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第三章 森の薬師編
57 心と縁
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事もなげに言うニイナに、アリアは無言になり、マナは涙が零れそうになった。クリエイターは薬師最高の称号で、この国にたった二人しかいない。ニイナはその称号を捨ててでもマナを護ろうとしている。マナはその心意気に感激し、そして勇気付けられた。
「ごめんなさい! わたしのせいです!」
「止めろ! 言うな!」
マナが頭を下げ、ニイナの強い制止を振り切って更に言った。
「それ、わたしが作った傷薬です、全部わたしが悪いんです!」
「これはわたしの監督不行き届きだ、マナに責任はない。頼むからマナに罰を与えないでくれ」
ニイナの態度は落ち着いてはいたが、アリアを見る目が普通ではなかった。もしマナに何かしたら許さんという憤怒が燃え上がっていた。
今まで判決を下す裁判官のような威厳のあったアリアは、ふっと微笑を浮かべて言った。
「話は分かりました。この件は、わたしが預かります。二、三日中には結果をお知らせしますから、その間は大人しくしているように」
それで話が終わって、マナ達は行きとは違う普通の馬車で送り返された。帰り道の馬車の中で、マナはニイナを追い詰めた自分が許せなくなって声を上げた。
「あーっ! もうぅーっ!」
マナが両手の拳で何度も自分の頭を小突いてメラメラを驚かせた。
「自分を卑下するのは止めろ!」
ニイナがマナの両手を掴んで小突くのを止めさせる。
「こういう事は二度とするな!」
「ごめんなさい……わたしって本当に馬鹿で……」
「そんなことはないさ、もう気にするな」
マナはどうしようもなくやるせなく、自分の駄目さ加減に辟易する。前にいた世界の事も含めれば、こんな事は一度や二度ではなかったのだ。でも、ニイナが頭をなでてくれて少し話が出来るくらいに落ち着けた。
「ニイナさんって、クリエイターだったんですね」
「まあな」
「クリエイターって、なるのすごーく大変なんですよね」
「確かに簡単ではない。クリエイターは栄誉騎士と似たところもあってな、薬師としての技量以外に何らかの功績が必要になるんだ。わたしは神薬革命でちょっとばかりはりきったからな」
明るく言うニイナが、マナには本当の母親のように見えた。ニイナはそう思えるだけの事をしてくれた。
言葉が切れると、車内に馬蹄と車輪が進む音響がはずむ。
「どうしてそんなすごい称号を捨ててまで、わたしの事を……」
マナは思っている事を中々言葉に出来ない。しかし、聞かなくてもニイナには全部分かる。
「この世界に来たばかりのお前を樹に例えると、地に根を張ったばかりの若木だ。そんなのが強風にあおられたら簡単にぽっきり逝っちゃうだろ。わたしは生まれた時からこの世界にいて、修羅場も潜り抜けてる。樹に例えれば樹齢百年を超える大木だ。クリエイターの称号を取られたところで、何とでも生きていける」
そしてニイナはマナとメラメラに微笑して言った。
「お前という樹が地面にしっかり根を張るまでは、何があっても護ってやる。だから安心しろ」
マナの気持ちは正しかった。ニイナという人は、心のつながりも、強さも、愛情も、母親と同等かそれ以上だ。ニイナとマナは出会って間もないが、人と人との縁に時間は関係ない。マナはそれを強く自覚した。
「メラメラも、マナのこと護る!」
メラメラも負けじと小さな体に力を込めて言うと、笑顔になったマナの目じりから嬉し涙が零れた。
「ありがとう」
家に帰るなりニイナは言った。
「こういう日は、ぱーっとご馳走でも食べるに限る。マナ、町に出るぞ」
「えっと、大人しくしてるようにって、アリアさんが言ってたような……」
「謹慎処分とは言われてないだろ。問題ない、行くぞ!」
「ご馳走! ご馳走! わぁい!」
メラメラもその気になって、マナは少し心配しつつも、この世界で外食するのは初めてでうきうきした。
ニイナが連れていったのは、レストランに居酒屋を足したような店で、かなり広い店内に外にも席があった。洒落た感じのお店にはお客さんがいっぱいで繁盛していた。
「ここは、わたしの行きつけの店だ。酒の種類も豊富だし、料理も庶民の味から宮廷料理までピンキリだ」
「わあ、すごく楽しみです!」
「ご馳走! お肉! ケーキ!」
マナの頭の上にいるメラメラが客たちの注目を集める。恥ずかしがり屋のマナでも、いつもそんな調子なので流石に慣れてきていた。
ニイナは席に着くなり店の中で上等の料理をどんどん頼んで、酒はそれなりのものを飲んだ。マナはメラメラを膝の上に乗せて、二人で分け合いながら料理を食べていた。料理はどれもうまかった。メラメラがいるので、頼みすぎて困る事もない。
亡くなった母と二人でとったささやかな食事もマナにとっては思い出深いが、今のように食事をこんなに楽しいと思った事はなかった。
「仕事の後の酒は美味いが、怒られた後の酒も悪くない」
ニイナのそんな冗談にマナの笑みが零れる。ニイナは先ほどの出来事など、全く気にも止めていなかった。だから、マナも気兼ねなく聞くことが出来た。
「アリアさんって、やっぱり偉い人ですよね?」
「めちゃくちゃ偉いぞ。アリア先生もクリエイターだが、わたしと違って真面目に働いているからな。薬王局の局長に薬学院の院長を兼任し、公爵と同等の権限をもっている。薬師は誰もあの人には逆らえないんだ。シェルリの母さんだけあって、いい人だけどな」
マナは、そんな人に悩みを聞いてもらったりしていたと思うと、今さらながらに恐縮する。
それからも楽しい食事は続き、マナはこんな生活がずっと続いたらいいなと思った。
「ごめんなさい! わたしのせいです!」
「止めろ! 言うな!」
マナが頭を下げ、ニイナの強い制止を振り切って更に言った。
「それ、わたしが作った傷薬です、全部わたしが悪いんです!」
「これはわたしの監督不行き届きだ、マナに責任はない。頼むからマナに罰を与えないでくれ」
ニイナの態度は落ち着いてはいたが、アリアを見る目が普通ではなかった。もしマナに何かしたら許さんという憤怒が燃え上がっていた。
今まで判決を下す裁判官のような威厳のあったアリアは、ふっと微笑を浮かべて言った。
「話は分かりました。この件は、わたしが預かります。二、三日中には結果をお知らせしますから、その間は大人しくしているように」
それで話が終わって、マナ達は行きとは違う普通の馬車で送り返された。帰り道の馬車の中で、マナはニイナを追い詰めた自分が許せなくなって声を上げた。
「あーっ! もうぅーっ!」
マナが両手の拳で何度も自分の頭を小突いてメラメラを驚かせた。
「自分を卑下するのは止めろ!」
ニイナがマナの両手を掴んで小突くのを止めさせる。
「こういう事は二度とするな!」
「ごめんなさい……わたしって本当に馬鹿で……」
「そんなことはないさ、もう気にするな」
マナはどうしようもなくやるせなく、自分の駄目さ加減に辟易する。前にいた世界の事も含めれば、こんな事は一度や二度ではなかったのだ。でも、ニイナが頭をなでてくれて少し話が出来るくらいに落ち着けた。
「ニイナさんって、クリエイターだったんですね」
「まあな」
「クリエイターって、なるのすごーく大変なんですよね」
「確かに簡単ではない。クリエイターは栄誉騎士と似たところもあってな、薬師としての技量以外に何らかの功績が必要になるんだ。わたしは神薬革命でちょっとばかりはりきったからな」
明るく言うニイナが、マナには本当の母親のように見えた。ニイナはそう思えるだけの事をしてくれた。
言葉が切れると、車内に馬蹄と車輪が進む音響がはずむ。
「どうしてそんなすごい称号を捨ててまで、わたしの事を……」
マナは思っている事を中々言葉に出来ない。しかし、聞かなくてもニイナには全部分かる。
「この世界に来たばかりのお前を樹に例えると、地に根を張ったばかりの若木だ。そんなのが強風にあおられたら簡単にぽっきり逝っちゃうだろ。わたしは生まれた時からこの世界にいて、修羅場も潜り抜けてる。樹に例えれば樹齢百年を超える大木だ。クリエイターの称号を取られたところで、何とでも生きていける」
そしてニイナはマナとメラメラに微笑して言った。
「お前という樹が地面にしっかり根を張るまでは、何があっても護ってやる。だから安心しろ」
マナの気持ちは正しかった。ニイナという人は、心のつながりも、強さも、愛情も、母親と同等かそれ以上だ。ニイナとマナは出会って間もないが、人と人との縁に時間は関係ない。マナはそれを強く自覚した。
「メラメラも、マナのこと護る!」
メラメラも負けじと小さな体に力を込めて言うと、笑顔になったマナの目じりから嬉し涙が零れた。
「ありがとう」
家に帰るなりニイナは言った。
「こういう日は、ぱーっとご馳走でも食べるに限る。マナ、町に出るぞ」
「えっと、大人しくしてるようにって、アリアさんが言ってたような……」
「謹慎処分とは言われてないだろ。問題ない、行くぞ!」
「ご馳走! ご馳走! わぁい!」
メラメラもその気になって、マナは少し心配しつつも、この世界で外食するのは初めてでうきうきした。
ニイナが連れていったのは、レストランに居酒屋を足したような店で、かなり広い店内に外にも席があった。洒落た感じのお店にはお客さんがいっぱいで繁盛していた。
「ここは、わたしの行きつけの店だ。酒の種類も豊富だし、料理も庶民の味から宮廷料理までピンキリだ」
「わあ、すごく楽しみです!」
「ご馳走! お肉! ケーキ!」
マナの頭の上にいるメラメラが客たちの注目を集める。恥ずかしがり屋のマナでも、いつもそんな調子なので流石に慣れてきていた。
ニイナは席に着くなり店の中で上等の料理をどんどん頼んで、酒はそれなりのものを飲んだ。マナはメラメラを膝の上に乗せて、二人で分け合いながら料理を食べていた。料理はどれもうまかった。メラメラがいるので、頼みすぎて困る事もない。
亡くなった母と二人でとったささやかな食事もマナにとっては思い出深いが、今のように食事をこんなに楽しいと思った事はなかった。
「仕事の後の酒は美味いが、怒られた後の酒も悪くない」
ニイナのそんな冗談にマナの笑みが零れる。ニイナは先ほどの出来事など、全く気にも止めていなかった。だから、マナも気兼ねなく聞くことが出来た。
「アリアさんって、やっぱり偉い人ですよね?」
「めちゃくちゃ偉いぞ。アリア先生もクリエイターだが、わたしと違って真面目に働いているからな。薬王局の局長に薬学院の院長を兼任し、公爵と同等の権限をもっている。薬師は誰もあの人には逆らえないんだ。シェルリの母さんだけあって、いい人だけどな」
マナは、そんな人に悩みを聞いてもらったりしていたと思うと、今さらながらに恐縮する。
それからも楽しい食事は続き、マナはこんな生活がずっと続いたらいいなと思った。
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