4 / 97
第2話:源氏の少女
Act-01 動き始める運命
しおりを挟む「この大馬鹿もんが!」
ロクハラからの逃走劇の末、居住地であるクラマに戻ったウシワカ。それを出迎えたのは、祖父鎌田マサキヨの激しい怒声であった。
「夜中に、どこかに抜け出したかと思っとったら、平氏のロクハラベースに盗みに入っとっただと⁉︎ サブロー、またお前がウシワカをそそのかしたのか⁉︎」
マサキヨの仕事場である広い整備場に、その大声が響き渡る。髪は薄く白髪の老人だが、マサキヨの筋骨隆々たる体躯は、いたずらが過ぎた子供たちを叱りつけるのには、十分な威厳があった。
「違うよ、じっちゃん! 平氏のせいで、みんな貧しい暮らしをしてるから、ロクハラから金目のものを盗んで売ろうって……私が言ったんだよ!」
「そうだよ。アタシたちは義賊だよー」
友をかばうべく祖父に言い返すウシワカと、その隣でふくれっ面になるサブローだったが、
「なにが義賊だ! それでも盗っ人には変わらんだろ! しかもカイソン、お前まで二人についていくとは、どういう事だ⁉︎」
マサキヨは子供の言い分を切って捨てると、今度は少し離れて小さくなっているカイソンに矛先を向けた。
「ご、ごめんなさい親方。ろ、ロクハラに行けば、平氏の武器や……き、機甲武者が見られると思って……」
師匠に詰問されて、恐る恐る同行の目的を白状するカイソンだったが、
「――そうだ、じっちゃん! 私、機甲武者に乗ったよ」
突然、会話に割り込んできたウシワカの言葉に、
「な、なんだと! 機甲武者にだと……!」
マサキヨは思わず絶句した。
機甲武者――そのキーワードに、祖父、孫娘の双方が、過敏に反応すると、
「ほ、本当なのか、カイソン?」
マサキヨはさらに厳しい顔付きになって、カイソンに事の真偽を確認する。
「は、はい。乗った事は乗ったんですが……ガシアルを歩かせようとして、転んでしまって……」
「――――!」
不完全ながらも、孫娘のウシワカが本当に機甲武者を動かしたという事実に、マサキヨの険しい顔に動揺の色が加わった。
「それと、じっちゃん。私の母さんって……トキワっていう名前だったの?」
「だ、誰からそれを聞いた⁉︎」
そして、さらなる予想もしなかった問いに、思わず孫娘に詰め寄り、その肩をつかむマサキヨだったが、
「ベンケイ……ツクモ神だって言ってた。そいつが、自分は母さんの友達だって」
と、ウシワカは動じる事なく、平然とそう言ってのけた。
「ツクモ神だと……」
「なんか、飛んだり機関砲をはね返したり、すごい奴だった。逃げる時も、そのツクモ神に助けてもらったんだ」
そこまで聞くと、「そうか……」と言ったきり、マサキヨは押し黙る。
「ねえ、じっちゃん」
「うるさい、もうその話は口に出すな! それとサブロー、もう二度とウシワカに盗っ人の真似事なんぞさせるなよ!」
追求から逃れるため、マサキヨはまた怒声を上げると、生業としているメカニックの仕事に向かうべく、弟子のカイソンを引き連れて整備場の奥へと進む。
その背中をサブローはアッカンベーで見送るが、ウシワカは少し考えてから、その後を追いかけると――祖父の傍らにつきまとう、という実力行使に出た。
「ねえ、じっちゃん。じっちゃんってばー」
「うるさい、何も話す事なんぞない!」
執拗に食い下がるウシワカを振り切るべく、右に左に歩き回るマサキヨと、あわあわと師匠に付いていくカイソン。
その追いかけっこは、ついには整備場の奥にある格納庫にまで及び――祖父は孫娘から逃れるべく、無意識にその扉を開けてしまった。
「あっ!」
しまったと思ったマサキヨであったが、もう遅かった。
薄い光だけが差し込むその格納庫の秘密を、中に進んだウシワカは目の当たりにしてしまったのである。
「き、機甲武者……」
思わずウシワカが呟いた様に、そこにあったのは――まるで隠れる様に小さくうずくまった――白いカラーの、機甲武者ガシアルであった。
「こ、ここには入るなと言ってあるだろう! 出ていけ! 早く出ていけ!」
自分で扉を開けておきながらマサキヨは、激しい狼狽を隠せずわめき散らし、格納庫からウシワカと、ついでにカイソンも一緒に叩き出すと、慌ててその扉を閉めた上に、大型のチェーンで封印までしてしまった。
そして、激しく肩で息をするマサキヨのただならぬ雰囲気に、さすがにこれはまずいと感じたウシワカは屋外に逃げ出し、カイソンもその後に続いた。
やがて呼吸が落ち着いたマサキヨが、ふと目を上げると――そこに女がいた。しかもその女はフワフワと宙に浮いている。
「……きっと来る頃だと思っとった。ウシワカに、ちょっかいをかけおって」
そう言ったマサキヨの顔は、先ほどまでの厳しいながらも孫を愛する老人のものから――幾たびもの死線を越えた、歴戦の戦士のものへと変貌していた。
それに苦笑で応じるのは、昨夜ウシワカを平氏の追跡から救ったツクモ神――ベンケイ。
そしてベンケイは、「久しぶりね、マサキヨ」と言うと、ひと呼吸おいてから来訪の目的を、単刀直入に告げた。
「あの子の力を貸してほしいの」
Act-01 動き始める運命 END
NEXT Act-02 大天狗
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる