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第30話 原罪
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「なるほど。君がどう思っているか、よく理解できた。そしてその理由が、俺がどんな罪を犯したか知らないからだということもね」
「ま、まあ」
淡々とマクスウェルが話を進めていくので、ラグランスは頷くことしかできない。もっと何か言わなければと思うのに、それが空回って言葉にならない。
「君は今や魔導師だ。君と慣れ合うつもりはないから教えてあげるよ」
「っつ」
慣れ合うつもりはない。その言葉にラグランスはどうしてとマクスウェルを見た。しかし、マクスウェルは優雅に微笑むのみ。
「驚かなくてもいいだろ? 魔導師と吸血鬼という対極の立場にいるんだ。戦うことは運命づけられている」
そして、眼光だけを鋭くして言い放った。どんなに特別な感情を抱いていても、それを受け取ることは出来ない。立場の違いははっきりしているし、何より、マクスウェルにはその想いに応える資格はない。
「っつ」
戦うつもりだと宣戦布告された。ラグランスはそれにぎゅっと拳を握り締める。
「戦わなくても」
「まあ、聞き給えよ。君は必ず、俺を殺したくなる」
マクスウェルはそう言い切ると、自らの罪を告白し始めたのだった。
マクスウェルの犯した罪。それはラグランスたちが想像したとおり、妹が関係していた。
「病弱な子でね。一度も外に出たことがないほどだった」
マクスウェルはそう言って語り始める。
マクスウェルが最初に魔導師を目指そうと思ったきっかけは、病弱な妹のフォルティアを救いたいからだった。魔導師となれば治癒魔法も使える。それを使って妹を、そして似たような病に苦しむ人たちを助けたいと思ったからだ。
だから、スタート地点では間違っていなかった。純粋な気持ちから魔導師を目指し、自ら志願して神学校に入った。
マクスウェルはそこそこ裕福な家の出身で、将来は貴族としての仕事も負わなければならなかった。それでも、魔導師と両立してみせる。そう両親を説得しての進学だった。
そんな理由があったからこそ、真面目な学生生活を送っていたのは、ある意味では当然だった。少しでも成績が落ちれば両親は魔導師を諦めろと説得してくる。そう見越しての努力だ。
しかし、どれだけマクスウェルが努力しようと、フォルティアを蝕む病は待ってくれない。時間は止まってくれない。マクスウェルは毎週のように届く手紙で妹の様子を知っていたからこそ、焦りはとてつもなく大きかった。
そして、神学校最終学年の春、フォルティアはマクスウェルが魔導師になるのを待たずに息を引き取った。
「俺は、どうすれば」
すでに魔導師試験へと進むことを伝えた後であり、引き返せない状況だった。神学校を卒業して魔導師試験を受けることは、枢機院の了承も出た後とあり避けられないものだった。
その頃から、マクスウェルはぼんやりと悩むことが多くなった。妹と同じような病に悩む人を救いたいという気持ちが消えたわけではない。しかし、大きな目標が消えてしまった。どうすればいいか、解らなかった。
そんな時、魔導師になれば多くの秘法を使えることに気づいた。その中には、禁忌とされる数々の秘法も含まれている。それに賭けるしかないと、真剣に考えるようになっていた。
「そうしないと、魔導師試験を受ける意味を見出せなくてね」
マクスウェルは言い訳するように付け加えたが、要するに、妹に勝るだけの目標がなかった。
「自分は随分と小さな人間だったのだと、その時になってはっきり気づいたね。そして、そんな矮小な自分が魔導師になっていいのか、悩みもした。しかし、周囲の期待もある。逃げることだけは許されなかった。だから、秘法を目標とすることも許されると言い訳することも出来た」
マクスウェルはそこで艶然と微笑んだ。そう、この瞬間に吸血鬼に堕ちるという命運も決まったようなものだと、今の自分ならば気づいている。そんな嘘を抱えたまま受けていい試験ではなかった。
「でも、通ったんだよな」
そこでラグランスが思わず突っ込んで訊ねてしまう。すると、夢から覚めたような顔でマクスウェルはラグランスを見、悲しげに笑った。
「そう。神は試すことにしたんだよ。俺がそのまま秘法を使うか、使わずに耐えることが出来るかをね」
「やっぱりか」
それは何となく想像していたことだ。やはり、神はあの潔斎期間で見抜いていた。その上でマクスウェルの行動を見張ることにした。ということは、その秘法を駆使したということか。
「いや、妹には使っていない」
「えっ?」
「君は本当にお人好しだな。神の方がもっとえげつないよ」
そこで初めてマクスウェルが暗い笑みを浮かべた。事はそんなに単純ではない。だからこそ、こうやって吸血鬼に堕とされるに至ったのだ。
「えげつない」
マクスウェルの気持ちを知っていて、それが駆使できる魔導師にさせたことだけでも、十分に試練ではないのか。それよりももっと複雑な何かがあったなんて、ラグランスには想像できない。
「俺の願いの一つとして、似たような子を救いたいというものもあった。しかし、それは本当に願っていることなのか。妹への思いとは何なのか。それを試してきたんだ」
くくっと喉を鳴らして笑うと、マクスウェルは告解の続きを語り始めた。
すでにフォルティアはいない。葬儀も済まされ、すでに元の姿が解らないほどに腐敗しているだろう。そんな状態で復活の秘法を施したところで、どれだけ元に戻るのか解らない。そもそも、魂を呼び戻せるのか。それさえも定かではない。
「ま、まあ」
淡々とマクスウェルが話を進めていくので、ラグランスは頷くことしかできない。もっと何か言わなければと思うのに、それが空回って言葉にならない。
「君は今や魔導師だ。君と慣れ合うつもりはないから教えてあげるよ」
「っつ」
慣れ合うつもりはない。その言葉にラグランスはどうしてとマクスウェルを見た。しかし、マクスウェルは優雅に微笑むのみ。
「驚かなくてもいいだろ? 魔導師と吸血鬼という対極の立場にいるんだ。戦うことは運命づけられている」
そして、眼光だけを鋭くして言い放った。どんなに特別な感情を抱いていても、それを受け取ることは出来ない。立場の違いははっきりしているし、何より、マクスウェルにはその想いに応える資格はない。
「っつ」
戦うつもりだと宣戦布告された。ラグランスはそれにぎゅっと拳を握り締める。
「戦わなくても」
「まあ、聞き給えよ。君は必ず、俺を殺したくなる」
マクスウェルはそう言い切ると、自らの罪を告白し始めたのだった。
マクスウェルの犯した罪。それはラグランスたちが想像したとおり、妹が関係していた。
「病弱な子でね。一度も外に出たことがないほどだった」
マクスウェルはそう言って語り始める。
マクスウェルが最初に魔導師を目指そうと思ったきっかけは、病弱な妹のフォルティアを救いたいからだった。魔導師となれば治癒魔法も使える。それを使って妹を、そして似たような病に苦しむ人たちを助けたいと思ったからだ。
だから、スタート地点では間違っていなかった。純粋な気持ちから魔導師を目指し、自ら志願して神学校に入った。
マクスウェルはそこそこ裕福な家の出身で、将来は貴族としての仕事も負わなければならなかった。それでも、魔導師と両立してみせる。そう両親を説得しての進学だった。
そんな理由があったからこそ、真面目な学生生活を送っていたのは、ある意味では当然だった。少しでも成績が落ちれば両親は魔導師を諦めろと説得してくる。そう見越しての努力だ。
しかし、どれだけマクスウェルが努力しようと、フォルティアを蝕む病は待ってくれない。時間は止まってくれない。マクスウェルは毎週のように届く手紙で妹の様子を知っていたからこそ、焦りはとてつもなく大きかった。
そして、神学校最終学年の春、フォルティアはマクスウェルが魔導師になるのを待たずに息を引き取った。
「俺は、どうすれば」
すでに魔導師試験へと進むことを伝えた後であり、引き返せない状況だった。神学校を卒業して魔導師試験を受けることは、枢機院の了承も出た後とあり避けられないものだった。
その頃から、マクスウェルはぼんやりと悩むことが多くなった。妹と同じような病に悩む人を救いたいという気持ちが消えたわけではない。しかし、大きな目標が消えてしまった。どうすればいいか、解らなかった。
そんな時、魔導師になれば多くの秘法を使えることに気づいた。その中には、禁忌とされる数々の秘法も含まれている。それに賭けるしかないと、真剣に考えるようになっていた。
「そうしないと、魔導師試験を受ける意味を見出せなくてね」
マクスウェルは言い訳するように付け加えたが、要するに、妹に勝るだけの目標がなかった。
「自分は随分と小さな人間だったのだと、その時になってはっきり気づいたね。そして、そんな矮小な自分が魔導師になっていいのか、悩みもした。しかし、周囲の期待もある。逃げることだけは許されなかった。だから、秘法を目標とすることも許されると言い訳することも出来た」
マクスウェルはそこで艶然と微笑んだ。そう、この瞬間に吸血鬼に堕ちるという命運も決まったようなものだと、今の自分ならば気づいている。そんな嘘を抱えたまま受けていい試験ではなかった。
「でも、通ったんだよな」
そこでラグランスが思わず突っ込んで訊ねてしまう。すると、夢から覚めたような顔でマクスウェルはラグランスを見、悲しげに笑った。
「そう。神は試すことにしたんだよ。俺がそのまま秘法を使うか、使わずに耐えることが出来るかをね」
「やっぱりか」
それは何となく想像していたことだ。やはり、神はあの潔斎期間で見抜いていた。その上でマクスウェルの行動を見張ることにした。ということは、その秘法を駆使したということか。
「いや、妹には使っていない」
「えっ?」
「君は本当にお人好しだな。神の方がもっとえげつないよ」
そこで初めてマクスウェルが暗い笑みを浮かべた。事はそんなに単純ではない。だからこそ、こうやって吸血鬼に堕とされるに至ったのだ。
「えげつない」
マクスウェルの気持ちを知っていて、それが駆使できる魔導師にさせたことだけでも、十分に試練ではないのか。それよりももっと複雑な何かがあったなんて、ラグランスには想像できない。
「俺の願いの一つとして、似たような子を救いたいというものもあった。しかし、それは本当に願っていることなのか。妹への思いとは何なのか。それを試してきたんだ」
くくっと喉を鳴らして笑うと、マクスウェルは告解の続きを語り始めた。
すでにフォルティアはいない。葬儀も済まされ、すでに元の姿が解らないほどに腐敗しているだろう。そんな状態で復活の秘法を施したところで、どれだけ元に戻るのか解らない。そもそも、魂を呼び戻せるのか。それさえも定かではない。
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