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第4章 帰り道が騒がしい
第56話 物騒な再会
しおりを挟むカトラと話をしてから、馬車の中の雰囲気が良くなった。カトラが俺の代わりにお嬢様に向こうの話を聞いていて、それをメサたちも横から聞き耳を立てている。
向こうでの常識はここでの非常識、俺らも初めて来た時は知らない事ばかりで驚いていたように、カトラたちはずっと驚いてばかりだ。
《ニースベル》へはもうすぐ着く予定だが、正直、入りたくないところだ。
『闇夜の暗殺者』には狙われるし、表と裏の権力争い(?)みたいなのも知ってしまったし、《トレナス》以上に近寄りがたい街だが………、食料問題は深刻だから寄らない訳にはいかない。………マジで食料が腐らなくて、無限収納みたいに収納出来るスキルが欲しいな……。
スキル
・異空間倉庫 (執事たる者、食料の備蓄は入念に)
を獲得しました。
うわっ、念じてなくても出来た。……思えば、念じるのも強く思うのも一緒だな。
……それにしても、スキル一覧が長いな。困った度に創ってたら多くなるのも無理は無いが…まあ多い方が良いだろう。という事でスキルが多すぎる件には目を瞑っておこう。
そんな事を考えている間に、いよいよ門が見えて来た。証明書を見せてさっさと買い出しを終えたら宿にこもった方が良いかもしれないな。
そんな事を考えていた場合ではありませんでした。
「勇者様だな?大変失礼だと承知しているが、ガエン様がお呼びだ。よって、あなた方を拘束させてもらうぞ」
20もの門番が俺たちの馬車を取り囲み、証明書を見せた俺に向かって何かの令状を突き出した。それによると、どうやら俺たちに犯罪者の疑いがあるから、ガエンの自宅に来いと。
いや、なんで自宅なんだよ。普通は警察署みたいな、守衛がたくさんいるところに連れて行くだろ。完全に待ち構えているよ。殺す気満々だろ、コレ。
「陸人、何かした?」
「どちらかと言うと、口封じですかね」
この街で暗殺者に狙われた事を知っているお嬢様が声を潜めて聞いてくるので、口封じだと伝えると、お嬢様の表情は見るからに険しくなった。
「構いませんが、お嬢様たちは関係無いので自分だけで良いですか?」
「ちょっと!陸人っ!!」
俺の背中を掴んで揺さぶるお嬢様を放って、揺れる視界で門番を見る。……書類に目を通している。その書類に何が書かれているかは大体検討がつく。だからーー
「問題は無い。では、お連れする」
門番はそう言って、街の中へと歩き始めた。俺も馬車から降りて付いて行く。お嬢様が背後で叫んでいるが、今回ばっかりはお嬢様は連れて行けない。
相手は多分、『闇夜の暗殺者』だ。魔法使いであるお嬢様とは相性が悪すぎる。逆に俺との相性は悪くは無いから、常に集中していたら死ぬ事は無いだろう。
「……これはこれは。勇者様、わざわざご足労頂き、ありがとうございます」
無駄にデカイ、西洋館のような屋敷に招き入れられ、大きな応接室のような部屋に連れられて入ると、何やら書類にサインをしていたガエンが俺に気付き、仰々しく頭を下げた。
少しイラついたが、抑えてガエンと向かい合うソファーに座る。ガエンは向かい合うソファーの間にあるテーブルに並べられた書類を片付け始めた。
「微塵にも思ってない事を言うな。で、要件は何だ?」
「勇者様はあまり肝が据わってない方が多いと聞いていたんですが……あなたは違うようですね」
イベントで見た、人受けの良い明るいイケメンという感じは一切感じられず、色々暗躍してそうな、裏の重鎮のような雰囲気を漂わせてくる。
……確かに、こいつはイグザの言った通り、ただの代表では無いらしい。
「俺は勇者じゃなくて、執事なんだ。仕える者を恐喝するような輩を追い返すのも慣れているんでね」
「おやおや、その格好通りでしたか。てっきり、正体を隠す為にした工作かと。……まあ、その髪と目がある限り変装は無意味ですが」
遠回しな、言葉の裏に隠された嫌味の応酬が続く。こういう奴の目的は案外シンプルなものが多い。
候補は2つ。一つは俺の抹殺。まあ、これが妥当だろ。イグザとの繋がりを知っていて、なおかつ勇者(見た目だけ)となると周りの奴は俺の言う事を信じる可能性が出て来る。殺して黙らせるのが確実だ。
そして、二つ目はお嬢様たちを人質にとって従わせる。これはあり得そうだが、それなら一緒に連れて来た方が手間も無くなる。これは薄いな。
つまり、こいつの目的は抹殺か?なら、いつでも戦闘態勢をとれるようにしないとな。
「ーーで、結局何を言いたいんだ?」
意識はもう出来て、スキルも空間把握と気配探知を使って奇襲の対策は出来たので、単刀直入に聞く。
ガエンは俺が単刀直入に聞いた途端、不気味に笑った。まるで、不気味な笑みを浮かべている猿のオモチャのように。
「もう気付いているのでしょう?あなたを帰す気は無いと」
「何となくな。で、『闇夜の暗殺者』でも使う気か?」
『闇夜の暗殺者』の単語が出て来るのは予想外だったようで、一瞬真顔になったが、すぐに不気味な笑みを浮かべて肯定した。
「ええ。彼らも取り逃がしたあなたを仕留めたいと意気込んでいまして……。黙って死んでもらえますか?」
「お断りだっ!」
俺が喋る前にいきなり俺の足下の影からナイフが飛び出し、それをソファーの背に手をつけてバク転をして躱す。
だが、宙に浮いている間に地面に出来た影からさらに五本のナイフが飛び出した。それは"ブレスト"で吹き飛ばしたが、人が持っていたらヤバかったな。
「流石は勇者様……いや、異界の執事。動きが超人みたいですよ」
「……俺の心配より自分の心配をしろよ」
左手にリボルバー型の片手銃を作り出し、ガエンに撃つ。てっきり非戦闘員だと思っていたが、そうでも無いようで、眉間めがけて飛んだ弾を背を反らして躱した。
「異界の人が知り得る武器は殺傷能力が高いものばかりですね。銃といい、………核といい」
「核っ!?」
思わず大声を出してしまうと、ガエンは今日イチの笑みを浮かべた。まるで、ずっと待っていたものに出会えたように。
「やはり、過去の勇者が言っていた核なる兵器は存在するんですかっ!!何百万人もの人を一瞬で殺せると言われる兵器は存在するのか!!」
全く、昔来た奴はなんて事を言いやがったんだ。核なんて、この世界には早過ぎるし、そもそもこの世界と向こうでの理論やら法則は一緒だとは限らないだろうに。
大体は一緒だとは思うが、ちょっとした違いでもあれば同じものは作れない。そんな事も知らないのか。
「殺すと思っていたが、やめましょう!会話が出来るのなら何でも良いので、こいつをーー」
感情が高ぶり過ぎて気付かなかったのか、それとも元から気付けるほどの力量が無かったのかは定かでは無いが、起こった事は変わりない。『闇夜の暗殺者』が背中からナイフを刺した事実は。
「……がふっ、……何故だ?……何故、俺が……」
刺した『闇夜の暗殺者』の構成員の服にしがみ付いて抗議しても、既に時は遅く、致命傷を受けたガエンは倒れて生き絶えた。
「……執行を始める…」
「結局、襲って来るのかよ」
少しでも襲って来ない可能性を信じていた俺を嘲笑うかのように、10人の暗殺者が俺の目の前に現れて襲ってきた………。
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