メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その26

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 魔神兵ののっぺりとした頭部から発射された光線は、空中を浮遊していたシュナン少年の頭上をかすめる様に空間を貫き、真っ直ぐに天空に向かって延びていきます。
更にその光線は、天空に向かって延びたまま、サーチライトのように周囲をなぎ払うような動きを見せ、空を飛ぶシュナンに向かって迫ります。
シュナン少年が空中で激しく身をひるがえして、まるで巨大なバットみたいに自分に迫る光線をかろうじて避けると、その光線は彼の頭上を通過してから、再びサーチライトのような軌跡で宙を切り裂きながら、今度は逆に遠ざかっていきます。
そしてシュナン少年がかろうじて避けたその光線の先端は、はるか向こうにかいま見えるパロ・メデューサの都市部に到達して、そのなぎ払うような動きとともに、高層建築物が立ち並ぶパロ・メデューサの街並みを一瞬で崩壊させると、あたり一面を火の海と化しました。
ドゴォーッンという大きな地鳴りと共にー。
凄まじい噴煙と火炎を上げて壊滅したパロ・メデューサの街並みの様子を見た、ラピータ宮殿の周辺にいる人々は、敵も味方も戦慄し恐怖の表情を一斉にその顔に浮かべます。
それは魔神兵などよりはるかに強力な、メデューサ族の残した超兵器が使用された時に、どんな地獄がこの世界に出現するかを、人々に想像させるのに充分な光景でした。
シュナン少年も空中で浮遊しながら、一区画が火の海と化したパロ・メデューサの遠景を高所から見下ろし、その背中に冷たい汗を流します。

「な、何という・・・」

あまりの光景に一瞬、空中で動きを止めたシュナン少年に対し、手に持つ師匠の杖が警告の声を発します。

「シュナン、気をつけろ!!次が来るぞっ!!」

次の瞬間、再び魔神兵の頭部から巨大な光線が発射され、シュナン少年を襲います。
今度も空中で身をひるがえして、怪光線を避けるシュナン少年。
そして、再び標的を外したその光線は、今度はラピータ宮殿の近くに着弾し、宮殿の周囲に広がる庭園を広範囲にわたって焼き尽くすと、更に堀の外周部の壁の一部を破壊しました。
破壊された堀の外周部の壁は、堀の中にひしめくペルセウス王の兵士たちの頭上に、大小の破片となって降り注ぎ、堀の内部のあちこちから兵士たちの悲鳴が上がります。
それを見た馬上のペルセウス王は、堀の中で大勢の部下に囲まれながら、苦々しげな表情をその顔に浮かべます。
彼は自分たちが堀の中で包囲している、高い土台の上で展開する、ラピータ宮殿前の激しい戦いを下から見上げながら、舌打ち交じりに言いました。

「レプカールめ、調子に乗りおって。誤ってラピータ宮殿に当たったらどうするつもりだ。宮殿が土台ごと崩落して、その下の堀の中にいる我らは、たちまち押しつぶされてしまうぞ」


一方、その高い土台の上に建つラピータ宮殿内には、一階部分の多くの柱に支えられた広間のようなスペースの中に潜む、我らがヒロイン、ラーナ・メデューサの姿がありました。
彼女は、宮殿の一階のスペースを支える多くの柱の一つの陰に隠れ、そこから宮殿前で繰り広げられるシュナンと魔神兵の戦いの様子を、固唾を呑んで凝視しています。
彼女の傍にいたはずの吟遊詩人デイスの姿は、いつのまにか消え失せており、もしかしたら一人でこっそりと逃げたのかも知れません。
しかし、こんな恐ろしい戦いを目の当たりにすれば、それも無理はないとメデューサは思いました。
彼女だって、恋人であるシュナン少年が戦っているのでなければ、とっくの昔に逃げ出していたでしょう。

「シュナン、負けないでー」

柱の陰に隠れながら、愛する人の決死の戦いの様子を見守るメデューサは、その石の柱の側面を、血の気が無くなるほどきつくつかんでいました。


そして、メデューサやペルセウス王を初めとする、ラピータ宮殿の周囲にいる人々が熱を帯びた視線で見守る中、宮殿前で続くシュナン少年と魔神兵の戦いは、いよいよ佳境を迎えようとしていました。

「エクスカリバー!!!」

空中を飛び回るシュナン少年が、杖を持っていない方の腕を上下に振って放った巨大な刃のような風魔法が、魔神兵のボディをノコギリのように切り裂き、切断寸前にまで破壊します。
しかし真っ二つになりかけたその巨大な身体は、裂かれた部分からすぐに修復し、シュナンの風魔法の効果が切れると、同時に元通りにくっついてしまいます。

更にー。

「フリーザー!!!」

空中で高々と杖を掲げるシュナン少年の、某少年漫画の主人公みたいなかけ声と共に、魔神兵のボディがオーロラみたいな光に包まれ、一瞬後にはその巨体は青白い霜に覆われて凍りつきます。
関節部も凍りついて、身動き出来なくなったように見えた魔神兵ですが、その関節部から高熱が発せられると、もうもうと立つ水蒸気と共に、シュナン少年が凍りつかせた魔神兵の身体は元通りになり、再び少年に対する攻撃が再開されます。
魔神兵は、高い土台の上に建つラピータ宮殿の前に広がる石造りのスペースで、その巨大な両腕を振り回し、羽虫のごとく周りを飛ぶシュナン少年をはたき落とそうとしています。
シュナン少年は、魔神兵が振り回す巨腕による攻撃を、紙一重で避けながら空を飛び、また時おり魔神兵の頭部から発射される、光線のサーチライトの様な軌跡をかいくぐりながら、その巨体の周りを旋回し、魔法による攻撃を続けていました。
しかし、空中を飛びながらシュナン少年が、次々と放った魔法による遠隔攻撃を、魔神兵の不死身の巨体は、その強力な再生能力で全てはねのけます。
シュナン少年はいっそのこと魔神兵の懐に飛び込んで、その弱点である頭部に直接攻撃を加えようかとも思いましたが、あの拘束光線に捕らえられて、レダたちの二の舞になる事は火を見るより明らかでした。
攻め手に窮したシュナン少年は、魔神兵の攻撃をかわしつつその巨体の周りを飛び回りながら、ついに最後の切り札を使う決心をします。

「師匠、バルスを使います。ショックに備えて下さい」

それを聞いた少年の手に握られた師匠の杖は一瞬、沈黙します。
しかし、やがてその先端の円板についた大きな目を光らせると、衆人環視の中、ラピータ宮殿の上空を旋回しながら飛ぶ弟子に対して言いました。

「わかった。ただし必ず魔神兵の頭を狙え。操縦席にいるレプカールごと魔神兵の中枢である頭部を破壊するのだ。お前は、もちろん理解しているとは思うが、一発勝負だ。二の矢はないぞ。何故なら、究極爆裂魔法は一度放つだけで、お前の魔法力の大半を消費してしまうのだからー。外せば確実にこちらの負けだ」

[続く]
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