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第2章 勇者活動という名の雑用
第35話 宿屋《グットネス》
しおりを挟む「意外と楽しかったね~」
「この街に寄っておいて良かったです。道中で魔物が出てもある程度対応出来ます」
もう日が暮れて来て、お嬢様と並んで《グットネス》へと向かって歩いている。
あれから何も問題なく、強いて言えばお嬢様が静かで頰を赤らめていたくらいか。デートのような感じの雰囲気になっているのに気付いて、展示が終わったくらいに手を離すとお嬢様は少し肩を落としていたくらいか。
「もうそろそろ着きますね」
「良い宿だと良いね。もう今日はなんか疲れたから」
お嬢様は本当に疲れているようで、欠伸も時々している。宿では良い宿にしようか。俺の分を削ったらいけるだろう。最悪ボロっちい宿にでも泊まれればいい。
「あ、着きました」
「うわ~、綺麗……」
着いた建物には《グットネス》の看板があり、緑を基調としたレンガ造りの洋風の建物で見た感じの第一印象は良い。
そして、眠たがっているお嬢様が気になるので、少し強引に緑に塗られた木の扉を引いた。
「いらっしゃい!」
開けて入ってすぐに声をかけられた。
緑のエプロンを着け、黄緑色の髪を後ろに結って両手にお盆いっぱいになった料理とお酒を持っている女性。
「少し待っててくれ!すぐに行くからよ!」
それだけ言い残して俺から見て右側の方に行った。その方へ見ると、酒場になっていて、冒険者から観光客が楽しく騒いでいる。
左側を見ると、トイレと大浴場の男女を分けるのれんが見える。水回りはここで集めているらしいな。
そして、目の前には受付とその隣に階段が見える。2階に部屋があると見ていいだろう。
「待たせたねぇ!いらっしゃい!お客さん!何泊だい!?」
「一泊で、部屋は2つ取れますか?」
「ちょいと待ってなぁ!」と受付に行った女性。活発な感じの女性だとは思ったが、まさかの男らしい口調だとは思ってなかった。まあ、魔物がいる世界なら居ても普通か。
「すまねぇが1部屋しかねぇな!1部屋で我慢してくれ!!」
「え?ちょっ!」
何も言ってないのに勝手に話を進めて番号の札が付いた鍵を投げつけてきた。慌てて受け取るが、俺はそもそも一緒の部屋には泊まらないんだが!?
「部屋代は金貨1枚、食事代は……ああ、めんどくせぇ!全部合わせて2枚だ!!」
「だから、泊まるとはーー」
「はーい、金貨2枚♪」
どこかに忍ばせていたのか、金貨2枚を女性に手渡し、鍵を俺から取り上げた。そして、さっさと階段に上って、早く来てなんて言う。……この世界に来てからなんかお茶目というか、おてんばになったな。
「うわ~、部屋綺麗!」
お嬢様はベット1つの化粧台がある程度の部屋に駆け込み、ベットに飛び込んだ。それと同時に視線を地面に向ける。一瞬スカート部分がめくれたのが見えたからな。下着は見えていない、見えていないからな!
化粧台を除いて、敷布団を敷けるくらいの広さはあるからそこで寝る事にしよう。それを実行する為に、手を化粧台にかかげると、お嬢様に横から手を掴まれる。
「何するの?」
「これを退かして敷布団を敷こうかと」
説明したのに手を離してくれない。向こうに居た時からお嬢様が並外れて強かったのは筋力。俺よりは強い事は無い……と思うが、かなり強くて、掴まれているところは鍛えているのに少し痛みを感じる。
「ねえ、退かさなくても良いんじゃない?」
「……お嬢様、やっぱりこの世界に来て積極的になりましたね」
「へっ!?」と変な声を出して急に手を離して顔を赤らめた。だが、さっきまで言っていた事の方が恥ずかしい事言ってたと思うんだが。
「それに、お嬢様は魅力的な女性なんですから、俺なんかと一緒に寝てはいけませんよ」
ついに黙り込んだお嬢様をおいといて、化粧台をなおす代わりに寝袋を取り出して置く。
「お嬢様、早く夕ご飯を食べに行きましょう」
「う、うん。待って」
お嬢様の羞恥の基準が全く分からないが、もっとお嬢様は俺が男性だという事を意識するべきだと思う。一緒に寝てた時なんて、俺が初めて屋敷に来てから1カ月間ぐらいだというのにな。
昔を思い出したかったんだろうが、紅葉さんの指導にお嬢様と寝る場合なんて想定されてないから、理性を保たせる方法が分からないし。
「食事を終えたらそのままお風呂に行きましょう」
「そ、そうだねっ」
少し声が裏返っているお嬢様は完全にいつも通りじゃないが、お嬢様のいつもはこんな感じと言われるとそんな気もするのがお嬢様らしい。
「おっ!今から飯かい!?メニューは壁に貼ってるから決まってから呼びな!!」
階段を降りていると、正面からは見難かったが、階段の隣に調理室があり、そこから料理を運んでいたという事みたいだ。
今出てきたところの係員に言われ、返事をする時間も無く行ってしまったので、階段を降りて左に進む。
「まだまだ人が多いね」
「静かにしていたら絡まれる事は無いでしょう」
初めて入った時から全く人が減ってない事に少し嫌気が指したが、気にしない事にして、今歩いてきた通路から折れ曲がった壁の所にある2人用の机に座る。向かいにお嬢様も座った。
メニューは言われた通り、壁に貼られていてどこから見ても全部見れるように全メニューを貼ってまた全メニューを貼ってを繰り返している。
「お嬢様はどうします?」
「うーんと、オススメ定食にしようかな?陸人は?」
「自分はスタミナ丼にしようかと思います」
頼むものが決まったところで、「すみません!」と呼びかけるとすぐさま来た。
「何にしますか!?」
「オススメ定食とスタミナ丼を。ドリンクはチャーで」
「かしこまり!!」
素早く去った係員を見届けて、お嬢様の方へと見ると、お嬢様はある一点を見ていた。それは馬鹿騒ぎをしている冒険者らしき人たちがお酒をがぶ飲みしているところだった。
「お嬢様、明日には出るんですからお酒は控えましょう。強いとはいえ、支障が少しでも出たら馬車移動は辛いと思いますよ」
「う、うん。そうだよねー。久しぶりに飲んだからまた飲みたくなっちゃって」
お嬢様は意外とお酒好きだからな。旦那様か奥様の許可なしでは飲めなかったから、久しぶりのお酒に反応しているのだろう。
「はいよ!お待ちぃ!!」
「早っ!」
「早さ命なんでね!!」
お嬢様がつい声をあげちゃったのも無理はない。僅か数分で来るとは俺も思わなかった。
目の前に並べられたお嬢様の定食は、見た目はサンマを太らせた感じの魚の定食で、俺のスタミナ丼は鶏肉?豚肉?かよく分からない肉がとにかくタレでこんがりと焼かれたものがご飯にたくさん乗せられている。
「それでは」
「「いただきます!」」
美味しそうな料理を、箸は無いらしいのでスプーンで食べた。スプーンでも意外に食えたが、お嬢様は流石に食いづらそうだったので箸を作り出して渡した。
チャーは完全にお茶。昔に来たという勇者が色んなものを広めたという事は城内でも騎士の人たちの会話を盗み聞いて知っていたので、チャーがお茶という予想が当たった。
食後は言っていた通り、風呂にした。俺が無限収納でなおしていたお嬢様の私物を取り出すのは流石に部屋に戻ってからやった。よくよく考えたら無限収納を見られる訳にはいかなかったな。
そして、いよいよ就寝の時が来た………。
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