32 / 47
第32話 戦え!
しおりを挟む
「俺は食ってしまった少女を抱え、この地まで逃れてきた。せめて墓を建てようと、残骸になり果てた少女のために、立派なものを建てたよ。この城のすぐ傍にね。そして俺は吸血鬼として生きていく覚悟を決めた」
マクスウェルはそこですっと目を細める。お前とはもう別の生き物なのだと、その冷たい目が主張している。
「マクスウェル」
「君は知らないだろう。あの少女、シャーロットが外に出られたのは、あの日を含めてたった三日だ。元気に走り回れた、普通の生活を送れたのはたった三日。家の中で過ごした時間を含めても二週間しかない。その間、あの子は俺に感謝しただろうし、周囲もしただろう。そんな彼女を、俺はどん底に突き落とし、さらには食べてしまったんだぞ。この苦しみが、お前に解るか?」
初めて向けられた明確な敵意は、とても痛々しいほどの悲しみを含んでいた。おかげで、ラグランスはどう言葉を掛けていいのかも解らない。しかし、マクスウェルはそんな敵意を一度引っ込めた。
「君は俺を倒すために魔導師になったんだろ? もし、君が俺を救おうと動けば、君は吸血鬼の仲間入りだ」
「っつ」
一つの目的のために魔導師になることは危険だ。それを吸血鬼へと堕とされたマクスウェルは身をもって知っている。そしてなぜ、ラグランスが魔導師になれたのかも解っている。
不可解なことがあるとすれば、それは三回も試験を受ける羽目になったというところだが、少なくとも、神はマクスウェルを倒す魔導師としてラグランスを選んだ。これは間違いない。だからこそ、共闘しようとすればラグランスもまた吸血鬼になるはずだ。神からの使命に背いた。これほどの重罪はない。
「そんな。じゃあ、神の教えに背くって」
何なんだ。ラグランスは解らなくなる。しかし、今まで不思議だったことの答えでもある。単純に神学校で教えられる戒律を破っただけでは堕ちない。ならば、他に条件があるはずだ。その一つが魔導師であり、魔導師試験で神から課された何かということになる。
「そういうことだな。俺の場合は無辜の民を救うという意思は本物なのか、という点だ。そしてそのためには、切り捨てる必要性も示せるかどうかということ。顔色を窺って行動する者は魔導師には相応しくない。そういうことだった」
「で、でも」
マクスウェルは病める少女を、そしてその家族に希望を与えた。それなのに、神は違反したと見なした。これが解らない。
「自然の摂理に逆らうことは、そもそも大逆だろう」
「それは」
そうだ。すでにその少女が死んでいた、寿命が尽きていたのだとすれば、それを引き戻すのは自然の摂理に反している。しかし、究極の選択であるのは間違いない。
「魔導師って、何なんだよ」
自ら羽織るマントがこれほど重い物だと思ったのは初めてだった。賢者として、周囲の期待がある。だから常に魔導師であることを意識するためにマントはある。その煩わしさくらいに思っていた象徴が、実はとんでもない枷だと知ってしまった。
「魔導師とは一人で枢機院の全権を担っているようなものさ。だから、その判断は絶対であり、間違ってはならない」
「っつ」
マクスウェルの言葉に、ラグランスははっと顔を上げる。そこには、とても冷たい視線があった。
「優しさだけでは出来ない。それは、俺も痛感したことだ。これは君の試練でもある。俺を殺す。その覚悟を決めろ。俺は、お前を食い殺す。絶対に負けない。たとえこの身が血を啜る、人々を殺戮する吸血鬼そのものになろうともね」
「――」
突然の宣戦布告。そして、徹底的な断絶。ラグランスは何も出来ない自分に呆然とするしかなかった。
しかし、長い時間呆然としていることは許されなかった。
「っつ」
反射的に避けた場所に、マクスウェルの放った氷が突き刺さる。これは魔導師としての基本魔法の応用だ。
「マクスウェルっ」
「まさか本当に話し合いだけで終わると思ったのか?」
次の魔法を打つべく片手を振り上げるマクスウェルは、暗い笑みを浮かべてラグランスを見据えた。そして、運命はすでに決まっているのだと攻撃を加える。
「ちっ」
反射神経だけは人一倍あるラグランスは、その攻撃も何とか避けた。しかし、このまま防戦一方では追い詰められる。ともかく、この場を脱出するより他はない。そもそもライブラリーという限られた空間では、避ける空間も少ない。
「俺はっ」
どうしたいんだ。まだまだ中途半端な自分の気持ちにラグランスは悔しくなる。でも、今はこの場を離脱するしかなかった。ラグランスは光魔法で部屋中を一時的に光で満たした。
「くっ」
さすがのマクスウェルもこの状況では動けない。その隙にラグランスは部屋を抜け出した。そしてそのまま玄関へと走ろうとしたが
「俺には今、瞬間移動の能力があるんだぜ」
耳元でマクスウェルが笑う声がする。そして横へと弾き飛ばされた。ラグランスは豪快に玄関へと続く大広間に倒れる。その衝撃に呻いていると、思い切り肩を踏まれた。
「くっ」
「逃げるなよ。魔導師だろ?」
ラグランスを踏みつけるマクスウェルは、冷たい目で見下ろしてくる。しかも、その目は金色へと変化していた。
「マクスウェル」
「吸血鬼としての力を使うとね、変化するんだよ」
驚いた顔をするラグランスに、マクスウェルは自嘲の笑みを浮かべて教えてやった。集会所でゴルドンたちに会う場合は、目の色が戻ってから表のランプを点している。
「さあ、解っただろ? 戦え!」
マクスウェルは踏んづけていたラグランスのマントを掴むと、反対側へと放り投げた。その力は人間でも魔導師でも考えられないほどに強い。
マクスウェルはそこですっと目を細める。お前とはもう別の生き物なのだと、その冷たい目が主張している。
「マクスウェル」
「君は知らないだろう。あの少女、シャーロットが外に出られたのは、あの日を含めてたった三日だ。元気に走り回れた、普通の生活を送れたのはたった三日。家の中で過ごした時間を含めても二週間しかない。その間、あの子は俺に感謝しただろうし、周囲もしただろう。そんな彼女を、俺はどん底に突き落とし、さらには食べてしまったんだぞ。この苦しみが、お前に解るか?」
初めて向けられた明確な敵意は、とても痛々しいほどの悲しみを含んでいた。おかげで、ラグランスはどう言葉を掛けていいのかも解らない。しかし、マクスウェルはそんな敵意を一度引っ込めた。
「君は俺を倒すために魔導師になったんだろ? もし、君が俺を救おうと動けば、君は吸血鬼の仲間入りだ」
「っつ」
一つの目的のために魔導師になることは危険だ。それを吸血鬼へと堕とされたマクスウェルは身をもって知っている。そしてなぜ、ラグランスが魔導師になれたのかも解っている。
不可解なことがあるとすれば、それは三回も試験を受ける羽目になったというところだが、少なくとも、神はマクスウェルを倒す魔導師としてラグランスを選んだ。これは間違いない。だからこそ、共闘しようとすればラグランスもまた吸血鬼になるはずだ。神からの使命に背いた。これほどの重罪はない。
「そんな。じゃあ、神の教えに背くって」
何なんだ。ラグランスは解らなくなる。しかし、今まで不思議だったことの答えでもある。単純に神学校で教えられる戒律を破っただけでは堕ちない。ならば、他に条件があるはずだ。その一つが魔導師であり、魔導師試験で神から課された何かということになる。
「そういうことだな。俺の場合は無辜の民を救うという意思は本物なのか、という点だ。そしてそのためには、切り捨てる必要性も示せるかどうかということ。顔色を窺って行動する者は魔導師には相応しくない。そういうことだった」
「で、でも」
マクスウェルは病める少女を、そしてその家族に希望を与えた。それなのに、神は違反したと見なした。これが解らない。
「自然の摂理に逆らうことは、そもそも大逆だろう」
「それは」
そうだ。すでにその少女が死んでいた、寿命が尽きていたのだとすれば、それを引き戻すのは自然の摂理に反している。しかし、究極の選択であるのは間違いない。
「魔導師って、何なんだよ」
自ら羽織るマントがこれほど重い物だと思ったのは初めてだった。賢者として、周囲の期待がある。だから常に魔導師であることを意識するためにマントはある。その煩わしさくらいに思っていた象徴が、実はとんでもない枷だと知ってしまった。
「魔導師とは一人で枢機院の全権を担っているようなものさ。だから、その判断は絶対であり、間違ってはならない」
「っつ」
マクスウェルの言葉に、ラグランスははっと顔を上げる。そこには、とても冷たい視線があった。
「優しさだけでは出来ない。それは、俺も痛感したことだ。これは君の試練でもある。俺を殺す。その覚悟を決めろ。俺は、お前を食い殺す。絶対に負けない。たとえこの身が血を啜る、人々を殺戮する吸血鬼そのものになろうともね」
「――」
突然の宣戦布告。そして、徹底的な断絶。ラグランスは何も出来ない自分に呆然とするしかなかった。
しかし、長い時間呆然としていることは許されなかった。
「っつ」
反射的に避けた場所に、マクスウェルの放った氷が突き刺さる。これは魔導師としての基本魔法の応用だ。
「マクスウェルっ」
「まさか本当に話し合いだけで終わると思ったのか?」
次の魔法を打つべく片手を振り上げるマクスウェルは、暗い笑みを浮かべてラグランスを見据えた。そして、運命はすでに決まっているのだと攻撃を加える。
「ちっ」
反射神経だけは人一倍あるラグランスは、その攻撃も何とか避けた。しかし、このまま防戦一方では追い詰められる。ともかく、この場を脱出するより他はない。そもそもライブラリーという限られた空間では、避ける空間も少ない。
「俺はっ」
どうしたいんだ。まだまだ中途半端な自分の気持ちにラグランスは悔しくなる。でも、今はこの場を離脱するしかなかった。ラグランスは光魔法で部屋中を一時的に光で満たした。
「くっ」
さすがのマクスウェルもこの状況では動けない。その隙にラグランスは部屋を抜け出した。そしてそのまま玄関へと走ろうとしたが
「俺には今、瞬間移動の能力があるんだぜ」
耳元でマクスウェルが笑う声がする。そして横へと弾き飛ばされた。ラグランスは豪快に玄関へと続く大広間に倒れる。その衝撃に呻いていると、思い切り肩を踏まれた。
「くっ」
「逃げるなよ。魔導師だろ?」
ラグランスを踏みつけるマクスウェルは、冷たい目で見下ろしてくる。しかも、その目は金色へと変化していた。
「マクスウェル」
「吸血鬼としての力を使うとね、変化するんだよ」
驚いた顔をするラグランスに、マクスウェルは自嘲の笑みを浮かべて教えてやった。集会所でゴルドンたちに会う場合は、目の色が戻ってから表のランプを点している。
「さあ、解っただろ? 戦え!」
マクスウェルは踏んづけていたラグランスのマントを掴むと、反対側へと放り投げた。その力は人間でも魔導師でも考えられないほどに強い。
0
あなたにおすすめの小説
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる