職業通りの世界

ヒロ

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第2章 勇者活動という名の雑用

第43話 表と裏の代表

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「立ち話もなんだ、こっちへ来い」
「火に入れと?」

 飛んで火に入る夏の虫ということわざを知らないからか、少し首を傾げたが、何となく理解出来たようで、「そこは自己責任な」と言って歩き出した。
 今ここで帰っても良いだろうが、どうせならこいつらの目的やらを聞いておいて損は無いだろう。念の為に左手に片手銃を作り出しておく。これで置換転移を使いまくって逃げる事も出来るだろう。





「ここが俺たちのアジトだ」

 イグザは両手を目一杯広げ、笑みを浮かべながら言った。

 あの狭い脇道を通った先にあったのは店を3軒ほどぶち抜いたような空間で、酒場やらダーツ等の遊び場、ソファーに座って向かい合い何やら話し込んでいるガラの悪そうな奴ら。

 俺が入って来たのを見て、一瞬射殺さん程の睨みを利かせて来たが、イグザを見てすぐに視線を元に戻した。イグザが連れて来た奴なら安心とでも思ってるのか?
 俺たちは空いているソファーに向かい合って座る。俺の後ろにはさっき俺を囲んだ奴らが立っている。

「おめぇは俺たちがおめぇらにとって害があるか無いかが知りたいんだろ?」
「……もう情報が来てるのか」

 こいつは俺がお嬢様たちとこの街に入って来たのをもう知っているらしい。裏を取り仕切っているというのは嘘では無いらしい。それに、情報力もこの街においてはかなりの力を持ってそうだな。

「おめぇらはその髪を隠そうともしねぇから勇者だという事は一目で分かんだよ。その黒髪と黒目は歴代の勇者でも変わんねぇもんだからな」
「……いちいち隠すのも面倒なんでね」
「そりゃそうだなぁ~!」

 イグザは笑い出す。こいつは恐らく俺を取り入れようとしているんだろう。隙のあるような態度の裏にはいつでも俺を殺せるように、準備しているんだろうな。こういう手合いには少しでも臆したら負けだ。

「それで、あんたらの目的は何なんだ?内容によっては今この場であんたら全員斬り伏せるぞ」

 俺が強気の姿勢を出した瞬間、後ろの奴らが剣やら鉄棒を構え始めたので、その場から飛び上がって右端の奴を蹴って横にいる奴らと一緒に左側に吹き飛ばす。

「……ハッタリではねぇみたいだな」
「当たり前だ、じゃねぇとあんな事言えねぇだろ」

 突然起きた出来事に、怒りやら警戒の念がこもった目を向けてくる奴らを無視して勢い良く座る。
 イグザは俺に対して意識を変えたようで、真面目な表情になっている。ぱっと見では分からないが、いつでも腰に下げた剣を振り抜けるように手を近くに置いている。

「……俺たちの目的はこの街の代表であるガエンの抹殺だ」
「抹殺ね……、理由は?」
「ガエンの企みを阻止するためだ」

 抹殺と聞いて嫌な予感はしていたが、企みという言葉に思わず身をイグザに傾けてしまう。それを見たイグザはさらに口を開いた。

「あいつと俺は表と裏からこの街を守っていたんだ。表では裁けない奴を裏で裁き、裏では裁ききれない奴を表で社会的に裁く。おかげでこの街は平和だった」

 イグザは遠い目をする。まるで、遥か昔の事を思い出しているように。
 確かに、イグザたちの考えは正しいと思う。表でも裏でも、どうしても手の届かない犯罪者やクソ野郎は居る。だが、表では無理でも裏なら、裏が無理でも表なら、手の届く範囲になる。裏という時点で犯罪者という事実は変わらないが。

「だが、10年ほど前からあいつは変わっちまった。突然俺のアジトに守衛を連れて多くの仲間を殺し、捕まえて刑を執行した」
「別にずっと暗躍出来る訳では無いと思っていたが、まさかあいつが俺たちを告発するなんて……。ずっとこの街を守ってきた仲間だったというのにな」

 イグザの打ち明けた事は本当らしく、周りの奴らは泣くか怒るかに分かれていたが、ガエンの事を証明するような呟きをこぼしている。

「……分かった。こっちでもある程度調べて、お前の言った事が本当なら黙っておいてやる。だが、少しでもお前に不信を抱いたら告発する」

 告発すると聞いて怒りを表した男たちをイグザは睨みを利かせて黙らした。そして、俺に向かって軽く頭を下げた………。





「調べるって言ったが、どうやって調べようか」

 イグザたちの拠点から出て、平和な街中を歩きながら考える。まだ時間はあるから時間は気にしなくていいが、調査する方法が思いつかない。
 ガエンが居るところを聞き出して、姿を隠して侵入して物色するのが良いんだろうが、前みたいに見つかったら困るし、まずガエンは一体どこに居るんだ?

 そこらを歩いている守衛に聞いて答えてくれるとは思えないしな。もう諦めて黙認した方がーー

「今日お越しいただいたのは、この街の代表にして、犯罪心理に詳しいこの方!ガエンさんです!!」

 いつの間にか来ていた広場でイベントがやっていたらしく、司会の声を聞いて視線を向けた先にはガエンと紹介されてきた男が居た。
 真っ赤な髪はきっちりと固めてオールバックにし、スーツのような格好で声援に応えている。腰には一本の業物らしき剣を下げている。刃は見えなくても、鞘からしてかなりのものだと分かる。

「どうも、ご紹介に与かりました。ガエンです。この『触れ合いフェスタ』にこうしてご参加させてもらえている事に感謝しています」

 そんなこんなで、ガエンと司会が『触れ合いフェスタ』なるイベントの進行をしていっている。それで分かったのはガエンの人気はかなりのもので、老若男女から好かれ、明るくイケメンというなかなかの高スペックだと分かった。
 それに、佇まいや足取りから、かなり戦い慣れている事が分かる。歳はイグザと同じ40代くらいに見える。

「では、握手タイムとさせていただきます!ガエンさんとも出来ますのでどうぞ落ち着いてお並びください!!」

 ガエンの動きをジッと見ているうちにイベントの終盤に入ったらしく、今からイベントに来た芸人やらとの握手する時間になった。
 なかなか美人な女性や凄い芸をしている芸人にも人は来ているが、断トツで多いのはガエンだ。人気はとんでもないな。

 近くでガエンを見るために俺も並び、待つ事30分。ガエンは素早く握手をする方らしく、長蛇の列にしては早くも後50人で俺の番だ。
 50人の間で利き手を見れたが、ガエンの真意は分からずじまい。

 そして、いよいよ俺の番が来た。

「その髪は……!まさか勇者の方が来てくださるとは思いもしませんでしたよ」
「そうですか、俺はイグザだけでなく、あんたにも会えて良かったよ」

 イグザという単語を聞いた途端、微かに眉をひそめたガエンだが、すぐに笑顔に戻って俺から手を離し、次の人と握手していた。

 取り敢えず、エサは撒いた。後は釣れるのを待つか。

 すぐさまその場から離れ、お嬢様にスキル意思疎通を使う。

ーピコン
『ひゃっ!いきなりどうしたの?』
 すみませんが、少し用事が出来ましたので宿には3人で泊まってください。宿にはお支払いを済ませておきますので。
『え?そんな急に!?』
 すみません、どうかご理解ください。自分に単独行動の許可を。
『………明日の昼ごろにはこの街を出るんだからね?』
 ……承知しました。

 少し納得してない様子だったが、お嬢様から許可はもらった。あんまり気は乗らないが、影ながらお嬢様の身を守る事をしていると思えば、やる気も出るな………。


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