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万代橋の向こう側で望実ちゃんは先に着いて待っていた。「やあ」と一言交わすと、いつもより早足で初めて二人で入った古い喫茶店に向かった。望実ちゃんはどこへ向かっているのか話さないけど、私は知っている。
「私が撮った望実ちゃんの写真、最初に見てもらいたくて入れ替えちゃった。びっくりした?」
「うん、ちょっとね。でも、こんな顔してるんだね、私。写真見るまでわからなかったよ自分の顔なのに」
歩きながら27枚の写真を交換して私が撮った望実ちゃんを見た。やっぱりだ。あの時の念じた瞬間が写っている。
「ずっとこんな顔してるわけじゃないよ。写真撮ってる時、嬉しそうな顔になるのは」
27枚のうち数枚だけど、写真を撮っている望実ちゃんの様子を写したものがある。それはどれもいい顔をしている。迷いのない強い目をしている。
「撮る時か。やっぱり写真撮るの好きなんだろうね、私。写真はなんとなく撮っているだけかもしれないとか思ったりしたけど、少し特別なんだね。それに君と一緒だからかな」
望実ちゃんはゆっくりと考えながら言葉を繋いだ。
「私、写真展するって決めたんだ」
「え?」
望実ちゃんの足が止まりそうになる。目的地はわかっている、先導するように前に出た。
「この写真受け取りに行った時に予約してきた。カメラ屋さんに教えてもらって、すぐに行ってきたんだ」
蒼と写真を見た後、カメラ屋に戻ってギャラリーを教えてもらった。ギャラリーの人から写真展を知らせるDMというハガキを作るものだと教えられ、一緒にいた蒼がデザインしてくれた。
あとは写真だけだ。
「これ友達に作ってもらったの、写真展のハガキ」
「もう場所も決まってるの?それにタイトルまで」
「いいでしょ、結構考えたんだよ『信濃川左岸の恋』」
蒼に作ってもらったハガキは初めて会った時に撮ってくれた四角い写真を使った。その余白にはタイトルだけじゃなく場所も期日も、それに二人の名前も書かれてある。
「覚えてたんだ」
「うん、前に話してたでしょエルスケンって人と同じカメラだって。それ思い出して調べたら『セーヌ左岸の恋』ってのがあったから真似したの」
「信濃川を渡る万代橋だったもんね、初めて会ったの」
「でも信濃川の左岸ってこっちなのかあっちなのか知らないんだけどね」
「こっちが左岸」
「ほんとに?じゃあちょうどよかった」
「どっちで撮った写真でも、好きだよこのタイトル」
「こだわらないの?」
「そうだね。こうじゃなきゃいけない、駄目だって、そんな風に理想ばっかり考えちゃう性格直したいんだけど、性格って簡単には変わらないでしょ。たぶん一生変わらないと思う」
「それでもどうにかしたくて『市民から愛される万代橋はツルツルじゃなきゃいけない』って考えることにしたの。万代橋を渡るたびに変わりたいって気持ちを思い出すかなって思って。ひねくれてるよね」
「教訓?」
「教訓っていうか戒め?願掛けかな。変わりたいっていう気持ちを持ち続けられるように」
「叶いそう?」
「叶うんじゃなくて叶えるんだ!って言いたいけど、私にそれが言えたら苦労しないよね。でも君をあの日初めて見た時ね、あの子も欄干をツルツルにしてくれてるって思ったんだ。それで写真に撮って声をかけたら今はこうして私の前にいる」
「不思議だよね。写真に興味なんてなかったのに」
「写真って、撮った本人が「写真でこれを見せたい」って気持ちが大切なんだと思う。テストみたいに点数がつくわけじゃないからね。
君の写真はそれがよく出ているよ。見せたいって気持ちが伝わってくる。
写真の良し悪しの判断って寄る辺のないものだけど、それでも撮った本人が写真を好きになれるなら、そきっとれは良い写真だよね。
私はそういうのがなかった。今までそんなふうに思えなかった。私が撮った写真なのに好きだと言い切れなかった。
だから写真展なんて私には出来ない。私は写真に気持ちを込められなかったんだ。
でも君が私の写真を褒めてくれて、私の写真を好きだって言ってくれる。ほんの少しだけど変わったのかなって思うし、万代橋を渡る度に変われるかもしれないんだって気がしてきて。
それに君を撮った写真は初めて「見せたい」って思えた。好きだと思えたから。本当は前から「見せたい」って気持ちはあったのかもしれないけど君を撮るまでそんな気持ちに気づかなかった。
また君に好きだって言ってもらいたい。言わせたい。
『信濃川左岸の恋』って名前を付けたらこだわるだろうね。こだわって君を撮りたい。もっと撮りたい。それを見てもらいたい。
だから写真展一緒にやろう」
あの時みたいな迷いのない目だ。
「万代橋、私がツルツルにしてあげる。何度も渡るから、これから左岸に沢山行くから」
望実ちゃんがドアを開けると真鍮製のドアベルがカランコロンと軽快な音を立てた。
「私が撮った望実ちゃんの写真、最初に見てもらいたくて入れ替えちゃった。びっくりした?」
「うん、ちょっとね。でも、こんな顔してるんだね、私。写真見るまでわからなかったよ自分の顔なのに」
歩きながら27枚の写真を交換して私が撮った望実ちゃんを見た。やっぱりだ。あの時の念じた瞬間が写っている。
「ずっとこんな顔してるわけじゃないよ。写真撮ってる時、嬉しそうな顔になるのは」
27枚のうち数枚だけど、写真を撮っている望実ちゃんの様子を写したものがある。それはどれもいい顔をしている。迷いのない強い目をしている。
「撮る時か。やっぱり写真撮るの好きなんだろうね、私。写真はなんとなく撮っているだけかもしれないとか思ったりしたけど、少し特別なんだね。それに君と一緒だからかな」
望実ちゃんはゆっくりと考えながら言葉を繋いだ。
「私、写真展するって決めたんだ」
「え?」
望実ちゃんの足が止まりそうになる。目的地はわかっている、先導するように前に出た。
「この写真受け取りに行った時に予約してきた。カメラ屋さんに教えてもらって、すぐに行ってきたんだ」
蒼と写真を見た後、カメラ屋に戻ってギャラリーを教えてもらった。ギャラリーの人から写真展を知らせるDMというハガキを作るものだと教えられ、一緒にいた蒼がデザインしてくれた。
あとは写真だけだ。
「これ友達に作ってもらったの、写真展のハガキ」
「もう場所も決まってるの?それにタイトルまで」
「いいでしょ、結構考えたんだよ『信濃川左岸の恋』」
蒼に作ってもらったハガキは初めて会った時に撮ってくれた四角い写真を使った。その余白にはタイトルだけじゃなく場所も期日も、それに二人の名前も書かれてある。
「覚えてたんだ」
「うん、前に話してたでしょエルスケンって人と同じカメラだって。それ思い出して調べたら『セーヌ左岸の恋』ってのがあったから真似したの」
「信濃川を渡る万代橋だったもんね、初めて会ったの」
「でも信濃川の左岸ってこっちなのかあっちなのか知らないんだけどね」
「こっちが左岸」
「ほんとに?じゃあちょうどよかった」
「どっちで撮った写真でも、好きだよこのタイトル」
「こだわらないの?」
「そうだね。こうじゃなきゃいけない、駄目だって、そんな風に理想ばっかり考えちゃう性格直したいんだけど、性格って簡単には変わらないでしょ。たぶん一生変わらないと思う」
「それでもどうにかしたくて『市民から愛される万代橋はツルツルじゃなきゃいけない』って考えることにしたの。万代橋を渡るたびに変わりたいって気持ちを思い出すかなって思って。ひねくれてるよね」
「教訓?」
「教訓っていうか戒め?願掛けかな。変わりたいっていう気持ちを持ち続けられるように」
「叶いそう?」
「叶うんじゃなくて叶えるんだ!って言いたいけど、私にそれが言えたら苦労しないよね。でも君をあの日初めて見た時ね、あの子も欄干をツルツルにしてくれてるって思ったんだ。それで写真に撮って声をかけたら今はこうして私の前にいる」
「不思議だよね。写真に興味なんてなかったのに」
「写真って、撮った本人が「写真でこれを見せたい」って気持ちが大切なんだと思う。テストみたいに点数がつくわけじゃないからね。
君の写真はそれがよく出ているよ。見せたいって気持ちが伝わってくる。
写真の良し悪しの判断って寄る辺のないものだけど、それでも撮った本人が写真を好きになれるなら、そきっとれは良い写真だよね。
私はそういうのがなかった。今までそんなふうに思えなかった。私が撮った写真なのに好きだと言い切れなかった。
だから写真展なんて私には出来ない。私は写真に気持ちを込められなかったんだ。
でも君が私の写真を褒めてくれて、私の写真を好きだって言ってくれる。ほんの少しだけど変わったのかなって思うし、万代橋を渡る度に変われるかもしれないんだって気がしてきて。
それに君を撮った写真は初めて「見せたい」って思えた。好きだと思えたから。本当は前から「見せたい」って気持ちはあったのかもしれないけど君を撮るまでそんな気持ちに気づかなかった。
また君に好きだって言ってもらいたい。言わせたい。
『信濃川左岸の恋』って名前を付けたらこだわるだろうね。こだわって君を撮りたい。もっと撮りたい。それを見てもらいたい。
だから写真展一緒にやろう」
あの時みたいな迷いのない目だ。
「万代橋、私がツルツルにしてあげる。何度も渡るから、これから左岸に沢山行くから」
望実ちゃんがドアを開けると真鍮製のドアベルがカランコロンと軽快な音を立てた。
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