メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その9

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 メデューサが閉じられたままのその扉の中に足を踏み入れると彼女の小さな身体は扉の木のドアに吸い込まれるように消えてゆきます。
そしてそのドアの先にあるはずの殺風景な部屋の中に入ったと思われたメデューサの眼前には信じられない光景が広がっていました。
それはまさしく黄金の海でした。
閉じたドアの内部に吸い込まれるみたいにその姿を消した幽霊状態のメデューサは次の瞬間に目に入ったすさまじい量のまばゆい光に立ちくらみを起こし思わずその場にうずくまります。
そしてしゃがみ込んだメデューサが恐る恐るその瞳を開き蛇の前髪の隙間から自分の足元を見るとそこには無数の金貨や宝石類などがうず高く積まれているのが目に入ります。
メデューサは戸惑いながらもゆっくりと立ち上がり自分が足を踏み入れたその広大な空間を改めて見回しました。
メデューサの足元でジャリジャリと金貨と宝石の山が音を立てます。
メデューサが迷い込んだその場所は部屋というよりまるで超巨大な倉庫の様でした。
その広大な場所はうず高く積まれた金銀財宝によって完全に埋め尽くされており床はもちろん見えず四方の壁も宝物の山々が延々と連なる向こうにかろうじて立っているのが判るほど遠くにありました。
天井もとてつもなく高く首が痛くなるほど上を向くとドーム型の骨組みがかろうじて見えそこから淡い照明の光が降り注いでいるのが確認出来ます。
メデューサは自分が侵入した場所のあまりの壮麗さと予想外の事態に頭が混乱してキョロキョロと周りを見回します。

(一体これはどういう事?確かあの扉の先には空っぽの石造りの部屋があるだけだった。殺風景なただの空部屋がー)

確かに宮殿に到着してすぐにシュナンたちと調べた時には今しがたメデューサが侵入した扉の向こうにはただがらんとした変哲も無い空き部屋があるだけでした。
しかし今、メデューサの目の前には巨大なラピータ宮殿自体に匹敵するほど広い空間とそこに満ちあふれる信じがたいほどの量の宝物で築かれた山々がはるか遠くまで連なっています。
これは一体どういう事なのでしょうか?
メデューサは頭を混乱させながらもとにかく正確な状況を確認しようと目の前にそびえ立つ金銀財宝で出来た山を慎重に登り始めます。
少し目が慣れて来たのかよく見るとメデューサが踏みしめるその宝の山は様々な国で鋳造された金貨や金の延べ棒がベースになっており更にその隙間を埋めるように大粒の宝石類や王冠それに高価な武具などが散りばめられています。
おそらくその足元の宝物を一掴みするだけで何人もの人間が一生遊んで暮らせる事でしょう。
メデューサはその目の前にそびえ立つ金銀財宝て出来た山を登りきるとその頂上に立ってあたり一帯の様子を見回します。

(すごい・・・。まるで世界中の宝物が集まったみたい)

メデューサが宝の山の上に立って見る景色は彼女の想像をはるかに超えるものでした。
彼女の目の前には自分が今登って来た宝の山と同じかそれ以上の大きさの金銀財宝の山々がまるで大海原の波のように連なりどこまでも続いていたのです。
それはまさしく黄金の海としか形容できない光景でした。
メデューサは目の前に広がる光景に圧倒されながらも意を決してその金銀財宝の山々の間を縫うように歩きだしました。
それはもちろんシュナン少年のために「黄金の種子」を見つけ出す為でした。
彼女はこの場所の想像を絶する光景に驚きながらも無限に続くような宝物の山々の連なりを見てこここそが探し求めていたメデューサ族の宝物殿に違いないと思ったのです。
だとすればこの広い場所のどこかに「黄金の種子」は保管されているはずです。
メデューサはこの宝物の数々でできた海原か砂丘のような広大な場所を隅から隅まで探してでも「黄金の種子」を見つけ出すつもりでした。
そんな風に気持ちを奮い立たせながら宝物の山々の間を渡り歩いていたメデューサですがやがて彼女はこの場所には金銀財宝の他にも様々な貴重な品々が保管されている事に気づきます。
うず高く積まれた金銀財宝の山々の他にもこの保管庫の中には多種多様な貴重品を種類別に集めた大きなエリアがいくつも存在していたのです。
たとえば大小の棚がいくつも並べてあるエリアがあり棚の中には薬の瓶や書類束が数多く収められていました。
また絵画や彫刻品など芸術作品が集積されたエリアもありメデューサ族の文化水準の高さをうかがわせます。
しかしこの宝物殿の中でもっとも異彩を放ちまた大きな面積を占めていたのは広い敷地内の一番奥にあたる色々な機械装置が所狭しと並んでいる巨大なエリアでした。
そこには手のひらに載るものから見上げるような大きさのものまで様々なサイズの奇妙な形状の機械が何種類も陳列されていました。
それらの機械たちは小さなものは透明ケースのついたテーブル状の台座の上に置かれ比較的大きなものは部屋の床にそのまま置かれていましたがそのエリア内でも特に圧巻だったのはなんといっても機械群の中で最も図抜けた大きさを持つまるで鳥か蛾のような独特な形状をした銀色の巨大な飛行用機械でした。
その巨大な飛行用機械の全長は1キール以上あり100人以上の乗員によってコントロールされる仕様になっており飛行機と言うよりもはや飛行要塞と言うべき代物でした。
そう、その巨大な空飛ぶ要塞こそメデューサ族が敵対するオリュンポスの神々に対抗する為に優れた科学技術を総結集して作り上げた超兵器「ギガス」だったのです。
いわばメデューサ族の最終兵器であるそれは超金属製の流線型ボディを持つ巨大な鳥か蛾のような形状をしておりひとたび空に飛び立てばその内部に搭載された超磁力兵器を初めとする様々な恐るべき兵器によって地球さえもあっという間に破壊できる力を秘めていました。
おそらくこの巨大な飛行兵器が予定通り発進していればもしかしたら最強の神々であるオリュンポス十二神にさえ打ち勝つ事が出来たかもしれません。
しかし発進前にエネルギー源であったパロ・メデューサ内の「太陽塔」と呼ばれる施設をゼウスの雷で破壊された為にエネルギーの供給が間に合わず結局は飛び立つ事も出来ずに無用の長物としてこの巨大な宝物殿の中で永い眠りにつく破目になったのでした。
そのような経緯がある事もつゆ知らず王国の最後の子孫であるメデューサは宝の山を踏みしめながらその超兵器「ギガス」の鎮座する区域の前を通過し横目で一べつするとなんだか城みたいに馬鹿でっかい図体の金属製の鳥みたいなのが置いてあるなーと思い少し首をかしげます。
そしてそんな彼女は宿敵ペルセウス王が是が非でも手に入れようと目論んでいるその別名「死の鳥」とも呼ばれる超兵器の傍らを何気なく通り過ぎると行く手に延々と続く黄金の山々の方に目を馳せて深いため息をつきました。

[続く]

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