大体、見合いの話あたりからがおかしくなっている。いや、礼詞にパフェを奢られた時もおかしかったが。
「どうする? 対決の日まで、あの状態で過ごすつもりだろうか」
「ううん。むしろ、それを狙っているとか?」
 真一と春樹はどう思うと、そんな意見を交わす。いやいや、それだったら穗乃花が礼詞を選ぶというところに繋がらないではないか。
「ああ、そうか。いや、でもそれって一色先生が勝手に言っているだけだし」
「あの男が無根拠に言うかよ。クマさんぬいぐるみ愛好家でマザコンで変人だけど、頭は本物だぜ」
 暁良はフォローになっていないことを言う。しかし、その場の全員が納得。
「それは確かにね。俺たちでは理解できないレベルで何かを考えているのは間違いない」
「だろ?」
「しかし、今回は失敗だったんじゃないか?」
 真一はそう言って、礼詞に目を向ける。先ほどから微動だにしない。同じ姿勢で、ずっと虚空を見つめている。そんなことをしても、アイデアなんて出てこないだろう。
「仕方ない。一色先生に聞こう」
 ここは、直接なにがどうなっているのか聞き出した方がいい。春樹は諦めるのが早かった。
「まあ、そうでしょうよ。あの人の面倒臭さは、俺がよく理解している」
 と、これは佑弥の発言。逃走中の路人に悪戯を仕掛け、えらい目に遭った過去がある。というより、ここの教授陣に一杯食わされたというのが正しいが。
「じゃあ、行くか。どこにいると思う?」
「この時間だと、食堂でしょうか」
 真一の確認に、翔摩は腕時計で時間を確認して言った。再び学食に戻るしかないらしい。
「ああ。糖分補給ね」
「そう。何を食べているかは予測不能だけど」
 助手二人はそう言って溜め息。事情を知らない赤松研究室の面々はきょとん。
「まあ、行けば解るよ」
 ということで、呆然とする礼詞を放置し、一行は来た道を戻った。
「うわっ。明らかなカロリーオーバー」
 で、学食に予想通りに路人はいたのだが、真一と佑弥は顔を引きつらせた。
「なるほど。痩せの大食いだったか」
 しかし、春樹は妙に関心。路人だったら胃袋も常人と違って当然といったノリだ。
 その路人の前には、カツ丼・天ぷらそば・カレー・特大パフェ・ケーキ盛り合わせが並んでいる。さらに現在、担々麺を頬張っていた。いやはや、夕方の四時にこの摂取カロリー。一般人だったらデブまっしぐらだ。
「ふぉにゃ。どふしたほ?」
 一向に気づいた路人が、口いっぱいに麺を頬張りながら訊いてくる。
「まず飲み込め」
 だから、いつもどおりに暁良の注意が飛んだ。本当に、この大学に入ってから路人のお母さんポジションに収まってしまっている。疲れることこの上ない。
「ぐふっ。で、雁首揃えてどうした?」
 一気に飲み込んだ路人は、まあ、座りなよと勧めてくる。しかし、見ているだけでも口の中が混乱してくるメニューだ。出来れば座りたくないが、座らなければ話にならない。
「俺、全員分のコーヒーを買ってきます」
 そこに佑弥、英断。コーヒーくらいは奢ろうと、そそくさと注文に言った。たまには役に立つ。
「それで、どうしたの?」
 担々麺を食べ終えてカツ丼に取り掛かった路人は、コーヒーをすする五人に向けて訊く。なかなか珍しい取り合わせだ。
「ああ。あの果たし状の真意を訊こうと思ってね」
 で、暁良が代表して問い掛ける。なんでこうカオス空間になっていくのか。
「果たし状の意味はそのまま。どちらも役立たずであることを世間に知らしめる」
「いやいや。現状、赤松が役立たずってことしか解らない状況だぞ」
「そうなの?」
「ええ。このとおりです」
 きょとんとする路人に、春樹がすかさずスマホの画像を見せた。例の監視カメラの分析用のやつだ。研究室にも仕掛けていたらしい。そしてそこに映る、十五分前と寸分違わぬ礼詞の姿。
「え? ずっとこの状態なの? 静止画じゃなくて」
「そうです。ずっとこうです」
「うわあ。肩こりそう」
「感想がおかしい」
 路人の答えに、暁良、思わずツッコむ。どうしてそうずれるのか。
「何も出来ていないんですけど」
 どう思いますと、辛抱強く春樹が問い直した。すると、路人はカツを口に放り込み
「そうだろうねえ。あいつは最初の過程を忘れてしまっているんだよ。それさえ出来れば、俺なんて要らないはずなのにさ」
 と、無責任とも取れる発言をする。
「それって、どういうこと?」
「だからさ。あいつはいつの間にか自分で考えることを放棄しているんだよ。ああ、初期条件だけね。他は考えるんだけど、最初に何をやるか、ここを俺に任せてしまっていて、出来なくなっているんだ。これも依存症の一つかな」
 路人は困ったもんだと言うが、役割分担していたのならば仕方ないだろう。
「そういうお前は、中身を考えることを放棄しているんじゃないのか?」
 そこで暁良、会心の一撃。すると路人はあっさりと頷く。
「まさしくそのとおり。いやあ、難しい」
 でもやってますよと、膝の上に置いていたらしい紙を放り投げて来た。そこにはあれこれとメモがされている。
「一応、プログラミングの案ですね。相変わらず、一色先生にしか解らない数式の嵐ですけど」
 その紙を見た真一は、何度か見たことあるなと唸る。が、これ、コンピュータには打ち込めない代物だ。
「そう。いつもここで困る。それを読み解くのが礼詞の仕事になっていたからね」
「――」
 何だろう、この二人。やっぱり変人なんだろうな、天才だけど。それが、五人の共通の意見だった。
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