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第10話 日常
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「そうだな。俺たちも、マクスウェルがあの城に住みだした頃は、どうなるかと不安だった。でも今は、税金が免除されていることもあって、王朝がこの辺りを治めていた頃より快適だ。皮肉なもんさ」
トムソンは苦笑を浮かべて、同じように町中に目を向ける。
いつもの光景。それは結局、誰かが守ってくれるからこそ成り立つ。そんな当たり前を、マクスウェルに教えられている。これほど皮肉なことがあるだろうか。神に背いた者の手で、日常があるだなんて。
「神父としては複雑ってか」
「それはそうさ。正道を説く者が堕天した者の力を借りなきゃいけないというのは複雑だね。とはいえ、ここが安全安心なのはマクスウェル様あってのこと。これは事実だ。ってなると、神に背いたっていうが、一体何にってのは俺も疑問になってくるよ。どう考えても優秀で真面目な男だ。そこらの領主の方が野蛮人に見えてくるほどにね。一体何をすれば吸血鬼になるのか。個人的にも興味がある」
「それで協力する気になったってわけか」
「ああ。知ってどうするわけでもないけどな。さっきも言ったけど、一般の神父にはどうしようもない。魔法なんてほぼ使えないんだから。ただ、一体何をすれば完璧な奴を闇に堕とすのか。それを知っておいて損はない。次は、止められる」
「――」
次は止められる。
それはマクスウェルは救えないと、トムソンは諦めている証拠だ。マクスウェルのような吸血鬼を出すことはしたくない。けれども、すでに堕ちてしまった者を救うことは出来ない。そう割り切っている。
それは神父ならば当然の考えだろう。実際、魔導師と違って神父は魔法や法力の基礎しか知らない。戦えるほどの力を持っているわけではない。しかも、神父も魔導師も正しく生きる者を救うための存在なのだ。
堕ちた者を救うなんて論外。だから、神父よりも上の地位にいるラグランスが、救いたいと思うのが間違いなのだと、それは理解している。でも、見捨ていいことにはならないだろう。
「ったく、真面目だな」
「なんだよ」
くくっとトムソンが笑うので、ラグランスは何が真面目なんだと睨む。まったく、常にこの男に笑われている気がするのだが、気のせいか。
「よう。神父さん、それと魔導師さん」
そんな騒がしい二人に、昨日は不良同然に絡んできた自警団の一人、ゼーマンが声を掛けてきた。彼は自警団の副団長で、団長のゴルドンから二人の行動に目を光らせておけと命令を受けていた。というわけで、町中にやって来た二人を見つけて、丁度いいと声を掛けたわけだ。
「やあ、ゼーマン。今日も平和だね」
そんな腹づもりがあるとは知らず、トムソンは気楽に返事を返す。しかし、昨日散々馬鹿にされたラグランスは、どう返事を返していいのか解らなかった。
「ったく、本当に魔導師らしくない人だな。えっと、名前は」
「ラグランスだよ。ラグって呼んでやってくれ」
「へえ。ラグね。俺はゼーマン。よろしく」
トムソンが勝手に紹介してしまい、ラグランスはまたむすっとしたまま、ゼーマンと握手を交わすことになった。
いやはや、表情を変えないなんて絶対に無理だろと、ラグランスは心の中で悪態を吐く。魔導師としてまだまだ未熟だとは思いたくない。
「町を案内中なんだよ。とはいえ、観光地じゃないから、見て回って終わりだけどね」
トムソンがここにいた理由をしっかり説明し、ゼーマンもなるほどねと納得。ラグランスは完全に放置されていた。
「いい町だろ?」
しかし、ゼーマンがそう質問を振ってきて、ラグランスは頷いた。やっと会話を許された気分だ。
「活気があっていいな。ここに来るまでにいくつか町を通ったが、ここまで活気のある町はなかった」
これは本当だ。魔導師であるラグランスが住むのは、この町よりもっと東側。王朝の中心地であり王も住まうセシウルという大都会だ。そこからずっと旅をしてきたわけで、地方都市のあれこれを目にした。
中にはここと違って最悪な状況の町や村もあった。それこそ、生き地獄としか言えないような場所もあった。それは地方領主の統治が悪い場所で、要するに、王朝からも冷遇されている場所だ。
だからここも、すでに生き地獄か廃墟か。どちらかになっているだろうと、中央では想像されていた。おかげで正反対の現状にびっくりしてしまったわけだ。
「ははっ。それだけマクスウェル様が素晴らしいってことだよな。いい町だろ?」
「うん。この町はいいね。神父は適当だし、シスターは怖いけど」
「それは言わないお約束じゃねえのか」
ばしばしとラグランスの肩を叩き、ゼーマンはにかっと笑う。町を褒められて嬉しいと、その顔が物語っていた。敵対していなければ気安い人らしい。
そして何故か、そのまま酒場に連れていかれることとなった。ゼーマンの行きつけという酒場は、非常に活気に満ちていて、そして騒がしかった。ゼーマンが入っていくとあちこちから声が掛り、一緒に飲もうと誘われる。
「今日はこいつらと飲むから」
「そうなのかい? 神父と酒なんて辛気くさいけどなあ」
そんな風にげらげらと笑う人々は、昼間だというのに完全に出来上がっている。なんとも騒がしい。
「親父。ビール三つと適当につまみ」
「あいよ」
窓際の席を確保して、ゼーマンがすぐに注文をしてしまった。おかげで酒場で強制飲み会が始まってしまう。
トムソンは苦笑を浮かべて、同じように町中に目を向ける。
いつもの光景。それは結局、誰かが守ってくれるからこそ成り立つ。そんな当たり前を、マクスウェルに教えられている。これほど皮肉なことがあるだろうか。神に背いた者の手で、日常があるだなんて。
「神父としては複雑ってか」
「それはそうさ。正道を説く者が堕天した者の力を借りなきゃいけないというのは複雑だね。とはいえ、ここが安全安心なのはマクスウェル様あってのこと。これは事実だ。ってなると、神に背いたっていうが、一体何にってのは俺も疑問になってくるよ。どう考えても優秀で真面目な男だ。そこらの領主の方が野蛮人に見えてくるほどにね。一体何をすれば吸血鬼になるのか。個人的にも興味がある」
「それで協力する気になったってわけか」
「ああ。知ってどうするわけでもないけどな。さっきも言ったけど、一般の神父にはどうしようもない。魔法なんてほぼ使えないんだから。ただ、一体何をすれば完璧な奴を闇に堕とすのか。それを知っておいて損はない。次は、止められる」
「――」
次は止められる。
それはマクスウェルは救えないと、トムソンは諦めている証拠だ。マクスウェルのような吸血鬼を出すことはしたくない。けれども、すでに堕ちてしまった者を救うことは出来ない。そう割り切っている。
それは神父ならば当然の考えだろう。実際、魔導師と違って神父は魔法や法力の基礎しか知らない。戦えるほどの力を持っているわけではない。しかも、神父も魔導師も正しく生きる者を救うための存在なのだ。
堕ちた者を救うなんて論外。だから、神父よりも上の地位にいるラグランスが、救いたいと思うのが間違いなのだと、それは理解している。でも、見捨ていいことにはならないだろう。
「ったく、真面目だな」
「なんだよ」
くくっとトムソンが笑うので、ラグランスは何が真面目なんだと睨む。まったく、常にこの男に笑われている気がするのだが、気のせいか。
「よう。神父さん、それと魔導師さん」
そんな騒がしい二人に、昨日は不良同然に絡んできた自警団の一人、ゼーマンが声を掛けてきた。彼は自警団の副団長で、団長のゴルドンから二人の行動に目を光らせておけと命令を受けていた。というわけで、町中にやって来た二人を見つけて、丁度いいと声を掛けたわけだ。
「やあ、ゼーマン。今日も平和だね」
そんな腹づもりがあるとは知らず、トムソンは気楽に返事を返す。しかし、昨日散々馬鹿にされたラグランスは、どう返事を返していいのか解らなかった。
「ったく、本当に魔導師らしくない人だな。えっと、名前は」
「ラグランスだよ。ラグって呼んでやってくれ」
「へえ。ラグね。俺はゼーマン。よろしく」
トムソンが勝手に紹介してしまい、ラグランスはまたむすっとしたまま、ゼーマンと握手を交わすことになった。
いやはや、表情を変えないなんて絶対に無理だろと、ラグランスは心の中で悪態を吐く。魔導師としてまだまだ未熟だとは思いたくない。
「町を案内中なんだよ。とはいえ、観光地じゃないから、見て回って終わりだけどね」
トムソンがここにいた理由をしっかり説明し、ゼーマンもなるほどねと納得。ラグランスは完全に放置されていた。
「いい町だろ?」
しかし、ゼーマンがそう質問を振ってきて、ラグランスは頷いた。やっと会話を許された気分だ。
「活気があっていいな。ここに来るまでにいくつか町を通ったが、ここまで活気のある町はなかった」
これは本当だ。魔導師であるラグランスが住むのは、この町よりもっと東側。王朝の中心地であり王も住まうセシウルという大都会だ。そこからずっと旅をしてきたわけで、地方都市のあれこれを目にした。
中にはここと違って最悪な状況の町や村もあった。それこそ、生き地獄としか言えないような場所もあった。それは地方領主の統治が悪い場所で、要するに、王朝からも冷遇されている場所だ。
だからここも、すでに生き地獄か廃墟か。どちらかになっているだろうと、中央では想像されていた。おかげで正反対の現状にびっくりしてしまったわけだ。
「ははっ。それだけマクスウェル様が素晴らしいってことだよな。いい町だろ?」
「うん。この町はいいね。神父は適当だし、シスターは怖いけど」
「それは言わないお約束じゃねえのか」
ばしばしとラグランスの肩を叩き、ゼーマンはにかっと笑う。町を褒められて嬉しいと、その顔が物語っていた。敵対していなければ気安い人らしい。
そして何故か、そのまま酒場に連れていかれることとなった。ゼーマンの行きつけという酒場は、非常に活気に満ちていて、そして騒がしかった。ゼーマンが入っていくとあちこちから声が掛り、一緒に飲もうと誘われる。
「今日はこいつらと飲むから」
「そうなのかい? 神父と酒なんて辛気くさいけどなあ」
そんな風にげらげらと笑う人々は、昼間だというのに完全に出来上がっている。なんとも騒がしい。
「親父。ビール三つと適当につまみ」
「あいよ」
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