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第24話 さらなるカオスの予感
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「何らかの方法で電球をショートさせた可能性もあるぞ。あれは結構な光が出る」
いきなり亜塔が大声で提案した。どうにも亜塔は疲れていない感じがする。さぼってはいなかったはずだが、体力が有り余っているのはどうしてなのか。それ以前に電球をショートさせるというのは何だろうか。それは電流の流しすぎということか。
「でもさ、あの実験自体がカオスだったよな。化学と物理の分類って意味があるかな?」
青ざめた顔で言うのは芳樹だ。その顔はまだまだ終わりが見えないことを示している。自分が情報発信源とあって、余計に困っているのだろう。
「うっ。どうして未分類か解った気が」
桜太は恐々と書類の山を見た。あの実験の資料は要するにざっくり分けただけでは意味がないのだ。しかも内容を確認すれば科学と物理が混ざっているはずである。要するに、資料を作った当人たちも分類に困ったに違いない。結果としてなんでも突っ込むという仕舞い方をしたのだ。
「何か思い出せないんですか?こういう器具を使っていたとか」
ヒントが欲しくて楓翔は三年生を睨んだ。その目は明らかに何でもいいから思い出せと訴えている。
「器具ねえ。あの時はもうすでに化学教室と物理教室の器具が混然一体化していたような」
首を捻る莉音の答えは心もとないうえにさらなる混乱を招くものでしかない。本当に三年生も実験内容が思い出せない混沌ぶりだったのだ。
「その時って、ちゃんと科学コンテストに応募したんですか?」
こうなると実験結果がちゃんと出たのかも怪しい。優我は問題の核心を突く質問に出た。
「――応募してないな。結局は俺がぼんっとやったところで実験そのものが止まってしまったんだ」
亜塔が決定的な一言を放つ。二年生としてはやはりお前の責任かと思いつつ、歴代の先輩たちもやっぱり変人だったんだと思うしかない。何をやっていたかも思い出せない実験なんて実験ではない。
「そういえば大倉先輩がアンモニアを被ったって言ってましたよね。それも事故じゃないんですか?」
桜太はふと疑問に思った。亜塔は何かをぼんっとやったのが原因とずっと主張しているが、事故はそれ以前にもあった気がしてならない。
「いや、あれはアンモニア水だったし。それも相当希釈してあったんじゃないかな。臭いだけは強烈だったけど、他に何もなかったし。しかも落とした物を拾おうと机の下を覗いたら上から降ってきたんだぞ。安全なんて保障されてないんだよ」
亜塔の言い分は恐ろしい。今ままでよく廃部にならずに続いていたものだ。しかもこのアンモニア情報すら怪しいとは恐ろしい。強烈な臭いだけするアンモニア水なんて存在するだろうか。
「あっ。そういえばあれ、アンモニア水の容器に入れた納豆菌の培養水じゃないか?誰かが実験してたんだよ」
芳樹がどうでもいいことを思い出した。だからどういう実験をしようとしていたんだ。納豆菌を培養しても納豆しか出来ないだろうに。新たな食品の開発でもするつもりだったのだろうか。
「どおりで臭かったわけだ。しかも納豆を直接水で洗って集めたヤツだよな。そこにちゃんと納豆菌が入っているのか謎だったけど。臭いだけは集まっていたか」
亜塔はうんうんと頷いて納得している。そんなところで結論が出ても仕方がない。問題の前進にならないのだ。しかももう色々と突っ込みどころがありすぎで桜太は疲れてきた。
「普通に資料から検討しよう」
力なくそう提案するしかない桜太である。引き下がるわけにはいかず、しかも先輩たちの記憶すら混沌としている。そうなると未分類だろうと資料を頼りにするのが一番だ。
「何か光る状況を示すものを探せばいいだよ」
楓翔も諦めたように紙の束に手を伸ばした。しかし目に飛び込んできたのは数式の嵐だ。まったく理解できない。
「ああ。これは三重積分だな。もう高校のレベルを遥かに超えているよ。大学の教科書のコピーかな」
横から覗いて指摘した迅は嬉しそうだ。数式を放っておけないのは物理と共通なのだ。迅は早速どういう内容か検討し始める。
「あっ、やばい。さらなるカオスの予感」
桜太は資料に手を伸ばした全員が何かを真剣に見つめていることで気づいた。この資料は今までとはちょっと違う。なぜならどこかに科学部員の琴線に触れる内容が書かれているはずだ。もう誰も光の正体を追っていないのは明らかだ。
「桜太、これ見ろよ。真空状態にして何が起こるか実践したものがある。こういうちゃんと高校生らしいこともしてるんだな。意外にもさ」
優我が笑いながら資料を見せてくる。高校レベルを笑うのは科学部しかいない。どうしてちゃんとやってはいけないのか。おそらく先輩たちもお遊びだっただろうが、真面目にやっている。そこには先輩たちがちゃんと取り組んだ実験と結果が書かれていた。それに減圧して容器の中のマシュマロがどう変わるかを観察するなんて楽しそうだ。
「やってみようかな」
桜太は優我から資料を奪って真剣に見つめた。しかし次のページには化学反応式が書かれていて、謎の物質を合成しようとしていた跡がある。もうすでに分類不能だ。
しかしこうして見ると、ちゃんと科学コンテストには取り組んでいたのだ。部の存続のためだったかもしれないが、先輩たちがちゃんとしていたことにほっとしつつ羨ましくなってしまった。
「えっと。何で炎色反応をしながら放電したんだ?」
だが感心したのもこれを見るまでだった。明らかに化学教室を吹き飛ばそうとしていたとしか思えない。
いきなり亜塔が大声で提案した。どうにも亜塔は疲れていない感じがする。さぼってはいなかったはずだが、体力が有り余っているのはどうしてなのか。それ以前に電球をショートさせるというのは何だろうか。それは電流の流しすぎということか。
「でもさ、あの実験自体がカオスだったよな。化学と物理の分類って意味があるかな?」
青ざめた顔で言うのは芳樹だ。その顔はまだまだ終わりが見えないことを示している。自分が情報発信源とあって、余計に困っているのだろう。
「うっ。どうして未分類か解った気が」
桜太は恐々と書類の山を見た。あの実験の資料は要するにざっくり分けただけでは意味がないのだ。しかも内容を確認すれば科学と物理が混ざっているはずである。要するに、資料を作った当人たちも分類に困ったに違いない。結果としてなんでも突っ込むという仕舞い方をしたのだ。
「何か思い出せないんですか?こういう器具を使っていたとか」
ヒントが欲しくて楓翔は三年生を睨んだ。その目は明らかに何でもいいから思い出せと訴えている。
「器具ねえ。あの時はもうすでに化学教室と物理教室の器具が混然一体化していたような」
首を捻る莉音の答えは心もとないうえにさらなる混乱を招くものでしかない。本当に三年生も実験内容が思い出せない混沌ぶりだったのだ。
「その時って、ちゃんと科学コンテストに応募したんですか?」
こうなると実験結果がちゃんと出たのかも怪しい。優我は問題の核心を突く質問に出た。
「――応募してないな。結局は俺がぼんっとやったところで実験そのものが止まってしまったんだ」
亜塔が決定的な一言を放つ。二年生としてはやはりお前の責任かと思いつつ、歴代の先輩たちもやっぱり変人だったんだと思うしかない。何をやっていたかも思い出せない実験なんて実験ではない。
「そういえば大倉先輩がアンモニアを被ったって言ってましたよね。それも事故じゃないんですか?」
桜太はふと疑問に思った。亜塔は何かをぼんっとやったのが原因とずっと主張しているが、事故はそれ以前にもあった気がしてならない。
「いや、あれはアンモニア水だったし。それも相当希釈してあったんじゃないかな。臭いだけは強烈だったけど、他に何もなかったし。しかも落とした物を拾おうと机の下を覗いたら上から降ってきたんだぞ。安全なんて保障されてないんだよ」
亜塔の言い分は恐ろしい。今ままでよく廃部にならずに続いていたものだ。しかもこのアンモニア情報すら怪しいとは恐ろしい。強烈な臭いだけするアンモニア水なんて存在するだろうか。
「あっ。そういえばあれ、アンモニア水の容器に入れた納豆菌の培養水じゃないか?誰かが実験してたんだよ」
芳樹がどうでもいいことを思い出した。だからどういう実験をしようとしていたんだ。納豆菌を培養しても納豆しか出来ないだろうに。新たな食品の開発でもするつもりだったのだろうか。
「どおりで臭かったわけだ。しかも納豆を直接水で洗って集めたヤツだよな。そこにちゃんと納豆菌が入っているのか謎だったけど。臭いだけは集まっていたか」
亜塔はうんうんと頷いて納得している。そんなところで結論が出ても仕方がない。問題の前進にならないのだ。しかももう色々と突っ込みどころがありすぎで桜太は疲れてきた。
「普通に資料から検討しよう」
力なくそう提案するしかない桜太である。引き下がるわけにはいかず、しかも先輩たちの記憶すら混沌としている。そうなると未分類だろうと資料を頼りにするのが一番だ。
「何か光る状況を示すものを探せばいいだよ」
楓翔も諦めたように紙の束に手を伸ばした。しかし目に飛び込んできたのは数式の嵐だ。まったく理解できない。
「ああ。これは三重積分だな。もう高校のレベルを遥かに超えているよ。大学の教科書のコピーかな」
横から覗いて指摘した迅は嬉しそうだ。数式を放っておけないのは物理と共通なのだ。迅は早速どういう内容か検討し始める。
「あっ、やばい。さらなるカオスの予感」
桜太は資料に手を伸ばした全員が何かを真剣に見つめていることで気づいた。この資料は今までとはちょっと違う。なぜならどこかに科学部員の琴線に触れる内容が書かれているはずだ。もう誰も光の正体を追っていないのは明らかだ。
「桜太、これ見ろよ。真空状態にして何が起こるか実践したものがある。こういうちゃんと高校生らしいこともしてるんだな。意外にもさ」
優我が笑いながら資料を見せてくる。高校レベルを笑うのは科学部しかいない。どうしてちゃんとやってはいけないのか。おそらく先輩たちもお遊びだっただろうが、真面目にやっている。そこには先輩たちがちゃんと取り組んだ実験と結果が書かれていた。それに減圧して容器の中のマシュマロがどう変わるかを観察するなんて楽しそうだ。
「やってみようかな」
桜太は優我から資料を奪って真剣に見つめた。しかし次のページには化学反応式が書かれていて、謎の物質を合成しようとしていた跡がある。もうすでに分類不能だ。
しかしこうして見ると、ちゃんと科学コンテストには取り組んでいたのだ。部の存続のためだったかもしれないが、先輩たちがちゃんとしていたことにほっとしつつ羨ましくなってしまった。
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