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パシリカ王国編
59. 魔装車連結式推進艦
しおりを挟むそんなこんなで連れて来られた、造船技術者のアニスであったが
豊の持つ唯一無二のスキルである【時を駆ける創造】を経験して驚いていた。
効果としては、サポートに入った人間自体の作業効率を短縮させ、
如何なる作業でも、一時間以内に収めることが出来る。
実際に手の動く速度が上がっている訳ではないが、
想い描いた理想の線を寸分の間違いもなく
一発で引く事ができる為、時間が短縮されるという仕組みであった。
「凄いわ! 仕様書から外板展開図、荷役展開図、装置図、舵構造図、据付図、取付図、詳細製作図、小組立要領図、大組立要領図、搭載容量図まで1回も迷わず間違えず滞らずに出来たわ!」
「ユタカの案で魔装車を搭載させると、動力を繋げてスクリュープロペラという推進装置が回転する仕様も組み込んでおいた。従来の風に頼る船なんかよりめちゃくちゃ早くなるぞ~! 楽しみだな!」
以前、北の村で使ったプロペラは村に置いたままなので、今回はこの場で新しいスクリュー数基の開発を執り行った。
「はい! こんな発想私達の家にはありませんでした! 凄いです‼」
十九世紀の技術を異世界に持ち込んだ豊であったが、彼の魔術無しでは再現不可能な技術なので、技術の漏洩等はあまり考えなかった。
そして神界機構の天の声システムからお知らせを受ける
【【時を駆ける創造】の熟練度が上昇し、能力のアンロックがされました】
新規の技術者がサポートに追加されたことにより、以下のものが獲得された。
【大型建造】――――――――――
少ない時間と少ない材料で、大型の建造物を製作出来る。
サポートに技術者が入れば、その技術者が知る限りのあらゆるものが作れる。
制作物の大きさおよび制作の難易度によって、魔力消費量が増大する。
――――――――――――――――
丁度良いタイミングで新しい項目が追加され、張り切った三人が試行錯誤をしながら作業をする事二週間。豊が魔力切れを何度も起こしながら部品を作り続けて
【魔装車連結式推進艦】が完成した。
「ごしゅじんさま、また痩せたんじゃない?」
「船の部品を作るために酷使したからな。痩せて当然だ。いままで膨大な魔力にかまけていたからな。いい修行になるだろうよ」
「ギャリオン、僕カサカサになってない……?」
「誰か早くユタカさんに食べ物をーっ!」
豊が、魔装車も乗れる船をイメージした際に出来上がったのは、見た目が駆逐艦のゴツイやつ。明らかにこの世界の技術水準を無視した作りであった。
既に、この船における技術レベルは、二十世紀後半に入っている。
マリーゴールドが途中から、造船が面白くなってしまい、対塩の腐食金属を錬金魔術で作り出した辺りから、かなりコストがおかしな事になってしまった。せっかく稼いだ金貨二十枚も悲しい事になっている。
「なんですかねこれ……」
「かっこいいーー!!」
「強そうケロ!」
「まるで戦いに行くみたいだぁ……」
「もしクラリィクが言う事聞かなかったら、ぶん殴って逃げるしかないな! ハーハッハッハ!」
こうして【魔装車連結式推進艦《まそうしゃれんけつしきすいしんかん》】略して【魔装艦】が完成した。
その後、船造りの裏で着々と進んでいたリパランス代表と話を付け
自己責任という条件で、クラリィクとの話し合いを承諾。海に出る事が許可された。
金の魔術師とフォルトゥナ教団、喋るカエルを目の当たりにし
実際問題、禁漁期間は仕方ないとしても海を渡りたい旅客船や
貿易船には死活問題だったので、リパランス代表は賭けに出るしかなかった。
「テストも十分に行い準備は整った。後はクラリィクに直接会うだけだ」
「よぉーし! 野郎ども! 乗り込めーっ‼」
「「わーい‼」」
「大丈夫かなぁ……。船酔いしないかなぁ……」
今回は心配性のギャリオンを除いて、皆海の旅を楽しみにしているようだ。
魔装艦は海を滑る様に抜錨した。リパランス港を出航する事しばらく
ルルはクラリィクに呼び掛けを始めた。
「ケロケロケロケロケロケロ……」
ルルは海に向かって呼びかけた。この【カエルの歌】は人間に聞こえる音とは別に、海域の底まで反響する特殊な音波によって構成されており、より遠くまでその声を届けることが可能となっている。仕組みはスキル【環境探知】と同じである。
「クラリィク、来ますかね、というか話通じますかね……?」
「ルルを信じるしかないだろうなぁ、ダメだったら逃げるしかないし。クラリィクの発するものが【言語】であれば、僕の加護でなんとかなりそうなものだけど……あの激痛は正直勘弁してもらいたいですな……」
「頭のいい魔物は言葉じゃなく、発声に意思を乗せ、念話として意思疎通を行う。期待は出来ねぇな」
「オレも魔術使えないんで、船上戦闘は御免被りたいです……」
呼び掛けを続ける事しばらく、魔装艦に向かってくる一際目立った水影を発見した。それは海を掻き分け、豊達の目の前に姿を現す。
全長が百メートルを優に超える海竜クラリィク。
その身体は蒼の美しい鱗に守られ、日の光を煌《きら》びやかに反射している。
宝石の様に眩い蒼の瞳は、その場にいる生物の真意を見定めるかの様に、深く輝いている。
『我を呼ぶのはお前か、小さきものよ』
「ケロケロ! こんにちはクラリィク! わたしはルル!」
『癒し蛙ではないか。雨の森の希少種が何故、こんな海にやって来たのだ』
ルルを通訳とし、ここまでの一連の流れを説明した。
禁漁期間の延長に伴い意図せず、クラリィクが旅客船や貿易船まで止めてしまっている事により、リパランス全体の経済が危うい事。
討伐を仕掛けたのは別の国で我々も迷惑している事、航海におけるクラリィクとの新しい決まり事の提案について話をした。
『話はわかった。して、その提案とは』
単純な話であるが、旅客船や貿易船には青の旗を掲げるのを義務化し、敵意がなく
漁をする船では無いという意思を示す事であった。
もちろんこの手を使い、密漁をしようとする不逞な輩に関しては
一切の手加減なく滅ぼしてもらうことにした。
人間達が幾ら正しく有ろうとも、一定数は必ず、決め事を守らない輩がいるという事を理解し、人間全てが、愚かで浅ましいものばかりではない都度を説明した。
『ふむ、確かに我が一族にも一定数、度し難い程の短絡的で話を聞かない阿呆が存在する……これもまた自然の摂理という訳か……あいわかった、禁漁期間はまだ続くが、旅客船と貿易船の話はわかった。一応だが、たとえ禁漁期間が終わったとしても、くれぐれも人間には魚達を取りすぎない様にと伝えてくれ、我々の生きる糧がなくなってしまうからな』
クラリィクとの話し合いを終えた一行は一旦リパランスへと戻り、代表や民衆に結果を報告した。ここでも金の魔術師とフォルトゥナ教団の日頃の行いが報われ、人々は誠実に自体を受け入れた。
リパランスの皆もクラリィクの頭の良さと事情を知り、理解を示してくれた。
水揚げ量の調整を約束し、一旦は漁船以外の船出が許可された。
これ以降、クラリィクが船を襲うことは無くなり、海には平和が戻った。
懲りずに密漁した何処かの国は、徹底的に船を全て沈められ、もう二度海には現れることはなかった。
クラリィクは賢く強く、相手にするには悪過ぎた。商売にならないと理解すれば、二度と過ちは起きないだろう。
豊達はようやく、パシリカへと渡ることが出来ると喜びリパランスを出発した。
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