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バレンタイン
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折角なのでバレンタインネタを。
――――――――――――†
今日の大学は、学校全体がソワソワしているかのようだった。
理由は簡単で、明日がバレンタインだから。
皆、誰にあげるか誰から貰うかで浮き足立っているのだ。
前の僕なら、高校生じゃないんだから大学生にもなって何を、って思ったんだけど。
今は、有栖にチョコあげたら喜ぶかな、とか、どんな顔するかな、とかが気になって仕方がない。
チョコ……どころか、何かを人にあげるなんてほとんどしたことがないけれど、この際やってみようかな。
そうなるともう時間がないので、すぐさま準備に取り掛からなければならない。
高いチョコを買ってあげてもいいのだけど、有栖のことだからファンからたくさん貰っているだろう。だから僕が同じものをあげるのは面白みも目新しさもない。
でも、手作りというのもどうだろうか。
僕は手作りチョコにいい思い出がないし、人からもらった手作り食品なんて安心して食べられないだろう。有栖も人からもらった食べ物で嫌な思いをしているみたいだし。
「何を悩んでいるんだ?」
悶々としていると、御園が声をかけてくる。
「あ、御園。えっとね、明日ってバレンタインデーでしょ?」
「ああ、そうだな」
「それで、有栖にチョコあげてみようかなって思ってるんだけど、買うのはなんか違うし、手作りも気持ち悪いかなって」
「あー…………なるほどな」
「御園は、どっちだったら嬉しい? もしくは、いらない?」
「オレは、好きなやつからのチョコだったら何だって嬉しい。いらないなんてもってのほかだな。……でも、手作りならもっと嬉しいかも。気持ち悪いとは断じて思わない」
「 そっか。…………じゃあ、作ってみようかな。アドバイスしてくれてありがとう、御園」
「ああ。……頑張れよ」
「?」
何となく元気がない御園を疑問に思いながらも、どんなチョコを作るかを考え始めた。
折角だから手の込んだものがいいかな。母さんにホワイトデーのお返しした時に作ったチョコタルトは結構美味しくできたから、あれは作るとして、あと2品くらい欲しいな。
スマホで軽く検索をかけてみると、それはもうオシャレで手の込んでいそうなレシピがいっぱい出てきた。どれも美味しそうで目移りしてしまう。
時間もないし、手間がかかるのは1品にして、あとは簡単だけど美味しいやつにしよう。
色々考えながら選んで、チョコタルトと石畳チョコとチョコマカロンを作ることにした。チョコマカロンは難易度高めで上手くできる自信はないが、作ったら有栖が喜んでくれそうだから作ってみることにしたのだ。
帰り道に材料を買い揃えて帰宅する。
今日有栖と冴木さんは仕事で帰りが遅くなるから、いない間に作ってしまえばいい。
まず冷やし固めなければいけない石畳チョコから作る。これは要は生チョコなので、固めてから正方形に切ってココアパウダーをまぶせば出来上がりだ。
絶対に髪の毛などが入らないように三角巾をして、エプロンを付けて手も入念に洗う。
生クリームと蜂蜜を火にかけて、沸騰したら火を止めて刻んだチョコレートを入れる。余熱で溶かして混ぜ合わせたら、クッキングシートを敷いたバットに流し入れてあとは冷やすだけ。これはもう放置でいいや。
次はチョコタルト。刻んだチョコレートを湯煎で溶かして、そこに常温バターと生クリームを入れて混ぜ合わせる。それを市販のタルト生地に流し込んで、これもあとは冷やすだけだ。
最後はチョコマカロンだ。手間もかかるし上手くできるかも分からない、ラスボス的ポジションである。材料費も高い。
まずは卵白を泡立て器で泡立てる。これが1番重労働で、いわゆるメレンゲというやつだ。途中でグラニュー糖を入れて、しっかり泡立てる。それが出来たら、そこに粉砂糖とアーモンドプードルとココアパウダーをふるいにかけて加え、とろみがつくまで混ぜる。
それを天板に絞り出して、表面が乾くまで放置する。
オーブンを使うので、オーブンを温めておくのも忘れない。
その間に固まった石畳チョコを取り出して、正方形に切ってココアパウダーをまぶし、100円ショップで買ってきたラッピングボックスに詰める。箱が汚れていると衛生的に問題があるので、クッキングシートを敷いた上に詰めた。
チョコタルトは長方形の箱に3つくらい詰める。
置いておいたマカロン生地をオーブンに入れて焼く。焼いている間にチョコと生クリームを混ぜてガナッシュを作って、焼きあがった生地を一旦冷ましてから挟む。
マカロンもチョコタルトと同じ形の箱に詰めて、3つの箱をまとめてリボンでラッピングして出来上がり。
あとはボール類を洗って乾かして片付けて、証拠隠滅したら完了だ。
残ったものを味見してみたけれど、出来も悪くないし、喜んでくれるといいな。
――――――――――――†
「これを、俺に?」
3段に積み重なった箱を差し出すと、有栖が目を丸くして受け取ってくれる。
「その、僕が作ったんだ。作ったものとか人から貰ったものとか嫌かもしれないと思ったんだけど、市販のもちょっとどうかな……と思って」
有栖は首がもげそうなくらいぶんぶんと振って、
「嫌なわけない。めちゃくちゃ嬉しい」
と言ってくれた。
「開けてもいいか?」
「うん、いいよ」
有栖の細くて長い指が、丁寧にリボンを解く。
「え、これ、マカロンか?」
「うん。形はあんまり良くないけど、味は大丈夫だと思うよ」
「マカロンって家で作れるんだな……」
「うん。手間はかかるけどね」
「……ん、美味い。生地もサクサクだし。食うの勿体ないな」
「ありがとう。でも、手作りだからなるべく早く食べてね。お腹壊したりしたら大変だし」
「ああ。……こっちはタルトか。この生地も作ったのか?」
「それは市販のやつ。そこも作れないことはないけれど、成形が難しいし買った方が色々お得なの」
「そうか。……これも美味いな。チョコの味が濃厚な気がするが、マカロンのチョコとは何か違うのか?」
「チョコ自体は同じ。こっちはバターが入ってるから、舌触りとか味わいが良くなるんだ」
「へえ、バター1つでこんなに変わるのか……。1番下は……生チョコか?」
「そう」
「これもまたちょっと違う味で美味いな。ココアパウダーが苦めなのがくどくなくていい」
「これは蜂蜜が入ってる」
「そうなのか。…………お前、つくづく料理上手いよな」
「そうかな? ありがとう。作るの凄く迷ったんだけど…………その、有栖、喜んでくれるかなって、褒めてくれるかなって思って作ってみたんだ」
「~~~~っ!」
「有栖?」
突然ガバッと抱き着かれて戸惑ってしまう。よく見ると、耳が真っ赤だ。
「……悪い、可愛すぎるし嬉しすぎて」
「僕、可愛いこと言ったっけ?」
「言った」
「え、どれ?」
「全部」
全部…………?
有栖が僕のどの発言を可愛いと思ったのかは結局分からなかったが、とにかく喜んでくれて良かった。
有栖が嬉しそうだと、僕も嬉しくなる。
やっぱり、苦労して作ってみてよかった。
――――――――――――†
(端書き)
展開雑ですみません。1話に収めたかったので……。
何でアーモンドプードルってあんなに高いんでしょうね。
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今日の大学は、学校全体がソワソワしているかのようだった。
理由は簡単で、明日がバレンタインだから。
皆、誰にあげるか誰から貰うかで浮き足立っているのだ。
前の僕なら、高校生じゃないんだから大学生にもなって何を、って思ったんだけど。
今は、有栖にチョコあげたら喜ぶかな、とか、どんな顔するかな、とかが気になって仕方がない。
チョコ……どころか、何かを人にあげるなんてほとんどしたことがないけれど、この際やってみようかな。
そうなるともう時間がないので、すぐさま準備に取り掛からなければならない。
高いチョコを買ってあげてもいいのだけど、有栖のことだからファンからたくさん貰っているだろう。だから僕が同じものをあげるのは面白みも目新しさもない。
でも、手作りというのもどうだろうか。
僕は手作りチョコにいい思い出がないし、人からもらった手作り食品なんて安心して食べられないだろう。有栖も人からもらった食べ物で嫌な思いをしているみたいだし。
「何を悩んでいるんだ?」
悶々としていると、御園が声をかけてくる。
「あ、御園。えっとね、明日ってバレンタインデーでしょ?」
「ああ、そうだな」
「それで、有栖にチョコあげてみようかなって思ってるんだけど、買うのはなんか違うし、手作りも気持ち悪いかなって」
「あー…………なるほどな」
「御園は、どっちだったら嬉しい? もしくは、いらない?」
「オレは、好きなやつからのチョコだったら何だって嬉しい。いらないなんてもってのほかだな。……でも、手作りならもっと嬉しいかも。気持ち悪いとは断じて思わない」
「 そっか。…………じゃあ、作ってみようかな。アドバイスしてくれてありがとう、御園」
「ああ。……頑張れよ」
「?」
何となく元気がない御園を疑問に思いながらも、どんなチョコを作るかを考え始めた。
折角だから手の込んだものがいいかな。母さんにホワイトデーのお返しした時に作ったチョコタルトは結構美味しくできたから、あれは作るとして、あと2品くらい欲しいな。
スマホで軽く検索をかけてみると、それはもうオシャレで手の込んでいそうなレシピがいっぱい出てきた。どれも美味しそうで目移りしてしまう。
時間もないし、手間がかかるのは1品にして、あとは簡単だけど美味しいやつにしよう。
色々考えながら選んで、チョコタルトと石畳チョコとチョコマカロンを作ることにした。チョコマカロンは難易度高めで上手くできる自信はないが、作ったら有栖が喜んでくれそうだから作ってみることにしたのだ。
帰り道に材料を買い揃えて帰宅する。
今日有栖と冴木さんは仕事で帰りが遅くなるから、いない間に作ってしまえばいい。
まず冷やし固めなければいけない石畳チョコから作る。これは要は生チョコなので、固めてから正方形に切ってココアパウダーをまぶせば出来上がりだ。
絶対に髪の毛などが入らないように三角巾をして、エプロンを付けて手も入念に洗う。
生クリームと蜂蜜を火にかけて、沸騰したら火を止めて刻んだチョコレートを入れる。余熱で溶かして混ぜ合わせたら、クッキングシートを敷いたバットに流し入れてあとは冷やすだけ。これはもう放置でいいや。
次はチョコタルト。刻んだチョコレートを湯煎で溶かして、そこに常温バターと生クリームを入れて混ぜ合わせる。それを市販のタルト生地に流し込んで、これもあとは冷やすだけだ。
最後はチョコマカロンだ。手間もかかるし上手くできるかも分からない、ラスボス的ポジションである。材料費も高い。
まずは卵白を泡立て器で泡立てる。これが1番重労働で、いわゆるメレンゲというやつだ。途中でグラニュー糖を入れて、しっかり泡立てる。それが出来たら、そこに粉砂糖とアーモンドプードルとココアパウダーをふるいにかけて加え、とろみがつくまで混ぜる。
それを天板に絞り出して、表面が乾くまで放置する。
オーブンを使うので、オーブンを温めておくのも忘れない。
その間に固まった石畳チョコを取り出して、正方形に切ってココアパウダーをまぶし、100円ショップで買ってきたラッピングボックスに詰める。箱が汚れていると衛生的に問題があるので、クッキングシートを敷いた上に詰めた。
チョコタルトは長方形の箱に3つくらい詰める。
置いておいたマカロン生地をオーブンに入れて焼く。焼いている間にチョコと生クリームを混ぜてガナッシュを作って、焼きあがった生地を一旦冷ましてから挟む。
マカロンもチョコタルトと同じ形の箱に詰めて、3つの箱をまとめてリボンでラッピングして出来上がり。
あとはボール類を洗って乾かして片付けて、証拠隠滅したら完了だ。
残ったものを味見してみたけれど、出来も悪くないし、喜んでくれるといいな。
――――――――――――†
「これを、俺に?」
3段に積み重なった箱を差し出すと、有栖が目を丸くして受け取ってくれる。
「その、僕が作ったんだ。作ったものとか人から貰ったものとか嫌かもしれないと思ったんだけど、市販のもちょっとどうかな……と思って」
有栖は首がもげそうなくらいぶんぶんと振って、
「嫌なわけない。めちゃくちゃ嬉しい」
と言ってくれた。
「開けてもいいか?」
「うん、いいよ」
有栖の細くて長い指が、丁寧にリボンを解く。
「え、これ、マカロンか?」
「うん。形はあんまり良くないけど、味は大丈夫だと思うよ」
「マカロンって家で作れるんだな……」
「うん。手間はかかるけどね」
「……ん、美味い。生地もサクサクだし。食うの勿体ないな」
「ありがとう。でも、手作りだからなるべく早く食べてね。お腹壊したりしたら大変だし」
「ああ。……こっちはタルトか。この生地も作ったのか?」
「それは市販のやつ。そこも作れないことはないけれど、成形が難しいし買った方が色々お得なの」
「そうか。……これも美味いな。チョコの味が濃厚な気がするが、マカロンのチョコとは何か違うのか?」
「チョコ自体は同じ。こっちはバターが入ってるから、舌触りとか味わいが良くなるんだ」
「へえ、バター1つでこんなに変わるのか……。1番下は……生チョコか?」
「そう」
「これもまたちょっと違う味で美味いな。ココアパウダーが苦めなのがくどくなくていい」
「これは蜂蜜が入ってる」
「そうなのか。…………お前、つくづく料理上手いよな」
「そうかな? ありがとう。作るの凄く迷ったんだけど…………その、有栖、喜んでくれるかなって、褒めてくれるかなって思って作ってみたんだ」
「~~~~っ!」
「有栖?」
突然ガバッと抱き着かれて戸惑ってしまう。よく見ると、耳が真っ赤だ。
「……悪い、可愛すぎるし嬉しすぎて」
「僕、可愛いこと言ったっけ?」
「言った」
「え、どれ?」
「全部」
全部…………?
有栖が僕のどの発言を可愛いと思ったのかは結局分からなかったが、とにかく喜んでくれて良かった。
有栖が嬉しそうだと、僕も嬉しくなる。
やっぱり、苦労して作ってみてよかった。
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(端書き)
展開雑ですみません。1話に収めたかったので……。
何でアーモンドプードルってあんなに高いんでしょうね。
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