神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
85 / 97
第12話:決戦ダンノウラ

Act-07 八艘飛び

しおりを挟む

 御座船に乗り込んだウシワカが、平氏の機甲武者と格闘戦を始めた頃――ダンノウラ全体の戦局も、次の段階に移行しようとしていた。

 源平両軍の間で展開された序盤の機甲武者戦。それは結局、痛み分けという形で終わった。
 だが海戦を得意とする平氏相手に、この後の艦隊戦を左右するそれを、五分の結果で終わらせられた事は、源氏軍にとって大きな収穫だった。

 加えて潮の流れも変わり、今度は源氏軍側に追い潮である。残った機甲武者はそれに乗って、敵艦に優位な状況で遊撃を加える事ができるのである。
 その機を逃さんと、源氏軍の艦隊が先に動いた。

 戦艦の数はヨリトモの東王即位の威光により、今や互角となっている。
 その主砲が次々と火を噴いた。

 平氏軍に向け撃ち込まれる徹甲弾。広範囲の敵を狙う榴弾と違い、それは目標の装甲を破壊する事を目的としている。

 ほとんどの弾丸は目標から逸れ、海面に大きな水柱を立てたが、何発かは見事に平氏軍の戦艦に命中し、今度は空中に大きな火柱を立てながら、艦体を傾かせ海に沈めていった。

 もちろん平氏軍も主砲を撃ち応戦する。
 だが向かい潮が災いし、目標までの仰角設定がうまく合わず、源氏軍よりも精度の低い砲撃となった。

 こうなると距離を詰めるしかない。
 開戦時、一万メートルの距離をとっていた平氏軍の艦隊が、源氏軍に向け前進してきた。

 だが、そこに追い潮に乗った源氏軍の機甲武者が、艦体の横っ面から攻撃を加えてくるため、平氏軍は思う様に状況を好転させられない。

 平氏軍にとって序盤の機甲武者戦を、ウシワカのシャナオウによる上空攻撃のため、圧勝に持ち込めなかった事が、ここにきて大きな痛手となってきたのである。

 そのウシワカは戦域の最深部、平氏の御座船である空母の甲板で、近衛部隊のガシアルやカイトを相手に、シャナオウを縦横無尽に躍動させていた。

 機甲武者同士の斬撃戦で、ウシワカにかなう者などいない。
 シャナオウの固有兵装であるセイバー『ハチヨウ』により、平氏軍の機甲武者は次々と撫で斬りにされていった。

 そして最後の一機を撃破すると、ウシワカは温存していたシャナオウの両肩に搭載されたキャノン砲を、空母の司令室ともいえる艦橋に撃ち込んだ。

 爆炎を上げ吹き飛ぶ艦橋。そこにたいらのムネモリがいれば、これでいくさは終わりなのだろうが、当然もう安全な艦内に移動しているだろう。
 ならばこの空母を徹底的に破壊し、轟沈させれば結果は同じ事になる。

 ウシワカはまず、空母としての機能を停止させるため、カタパルトをはじめ甲板上をズタズタに斬り裂くと、艦のバランスを崩すため、その穴に向けキャノン砲を撃ち込んでいった。

 キャノン砲の数発程度で沈むほど、空母は脆弱ではない。
 狙いは艦内の弾薬及び、推進機関の燃料への着弾であり、そうなれば誘爆が起こり艦は内部から崩壊していくはずであった。

 ――終わる。これで終わらせる!

 決着へのウシワカの思い。だがそれを阻む存在が、御座船の甲板に現れた。

「ウシワカ、来るわよ!」

 ベンケイの警告に反応したウシワカが、素早くその方向に機体を向ける。
 そこに立っていたのは、赤字に金色の装飾が施されたカイト――皇女アントクの機体であった。

 両軍の機甲武者戦の最中に、見切りをつけられ戦域に放置されたアントクは、機体全体からその屈辱に震える怒りを放ち、ウシワカを滅殺せんとの意気をシャナオウに向けている。

「クソッ、あともう少しなのに」

「ウシワカ、仕切り直しましょ。もう弾丸もないし、機体の霊力も限界よ」

 ここまでの激闘ですべてを消耗し尽くした現状を、ベンケイはナビゲーターとしてウシワカに通告する。
 無念の思いはベンケイとて同じである。それをウシワカも理解しているので、彼女の言葉に反論する事なく思考を次に切りかえた。

 弾丸と霊力の補給のため、自軍の空母に戻らなければならない。
 問題は目の前に現れたアントクが、帰艦への障害となった事である。

「ウシワカーーーっ!」

 憎悪の叫びを上げ、カイトの両腕にセイバーを持たせ、突進してくるアントク。

 ――ああ、不愉快だ。

 アントクは戦争をしていない。ただ私怨だけで兵器を弄んでいる。ウシワカの戦術的思考は、聖なる怒りに燃える皇女をそう切り捨てた。

 もうこれ以上、無駄な力は使えない。
 ウシワカはシャナオウに残った、最後のキャノン砲をカイトの足元に放った。

 甲板はウシワカが斬り裂いたため、足場の悪い状況である。必然的にそれを避けるカイトの跳躍は、無理な体勢のものとなった。

 そこにウシワカは、セイバーから団扇形態に戻したハチヨウのワイヤー付き八枚羽を放つ――それにカイトは空中で、いとも簡単に絡め取られた。

「甘いんだよ!」

 そのままウシワカは、カイトをささくれ立った甲板に、シャナオウのフルパワーで叩きつけた。

 グシャ、という音と共に無残に潰れるカイト。
 金色に飾られた美しい機体は、もはやただの鉄塊と成り果ててしまった。

 アントクの生死は分からない。
 本当なら機関砲なりを撃ち込んで、確かなとどめを刺しておきたいところだったが、もうシャナオウの武装はハチヨウひとつだけである。

 加えて状況も悪化していた。
 今の戦闘でさらに機体の霊力が失われた事と、御座船周辺に平氏の護衛艦と機甲武者が接近してきたのである。

 戦域離脱と、自軍空母への帰艦を優先させなければならない。
 御座船の甲板を、シャナオウは倒れたカイトを無視する様に、海へと駆け出した。

「ベンケイ、飛べる⁉︎」

「とてもじゃないけど無理ね!」

 飛行形態という選択肢はなくなった。ならばとウシワカは、全天周囲モニター全域に目を凝らす。

「リフターがある!」

 船首の前方五十メートルに浮く、主を失った機甲武者用リフターを見つけたウシワカが声を上げる。
 だが距離がありすぎる。いくらシャナオウでも飛行機能なしで、そこまで一息に跳躍するのは不可能であった。

 ――どうすればいい。

 さすがにウシワカも、状況のまずさに顔をしかめる。
 するとベンケイはキッと前方を見据えると、突然シャナオウのコクピットハッチを開き、スルリと機体の外に飛び出した。

「ベンケイ、なにしてるの⁉︎」

 機体前方を単独で飛ぶベンケイに、ウシワカが叫ぶ。

「いい、ウシワカ――跳ぶのよ!」

 それだけ言うと、ベンケイは速度を上げて海上にすれすれに身を躍らせた。

「――――!」

 ウシワカの目に飛び込んできたのは、ベンケイが海上に展開した魔法陣であった。

「さあ来なさい、ウシワカ!」

 ベンケイの声に導かれる様に、船首を蹴って跳躍するシャナオウ。その足が魔法陣の上に乗り、さらに次の跳躍のためにそれを蹴る。
 そして次の着地点には先行したベンケイが、新たな魔法陣を海上に展開していた。

 それをまた蹴って跳ぶシャナオウ。

 三つ目の魔法陣を展開した時、ベンケイに向けて護衛艦から機銃が撃ち込まれた。
 それを辛くもかわしながら、ベンケイは四つ目の展開ポイントに飛ぶ。

「ベンケイ、危ないよ!」

 開け放たれたままのコクピットから、ウシワカが叫ぶ。ツクモ神といえども、機銃の直撃を食らえば無事でいられる訳がなかった。

 だが、ベンケイはウシワカと目を合わせると、

「さあ、いらっしゃい!」

 と、自身の危険も顧みず、四つ目の魔法陣にシャナオウを手招きした。

 五つ、六つ、七つ――ダンノウラの海を、シャナオウが跳躍する。目指す離脱用の海戦リフターは目前であった。

「いっけえーっ!」

 ウシワカの咆哮と共に、シャナオウは八つ目の魔法陣を蹴ると、遂に海戦リフターに飛び乗る事に成功した。

 二人の絆が成し遂げた奇跡――ダンノウラ八艘飛び。

「ベンケイーーーっ!」

 声を上げ、コクピットから身を乗り出すウシワカ。

 周囲には護衛艦や機甲武者が放つ銃弾が、雨の様に飛び交っていた。
 だがそんな事には構わず、ウシワカはさらに手を伸ばす。

「ウシワカーっ!」

 ベンケイも手を伸ばし、真っすぐにウシワカめがけ飛び込んでいく。

 そしてその手が触れると、そのまま二人はもつれる様にコクピットのシートへと倒れ込んでいった。

 海戦リフターに乗って、シャナオウは戦域を離脱していく。

「ベンケイ……」

 そのまだ開け放たれたコクピットの中で、ウシワカはベンケイの体を強く抱きしめていた。



Act-07 八艘飛び END

NEXT  Act-08 カラス強襲
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...