借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒楓

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1巻

1-3

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「じゃあみっしー、まずはその左足、なんとかならないか試してみるぞ」

 俺はそう言った。

「え、腕からじゃないの?」

 確かに、みっしーの右腕はテレポーターのトラップのせいで壁と同化している。
 ……そう、同化しているのだ。
 こっちのが厄介そうな問題だったので、あと回しにする。

「いや、足から行こう。俺のスキルは“マネーインジェクション”。現金をマナ……つまりパワーに変えて、自分や他人に注入することができるんだ。自分のパワーアップとか、MPの回復とかもできるし、直接治癒スキルとしても使えるんだ」

「ほえーなるほどね、すごいね基樹さん、レアスキルだ」

「で、この注射器でパワーを注入するから……ほんと、ごめんだけど、お尻に打つんで……。こんな大ケガ治したことないからわからんけど、多分患部に近い方がいいと思うんだよな……。あの、ほら、太ももの根元から食いちぎられちゃってるし……」

「お、お尻……」

 みっしーはその大きくて綺麗な瞳で、注射器のぶっとい針を見つめる。
 まあ、確かにこいつの針はバカでかいし、それなりに痛いので怖いのは当然だ。

「すー、はー、すー、はー、すー、はー」

 深呼吸をするみっしー。そして、

「……うん、しょうがないよね、ちょっとおっかないけど、基樹さんにおまかせだ! お尻を出せばいいんだね」

 そう言ってみっしーはお尻を俺の方に突き出す。
 水色のショーツがいやに生々しい。
 うう……妹以外の女の子の下着なんてこんなにもろに見たの初めてだぞ……。
 みっしーは懇願するような表情で、真っ赤にした顔を俺に向けた。

「な、なるべく痛くないようにしてね……」

「あ、ああ……」

「ええと、パンツを脱いでお尻を広げたらいい……のかな?」

 そして水色のかわいらしいパンツをずらそうとするみっしー。
 その瞬間、俺は後ろから紗哩に目をふさがれた。

「ん? なにしてるの、ふたりとも?」

 不思議そうに尋ねるみっしーに対して、

「ちがーーーーーーーーーーーーーう!!!」

 思わず大声で突っ込んでしまう俺。

「お尻と言ってもお肉の方! そっちの、そっちの、出口じゃなくて!」

 するとみっしーは自分の勘違いに気づいたのか、

「ひゃーっ」

 と短い悲鳴をあげた。

「あ、そういうこと? うわ、恥ずかしい……。あの、なし! 今のなし! 忘れて! 忘れて! はい、今の忘れたね!? 」

「はい忘れました!」

 思わず敬語になっちゃったぞ、俺。
 ……ふう。
 死にかけているのにこの緊張感のなさはなんだ?
 やはりこれくらいの性格じゃないと、日本人一億二千万人のトップクラスに君臨くんりんする配信者にはなれないってことだろうかね。
 それにしたってビビったわ、女の子のあんな場所、見ちゃうとこだった。
 俺、間一髪かんいっぱつで大人の階段を上ってしまうところだった……。
 いやまあ俺ももう二十代の大人なんだけどさ……。

「お兄ちゃん、なにボーッとしてるの、早く治したげて!」

「あ、ハイ」

 俺は慌ててみっしーの尻たぶに、注射針をブスッと無造作に刺した。
 ずぶり、と注射針が根元までみっしーのお尻の肉に埋まる。

「いだだだだだだだーーーーーっ! きゅ、急に刺すのは意地悪だってば!」

「うわっ、ごめん」

 言われてみればそのとおりで、俺はあまりに動転していたのだった。
 しかし、俺と同じ立場に立ったDTで動転しないというやつがいるんだったらここに連れてこい。
 さて俺はプランジャーをぐいっと押し込んでパワーを注入する。

「いっっっっったあああぁぁぁぁぁぁ」

「すまん、もう少し我慢してくれよ……」

「いだだだだ!」

 痛みで叫ぶみっしー。
 さらにプランジャーを押し込み、パワーを注入していく。
 自分の能力ながら、百万円分を注射したのは初めてのことだ。
 どうなるかと見てたら――。
 注入した瞬間、みっしーのお尻がシュバッと光った。

「熱い! お尻があっつい! あちちちちち!」

 みっしーが叫ぶ。
 そして、なにかが焦げるような匂いがして――。
 ジジジッ!と、3Dプリンタで出力しているみたいに、みっしーの太ももの根元から足が再生していく。

「あつい、あちち、いやこれまじで熱いんだけど、今どうなってる?」

 みっしーが顔をゆがめて尋ねる。
 紗哩が嬉しそうにそれに答えた。

「みっしー、足が復活してきているよ! すごいすごい!」

「え、まじで? じゃあ我慢する! ……あちちちちち! 熱い、痛い、熱い、痛い、あついたいいいいぃぃ!!」

 みっしーの悲痛な叫び声。

〈おいおい、どうなってんだこれ?〉

〈みっしー大丈夫か?〉

〈みっしー頑張れ!〉

〈みっしーの悲鳴だけ聞こえる・・・〉

〈がんばれー!〉

〈みっしー!!〉

「コメント欄でみんなも応援してるぞ、我慢してくれ」

「う、うん、みんなありがとー! 熱い熱い、あちちち、み、みんな大好き……あつーーーーい!」

 どうにかこうにか、みっしーはその熱さと痛みに耐えきった。
 時間にすれば十五分ほどだろうか?
 みっしーの失われた左足が復活したのだ。

「どうだ、動くか?」

 俺が聞くと、みっしーはその場でとんとんと軽く足踏みをする。
 そして「おー」と嬉しそうな声をあげて言った。

「すっごーーーーーい! 治った! 治った! 基樹さん、ほんとにすっごい! この能力、世界を救えるよ! たったの百万円で片足治った! ほんとすごい! 基樹さんのスキル、やばすぎ!」

 たったの百万円とか言うけどさ、俺の金銭感覚だと、とんでもねえ金額なんだけどなー。

「みっしー、とりあえずこれ腰に巻いといて」

 紗哩がみっしーの腰になにか布を巻いてあげている。
 今まで履いていたボトムスは血まみれのぼろぼろでもう使いものにならないのでその代わりだろう。

「アイテムくるんでいた風呂敷で悪いけど……こんなもんしかなかったから」

「紗哩さんありがとうございます!」

「いいよ、紗哩って呼び捨てで。それに、ため口でいいからね!」

「うん、ありがと紗哩……ちゃん! ……風呂敷ってなんかレトロ」

「いやいや、すっごく便利だよ、ダンジョン探索にはマスト。かさばらないし、いろんなもの持ち運べるし、ちょこっと魔法をエンチャントしておけばいろいろ使えるし」

「そうなんだ。うわー、この風呂敷、おしゃれでいいね、けっこうかわいくない?」

 みっしーの言うとおり、花柄の風呂敷だからわりとみっしーに似合っている。
 薄い風呂敷だから水色のショーツが軽くシースルーで見えるけど、そうと知らなければわからないだろう。
 しかしほんと、風呂敷巻いただけだなのにすごくガーリーで可愛らしく見える。
 まあ美少女なんてものはなにを着せたって似合うもんだけどさ。
 さて。
 俺は今度は、みっしーの右腕を確認する。
 肘のところまで壁に埋まっちゃって、どうしたってこれは外せそうになかった。

「じゃあ、次は腕だけど……これ、テレポーターのトラップで壁と同じ位置にテレポートしてしまったということは、多分、壁と同化しているんだと思う」

 まあ、ダンジョン探索者にはごくまれに聞く話だ。

「え、じゃあこれどうするの?」

 うーん、言いにくいなー。
 言いにくいけどさー。
 そんな俺の表情を見てみっしーの顔は少し青ざめる。
 そして、みっしーは震える声で俺にこう聞いた。

「まさか………………き、切り取る……?」

 俺は顔をしかめて頷いた。
 みっしーは俺を見つめたまま唇をきっと引き締める。

「わかった。いいよ、やっちゃって……。いや、ちょっと待って、今画像止めているよね? もう一度オンにして」

〈お? うつった〉

〈うつった〉

〈復活した〉

 次々と流れていくコメント。

〈みっしー無事だ、良かった〉

〈すげー、足が復活してる〉

〈お兄ちゃんすごすぎない?〉

〈このスキルやばすぎる〉

〈でもまだ右手が壁とくっついてるぞ?〉

「はいみんな、こんばんは! みっしーです! 心配かけてごめんね! いろいろあったけど、えーと、ここにいる基樹さんと紗哩さんのお陰でまだ私、生きてます!」

〈良かった〉

〈みっしーの声が聞けてまじ涙がでる〉

〈もうだめかと思った〉

「さて、今から、私、右腕を切り落とします!」

〈!?〉

〈は?〉

〈!?〉

〈どゆこと?〉

〈まじか、それしかないかとは思ってたけど〉

 それを配信してやろうってのか、うーん、すごい配信者としてのプロ根性。

「で、みんなにお願いがあるの。ここにいる基樹さんはえっと、お金をパワーに変えるマネーインジェクション? だっけ、そういうレアスキル持ちで、みんなの応援があると私の右腕も切り落としても復活できると思うの! ほら、左足は復活したよ、見てみて!」

 スラリとした足をカメラに見せつけるみっしー。

〈綺麗〉

〈エロい〉

〈みっしーの足細くて綺麗!〉

〈あたしは足より耳が好きだから耳を映して〉

〈SS級以上の治癒魔法じゃなきゃこれ無理だろと思ってたけど〉

〈みっしー足なげーな〉

〈お兄ちゃんすごいなほんとに足を一本復活させた〉

〈使い方次第でトップレベルのスキルだな〉

〈肌綺麗だよなー〉

「だから、えーと、あんまり直接的に言うとBANされるからきちんと言えないけど……」

 そうなのだ、配信中にお金をねだる行為は規約によって禁止されている。

「えっとね、えー。うまく言えないや。あれなんだけど、つまりそういうことです!」

【¥50000】

【¥34340】

【¥100】

【¥50000】

【¥800】

【¥2000】

【¥34340】

【¥240】

 ……
 …………
 ………………

 ものすごい勢いでサポチャが入ってくる。

「うわー。すごい、お兄ちゃん見て! こんなの見たことない……」

〈お兄ちゃん、俺たちのみっしーを助けてあげて!〉

【¥50000】〈金で解決するんならいくらでも出すぞ。ほんと頼むぞ〉

 :同時接続数 112万人

 ★

「いい? 基樹さん、紗哩ちゃん。これから基樹さんがマネーインジェクションを使うときは、必ずそれを配信にのせてね? で、ちゃんとアーカイブが残る形にして」

 硬い表情でそう言うみっしー。

「やっぱり、人気配信者ともなると、どんなことでも配信にのせちゃうんもんなんだな」

 俺がそう言うと、みっしーは大きな声で否定した。

「違うの! そんなんじゃないの! 私は基樹さんがきっと私を生還させてくれると確信してる。で、心配なのはそのあとのことなの。これをやっておかないと、ダイヤモンドドラゴンよりも恐ろしいモンスターに人生を食われることになるの!」

 な、なんだと?
 SSS級ダンジョンのラスボス、SSS級モンスターであるダイヤモンドドラゴンよりも恐ろしいモンスター?
 そんなの、いるのか?

「みっしー、なんのこと言ってるの? そんなモンスター本当にいるの?」

 紗哩がおびえた声で尋ねる。

「そうよ、教えたげる。そのモンスターの名は……」

 みっしーはそこでほうっと一息ついて、そして、キッと俺たちを睨みつけるようにして言った。

「国税よ!」

「は?」

「国税庁と税務署よ! あいつらやばいから! ほかの事務所の人だけど、税務調査に入られて財産全部持っていかれてた……。油断しているとすべてを奪われる……すべてを……。いい? 私たちは配信業としての必要経費として基樹さんのマネーインジェクションを使用するの、そうでしょ?」

「あ、ああそうだな……」

「なら、マネーインジェクションに使用したお金は当然、すべて経費よね? 全額経費計上! このスキルってさ、さっき見たところ確定前の収益額まで使用できるみたい。多分日本ではこのスキルについての前例がないからこれがどう判断されるか正直私にもわからない。だけど、あいつらは悪魔よ」

「みっしー、顔が怖いよ……」

「怖いのは税務署よ、どういう理屈をつけて課税してくるかわからないわ。だからそのリスクをけるためにも、マネーインジェクション、特に高額のマネーインジェクションを使用するときは絶対に配信内でやること! 経費にするから! わかったね?」

 すげー迫力で言われた。
 そ、そんなもんなのか……。
 ダンジョン配信と税金……今まであんまり考えてこなかったな……。

「今回私がダンジョンに来たのも四百五十万円の稲妻の杖を経費計上するためだから」

 それが今回のテレポーター事故につながったわけか。

「たとえ話をするね。たとえば十億円のサポチャがありました。そのうち九億円をマネーインジェクションで使いました。残りは一億円です。で、国税がその九億円を配信の経費として認めなかったら、税金は十億円に対してかかるの。半分くらい持っていかれるよ。わかりやすく言うと五億円を払えって言われる。手持ちが一億円しかないのに、五億円をどうやって払うの? 税金は自己破産しても免責されない、つまり逃げられない債務だから人生終わりよ」

 迫真の語りだな。
 十八歳でこのリテラシーはある意味モンスター級だわ。

「まあ、税金についてはわかったよ。じゃあ、さっそくだけど、ええと、セット、Gaagle AdSystem! 残高オープン!」

[ゲンザイノシュウエキ:1,483,220エン]

 すげーさっきの一瞬で百万円も入った。

「これ、みっしーの人気なら、一日で数億円入りそう……」

 紗哩の言葉に、みっしーはかぶりをふった。

「ううん、そうはならない。なぜなら、Gaagleの規約で、一日にサポチャできるのは、一人五万円が限度って決まっているから。だから、一人のお金持ちが百億円サポチャしたくてもそれはできない」

 なるほどなあ。
 みっしーレベルだと、命を助けるのに数億円出す金持ちがいるかもしれんが、それはこのYootubeのシステム上無理ってことか。

「一人五万円までが上限で、サポチャくれる方の人数は有限。だから、せいぜい一日数百万円だと思うよ。まあ、今日一日だけについてはもっと行くと思うけど、何万円も毎日サポチャし続けられるほどの余力のある人は限られているから、日が経つにつれ少なくなっていくと思う」

 ちなみにこういうときの会話は、マイクをオフにしてる。
 基本的には俺が身に着けているボディカメラで撮影したものを配信していて、それとは別に紗哩もボディカメラを持っているから、そっちに切り替えることもできる。
 このボディカメラは取り外して手持ちでも撮影はできるぞ。

 さて、みっしーの説明でいろいろわかったな。
 国民的配信者、みっしーが同行しているとはいえ、俺の能力を無制限に使えるわけではなさそうだ。

「さっきのカスモフレイムってS級モンスターなんだが、倒すのに十万円のマネーインジェクションが必要だった。このさき、SS級やSSS級と戦うこともあるかもしれない。そのときのために残高は残しておかないといけない。だから、スキルの発動するときは、その金額を十分に考慮しなきゃいけないんだな」

 俺の言葉にみっしーは厳しい表情で頷く。

「私、yPhone持っているから、一応、私も配信はできるの。でも、基樹さんのスキルを最大限に生かすのにリスナーを分散させちゃいけないから、私は配信しないね。基樹さんのチャンネルにリスナーを誘導するのにちょっとだけはやるけど」

 うむ。
 いろいろ考えなきゃいけないな。

「んー、あたし難しいことわかんない……コクゼーってなに? ゼーキンは消費税で払ってるよ?」

「うん、紗哩、お前は難しいことはお兄ちゃんにまかせとけ」

「はーい!」

「……二度と勝手にFXの口座開設したりするなよ……」

 紗哩はかわいい妹だけど、アホなのが玉にキズなんだよなあ。
 税金についてなにもわかっていなかったんだな。
 万が一あんときFXで利益を得ていたとしても、納税とかしなかったんだろうな……それを思うと怖いな。
 もう一生俺が面倒見てやろう。

「それはともかく、みっしーの腕を切り落とさなきゃならないな……。みっしー、悪いけど覚悟を……」

 と、そこで俺の言葉を遮るようにしてみっしーが口を開く。

「FX? 紗哩ちゃん、そんなのやってたの?」

「うん! 楽しかったよ!」

「あれって、日本円とかドルとかユーロを買ったり売ったりして差額を儲けるってやつだよね?」

〈いろんな通貨で取引できるぞ〉

〈レバレッジっていう手持ちの金の二十五倍の金額まで取引できたりするやつもある〉

〈ってかシャリちゃん、そもそも去年自己破産してるなら二十五倍で取引とか無理でしょ、普通ならFX会社の方で拒否するよ〉

 ところが紗哩はなぜか自慢げな顔で言うのだった。

「えっへっへー。実はねー、海外の超怪しい国の超怪しいFX会社だと五千倍までいけたんだよねー」

〈草〉

〈大草原〉

〈それは手を出したら駄目なやつぅ!〉

〈それって儲けは五千倍だけど、損も五千倍ってこと?〉

〈そうだな、手持ちは十万円しかないのに五億円分のユーロを買える。そしてそのユーロの価値が二割下落したら一億円の損ってわけ〉

〈こないだの歴史的ユーロ安って二割じゃ効かなかったじゃん〉

〈払えないじゃん? どうすんの?〉

〈大丈夫、ゼロカットシステムっていってそうはならない仕組みがある〉

「ところがそこの超怪しいFX会社にはそんなのなかったんだよねー」

 サイドテールの毛先を揺らし、屈託のない笑みを浮かべる紗哩。
 笑い事じゃないぞ、ほんとに。
 みっしーが不安そうな顔で紗哩に尋ねる。

「じゃ、その借金、どうするの?」

「どうするもなにも、だからあたしとお兄ちゃんがこの生還不可能のダンジョンに来たんじゃーん」

〈なんでそんなにノリが軽いんだよw〉

〈シャリちゃんは馬鹿っぽくてかわいいなあ〉

〈そうは言っても妹が一億二千万円の借金つくってきたら失神する自信がある〉

〈それでこの心中配信につながるわけか〉

「いや、もうこの話題はやめてくれ。俺たち兄妹の恥なんだよ、ほんとに恥ずかしい……。さて、みっしー、その右手なんだけど」

「あー。やっぱ、切るんだよね……。さすがに怖くてお喋りで先延ばしにしてたけど」

 うん、わかってた。
 やけに不自然にFXの話に食いついたもんな。
 まあ、腕を一本切るんだもんな。
 怖くないわけがない。
 今からこの刀であなたの腕を切り落とします、と言われて怖くないやつなど人類にはそういないだろう。

「まず、俺が刀で切り離す。マネーインジェクションするから、スパッと切り離せると思う。痛み止めが……あればいいけど、ないんだ」

「あはは、怖いね~……。魔法で私を眠らせるとか、できない?」

 それは名案だけど。

「ごめん、俺も紗哩も昏睡こんすいの魔法を覚えていないんだ……すまん」

「あはは~じゃーしょうがないねー」

 顔は笑ってはいるけど目が笑ってない。当然と言えば当然か。

「で、そのときの外傷性ショックとか出血性ショックで命にかかわることもある。だから、切り離すと同時に紗哩が治癒魔法をかける。止血くらいはできるはずだし、痛みもある程度収まると思う」

「いや~怖いな~……あはは」

 ひきつった笑いのみっしー。

「んでもってすかさず俺がマネーインジェクションで腕を復活させる。さっき、左足は百万円で復活できたから、右手も同じ金額でいけると思う」

「は、ははは……。一日のうちに左足をモンスターに食いちぎられて、右腕を刀でぶった斬られる女の子って、世界で私だけ……だよね……?」

「まあそうだろうな」

「世界で唯一だなんて、いい体験だね! ……怖いけど……。じゃ、みんな、応援よろしくね!」

【¥2000】〈みっしー頑張れ〉

〈これ、配信外でやれば? 配信中にやらなくても〉

〈そうだ、配信をいったん切ってやってくれ〉

「それはだめ!」

 ビシッとみっしーが言う。

「私には配信者としての責任があるから! やります!」

 ……責任じゃなくて税金対策だけどな。
 でもよく考えたら、この場合課税されるのはチャンネルの所有者である俺だから、別にみっしーがそこまで自分の身体をはらなくてもいいはずだけど。

「このチャンネルは俺のチャンネル……」

 それを言おうと思ったら、すかさずみっしーに遮られた。

「まかせて! ダンジョン配信、世界に数あれど、美少女のこんな衝撃展開そんなにないでしょ! この私が! 生き残るためのサバイバルなんて最高のエンターテイメントよ!」

 そして俺に向かってウインクするみっしー。
 やばい、ほんとに聖人か、こいつ?

「じゃ、やっちゃって!」

「ああ、じゃあ、やるぞ。インジェクター、オン! セット、一万円!」

 そして注射器を自分の腕に刺してパワーを注入する。
 力が全身にみなぎってきた。
 それを確認して、俺は刀を鞘から抜いた。
 無銘むめいだし、高級な刀じゃないけど、そこそこの切れ味の一振りだ。
 刃がギラリと光る。
 それを見たみっしーの顔が見る間に青ざめた。
 ……そりゃそうだ、こんな状態で怖くない人間なんて多分存在しない。
 カタカタと細かく震え始めるみっしー。

「ちょ、ちょっと待って。やっぱ怖いから、あのね、目、目隠しして。紗哩ちゃん、なんか持ってない?」

「あ、うん、この風呂敷でいい?」

 背負っていたバッグから風呂敷を取り出す紗哩。
 こいつ風呂敷好きだよな。
 それでみっしーの目をふさいでぎゅっと固く結ぶ。

「あ、あと、なんか噛むもの。噛むものほしい」

「じゃあこのタオル噛んでて」

 紗哩がみっしーにタオルを噛ませる。
 さて、用意はできたかな。
 目隠しされ、タオルをぎゅっと噛みしめた美少女を前に、俺は刀を振りあげた。
 なるべく痛くないように、スパッといかないと……。
 狙いをよく定めて。

「ふー、ふー、ふー!」

 みっしーは緊張で息遣いが荒くなっている。
 俺も俺で女の子に斬りつけるなんて生まれて初めてだから緊張するなあ。
 ――よし、いくぞ!
 俺は無言で刀を振り下ろした。
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