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第二章 人間に崇拝される編
59.エンジェルスリーパー
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「ご主人様!! 本当にご主人様、なんですね! ううっ、ぐすっ、わぁぁぁぁん!!」
タンチョウはツツミに抱き着くと号泣し始はじめた。
「おーよしよし。ごめんね、なんかすんごい留守にしちゃったみたいで……」
「どこにも居なくなっちゃって……。ひっく。冥界に、来たら会えるかと思ってたんですが……。こちらにも、居なくて……!」
ツツミたちにとってはわりと最近のしばしの別れ。しかしタンチョウにとっては、一生を終えて冥界に入ってもまだ足りない長い別離だった。
「私、なんかしちゃったかなって……! それならまだいいけど、万が一ご主人様たちの身に何かあったとしたら……。そう考えたら、私、私……!」
「本当に申し訳なかったです、タンチョウ。この通り元気ですよ」
「おー。タンチョウから。報酬。まだ。もらってない。それまで。滅んだり。しない」
泣き崩れるタンチョウを優しく慰めるレカエルとエウラシア。
「いくらでも払います! 好きなだけもふもふしていいですからっ! ホント、ホントに……無事でよかったですっ!」
タンチョウは別れを嘆く以上にツツミたちの身を案じていたらしい。相も変わらず健気な子だった。
「はっはっは! 主どのだけなら、どこぞでカビが生えるくらい動かずにいるのだろうと気にも留めなかったかもしれないが! ツツミ様とレカエル様までいないのだから動転したぞ!」
「カビ。生えるまで。……いいかも。しれない」
「まったく! 主どのはやっぱり主どのだな! はっはっは! このこのっ!!」
「うー。痛い」
ミノタリアはエウラシアの肩をバシバシ叩いた。飄々として見えるミノタリアだが、普段より明らかにテンションが高い。彼女もまた再会を心から喜んでいるのが伝わってきた。
「ところで、イヴはいないのですか?」
レカエルがイヴの姿が見えないことを訝しむ。途端、タンチョウとミノタリアの表情が曇った。
「い、イヴさんは……その……」
「イヴの身に何かあったのですか!?」
口ごもるタンチョウにレカエルが詰め寄る。
「イヴは元気なのですか!? まさか病気にでも……、生きているのですか!?」
「レカエル。ここ。冥界」
むしろ生きている者がいるほうが不自然である。慌てるレカエルにミノタリアが言う。
「イヴも天寿を全うして無事ここにいるとも。ただ、色々悪いことが重なったのだ……」
「かなりふさぎ込んでしまっているというか……。心のバランスが崩れてしまったみたいで」
「ううむ、レカエル様の不在が一番の原因ではあるのだが」
崇拝といっていいほどレカエルを慕っていたイヴである。どんな様子になっているかは想像に難くない。
「安心させてあげなければいけませんね。今すぐ……」
イヴのところに向かおう、そう言うつもりだったレカエルの言葉は外から響いてきたファンファーレの音に遮られた。
「なに? 何の騒ぎ?」
ツツミが不思議そうな顔をすると同時に、部屋のスピーカーからピンポンパンポンとチャイムが鳴った。
続いて知らない声がアナウンスを始める。イザナミさん以外にも働いている者がいるのかもしれない。
『これより、アツシ神のパレードが行われます。皆さま、どうぞお集まりくださいませ』
ピンポンパンポン。下りのチャイムが鳴ると同時にレカエルが表情を変える。
「そうでした! アツシ!!」
聖槍を握りしめ、親の仇がいるかのように虚空を睨みつける。
「パレードですって……? ふふ、冥界でもアツシ神と呼ばれているのですか」
一気に殺気を放って周囲を威嚇するレカエルに、タンチョウとミノタリアがうろたえる。
「れ、レカエル様。どうかその、落ち着いて……」
「そ、そうだぞ。レカエル様、深呼吸だ深呼吸」
「ほう……私を止めるというのですか?」
先ほどまでの感動ムードはどこへやら、剣呑な微笑みで二人を見つめるレカエル。
「ああそういえば……。あなたたちは無事アツシに娶られたそうですね。……三人も妻を迎えるというのも業腹ですがまあ置いておきましょう。しかし」
チャキッ、と音を立てさせて聖槍を構えるレカエル。
「夫の罪をかばい立てするとあれば容赦はしません。あなたたちも紫色にしてあげましょうか!?」
「きゃっ!!」
「い、いやいやそうではない! ただ……」
「ではパレードの場所を教えなさい!!」
「そ、外に出ればどこからでも見れるが……」
「また大規模な……。さあそこをどきなさい!」
「ま、待ってくださいレカエル様!」
タンチョウとミノタリアは縋り付くようにレカエルを押しとどめる。
「ええい、離すのです! 帰ってきた怪物の恐ろしさを思い知らせてやろうではないですか!」
「ですから! まず話を……!」
「問答無用です! ……うん?」
もう一組の手がレカエルの肩を掴む。見るとイザナミさんが二人に加勢していた。レカエルの前でふるふると首を横に振る。
「イザナミさんまで! 何だというのです! ツツミ、エウラシア。突破しますよ!」
「ちょ、ちょっと冷静になろうよレカエル! イザナミさんまで止めるんだよ? なんか訳があるんだって!」
「あなたも所詮は悪魔の眷属ですか! いいでしょう、全員まとめて相手を……うっ」
レカエルはそこまで言うと急に倒れこんだ。急に力が抜けたレカエルをタンチョウとミノタリアが支える。
「レカエル? ……ってこれ……」
後頭部に矢が刺さっている。エウラシアの方を見ると案の定吹き矢を咥えていた。
「うー。『天使を眠らせるもの』。発動」
「いや。『恋愛劇を狩るもの』じゃん」
「塗った。薬が。特別製」
どうでもいいがエウラシアのネーミングセンスも大概である。
「と、とりあえずありがとうございますエウラシア様。助かりました……」
「相変わらず過激な方法だがな。まあ礼を言う」
タンチョウとミノタリアはレカエルを椅子まで運ぶ。すやすやと寝息を立てるレカエルはひとまず大丈夫だろう。
「いやはや……。まあ、手伝うと決めたときからレカエル様の不興を買う覚悟はできていたさ」
「ん? ミノタリアたちもアツシ伝説に加担してるの? 私たちなんか怪物になっちゃったんだけど」
「それで『紫色にしてあげましょうか』ってことだったんですね……」
どうやらあの神話のことはタンチョウたちも知っているようだ。
「本当に申し訳ないと思っていますご主人様!」
「主どのにもきちんと詫びよう。お三方が怒るのも無理はない。罰は甘んじて受ける所存だ!」
二人そろって深々と頭を下げるタンチョウとミノタリア。イザナミさんも最敬礼の姿勢だ。ツツミとエウラシアは顔を見合わせる。
「ま、三人がこんなに止めるってことはなんか事情があるんでしょ?」
「ちゃんと。話。聞くよ。レカエルも。落ち着いたら。きっと。大丈夫」
「ご主人様……!」
タンチョウはツツミたちの様子にほっと胸をなでおろしたようだ。ツツミはにかっと笑って続ける。
「とりあえず、パレードってやつ見に行きたい! なんか面白そうじゃん!」
タンチョウはツツミに抱き着くと号泣し始はじめた。
「おーよしよし。ごめんね、なんかすんごい留守にしちゃったみたいで……」
「どこにも居なくなっちゃって……。ひっく。冥界に、来たら会えるかと思ってたんですが……。こちらにも、居なくて……!」
ツツミたちにとってはわりと最近のしばしの別れ。しかしタンチョウにとっては、一生を終えて冥界に入ってもまだ足りない長い別離だった。
「私、なんかしちゃったかなって……! それならまだいいけど、万が一ご主人様たちの身に何かあったとしたら……。そう考えたら、私、私……!」
「本当に申し訳なかったです、タンチョウ。この通り元気ですよ」
「おー。タンチョウから。報酬。まだ。もらってない。それまで。滅んだり。しない」
泣き崩れるタンチョウを優しく慰めるレカエルとエウラシア。
「いくらでも払います! 好きなだけもふもふしていいですからっ! ホント、ホントに……無事でよかったですっ!」
タンチョウは別れを嘆く以上にツツミたちの身を案じていたらしい。相も変わらず健気な子だった。
「はっはっは! 主どのだけなら、どこぞでカビが生えるくらい動かずにいるのだろうと気にも留めなかったかもしれないが! ツツミ様とレカエル様までいないのだから動転したぞ!」
「カビ。生えるまで。……いいかも。しれない」
「まったく! 主どのはやっぱり主どのだな! はっはっは! このこのっ!!」
「うー。痛い」
ミノタリアはエウラシアの肩をバシバシ叩いた。飄々として見えるミノタリアだが、普段より明らかにテンションが高い。彼女もまた再会を心から喜んでいるのが伝わってきた。
「ところで、イヴはいないのですか?」
レカエルがイヴの姿が見えないことを訝しむ。途端、タンチョウとミノタリアの表情が曇った。
「い、イヴさんは……その……」
「イヴの身に何かあったのですか!?」
口ごもるタンチョウにレカエルが詰め寄る。
「イヴは元気なのですか!? まさか病気にでも……、生きているのですか!?」
「レカエル。ここ。冥界」
むしろ生きている者がいるほうが不自然である。慌てるレカエルにミノタリアが言う。
「イヴも天寿を全うして無事ここにいるとも。ただ、色々悪いことが重なったのだ……」
「かなりふさぎ込んでしまっているというか……。心のバランスが崩れてしまったみたいで」
「ううむ、レカエル様の不在が一番の原因ではあるのだが」
崇拝といっていいほどレカエルを慕っていたイヴである。どんな様子になっているかは想像に難くない。
「安心させてあげなければいけませんね。今すぐ……」
イヴのところに向かおう、そう言うつもりだったレカエルの言葉は外から響いてきたファンファーレの音に遮られた。
「なに? 何の騒ぎ?」
ツツミが不思議そうな顔をすると同時に、部屋のスピーカーからピンポンパンポンとチャイムが鳴った。
続いて知らない声がアナウンスを始める。イザナミさん以外にも働いている者がいるのかもしれない。
『これより、アツシ神のパレードが行われます。皆さま、どうぞお集まりくださいませ』
ピンポンパンポン。下りのチャイムが鳴ると同時にレカエルが表情を変える。
「そうでした! アツシ!!」
聖槍を握りしめ、親の仇がいるかのように虚空を睨みつける。
「パレードですって……? ふふ、冥界でもアツシ神と呼ばれているのですか」
一気に殺気を放って周囲を威嚇するレカエルに、タンチョウとミノタリアがうろたえる。
「れ、レカエル様。どうかその、落ち着いて……」
「そ、そうだぞ。レカエル様、深呼吸だ深呼吸」
「ほう……私を止めるというのですか?」
先ほどまでの感動ムードはどこへやら、剣呑な微笑みで二人を見つめるレカエル。
「ああそういえば……。あなたたちは無事アツシに娶られたそうですね。……三人も妻を迎えるというのも業腹ですがまあ置いておきましょう。しかし」
チャキッ、と音を立てさせて聖槍を構えるレカエル。
「夫の罪をかばい立てするとあれば容赦はしません。あなたたちも紫色にしてあげましょうか!?」
「きゃっ!!」
「い、いやいやそうではない! ただ……」
「ではパレードの場所を教えなさい!!」
「そ、外に出ればどこからでも見れるが……」
「また大規模な……。さあそこをどきなさい!」
「ま、待ってくださいレカエル様!」
タンチョウとミノタリアは縋り付くようにレカエルを押しとどめる。
「ええい、離すのです! 帰ってきた怪物の恐ろしさを思い知らせてやろうではないですか!」
「ですから! まず話を……!」
「問答無用です! ……うん?」
もう一組の手がレカエルの肩を掴む。見るとイザナミさんが二人に加勢していた。レカエルの前でふるふると首を横に振る。
「イザナミさんまで! 何だというのです! ツツミ、エウラシア。突破しますよ!」
「ちょ、ちょっと冷静になろうよレカエル! イザナミさんまで止めるんだよ? なんか訳があるんだって!」
「あなたも所詮は悪魔の眷属ですか! いいでしょう、全員まとめて相手を……うっ」
レカエルはそこまで言うと急に倒れこんだ。急に力が抜けたレカエルをタンチョウとミノタリアが支える。
「レカエル? ……ってこれ……」
後頭部に矢が刺さっている。エウラシアの方を見ると案の定吹き矢を咥えていた。
「うー。『天使を眠らせるもの』。発動」
「いや。『恋愛劇を狩るもの』じゃん」
「塗った。薬が。特別製」
どうでもいいがエウラシアのネーミングセンスも大概である。
「と、とりあえずありがとうございますエウラシア様。助かりました……」
「相変わらず過激な方法だがな。まあ礼を言う」
タンチョウとミノタリアはレカエルを椅子まで運ぶ。すやすやと寝息を立てるレカエルはひとまず大丈夫だろう。
「いやはや……。まあ、手伝うと決めたときからレカエル様の不興を買う覚悟はできていたさ」
「ん? ミノタリアたちもアツシ伝説に加担してるの? 私たちなんか怪物になっちゃったんだけど」
「それで『紫色にしてあげましょうか』ってことだったんですね……」
どうやらあの神話のことはタンチョウたちも知っているようだ。
「本当に申し訳ないと思っていますご主人様!」
「主どのにもきちんと詫びよう。お三方が怒るのも無理はない。罰は甘んじて受ける所存だ!」
二人そろって深々と頭を下げるタンチョウとミノタリア。イザナミさんも最敬礼の姿勢だ。ツツミとエウラシアは顔を見合わせる。
「ま、三人がこんなに止めるってことはなんか事情があるんでしょ?」
「ちゃんと。話。聞くよ。レカエルも。落ち着いたら。きっと。大丈夫」
「ご主人様……!」
タンチョウはツツミたちの様子にほっと胸をなでおろしたようだ。ツツミはにかっと笑って続ける。
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