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第42話 悪魔は人間らしいんだよ

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 一騒動あったせいか、奏汰も魔界で暮らす覚悟というものが出来てしまった。
「でも、外国に住むのとはわけが違うからなあ」
 二階のベランダから町を見下ろし、奏汰は溜め息を吐いてしまう。あそこは一人では出歩けない場所だということを、身を以て体験してしまった。おかげで怖い。自由に出歩けない。
「なんだ、奏汰。外なんて見て楽しいか?」
 そこに、珍しく社長としての仕事で外していたルシファーが戻って来た。しかし、手には書類がある。
「まだ忙しいんだ」
「ああ。この間のメタンフェタミン騒動で、ちょっとごたごたがあってな。まあ、俺様のせいだから、ちゃんとやるさ。ついでに堕落したい悪魔たちを一箇所にまとめちゃえって、これはサタン王と話しているところ」
 ルシファーはにやっと人の悪い笑みを浮かべる。
 一体何を企んでやがるんだ?
「あんな大量のメタンフェタミンをばらまきゃ、そりゃあ問題も起こるよね」
 しかし、助けるためだったとはいえ、町中に麻薬をばらまいちゃった事実に奏汰は色々と心配になる。
 ひょっとしてあそこ、もっと治安が悪くなっているのか。
「問題を起こしている奴は元々問題を抱えていた奴だから、奏汰が心配することじゃない。それにメタンフェタミンは依存性の低い覚醒剤と言われているんだぞ。俺様の魔法で生み出されたものを吸っておかしくなる奴は、すでに問題があったの」
 ルシファーは多くは夢を見た気分で終わっていると、現代化学の知識を織り交ぜて言ってくれる。
 まあ、それは事実なんだけれども、覚醒剤であることは間違いないし、何よりそういう薬物で得られる快感って、やっぱり薬物でしか手に入らないんだよねえと、奏汰は化学者の卵として心配しちゃう。
 特に悪魔だよ。もともと我慢できない人たちじゃないのか。
「確かに悪魔は欲望に忠実だ。でも、ちゃんとホストをやったりレストランで働いたりできるんだぞ。お前、ルキアを見ていて、欲望に忠実に生きているねってすぐに思うか?」
 珍しくルシファーが正面から議論を吹っかけてくるので、奏汰は面白いなあと思いつつ
「ううん」
 と否定しておいた。するとそうだろうとルシファーは大きく頷く。
「まあ、サタン王やベルゼビュートの改革の賜物でもあるけれども、今や悪魔だからといって好き勝手にやる奴なんて少ないんだよ。元を辿れば平和に楽しく生きたい連中だしね。そういう当たり前を堕落だという神とか天使がおかしいだけだったんだ」
 ふんっと、そこは元天使長らしい言い分になるルシファーだ。
「ややこしいんだね。そういう天使と悪魔って」
「おうよ。悪魔は人間らしさから生まれているんだが、天使は理想から生まれているからね」
 って、そういう話をしている場合じゃなかったと、ルシファーは奏汰の横にやって来る。
「どうした?」
「奏汰。ゲームについて教えてくれ」
「はい?」
 欲望に忠実で人間らしい悪魔は次に何を企んでいるんだ。
 奏汰はやっぱり理解出来ねえと思ってしまった。
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