神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
4 / 97
第2話:源氏の少女

Act-01 動き始める運命

しおりを挟む

「この大馬鹿もんが!」

 ロクハラからの逃走劇の末、居住地であるクラマに戻ったウシワカ。それを出迎えたのは、祖父鎌田マサキヨの激しい怒声であった。

「夜中に、どこかに抜け出したかと思っとったら、平氏のロクハラベースに盗みに入っとっただと⁉︎ サブロー、またお前がウシワカをそそのかしたのか⁉︎」

 マサキヨの仕事場である広い整備場に、その大声が響き渡る。髪は薄く白髪の老人だが、マサキヨの筋骨隆々たる体躯は、いたずらが過ぎた子供たちを叱りつけるのには、十分な威厳があった。

「違うよ、じっちゃん! 平氏のせいで、みんな貧しい暮らしをしてるから、ロクハラから金目のものを盗んで売ろうって……私が言ったんだよ!」

「そうだよ。アタシたちは義賊だよー」

 友をかばうべく祖父に言い返すウシワカと、その隣でふくれっ面になるサブローだったが、

「なにが義賊だ! それでも盗っ人には変わらんだろ! しかもカイソン、お前まで二人についていくとは、どういう事だ⁉︎」

 マサキヨは子供の言い分を切って捨てると、今度は少し離れて小さくなっているカイソンに矛先を向けた。

「ご、ごめんなさい親方。ろ、ロクハラに行けば、平氏の武器や……き、機甲武者が見られると思って……」

 師匠に詰問されて、恐る恐る同行の目的を白状するカイソンだったが、

「――そうだ、じっちゃん! 私、機甲武者に乗ったよ」

 突然、会話に割り込んできたウシワカの言葉に、

「な、なんだと! 機甲武者にだと……!」

 マサキヨは思わず絶句した。

 機甲武者――そのキーワードに、祖父、孫娘の双方が、過敏に反応すると、

「ほ、本当なのか、カイソン?」

 マサキヨはさらに厳しい顔付きになって、カイソンに事の真偽を確認する。

「は、はい。乗った事は乗ったんですが……ガシアルを歩かせようとして、転んでしまって……」

「――――!」

 不完全ながらも、孫娘のウシワカが本当に機甲武者を動かしたという事実に、マサキヨの険しい顔に動揺の色が加わった。

「それと、じっちゃん。私の母さんって……トキワっていう名前だったの?」

「だ、誰からそれを聞いた⁉︎」

 そして、さらなる予想もしなかった問いに、思わず孫娘に詰め寄り、その肩をつかむマサキヨだったが、

「ベンケイ……ツクモ神だって言ってた。そいつが、自分は母さんの友達だって」

 と、ウシワカは動じる事なく、平然とそう言ってのけた。

「ツクモ神だと……」

「なんか、飛んだり機関砲をはね返したり、すごい奴だった。逃げる時も、そのツクモ神に助けてもらったんだ」

 そこまで聞くと、「そうか……」と言ったきり、マサキヨは押し黙る。

「ねえ、じっちゃん」

「うるさい、もうその話は口に出すな! それとサブロー、もう二度とウシワカに盗っ人の真似事なんぞさせるなよ!」

 追求から逃れるため、マサキヨはまた怒声を上げると、生業なりわいとしているメカニックの仕事に向かうべく、弟子のカイソンを引き連れて整備場の奥へと進む。
 その背中をサブローはアッカンベーで見送るが、ウシワカは少し考えてから、その後を追いかけると――祖父の傍らにつきまとう、という実力行使に出た。

「ねえ、じっちゃん。じっちゃんってばー」

「うるさい、何も話す事なんぞない!」

 執拗に食い下がるウシワカを振り切るべく、右に左に歩き回るマサキヨと、あわあわと師匠に付いていくカイソン。
 その追いかけっこは、ついには整備場の奥にある格納庫にまで及び――祖父は孫娘から逃れるべく、無意識にその扉を開けてしまった。

「あっ!」

 しまったと思ったマサキヨであったが、もう遅かった。
 薄い光だけが差し込むその格納庫の秘密を、中に進んだウシワカは目の当たりにしてしまったのである。

「き、機甲武者……」

 思わずウシワカが呟いた様に、そこにあったのは――まるで隠れる様に小さくうずくまった――白いカラーの、機甲武者ガシアルであった。

「こ、ここには入るなと言ってあるだろう! 出ていけ! 早く出ていけ!」

 自分で扉を開けておきながらマサキヨは、激しい狼狽を隠せずわめき散らし、格納庫からウシワカと、ついでにカイソンも一緒に叩き出すと、慌ててその扉を閉めた上に、大型のチェーンで封印までしてしまった。

 そして、激しく肩で息をするマサキヨのただならぬ雰囲気に、さすがにこれはまずいと感じたウシワカは屋外に逃げ出し、カイソンもその後に続いた。

 やがて呼吸が落ち着いたマサキヨが、ふと目を上げると――そこに女がいた。しかもその女はフワフワと宙に浮いている。

「……きっと来る頃だと思っとった。ウシワカに、ちょっかいをかけおって」

 そう言ったマサキヨの顔は、先ほどまでの厳しいながらも孫を愛する老人のものから――幾たびもの死線を越えた、歴戦の戦士のものへと変貌していた。

 それに苦笑で応じるのは、昨夜ウシワカを平氏の追跡から救ったツクモ神――ベンケイ。

 そしてベンケイは、「久しぶりね、マサキヨ」と言うと、ひと呼吸おいてから来訪の目的を、単刀直入に告げた。

「あの子の力を貸してほしいの」



Act-01 動き始める運命 END

NEXT  Act-02 大天狗
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

処理中です...