12 / 104
第1章 職業って偉大
第11話 特訓開始
しおりを挟む国王様は無駄に広い食卓に並ぶ2種類の料理を見て、絶句していた。それは左隣にいる騎士団長であるカレナさんも同様で、それを見てティアナ様は気まずそうにしながらも料理を口に運んでいる。
国王様とカレナさんの前に置かれた料理は、かなり張り切ったのだろうが、ところどころがボロボロになってしまっているハンバーグ。付け合わせの野菜も焦げているところがあるし、何より彩りが無い。
対して僕たちの前に置かれた料理は、陸人くんが作った同じくハンバーグ。ただし細かく刻まれた野菜が中に入っていて、尚且つ付け合わせの野菜は、小皿に移されている白菜らしき野菜の漬け物だ。これが後半しつこくなってくる口をリセットしてくれる。しかもどちらもご飯と一緒に食べるものなので、ご飯が進み、特訓終わりの体にエネルギーをしっかり補給してくれているだろう。
「……見栄を張んなかった方が良かったんじゃね」
小さな声で向かいの席に座っている梶木くんがボソッと呟いた。その口の周りにはご飯粒が大量に付いている。
「いや~、あの後の特訓は悠が張り切っちゃったから疲れたんだよな~!その後にこれは最高だろー!!」
隣に座っている空気を読めない巧くんは口一杯に食べ物を詰め込んで、箸で国王様を指しながら嬉しそうに咀嚼している。
「これは食べても良いのっ!?」
巧くんの横に座っているくるみさんの向かいに座っている間宮さんは、ハンバーグと一緒に来たニコちゃんマークに溝が出来ているプリンを見つめている。
これは間宮さんだけなのだが何でも料理を手伝ったとか、料理を運んで来てくれるメイドさんが言っていた。
因みにそれを聞いた巧くんが「ズルイ!」と叫んだ瞬間、メイドさんが陸人くんに渡されたという水鉄砲を乱射してきたのはまだ記憶に新しい。
「…………」
無言で食べ進めるくるみさんと青山くんは、何を考えているのだろう?くるみさんは朱音さんの事だと思うんだけど、青山くんはあんまり話した事が無いから分からないな。
「………お父様、一口要りーー」
「要らんっ!!」
ティアナ様が国王様に陸人くんが作ったハンバーグを分けようとしたが、国王はふて腐れたように叫ぶと、目の前に置かれたハンバーグをフォークで1刺しし、口に放り込み、付け合わせの野菜を食べる事も無く出て行った。
「……一口もらえますか?」
「え、ええ。もちろんよ!」
その後に我慢していたのか、カレナさんがティアナ様に一口要求していたのを見て、僕は陸人くんの存在が大きくなりつつあるのを感じ取っていた………。
「くそっ!何なんだあいつ!!」
俺は痛む胸を摩りながらやけ酒を口から溢れているのを気にせず飲む。腹が立つ事に勇者様と一緒に来た執事によって、王女様も勇者様もあいつに取られてしまった。
あの厨房は俺たち料理人が居るべき場所だ!それを、執事が勝手に使い、挙げ句の果てには俺たちの仕事を奪おうとしている。これに腹立たない方がおかしな話だ。職業通りの仕事が出来ない事が、どれだけストレスか、あいつは知らないんだ!
この世界には暗黙の了解がある。それは職業を逸脱した事をしない、というものだ。
例えば、戦士が魔法を使っても良いが、戦闘で主軸としては使ってはいけない。何故なら、その行為が魔法使いの役割を奪う事になるからだ。あくまで、戦闘に軽く変化を与える程度しか使ってはならない。
この暗黙の了解は全ての人の共通の意識だ。それが例え植人族でも、獣人族でも、岩石族でも、……魔族でも同じだ。それをあいつは………。
「これは痛い目を見てもらわないとな……」
俺は隠す事なく笑みを浮かべた。これから起こす事が上手くいった時の事を考えてしまったからだ。上手くいけばあいつを追放して、再び俺たちが勇者様たちや王女様の食事を作る事が出来る。待っていろよ、執事………!
「では、始めっ」
翌朝、騎士団長であるカレナさんの声と共に重りを付けたクラスメイト達が一斉に走り出す。もちろんお嬢様もだ。重りの重量は5kg。走る時にはとても辛くなる重さだ。
俺はそんな訓練を見ながら重り50kgを身に付けてお嬢様の隣を並走していた。
「……ねぇ……何で………陸人は………平気そうな……顔してるの…?」
「まあ、流石に重いですが、これぐらいなら支障は無いんで」
いつもの朝のランニングの時は30kgだったけど、50でも案外行けるかもな。こっちの方が汗も出るから鍛えれているだろう。
「さ、ゴールは見えているので頑張ってください!」
「……もうやだ~!!」
俺はお嬢様の周りを走りながらゴールである城の外壁を見る。順位でいうと、悠、巧、青山、梶木、間宮、俺とお嬢様、くるみだ。みんな苦痛の声を上げていて、それを聞いたカレナさんが怒声を飛ばしてくる。
「この程度で音をあげるなっ!!」だの、「ふざけるなっ!そこの執事!!」だの、「まだまだ序の口だそー!!」だの、口うるさいたらありゃしない。そもそも、お嬢様に訓練なんて必要ないだろ?俺が護るんだから。
「あ~!!やっと着いた~!!」
お嬢様が倒れ込むように地面に座り込もうとしたので、俺は素早く道具作成でシートを作り出して地面に敷く。
「あ、ありがと」とお礼を言ったお嬢様に一礼だけして応える。それから視界を走ってきた方へ向けると、小さなワイバーンが周りを飛んでいるのを気にせず、一生懸命に足を動かすくるみがいる。
「くるみちゃん~!頑張って~!!」
お嬢様の声援で一瞬だけ笑顔になると、少しだけペースを速める。お嬢様が今まで寝込んでいたから、くるみは肩身が狭かったんだろうが、お嬢様がいる今なら、くるみも素を出しやすくなるかもな。
「………、もう無理」
何とかゴールしたくるみはお嬢様に抱きつく。汗が凄く、眼鏡がずれ、息も絶え絶えになっている。俺は予め収納しておいた水の入ったボトルを取り出し、お嬢様にこっそり渡す。
お嬢様は口パクで「ありがとう」と言った後、くるみに水を飲ませた。その隣では心配そうにくるみを見つめるワイバーンがいる。
そんな様子を見たカレナさんは頭を押さえながらこっちに来て、次の訓練メニューを伝えた。
悠、巧、青山、梶木は引き続き体力作りをメインとした訓練。魔法使いの梶木も体力作りなのは、カレナさん曰く、戦場を走り回れる魔法使いになるためだそうだ。
間宮は向こうで言う病院である治療所を回るらしい。馬車を使わないらしいので、体力もほどほどにつけれて、治癒魔法や回復魔法の練習にもなって一石二鳥らしい。
そしてくるみは完全にワイバーンを上手く指示するために騎士の人との訓練だ。カレナさんはくるみの事はもう放っておいて、ワイバーンの方を強くする方へシフトするらしい。
最後に俺たちはーー
「私との打ち合い。それしか無いだろう」
事前に俺とお嬢様との特訓の様子を聞いていたらしいカレナさんは中々キツイ事を言った。……限界突破を使わずにいけるか?お嬢様と一緒ならいけるか?
「頑張ろうねっ!陸人っ!!」
俺の隣でかなり意気込んでいるお嬢様を見て、俺は考えるのをやめた。限界突破を使わずとも、全力でやったらいけるだろ!!
============================================
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる