10 / 51
第10話 何かと駄目な科学部
しおりを挟む
「ふん。それならば井戸を捨てる必要はないだろう。サンプルというなら多様性は必要だ。それに井戸の謎が見つかるかもしれない」
あれだけ断言しておいて亜塔は井戸に未練があった。何とかならないものかと必死に考えている。こうなると誰の意見も聴かないので周りは放置することにした。それに何か噂を拾ってくるかもしれないとの希望的観測もある。
「そうすると、まずは解りやすいものから取り組むべきだろう。音楽室の謎はすぐに解けるはずだ。視線が合うという問題は角度のはずだ。それが総て一致するということは一定の値があるはずだぞ」
迅がナンプレを解きながら提案する。ちなみにナンプレとは81個の升目に1から9までの数字を入れていくというパズルである。パズル雑誌として売られているものを迅は解いているのだ。しかも一問あたり五分のかからないというハイスピードを発揮している。
この行動も迅が数字中毒だからという理由で誰も態度を改めろとは言わない。おそらく井戸の調査で外に出たせいで禁断症状が出たのだろうくらいなものだ。
「たしかに例題としても悪くない。すぐに解答が出ないものを最初に持ってきてはいけないというのが今日の教訓だからな。よし、松崎先生に音楽室の使用許可を取ってもらおう」
桜太はにんまりと笑った。今日はこのまま解散となってはやる気がゼロになるところだ。何か取り組むものが出来るというのは有り難い。
「俺も付き合おう。三年が参加していることを伝えておかないとな」
前部長としての責任感を思い出した亜塔が立ち上がる。
こうして作戦会議が無事に終了するや否や、残りのメンバーは一斉に自分の興味があることに取り組み始めた。その熱心さだけは凄さを感じる。
「やっぱ、これが科学部かも」
化学教室を後にしながら、桜太はチームプレーの難しさを感じていた。
とはいえ、音楽室が使えるのは当然のように吹奏楽部の練習が終わってからだった。終わるのは夕方の六時ということなので、それまでは普通の活動をすることになる。八人はそれぞれ黙々と自分の興味のあることを研究するのだ。
「なあ、ブラックホールってエントロピーを考えるには量子力学が必要なんだろ?」
優我が桜太にちょっかいを掛け始めても話題は研究からずれない。
「そうそう。相対性理論からは毛のない状態になってしまうからな。あっても三本というところだ。エントロピー問題はホーキング博士が提案したことで取り組まれるようになったものだしな」
すらすらと答え始める桜太の言葉は、その分野に詳しくない人が聴いていればただの暗号だった。そもそも高校生がエントロピーなど持ち出さない。それは大学の熱力学を勉強して出てくるものだ。
「ブラックホールか。俺も気になってるんだよね。なんといっても天体の最終形態の一つだからさ」
さらに莉音がこの話題に乗り始めて、状況はさらに大学の物理学科状態に陥っていく。三人の会話は天体や惑星といいながら数式がメインだ。だれも頭の中に星を思い浮かべていない。
「なあ、この現状をどう思う?」
自分の趣味が科学部内でも禁止事項扱いの亜塔は、受験勉強に飽きて芳樹に質問する。やはり新入生問題がなければ誰も現状を変えたくないのだと気づいたこともある。
「どうって。なるようにしてなった現状だろ。大体先輩たちだって科学コンテストがなければ好き勝手やってたんだし。科学コンテストの参加も、こうやって科学部存続のために仕方なくやってたことなんだよ。きっと」
芳樹は捕まえたカエルたちのスケッチを描きながら、悲しくなるような事実を指摘する。
「なるほどな。つまり我々は科学コンテストを七不思議解明に変えただけか」
亜塔はそんなことで納得してしまっていた。
こうして科学部存続のための七不思議調査は出だしから躓くのだった。
六時になるまでそれぞれの時間を堪能したメンバーは、危うく音楽室の調査を忘れるところだった。
「やっぱり科学部は居心地がいいな」
教室で肩身の狭い思いをしてる芳樹はしみじみと言う。彼はカエルをどこにでも携えているため、嫌がられる回数も多いのだ。
「そのために我らは協力しているんだろうが」
ここでも肩身の狭い亜塔は文句も言わずに頷く。亜塔も一歩外に出れば変人として見向きもされないのだ。ここで友達や後輩と囲まれているのは楽しい。
「そうですよ。だから音楽室の肖像画の調査です」
ブラックホールの温度を求める式を眺めていた桜太が立ち上がった。引退すれば自分たちの行き場もなくなるという実感が湧いたのだ。後輩がいれば亜塔たちのように何かと理由を付けて化学教室に潜り込める。
「なあ、メジャーは要るよな?」
楓翔が鞄から自前のメジャーを取り出して訊く。
「要るけど、そんな本格的なものである必要があるか?」
振り向いて確認した桜太は呆れてしまった。楓翔が手にしているメジャーは明らかに測量用で、結構な大きさがある。それを普段から持ち歩いている時点で驚きだ。
「教室が何十メートルもあるわけないでしょ。これで十分よ」
容赦なく突っ込んで、千晴が3.5メートル測れるメジャーを楓翔に渡した。楓翔は不満そうに渡されたメジャーを伸ばしたり戻したりする。
「計算には黒板を使えばいいか。しかし、やった計算を記録しておくことも重要だろうか」
その楓翔の横では莉音がノートを持っていくかで悩んでいる。彼にとってはそれが研究ノートなのだろう。様々な数式が所狭しと書き込まれている。
「実際に測れるわけですし、数値だけどこかに記録できればいいかと」
仕方なく迅が対応した。数式に対する思い入れの強さは理解できるからだ。
あれだけ断言しておいて亜塔は井戸に未練があった。何とかならないものかと必死に考えている。こうなると誰の意見も聴かないので周りは放置することにした。それに何か噂を拾ってくるかもしれないとの希望的観測もある。
「そうすると、まずは解りやすいものから取り組むべきだろう。音楽室の謎はすぐに解けるはずだ。視線が合うという問題は角度のはずだ。それが総て一致するということは一定の値があるはずだぞ」
迅がナンプレを解きながら提案する。ちなみにナンプレとは81個の升目に1から9までの数字を入れていくというパズルである。パズル雑誌として売られているものを迅は解いているのだ。しかも一問あたり五分のかからないというハイスピードを発揮している。
この行動も迅が数字中毒だからという理由で誰も態度を改めろとは言わない。おそらく井戸の調査で外に出たせいで禁断症状が出たのだろうくらいなものだ。
「たしかに例題としても悪くない。すぐに解答が出ないものを最初に持ってきてはいけないというのが今日の教訓だからな。よし、松崎先生に音楽室の使用許可を取ってもらおう」
桜太はにんまりと笑った。今日はこのまま解散となってはやる気がゼロになるところだ。何か取り組むものが出来るというのは有り難い。
「俺も付き合おう。三年が参加していることを伝えておかないとな」
前部長としての責任感を思い出した亜塔が立ち上がる。
こうして作戦会議が無事に終了するや否や、残りのメンバーは一斉に自分の興味があることに取り組み始めた。その熱心さだけは凄さを感じる。
「やっぱ、これが科学部かも」
化学教室を後にしながら、桜太はチームプレーの難しさを感じていた。
とはいえ、音楽室が使えるのは当然のように吹奏楽部の練習が終わってからだった。終わるのは夕方の六時ということなので、それまでは普通の活動をすることになる。八人はそれぞれ黙々と自分の興味のあることを研究するのだ。
「なあ、ブラックホールってエントロピーを考えるには量子力学が必要なんだろ?」
優我が桜太にちょっかいを掛け始めても話題は研究からずれない。
「そうそう。相対性理論からは毛のない状態になってしまうからな。あっても三本というところだ。エントロピー問題はホーキング博士が提案したことで取り組まれるようになったものだしな」
すらすらと答え始める桜太の言葉は、その分野に詳しくない人が聴いていればただの暗号だった。そもそも高校生がエントロピーなど持ち出さない。それは大学の熱力学を勉強して出てくるものだ。
「ブラックホールか。俺も気になってるんだよね。なんといっても天体の最終形態の一つだからさ」
さらに莉音がこの話題に乗り始めて、状況はさらに大学の物理学科状態に陥っていく。三人の会話は天体や惑星といいながら数式がメインだ。だれも頭の中に星を思い浮かべていない。
「なあ、この現状をどう思う?」
自分の趣味が科学部内でも禁止事項扱いの亜塔は、受験勉強に飽きて芳樹に質問する。やはり新入生問題がなければ誰も現状を変えたくないのだと気づいたこともある。
「どうって。なるようにしてなった現状だろ。大体先輩たちだって科学コンテストがなければ好き勝手やってたんだし。科学コンテストの参加も、こうやって科学部存続のために仕方なくやってたことなんだよ。きっと」
芳樹は捕まえたカエルたちのスケッチを描きながら、悲しくなるような事実を指摘する。
「なるほどな。つまり我々は科学コンテストを七不思議解明に変えただけか」
亜塔はそんなことで納得してしまっていた。
こうして科学部存続のための七不思議調査は出だしから躓くのだった。
六時になるまでそれぞれの時間を堪能したメンバーは、危うく音楽室の調査を忘れるところだった。
「やっぱり科学部は居心地がいいな」
教室で肩身の狭い思いをしてる芳樹はしみじみと言う。彼はカエルをどこにでも携えているため、嫌がられる回数も多いのだ。
「そのために我らは協力しているんだろうが」
ここでも肩身の狭い亜塔は文句も言わずに頷く。亜塔も一歩外に出れば変人として見向きもされないのだ。ここで友達や後輩と囲まれているのは楽しい。
「そうですよ。だから音楽室の肖像画の調査です」
ブラックホールの温度を求める式を眺めていた桜太が立ち上がった。引退すれば自分たちの行き場もなくなるという実感が湧いたのだ。後輩がいれば亜塔たちのように何かと理由を付けて化学教室に潜り込める。
「なあ、メジャーは要るよな?」
楓翔が鞄から自前のメジャーを取り出して訊く。
「要るけど、そんな本格的なものである必要があるか?」
振り向いて確認した桜太は呆れてしまった。楓翔が手にしているメジャーは明らかに測量用で、結構な大きさがある。それを普段から持ち歩いている時点で驚きだ。
「教室が何十メートルもあるわけないでしょ。これで十分よ」
容赦なく突っ込んで、千晴が3.5メートル測れるメジャーを楓翔に渡した。楓翔は不満そうに渡されたメジャーを伸ばしたり戻したりする。
「計算には黒板を使えばいいか。しかし、やった計算を記録しておくことも重要だろうか」
その楓翔の横では莉音がノートを持っていくかで悩んでいる。彼にとってはそれが研究ノートなのだろう。様々な数式が所狭しと書き込まれている。
「実際に測れるわけですし、数値だけどこかに記録できればいいかと」
仕方なく迅が対応した。数式に対する思い入れの強さは理解できるからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる