一生のお願い

ゐづも

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助けたい

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場所を変えよう、と言って僕達が向かった先は小さなカフェだった。他の客が殆どいなかったからか、ソファの席に案内された。

それぞれ何か適当な物を注文し、向かい合って座った。注文した物が来るまで僕も、君も話さなかった。話そうとしなかった。
店員さんがお盆にのせて二人の注文したものを持ってきてくれた。それから暫くして、何か話さないといけないと思い僕は勇気を振り絞って話しかけた。
「その…まず、見てしまった事謝るよ。ごめんなさい。僕は、まさか君が…その、自傷行為をしているだなんて思わなくてだね…だけど、そんな君を見て何故だか助けたいと思ったのだよ。余計なお世話かもしれない、だけど僕は…誰かが死にたいと思っているかもしれない状況を、その…放っておけなくて、だね…。」
必死に話しているせいか、伝えたい事を頭に浮かんだ順に言っていってるせいか…伝わらなかったのか。君の眉間には皺がよっていた。僕の下手くそな日本語を聞いて何を言いたいのかを理解しようとしてくれたのだろうか。
「…とりあえず、見ていたのは偶然だという事は分かった。俺もあんな所で自傷行為をしていたんだ。見られても文句は言えない。キツい言葉で君を追い出そうとしてごめん。だが、助けは必要ない。お前だって、自分の事で精一杯だろ?なのに、人を助ける余裕なんて無いだろ。」
そう言って君は僕の腕の方を見た。君は気付いていた。僕も同じ事をしているという事に。さすがに、気付かれていないと思っていた僕は驚いた。今まで誰かにこの事を指摘された事なんて一度もないからだ。いや、もしかしたら何人かは気付いていて、それでいて、何も言わないでいてくれたのかも…しれない。

「あ…えっ、と…き、気付いていたのだね…。確かに君の言う通り、自分の事で精一杯な時もある。だけど、人を助ける余裕が無いくらい悩んでいる訳じゃ…ないんだ。僕は……何故だか分からないけど死にたいんだ。元々理由はあったはずなのに、それが消えてしまってね…変な話だよな。それでたまに辛くなってしまうのだよ…だから自傷行為をしている。同じような事をしている君も、苦しいからしているのだろう?なら、話す事もアリだと思うんだ。ずっと苦しいのは嫌だろうから…」
これでもかという位に頭の悪さを炸裂させて話した。君はまた、眉間に皺を寄せた。
「死にたいと思っていて、今が辛いようなお前に俺の気持ちを気遣う事なんて絶対に出来ない。お前は自分に、余裕があると思い込んでいるけど俺から見れば全く余裕のない人間だ。大体、まともに話すら出来ないで、更に学校の勉強にもついていけてない。友達だって一人もいないような奴に助けて貰いたいだなんて思うやつがいるか。馬鹿にしているのなら、もう二度と俺に関わるな。」
不機嫌そうに言い放った君は、注文していたオムレツを乱暴に食べ始めた。

僕は、いわれた言葉が事実でしかなくて…何も言い返せないでいた。しかし、このまま言い返さないでいたら君は帰ってしまう。そう思って、言葉を必死に探した。

「…確かに、君の言う通り。僕は色々な事が出来ない。出来ていない…」
小声で、独り言のように呟いた。君には聞こえていないようだった。

「僕は漫画やアニメの主人公みたいにカッコよくもないし何もかも完璧に出来る訳じゃない。周りからは嫌われているだろうね。でも、それでも君を助けたい。」

震えながらも、君に届くように発した言葉。僕の言葉に、君のオムレツを食べていた手が止まる。口の中にオムレツを入れたまま、石のように固まって動かない。しかし、目だけはこちらを見ていた。

「…一生のお願いだ。」

更に追加で言う僕を、君は瞬きもせず見ていた。
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