神造のヨシツネ

ワナリ

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第11話:シズカゴゼン

Act-10 二人の狂戦士

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 それはまるで投擲手の様だった。

 ヤシマベースの南岸に立つ機甲武者カイトが、渾身の力で上空に放った三叉槍トライデント。
 常識であればそれは一定高度で、惑星の重力によって空しく海に落ちるはずであった。

 だが、皇女アントクによる憎悪の魔導力を帯びたトライデントは、上空のシャナオウ――いやウシワカに向け、凄まじい速度で一直線に突き進んでいく。

 並の魔導武者なら、それに気付く事もなく機体を粉砕されていただろうが、ツクモ神の加護を受けた少女の五感は、迫る危機を未然に捉えると、

 ――間に合うか⁉︎

 全神経を機体に同化させ、直感ともいえる動きで機甲武者の身をよじらせた。
 そして、かろうじて回避行動を取ったシャナオウの肩口をかすめ、トライデントが彼方へと飛び去っていく。

 嫌な予感が的中した。
 トライデントが飛んできた北の方角を睨みつけると、ウシワカは心に届いた、

 ――死ねいっ、ウシワカ!

 という声の主が、皇女アントクである事を瞬時に理解し、

「ざーんねんだったなあ。今度は私が……お前を殺してやるよ!」

 修羅の叫びを上げながら、シャナオウを飛行形態に変形させ、ヤシマ本営へと報復攻撃に転じた。

 サウザンドソードにより沈む、敵艦隊の先に見えてくる巨大な浮き島。その南岸から二十ミリ機関砲がシャナオウに向け乱射されてくると、

「当たるかよ!」

 言うなり、ウシワカもシャナオウの二門のキャノン砲で反撃する。
 それをひらりとかわしながら、また機関砲で応射してくるのは、たった一機の機甲武者カイト。

「あいつ機甲武者で……。それなら、格の違いを見せてやるよ!」

 カイトのパイロットがアントクである事を確信したウシワカは、さらに怒りを増幅させシャナオウを人型形態に変形させると、ヤシマ本島へと着陸した。

 対峙する緑のシャナオウと、真紅のカイト。
 その時、南方から砲撃音が聞こえてきた。
 それはウシワカが壊滅させた防衛ラインを、無傷のまま突破してきた源氏軍の艦隊によるものだった。

 二十隻の大小戦艦の一斉砲撃。
 もはやただの的と化したヤシマ本島が、次々と紅蓮の炎に包まれる。
 その中で、ウシワカとアントクは互いに機体にセイバーを引き抜かせると、目の前の宿敵を滅殺するべく全身に魔導力をほとばしらせた。

「アントク。今度こそ、お前を殺す!」

「ウシワカ。お前だけは、絶対に許さない!」

 叫ぶお互いの意識が感応していた。それは二人の強大な魔導力が干渉し合った結果であった。

「死ねーっ!」

「滅びなさい!」

 叫びと共に交錯する二機の光刃。

 打ち込み、受け止め、また打ち込み、かわしながらまた打ち込む――その幾太刀もの斬撃戦の中で、ウシワカは予想外のアントクの魔導武者としての実力に舌を巻いた。

 天使の魔導鎧をベースとするロボット――機甲武者は想念で動かすという特性上、その性能にはパイロットの身体能力も加味される。

 だがアントクはまだ十一歳の少女であり、かつ数々の修羅場をくぐって生きてきたウシワカとは違い、これまでの生涯を王宮で、蝶よ花よと育てられてきた皇女であった。

 なのにその切っ先は鋭く、何よりも一刀一刀の斬撃が重かった。

 ――このままでは押し負ける。だが何か手はあるはず!

 動揺の中でも、ウシワカは冷静に勝機を見出そうとする。
 どんな相手にも弱点はあり、必ず状況に打開策はある。それを冷徹に見定める事ができるのがウシワカの強みであった。

 だが、そんな時、

「お前さえ、お前さえいなければーっ!」

 というアントクの叫びに、ウシワカの思考は一瞬で怒りに塗りかえられてしまった。

「私も最初から、お前は気に食わなかったんだよ!」

 叫び返し、再び激しい打ち合いに臨んでしまうウシワカ。
 もはや二人は皇女でもなく、源氏と平氏を代表する魔導武者でもなく、ただ互いを憎しみ合う狂った獣であった。

「ウシワカ、シャナオウのパワーが落ちてるわ!」

 その時、ベンケイの声が聞こえると、ウシワカの頭脳は一瞬で冷静さを取り戻した。
 この天才戦術家の心を呼び戻すには、感情よりも状況で訴えた方が効果的――それを知り抜いたツクモ神による見事なナビゲートであった。

 確かに飛行戦闘能力を得たシャナオウの課題は、大地の霊脈から離れる事による早期のパワーダウンであった。加えて先ほど撃ったサウザンドソードのせいで、機体動力である霊力は著しく損耗していた。

 それをパイロットの魔導力でカバーするのにも限界がある。アントクの斬撃が重いと感じたのも、そのせいもあるのかもしれない。

 ウシワカが思考を走らせる間も、アントクはカイトにもう一本セイバーを抜かせ、左右二刀で息もつかせぬ攻撃を加えてくる。

「死ね、死ね、死ね、ウシワカーっ!」

 だがもうその時、ウシワカの頭脳は冷酷な計算を終了させていた。

 ――数に頼る奴は、必ずそこに慢心が生まれる。引くと見せて踏み込んできた時、キャノン砲の近距離射撃で吹き飛ばしてやる!

 とはいえ、アントクの斬撃はその量が増えても質が落ちる訳ではなく、受け太刀にまわるウシワカもなかなかそのタイミングが計れない。

 虎狼のごとく、したたかに感覚を研ぎ澄まし続けるウシワカ。
 そして一撃必殺を期する彼女に、その時が訪れた。
 源氏軍の艦砲射撃で弾け飛んだ榴弾の一部が、二機の間の視界を遮ったのである。

 その瞬間、シャナオウを後ろに跳躍させたウシワカだったが、そこに予想外の事態が起こった。
 ヤシマ本島に取り付いた源氏軍ガシアルの一機が、功を焦ったのかアントクのカイトに敢然と斬りかかっていったのである。

「なぜ出てくる⁉︎」

 射線に割って入られたシャナオウのキャノン砲に、頭部を吹き飛ばされるガシアル。同時にカイトのセイバーもその機体胴部を一瞬で両断していた。

 思わぬ邪魔にウシワカは、シャナオウを後退させながら両肩のキャノン砲を連射するが、もはやそれがカイトに当たる事はなく、アントクも冷静さを取り戻すと同時に、周囲の状況を確認した。

 ウシワカの南方防衛陣の壊滅という作戦は当たり、その中を無傷で突撃してきた源氏艦隊の艦砲射撃で、もはやアントクの周囲も含めヤシマ本島は火の海であった。

 だがおかしいのは、まだ平氏には東、西、北方の各防衛艦隊があるはずである。
 それがまだ反撃に来援して来ないのは、どうした事か。

 ――まさか、ムネモリ殿⁉︎

 アントクの心に嫌な予感が走る。現実もその通りであった。

 突如、出現した源氏軍の奇襲と、燃える本島の姿に恐怖した平氏棟梁、たいらのムネモリは全軍にヤシマ放棄、海上への脱出を指示してしまったのである。

 名目上とはいえ、トモモリ不在のヤシマベースの指揮官はムネモリであり、その彼は源氏軍の戦力を確認する胆力を持てなかった。

 加えて不幸だったのは、ヨリトモの東王即位で平氏から鞍替えしたセッツ、クマノ両水軍のガシアルが、機体カラーを平氏の赤から源氏の白に塗り替えないまま参戦した事もあった。
 すなわち乱戦の中で平氏はそれを、自軍から寝返りが出たと誤認したのである。

 見れば平氏艦隊は、西へ西へと順次移動している。もはやヤシマの戦いにおける、平氏の負けは確定した。
 そして、ヤシマ本島の西岸から一隻の大型艦――平氏軍の旗艦である『御座船』も西に向けて出航しようとしていた。

 その時、大江おおえのヒロモトが乗艦する源氏軍の空母上では、その甲板に新型機甲武者キュウベイがスタンバイされていた。

魔導弓まどうきゅう、構えいっ!」

 インカムに向かい、ヒロモトが指示を飛ばす。

 すると、その両腕だけが異常発達した様な武骨なフォルムの機甲武者は、左腕が変形した大弓に魔導力で形成した矢をつがえると、それを右腕でギリギリと引き絞った。

「距離二千、いけますかヨイチ⁉︎」

「御意、当ててみせます!」

 心配そうなヒロモトの声に、キュウベイのコクピットの那須なすのヨイチは神気を練りながら、敢然とそう言い切った。
 艦内では伊勢サブローも常陸坊ひたちぼうカイソンに肩を抱かれながら、思い人の初陣を息を呑んで見守っている。

 純朴な青年の顔から戦士へと豹変したヨイチの目が、ヘルメットのバイザー越しに御座船の機関部を睨む。

 そして、「シュート!」というかけ声と共に矢が機体から離れると、それは現代兵器におけるレールガンの様に、目にも止まらぬ加速で水平に飛んでいき、次の瞬間船体を貫かれた御座船が転覆せん勢いで大きく揺れた。

 源氏軍の秘密兵器キュウベイの、恐るべき実力であった。

 しばしそれに見とれていたウシワカだったが、アントクのカイトがすでに別の空母に乗り移っている姿を見つけると、

 ――そうか。御座船はフェイクだったか。

 と、戦闘の終了を感じながら、キュウベイによる戦争終結への一撃が、不発に終わった事を誰よりも早く悟った。

 実際この後、拿捕だほした御座船に平氏首脳は誰一人として乗っていなかった。
 戦闘前にアントクが感じた『御座船は危険』という予感――それを信じたたいらのトキコの指示によって、平氏は辛くも危機を乗り越えたのである。

 ――これでまだ戦いは続く。次こそは……奴を殺す!

 アントクとの武による決着。それを果たせなかったウシワカは、この状況に不敵な笑みを浮かべると、継続される戦争に向け決意を新たにした。

 同時にベンケイは、なぜキュウベイの矢が御座船の司令塔ではなく、船体を狙ったのか――その事に言いしれぬ不審を抱き、目の前の勝利を素直に喜べず顔を曇らせた。

 
 そして――

 西へ西へ――もはや平氏はすべての土地を失い、帰る港もない流浪の船団と化した。
 それを追って、源氏の船団も西へ向かった。

 行き着く先は最果ての海、ダンノウラ。
 この青き海を埋め尽くした、白と赤の戦闘兵器たち。

 源氏と平氏、ウシワカとアントク、人間と人間。その最終決戦へ――時は満ちた。



Act-10 二人の狂戦士 END

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