借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒楓

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2巻

2-3

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「おわっ」

 俺もびびって声をあげる。
 一瞬のことだった。
 石化していたアニエスさんの身体が、瞬時にもとへ戻ったのだ。
 ちょうど俺たちはアニエスさんの身体を中心に円を描いて座り込み、これからの方針を話し合っていたところだった。

「あれ? 身体、動く……」

 アニエスさんが寝起きみたいなポカーンとした表情で呟いた。

「アニエスちゃん! よかった、戻った!」

 ローラさんがアニエスさんに抱きつく。
 まあ、とにかく、なにがなんだかわからないが、よかった。
 これで、俺たちは五人パーティになったし、メンバー構成もSSS級が二人、SS級が一人、S級が一人、A級が一人。
 まあ万全ではないけどSSS級ダンジョン攻略も現実的になってきたか。

「おい、ローラ、離せ……」

「えーいいじゃん!」

 嫌がるアニエスさんにほっぺたすりすりするローラさん。
 アニエスさんの真っ白で綺麗な肌と、ローラさんの褐色の綺麗な肌が、ぷにぷにとこすりあわされる光景はなんというか、平和でほっこりするな。
 ローラさんは本当にうれしそうな顔で言う。

「さすが私のアニエスちゃん、石化も自力で治しちゃったね! おなかすいていない? 大丈夫?」

「すいてる……でも、その前に……トイレしたい……」

「あ、じゃ、一緒に行こう!」

 アニエスさんとローラさんが連れだって俺からは見えない角のところまで行く。

「あ、あたしも……」

「じゃあ私も……」

 ついでに紗哩とみっしーもついていった。
 女の子って連れション好きだよなー。
 でも、ダンジョン探索という極限状態にいると、女性のその習性の利点もわかってきた。
 男はまだ立ちションで立ったままできるけどさー。
 女の子のその瞬間はまじで無防備で、だからこそ実際に今回の探索でもそこを狙ってヴァンパイアに襲われたりもしたしさ。
 やっぱり、無防備な瞬間を守るためには集団行動が一番いいよな。
 ……うーん、でもさすがにあのメンバーが揃ってたら大丈夫だろ、音が聞こえないところまで離れてようかな。
 っつーか、俺もちょっとおしっこしたい……。

「配信見てるみんな、すまんな、二~三分カメラ止めるぞ」

 そう言ってカメラを止め、俺も端っこの方で用を足すことにする。
 あ、そうだ、音声も止めておかなきゃな。
 ミュートボタンを押そうと思ったその瞬間。
 突然!

「ピーーーーーーッ!!」

 鳴り響くホイッスルの音、ええ!? 嘘だろ、まじかよ、嘘だろ、またかよ!?

〈敵襲か!?〉

〈またか?〉

〈お兄ちゃん、急いで!〉

〈走れ!〉

〈もうお兄ちゃんのそばでおしっこしろよ……〉

〈年頃の女の子だからこればっかりはしょうがない〉

〈くそ、次から次へとトラブルだな!〉

 とりあえず刀を抜いてダッシュする。
 今度はなんのモンスターに襲われたってんだ!?
 俺が駆けつけると目に飛び込んできた光景は。

 えっと。

 おしっこするためにしゃがみこんだ状態の、アニエスさんの後ろ姿だった。

 マントと下半身の風呂敷は取っちゃってるから、まあなんというか、胸に風呂敷を巻いただけの、半裸だ。
 おしりがまん丸くて綺麗。
 で、その下半身裸でしゃがみこんでいるアニエスさんが、俺の方向に向かって、そのままの体勢でごろんと転がってきた。

 ……石化してる……。

 あの、なんというか、石化したとはいえ、人間そのものだから当たり前だけど、なんというか、すべてがこうリアルで、リアルな感じでさ、お股のあたりとか、ええと、あのー。

お兄ちゃんのエッチピピーピピピピッピ!!!」

 紗哩がホイッスルを咥えたまま叫ぶが、それは全部笛の音に変換されている。
 いや、なに言っているのかわかんねぇぞ。
 そして俺の頭に風呂敷をかぶせる紗哩。
 ……この風呂敷、なんかいい匂いがするなあ……。

「紗哩ちゃん! それ、さっきまでアニエスさんが腰に巻いてたやつ……!」

 みっしーの声。

「お兄ちゃん、なにを頭にかぶってんの?」

 紗哩が怒った声で言うが、お前がかぶせたんだろうが!? そりゃ逆ギレだぞ!

「基樹さんのエッチ! あ、息吸っちゃダメ、息を止めて! 止めなさい!」

 みっしーにまでエッチ呼ばわりされてしまった。冤罪えんざいだろこれは!
 そのままみっしーと紗哩二人に肩を掴まれて後ろを向かされる。
 当然風呂敷は没収。

「もう、お兄ちゃんのばかっ!」

 紗哩にペチンと軽く頭をはたかれる。
 ……理不尽な。
 お前がホイッスルで俺を呼んだんだろ!
 風呂敷をかぶせたのもお前だし!
 っていうかさー、これ、いったいどういう状況なんだ?

「と、とにかく、お兄ちゃんは向こうに行って!」

 紗哩に背中を押される俺。

「いや、お前が呼んだんだろ?」

「びっくりしちゃったんだからホイッスルくらい吹くよ! と、とにかく、あっち行って。も、漏れちゃう……」

 そこにみっしーもおずおずと、

「あのー、……私も……」

 と言った。
 あ、はい。
 紗哩だけならともかく、みっしーにまで言われたらすごすごと引き下がるしかない。
 俺はいったんその場を離れる。
 数分経つと、紗哩とみっしー、それにローラさんが三人がかりで風呂敷に包んだアニエスさんを運んできた。
 そのアニエスさんはしゃがんだ体勢のまま石化していて。
 ……シュールすぎる……。

「モトキ、言っとくけど、今アニエスちゃん普通に意識あるから。変なとこ見ないでよ」

 ローラさんがそう言う。
 そっか、さっき俺がアニエスさんのこんな姿を見たの、本人もわかっているってことか……。

 気まずい!

 と、とにかくだ……。

「これ、どういうことだ……?」

 俺の問いに、ローラさんが顔をしかめて答える。

「うーん、アニエスちゃんね、舌に状態異常を抑える効果のある聖石をピアスみたいにして埋め込んでいるの……」

「舌……」

「そう。ってか、私も同じの埋め込んでいるの。ほら」

 ベロを出すローラさん。
 なるほど、舌のなかほどに、青い宝石のようなものが埋め込まれている。

「お揃いなんだよ、ペアルックならぬペア舌ピなんだよ。……ふふふ、良さそうでしょ?」

「……なにが良さそうなんだ?」

 俺が聞くと、ローラさんは挑発的な表情でにやりと笑った。

「ふふ、なんのことだと思う? ま、おこちゃまには秘密」

「……ローラさんっていくつ?」

「十九」

 それを聞いたとたん、紗哩が明るい声をあげた。

「わ、あたしと同い年だ! よろしくね!」

 ……妹と同い年の年下におこちゃま扱いされてしまった……。
 っていうか。

「俺より年下じゃねえか! じゃあもうさんづけはなしだ!」

 いや、そんなことは今はどうでもいい、聞きたいのは聖石のことだ。

「で、その聖石をつけているとどうなるんだ?」

「状態異常におちいる確率が下がるし、たとえ陥ったとしてもその効果を軽減できるんだ。たとえば、即死の毒でもこれがあれば瀕死ひんしで済むんだよね」

「……たしかに、瀕死でも死ななきゃなんとでもなると言えばそうだけど」

「で、石化もそうなんだけど、さすがSSS級モンスター。この聖石の加護も貫通してきたねー。でもさ、あのバジリスク、まだ赤ちゃんだったから、石化の効果も弱かったんだと思う」

「つまり、その聖石の効果と、ベビーバジリスクの能力の未熟さで、石化が中途半端なものになったってことか」

「そう。だからさっき、一瞬だけもとに戻って、数分でまた石化した。もしかしたらこれ、繰り返すかも……」

「なら、今日一日使って検証するか。幸い、食料は手に入ったしな」

 ローラが倒したコカトリスがすぐそばに倒れている。
 コカトリスの肉はうまいからな。
 また紗哩に料理してもらおう。

 コカトリスの解体作業を始めて、まだ一時間も経っていないころだった。
 なんか、肉を切り刻んでいる俺の背中の方で、『しゃーー』という水音みずおとが聞こえた。
 パッと振り向くと、アニエスさんが石化から戻っており、仰向けの体勢のまま……。
 もちろん、風呂敷をかけていたので別にそれをじかで見たわけじゃないけど、まあなにが起こっているのかはわかった。
 ああ、さっきトイレの真っ最中だったからな。
 それで石化が突然解除されるとこうなるのは当然っちゃ当然だよな……。
 俺はすぐに視線を肉に戻す。

 ……きまずい。

 アニエスさんが立ちあがった気配がする。
 うう。
 こっちに来るぞ。
 俺は身を硬くしてアニエスさんを待つ。
 とんとん、と肩を叩かれた。
 振り向く。
 アニエスさんは目も真っ赤、ほっぺたも真っ赤、耳まで真っ赤にして、目じりに涙を浮かべた魅力的な吊り目で俺を睨みつけていた。

「モトキ、お前、見たか?」

「な、なにを……」

「……その、私の、その、……を?」

「み、見てない……」

「見たよな?」

「見てない」

「私、SSS級探索者。今まで、どんな強いモンスターとも戦って、生き延びてきた。私はどんなケガにも痛みにも苦しみにも耐えてきた」

「う、うん……」

「見たよな?」

「見てない」

 アニエスさんはわっと両手で自分の顔を覆うと、その場でしゃがみこんだ。

「私、恥ずかしい、もう死ぬ。こんな心の痛み、無理。耐えられぬ。武士の情け。介錯頼む」

〈武士の情けキター!〉

〈お兄ちゃんの得意技やん、武士の情け〉

 やめれ。
 武士の情けはやめてくんなせや。
 そこに紗哩が走ってきた。

「お兄ちゃん! アニエスさんの声がしたけど、大丈夫?」

「ああ、また石化から戻ったみたいだ」

 アニエスさんは涙目で紗哩を見あげる。

「Shirley、私、恥ずかしくて死ぬ。お漏らし、男に見られた」

「ひどーい! お兄ちゃん、ひどーい!」

 ……妹とはいえ、っていうか妹なのに、事情も聞かずに反射的に兄が悪いことにするなんてなんというやつだ。
 そこにみっしーとローラもやってくる。

「アニエスちゃん! えっと、さっき石化してから五十七分後か……。うーん、これ規則性あるのかな」

 と冷静に分析するローラに向かって、

「ローラ、私、見られた……」

 涙声でそう言うアニエスさん。

「じゃあ結婚すればいいじゃん。うーん何分くらい生身でいられるのかなー?」

「それだっ! モトキ、私とパートナーになるんだった。こんな恥ずかしい話、しかし夫婦になれば三十年後には笑って話せる思い出」

 いや、そういう解決の仕方はどうかなー?

「じゃ、決定ね! えーと、アニエスちゃん、あなたは富めるときも貧しきときも」

 ローラがいきなり結婚式の宣誓みたいなのを言い出した。

「あのー! ちょっとストップストップ! それ言うと、私もお尻、基樹さんに見られてるんですけど……」

 みっしーが食い気味に口を出してくる。
 待て待て待て待て、見てない! 俺は見てないぞ!
 ギリのところで紗哩に目をふさがれたから!
 みっしーは続けて言う。

「あと、私、骨のずいまで見られた」

 いやそりゃ見たけど!
 見たけどさー!
 まじで骨髄まで見たけど!
 それって出会った直後の、みっしーが死にかけたときの話だろ?
 そりゃ左足が食いちぎられて切断されてたからじゃん!
 なんで対抗心燃やしてんだよ!

「はっきり言って女子としてはあんな体の中まで見られて恥ずかしすぎ……」

「ううー。お前も、こいつに恥ずかしい思い、させられてたんだな」

 アニエスさんも少し納得気味。
 なんでだよ!
 っていうか俺は口下手だからこうして心の中で思うばかりで、つっこみが口から出てこない。
 あーむかつく!

「あと、私、初めての血を基樹さんに捧げたし……」

 みっしー、そういう意味ありげな言葉選びをするんじゃない!

「そういえば、私、モトキに思い切り抱きつかれた。骨が折れるほどに」

 ……そんなこともありましたね、アニエスさん。それはあなたがヴァンパイア化して自我を失っていたからですよ。

「あたしだってお兄ちゃんに血をあげてるしっ! あとお兄ちゃんのファーストキスはあたしが三歳のときに奪っちゃってるから二人とも残念でしたー!」

 紗哩、てめえ!
 それは初耳だぞ!

「お兄ちゃんが寝てる時にちゅってした。それがあたしの人生初めての記憶」

「……お前、俺の純潔じゅんけつを……」

「ふふふ、お兄ちゃんの初めては全部あたしがいただくのだー! お兄ちゃんが初めて血を吸われたのも吸ったのもあたしだし!」

 そういや、そうだったな。
 ってか、今俺は半ヴァンパイア化しているわけで、定期的に人間の血液を吸わないと死んでしまう。
 それを思い出したら、こんなアホな会話してるタイミングでめちゃくちゃ血を吸いたくなってきた。

「紗哩、ちょっと血を飲ませろ」

 喉が渇いてきた、そろそろ血を飲まないと死にそう。

「うん、いいよ」

 と言う紗哩の身体をおしのけ、アニエスさんが俺に飛びついてきた。

「じゃあ私のを飲め」

 俺に抱きついたアニエスさんは、自分の首筋を俺の口にあてがう。
 なんかこう、ただよう女性の肌の匂い、もう本能的にがぶっと首に噛みついてしまう。
 そして、ジュルジュルジュル!と血を吸った。

 うんめー!!

 ゴクンゴクンゴクン。

 のど越しもやばい、なんだろう、血の味って人によって違うんだな、紗哩はぶどうみたいな味、みっしーは青りんご味、アニエスさんはいちご味。

 全部すっきりとした甘さと香りで、めちゃくちゃおいしい。

 実際に血がそんな味するはずはないので、きっとヴァンパイア化したせいで味覚が変化しているのだろう。

 しかし飲みすぎないようにしないと。
 アニエスさんをひからびさせちゃまずいもんな。
 なごりおしいけど口を離す。

 すると、アニエスさんは吊り目の碧眼へきがんで俺を見あげ、ほっぺを真っ赤に染めて呟いた。

「はふぅ……ヴァンパイアに噛まれる、血を吸われる、これ、気持ちいい……。いや、もしかすると、モトキに吸われてるからか……? モトキだから心地よいのかもしれない。これは、私、きっとモトキのことが本気で、――」

 そしてアニエスさんは俺の目をまっすぐみすえたまま、

「私、私、モトキ、お前のことが――ッ!!!!」

 そこまで叫んだところで、いきなり石化してその場で固まった。

「うん、今回は生身の時間六分くらいだったね」

 ローラさんは腕に装着したスマートウォッチを見てそう言った。

〈ところで俺たちなにを見せられてるんだ〉

〈カオスすぎるだろ〉

〈なんか情報量多いな〉

〈これからどうすんだこのパーティ〉

〈アニエス、パーティクラッシャーの素質ありそう〉

〈お兄ちゃんは私のもの〉

〈じゃあシャリちゃんは俺のもの〉

〈お兄ちゃんもシャリちゃんも耳だけ私にくれたら本体は持って行っていいよ〉

「耳も本体も駄目だっ!」

 思わず叫んじゃったぜ。
 ってか耳だけ持っていくつもりかよ、普通に怖いわ。
 さて、それはともかく、アニエスさんの石化について、わかったことがいくつかある。
 まず、一度石化すると、次に生身に戻るまで、おおよそ一時間~二時間ほどかかる。
 現在のところ、石化する予兆よちょうは発見できていない。
 いつも、突然に石化するのだ。

 そして、一度石化から生身に戻ると、五~十五分ほどは活動できる。
 生身の状態でマネーインジェクションしてみたが、石化を防ぐことはできなかった。
 つまり、一時間から二時間のあいだに、五分から十五分だけ活動できる、ってことだ。
 ちなみにそのあいだにかなりゆっくりとではあるが、空腹にはなるみたいなので、生身に戻ったときには食事や排泄はいせつも必要になる。

 そんな状態、自分がそうなったらと思うだけでぞっとする。
 だから、本人のメンタルケアも考慮に入れつつ、しかしながら、アニエスさんが生身でいるあいだだけ先に進み、石化している間はその場にとどまる、というのも現実的ではないので、怪力のスキルを持つローラが担いでダンジョン探索を進めることになる。
 ローラはさすがSS級探索者である武闘家だ、石像となったアニエスさんを風呂敷で軽々と担いでいる。
 スキルとはいえ、どんな筋力してるんだ。
 そのローラが言う。

「ごめんねー。私たちがモトキやみっしーちゃんたちを助けに来たはずなのに、思いっきり足ひっぱっちゃってるよね」

「いや、あの絶望的な状況の中で救助に向かってきてくれたのはローラたちだけだった。結果がどうあれ、すごく感謝しているし、アニエスさんが動けるときに限ればパーティ全体の戦闘力はものすごく高まってる。このダンジョンを脱出できる可能性はむしろあがったはずだ。俺たちこそ感謝しているよ」

「そっか、ありがとね。きっとこのお返しは、アニエスちゃんが一生かけてモトキに添い遂げて返してくれるよ……。あとアニエスちゃん、普通にお金持ちだし」

 そこにみっしーが、慌てた声で言う。

「ちょちょ待ってよ、ローラさん。添い遂げるってなに?」

「え、だからこう、結婚して? 夫婦でデート行ったりして? ネズミーシーとか行ったりして? その夜はベッドで一緒にいちゃいちゃしたりして? 子どもできたりして? うわあ、この親子、まるで姉妹みたいですねーって言われてちょっと自慢げに喜ぶアニエスちゃんの姿が想像できる」

「そそそそそれはどうかなー? ままままって、ほら、そこまで人生ささげなくても、たとえばお金で誠意を示すとかでいいんじゃないかな」

「うーん、それはみっしーちゃんがやってあげれば? みっしーちゃんだって全財産合わせれば、億あるでしょ?」

「おぉ~!」

 感心したような声をあげてみっしーを見る紗哩。

「あたし、みっしーがお姉ちゃんって、すごくいいと思うの!」

 そこにローラが口を挟む。

「アニエスちゃんはもっと金持ちだよ。私ですらそうだし」

「おぉ~!」

 またも感嘆の声をあげる紗哩。

「ね、ね、お兄ちゃん、あたし、だれがお姉ちゃんになってもうまくやっていけると思うんだ……」

 この馬鹿妹、なにを言い出してやがる……。

「あら、紗哩ちゃんはやっぱりお金持ちになりたいの?」

 ローラの問いに、紗哩は元気よく答える。

「うん! だってお金がいっぱいあったほうが、お兄ちゃんが輝けるもん! お兄ちゃんのすごさを、もっともっともっとみんなに知ってもらいたいの!!」

〈その結果が借金一億二千万円だったわけか〉

〈動機はわかるけど、結果がなあ〉

〈シャリちゃんかわいい〉

〈シャリちゃんアホだからかわいい〉

〈まあ結果としては、現状、お兄ちゃん世界のスターになってるけどな〉

〈お金に貪欲どんよくなシャリちゃんかわいい〉

〈しかし現実として実の妹が借金一億二千万円作ってしかも自己破産の免責おりないとかなったら絶望だぞ……〉

 そうなんだよなー。
 紗哩のやつ、去年マルチにはまって自己破産して一度免責受けているから、今回の借金一億二千万円は免責にならないのだ、さすがに。

「あー! そうだ、いいこと考えた!」

 ニコニコ顔でそう言う紗哩。
 長年一緒に暮らした兄として言うが、お前が考えつくことなんて絶対いいことじゃない。

「あのね、みっしーとアニエスさん、ふたりともお兄ちゃんと結婚すればいいんじゃない? そ、そしたら二人の財産合わせて……。うわーすごい!」

 我が妹ながらどうかしてるわこいつ。

「そしたらそしたらあたしも一生お兄ちゃん夫妻に養ってもらえて……。遊んで暮らせる!」

「待て待て、さっき『お兄ちゃんが輝けるもん』とかぬかしてたじゃないかよ、俺を輝かせろよ!」

「お兄ちゃんを輝かせた上にあたしの未来も輝くのだー! よし、決まり! みっしーもアニエスさんもどっちもお兄ちゃんのお嫁さんね!」

「いや、それはちょっと……?」

 ほら、みっしーも困惑顔じゃないか。

「できれば、将来の旦那様には私を一番に思ってもらいたいっていうか……」

 ちらっちらっと俺の方を見ながらそう言うみっしー。すると紗哩は少し考え込んでから、

「うーん、じゃあ正妻せいさいはみっしーで! それならみっしーが一番でしょ? アニエスさんには側室そくしつになってもらって……。あ、ローラも一緒にお兄ちゃんの大奥に入る?」

 得意満面の笑みでそう言った。
 ……あきれて声も出ないが、まあ一応突っ込んでおくか。

「俺は将軍様じゃないぞ……。大奥ってなんだよ……」

「そしてドロドロの女の戦いを繰り広げてもらう! それをあたしが眺めて楽しむ!」

 そんな紗哩の言葉を聞いて、みっしーは心底あきれたような声をあげる。

「もし、紗哩ちゃんのお姉ちゃんになることがあっても、ぜったいお小遣い渡さない……。お金は自分で働いて稼いでもらうから」

「えーー! 働くの、やだー! あたしという人間は働くのに向いてないと思うんだよなー」

「じゃあ紗哩ちゃんはなにに向いてると思うのかなー?」

 ローラの質問に、紗哩は元気よく答える。

「お兄ちゃんの妹!」

 ……向いているかなあ。
 一億二千万円の借金つくっちゃう妹だもんなー。

 ★

 さて、そんな馬鹿な話をしながらも迷宮を進み続ける俺たち。
 そしてついに、見つけたのだった。
 地下十一階へと続く、シュートを。
 SSS級ダンジョンの地下十一階。
 もちろんここまで到達して生きて帰ってきたパーティは現在まで存在しない。
 この先のなんの情報も手がかりもないが、俺たちが生き抜くには、進むしかないのだ。

 俺たちはお互いの顔を見て頷き合う。
 この先も困難があるだろうが。
 必ず、生き抜いて見せる。
 俺は、滑り台となっている下層階へのシュートに飛び込んだ。

 ★

 ぐわぁぁぁぁ!!
 怖い、怖い!
 地下十階から地下十一階へは、滑り台方式のシュートを下っていくのだが。
 これがすごい急な角度の滑り台で、なんだこれ、時速何キロ出てるんだ?
 俺はそこそこ丈夫なズボンをはいているから大丈夫だが……。
 これ、アニエスさんみたいなふんどしスタイルだとお尻がすりおろされちゃうぞ。
 うわぁぁ、しっかしなんだこれまじでジェットコースターかよ!
 俺は地下十一階になんとか到着すると、カメラのスイッチを入れて叫んだ。

「おい、ケツの下に耐久性エンチャントした風呂敷しいてこいよ、じゃないと大根おろしになるぞ!」

 今タブレットを持っているのは紗哩だから、配信を通じて俺の声は紗哩たちにも届いているはずだ。
 紗哩は風呂敷に魔法を付与できる特殊能力スキルを持っているのだ。
 そのとおり、俺に続いてみんなが風呂敷をソリ代わりにして下りてくる。
 石化したままのアニエスさんも、風呂敷に包まれて滑り下りてきた。

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