科学部と怪談の反応式

渋川宙

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第41話 残りって何だっけ?

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 井戸の調査をした日の夜、亜塔は見事に熱中症で倒れていた。どうやらヘルメットのせいではなく、水分補給が足りなかったらしい。そういえば亜塔ははしゃいでいて水を飲んでいなかったなと、桜太は呆れてしまった。おかげで二日間部活は休みとなってしまった。まったく、勝手に乱入して勝手に休みを作るとは、困った先輩である。しかしここまで三年生の力も大きいので文句は言えない。
 こうして急遽できた夏休みだったが、科学部のメンバーたちは全員がここで宿題をするという行動に出ていた。だれも夏休みを満喫する気がない。しかしそれでも休み明けのメンバーの顔は晴れやかだから凄い。
「いやあ。部活が楽しくて宿題出来ていなかったから助かったよ」
 優我の言葉が科学部の全員の思いだった。変人の吹き溜まりと呼ばれているが、中身は健全かつ真面目。変である要素はおそらく誰もが宿題をしたことだろう。桜太はこういうところが周りから引かれるのかなと気づいてしまった。
 気づくと気になることが出てくるものだ。桜太はそっと科学部メンバーの顔を確認する。メンバーは晴れやかな顔をしているが誰も日焼けしていない。今が夏だというのを忘れてしまったようだ。そして自分も日焼けとは無縁。やっぱり科学部は変人で構成されるしかないのだとも改めて思った。
「さて、次は何を解決するんだ?」
 迅が数学パズルを解きながら訊く。実験やフィールドワークが続いて数字中毒が緩和されたかと思っていたが、この二日間の休みでしっかり復活してしまったらしい。
「トイレのすすり泣きと、動く学園長像よ」
 情報を拾ってきた千晴がざっくりと答えた。思えばこの二つが怪談の相場ともいえる内容なのに、今まで放置されてしまったのだ。これが七不思議解明がどんどん違う方向に進んだ原因とも思えてしまう。
「その問題のトイレって、この化学教室の横のトイレだよな?今まですすり泣きなんて聞いたことがないぞ」
 楓翔が面白くなさそうに言った。しかも目線はこの学校周辺の地形図に釘付けである。こちらも普段通りになってしまっていた。
「ううん。すすり泣きか。二つの可能性が考えられるよな」
 桜太としてはこのまま学校の傾斜を発見しただけで終わりたくない。しかもそこで終わっては新入生獲得へのアピールがなくなってしまう。だから必死に興味を引こうと言っていた。
「二つ?どういうものだ?」
 この部をまとめる努力を怠らないのは芳樹だ。ここでもちゃんと話を聴いてくれている。しかし手にはカエルが乗っていて、こちらもいつもどおりだった。
「一つは単純、本当に誰かが泣いていたのを聞かれた可能性です。しかしそれならば噂にならない。ということは二つ目、何かの空耳だった可能性です」
 桜太が立ち上がって発表すると、ようやく科学部の全員の注目が集まった。
「空耳ね。それならば周波数の問題として解決できるな」
 莉音が一気に結論を言ってしまう。ここですぐに周波数に結びつけてしまっては怪談も何もない。しかし、残念ながらここにいるのは不思議は科学で解明できると考えている奴らだ。科学的には考えられても怪談的には考えられない。よって、すすり泣きも怪談として盛り上がることなく検証されてしまう。
「問題はその音源がどこにあるかだな」
 七不思議の調査としてはどこか間違っているが、科学部としては正しい姿勢のまま亜塔が話を進めていく。
「この二階のトイレなんて普段利用しないよな。大体授業では実験をしなければ北館に用事はないし。科学部がたまに使うくらいだぞ」
 本当に空耳でもすすり泣きがあるのか疑問に思うのは迅だ。
「それに音が男子トイレからするのか女子トイレからするのかも不明だよな。しかも発生時間も解っていない」
 音源を探る前に解決すべき問題があったと、桜太は情報提供者の千晴を見た。
「どうやら男子トイレらしいよ。うちのクラスでもこの話を知っている人がいたけど、男子だったし。まあ、そいつらも変な音がするってだけですすり泣きとは言ってなかったわね」
 千晴もすぐに怪談を否定してしまう。理系クラスで話を聴くと、科学部と似たような結論に達して当然だった。
 もしもこの場に千晴へと話してくれた穂波がいたら卒倒しているだろう。穂波は真剣に学園の不思議を探していたというのに、その努力を科学部が真っ向から否定しようとしているのだ。
「取り敢えず行ってみるか。男子トイレでの検証に女子の岩波さんは嫌かもしれないが、誰かが入ってきて使用する心配はないし」
 結局は芳樹がまとめるといういつものパターンに落ち着く。それに千晴も一応は女子として心配されて安心した。このまま男子トイレに突撃されてはどうしようかと悩んでしまう。これで万が一誰かが用を足し始めたら容赦なく便器に張ったおしても大丈夫だ。
「よし、それでは諸君」
 桜太もいつもどおりいこうと号令を掛けようとしたが
「酷いよ。まだ俺が到着してないのに勝手に全部決めるなんて」
 それに待ったを掛けたのは林田だった。走ってきたのかもさもさの天然パーマがさらにもさもさとしている。
「いや、先生が今日も来るなんて聞いてませんし」
 そろそろ林田に慣れてきた桜太は突っ込んでいた。それに学校に来た理由は松崎であって科学部ではないはずだ。あの井戸調査の後に鉱石と化学式との関係を話し合って盛り上がっていたのは知っている。
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