衛生兵を呼べ! 〜異世界医療ファンタジー〜

神崎 詩乃

文字の大きさ
1 / 13

白き魔女

しおりを挟む
 爆音と共に大地がめくれ、土煙が辺りを覆う。
「大丈夫か!?クソっ魔人族のヤツら!!」
 大地を縫うように掘られた塹壕には負傷した兵士たちがはるか遠方で爆撃魔法を使う魔人共を恨んでいた。
 こちらからもお返しとばかりに爆撃魔法を撃ち込んでみるがお返しのお返しが飛んできて被害は増す一方である。
「み、水をくれ……。」
「しっかりしろ!アレックス!美人の嫁さんを置いて行くんじゃねぇ!」
「本部!敵の攻勢が強すぎる!衛生兵と増援をさっさとよこしてくれ!」
 援軍を要請しても焼け石に水。今必要なのは撤退する時間と怪我人の手当をする医療班の存在だった。
「その人達を動かさないで!!ユリアよ。」
 近くで再度爆音。
 兵士が振り向くと土煙舞う戦場では中々お目にかかれない白髪の少女が立っていた。透き通るような碧い双眸が怪我をしているアレックスに向けられる。
「トリアージを開始します。まず……貴方からですね。」
『白い髪、碧い瞳の女が来たら怪我人を差し出せ。』
「あ、アレックスを……」
「ゼロ、白の鞄。患部の消毒と破片の除去。血液はこっちでどうにかする」
「御意」
 後ろから現れた白衣の男が女の指示をテキパキとこなしていく。

 碧緑色の魔力が塹壕に迸った。精緻な魔法陣が幾つも展開されていく。アレックスの傷はかなり深刻だった筈だが……。
 まるで時間を巻き戻していくかのように回復していく。
「大丈夫。死んでなければ助けられるから。『治癒ヒール』」

 ヒュルルルと空を切る音が微かに聞こえてきた。先程から偶に陣地に撃ち込まれている爆撃魔法が封入された鉄瓶だ。このままではこの塹壕に……そうなってしまえば更にまずい状況に……。
「ユリア……毎度思うんだけど……速すぎ。」
 再び爆音。しかし爆風や破片、巻き上げられた土埃等は一切塹壕内に入ってこなかった。不思議に思い、少しばかり顔を外に出せば黄金の輝きを持った魔力が塹壕を覆っている……。一体誰が……と周囲見回すと帝国では珍しい黒髪の、少女と言って差し支えない娘が呆れたような視線を向けていた。
「アイリス。ありがとう。」
「どういたしまして。『物理障壁マテリアルシールド』兵士の皆さん。取り敢えず撤退しましょう?ちょっと危ないので。」
「そ、それはどういう……。」
 本部からの指示はない。ましてやここは最前線。撤退戦に移行するにしてもかなりの時間がかかる。
「ッアイリス……全力で障壁張って。本当に……あの……馬鹿!」
「ユリア……そろそろ本当に不敬罪で処されるよ?」
 なんの事かと考え、次に光り輝いた空を見た。夕焼けのような紅の魔力が空に展開されている。その魔力から織り成される魔法陣は芸術品のような美しさを持っていた。
 瞬間、目が眩む閃光と共に世界から音が消えていった。
 先程まで年末のセールでもやっているのかと疑いたくなるほどぶち込まれていた爆撃魔法と比べるまでもない。何重にも張り巡らされた障壁が音を立て振動している。

「遅くなったな。取り敢えずこれで敵方も撤退するしかなろう。」

 ひと目で分かる高貴な軍服。戦場でもくすむことの無いその輝いた金色の髪。全てを見通しているとされる淡い新緑の瞳……。
 ウドガルド帝国の第一皇子。フィード・レオン・ウドガルド殿下がそこにいた。
「フィード、私たちを殺す気?」
「アイリスの不動盾があれば死ぬことは無いだろ。」
「殿下、今のは正直ちょっと怖かったですよ。」
「アイリス、日々の鍛錬に励め。」
「そもそも!軍の最高責任者がこんな最前線に来るんじゃないわ。」
「ここが一番安全だろう?死ななければ治して貰えるしな」
 ユリアと言った少女とアイリスと呼ばれた少女、そして殿下。まるで学校の廊下で談笑しているかのようにこの戦場に居る。夢でも見ているのだろうか?実は既に死んでいてこれは幻では無いのだろうか?
「よくぞ持ち堪えてくれた。貴殿らのおかげでここいら一帯の奪還が出来た。礼を言う。人類の版図がさらに拡がったのだ。その功により、貴殿らは下がって良い。陸軍西方戦線最高指揮官からの命令だ。」
「りょ、了解致しました!」
 鬼教官から指導された身体が反射的に動き、撤退の準備を始めた。

「さて、問題は魔人側か?」
「今の爆裂魔法で生き残ってるといいわね。」
「撤退しているならその背中にもう一発ぶち込んでやるさ」
「魔人達が攻めてきてはや二ヶ月。どうなの?状況は」
「あまり良くないというのが実情だな。何分奴らは魔術適性が高すぎる。我々人類が触媒や魔法陣を用いて織り成す魔法を奴らは別の手段で織り成している。正直この戦争は勝利条件が分からんのだ。」
「そ。まぁ難しい話はフィードが考えて。私は人々を治すだけだから。」
「私は殿下たちをお守りします。」
「どうする?戻る?今なら石版で戻れるけど」
「うむ、どうやら敵方も撤退するらしい。さて、少しでも減らすか。」

 再度爆轟が轟き世界が紅く染めあげられた。
「ゼロ、生理食塩水をその男に与えて。あと、鎮静剤も投与。百キロ後方のベースに居るから後よろしくね。他の人達も運んで。人員は足りるわね?」
「御意。」

 手当てを施すとゼロと呼ばれた白衣の男はアレックスを背負い駆け出した。続くように服飾でつかうマネキンのような人形が次々と怪我人を担架に乗せ、運び去っていく。
 「さて、敵方もあらかた吹き飛ばしたし俺達も撤退するか?」
「指揮官クラスが来ると面倒臭いからね」
「個人的にはその指揮官クラスを殺しておいた方が後々楽だと思うが」
「今の私達では勝てないでしょ」
「まぁ、お前が言うならそうなんだろうな」
「フィード、アイリス。さっさとこの石版に乗って。流石に二人以上は魔力消費がキツイから」
「あ、あぁ。」
「ユリア、来ないと怒るからね?」
「ちょっと休んだらすぐ行くから安心して。」
「行先は?」
「ゼロの行ったベース。」
「すぐに来い。俺は短気だからな。」
「ちょっとくらい待つことを覚えなさい。」

 魔法が起動し、二人をベースへ転送する。少女はその石版を大事そうにしまうと振り返った。
「ふん。後方へ逃がしたか……。お前、なぜ我の接近に気づけた?」
「少し鼻がいいだけよ。」
 振り返った先には人型の何かがいた。赤い肌をしたそれは背に翼を生やしている。その赤い肌が彼を人ではない何かと定めている様だった。
「魔人族の指揮官かしら?名前は?」
「人族に名乗る名など持ち合わせておらぬがそうだなジキルと名乗っておこう。」
「そう。なら私はシェスタって名乗っとくわ。」
「かっ。かの英雄の名を使うか。中々豪胆だな。」
少女は塹壕から這い出ると黒い鞄を取り出した。
「へぇ。そっちでも知られてるんだ……。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...