メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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変身の朝(あした)

その4

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 「残念ですが死者を蘇らせる事はわたしには出来ません。それが出来るのはわたしの叔父である冥皇神ハーデスだけなのです」

ラピータ宮殿の上空高く浮遊する女神アルテミスのその言葉を聞いた眼下の石造りの床上にいるシュナン少年の石像に寄り添うメデューサを始めとするかの少年の旅の仲間たちは一様に落胆の表情を浮かべます。
しかし石床の上に横たわるシュナン少年の石像に寄り添いその傍らに座るラーナ・メデューサはどうしても諦めきれないのかはるか上空に浮かぶ女神アルテミスに対してひれ伏す様な姿勢を取ると仇敵である月の女神に向かって更に懇願します。
石畳の上に両手をつき土下座のような姿勢で頭上に浮かぶ女神の方に身体を向けると顔だけを上に向けて必死に懇願するラーナ・メデューサ。

「わかりました。それではそのハーデス様のいる冥界へはどうすれば行けるのかを教えてください。ハーデス様に直接お会いしてシュナンを生き返らせてくれるよう頼んでみます。たとえそこに行くためにどんなに長い年月がかかるとしてもー。お願いします、どうか教えて下さい。冥界へ行く為の方法をー」

けれどこの長い物語を更に引き延ばすような困った発言をするメデューサに対して彼女の頭上に浮かぶ月の女神は光に包まれた顔に優しげな微笑みを浮かべて答えます。

「冥界は生きた人間が行く場所ではありませんよ。ラーナ・メデューサ。まぁ、若干の例外はありますが。けれどメデューサ。ハーデスに会うのにあなたがわざわざ冥界に行く必要はないでしょう。彼はずっと前からあなた方の側にいるのですから。後ろを振り向いてシュナン少年の復活を願ってみたらどうですか?」

ラピータ宮殿の門前に広がる石造りの床の上に平伏していたメデューサは頭上から響く女神のその言葉を聞くと何かを察したのか驚きで大きく目を見開きます。
そして傍らに横たわる石像となったシュナン少年を生き返らせるために上空に浮かぶ女神に向かって深々と下げていたその頭をサッと上げると更にくるりと後ろに振り向かせました。
するとー。
そこには旅の仲間であるレダとボボンゴが青ざめた顔で立っておりシュナン少年の石像に寄り添って石床の上に座り込んでいるメデューサの方を心配そうに見下ろしていました。
更にその背後にはいつのまにか戻って来ていた吟遊詩人デイスが立っており白いマントを翻しながら石造りの床上に佇んでいます。
背後を振り返ったメデューサがそのデイスの顔をじっと見つめると彼は人間の姿に戻ったばかりのメデューサの顔を逆に見つめ返してからニッコリと笑います。
それと同時に不思議な事が起こりましたー。
シュナン少年の横臥した石像に寄り添いながら傍らの床上に座るメデューサが顔を上げてじっと見つめる中、少し離れた場所に立っている吟遊詩人デイスの身体の輪郭が蜃気楼のように揺らいでその姿がかき消えたかと思うとなんと一瞬後には彼がいたはずの地点に全然別の人物が立っていたのです。
その人物は艶のある長い黒髪と吸い込まれそうな漆黒の瞳を持つ青白い顔をした長身の青年であり奇妙な形状をした真っ黒な鎧を身にまといその上からビロードみたいな材質の漆黒のマントを羽織っています。
全身黒ずくめのその青年はラピータ宮殿の門前に広がる石畳が敷きつめられたスペースの上に影のように佇んでおりすぐ側の石床にシュナン少年の石像と共にうずくまるラーナ・メデューサの姿を静かに見下ろしています。

「ーっ!!!」

あまりの事に絶句したメデューサはシュナン少年の石像の傍らで床上にへたり込みながらその紺碧の瞳をこれ以上ないほど大きく見開いています。

「デ、デイス・・・なの・・・?」

「おお、お、驚いた。こ、これが、彼の、正体ー」

仲間であるデイスの姿が急にかき消え彼の立っていた場所にまるで入れ替わるように全く別の人物が現れた事にその周りにいたレダやボボンゴも揃って驚いており石造りの床上で思わずのけぞります。
近くの石畳の上に二つに折れて転がっている師匠の杖も先端の円板についた大きな目を光らせ驚きのあまりか激しく明滅させています。
そんな風に驚く周りの者たちに対して石造りの床上に立つその黒ずくめの人物は上空に浮かぶ女神アルテミスの方をチラリと見てから静かに声を発します。

「わたしは上空に浮かぶアルテミスと同じくこの世の森羅万象を統べるオリンポス12神が一柱であり冥界を支配する死の神ハーデスである。実はわたしは上空にいる姪であるアルテミスに依頼されて君たちの旅の様子をずっと監視していたのだ。そして途中からは吟遊詩人デイスという人間の姿となり君たちの旅に同行する事によって君たちの姿を間近から見つめそれを逐一(ちくいち)天界にいたアルテミスに伝えていたのだ。メデューサ族との和解を考えていた彼女にー」

眼下に広がる石造りの床の上に立つハーデスのその声が聞こえたのかはるか上空であるラピータ宮殿の高い屋根に近い位置で宙空に浮かぶ女神アルテミスは自身を包む光の中でコクリとうなずきます。

「わたしは叔父であるハーデスが変身した吟遊詩人の目を通じてあなた方の姿を良く見つめそして悟りました。わたしたち神が人間に対して取っていた懲罰的な態度や施策は全て無益であり誤りだったとー。今では父である大神ゼウスが人間界への干渉をやめて宇宙の彼方に去った理由が良く解ります」

女神アルテミスはラピータ宮殿の上空で光に包まれて浮かびながら眼下に広がる石造りの床にいるメデューサたちに向かって更に言葉を続けます。

「わたしも父にならって今後は地上への干渉をやめようかと考えています。そして、メデューサ。わたしはそうする前に過去に因縁のあるメデューサ王の裔であるあなたに謝罪し出来れば和解したいと思ったのです。もう一人の人間の王であるペルセウスとの決着がついたその後でー。もちろんわたしが立てた偽王である彼が真の王であるあなたの前に敗れ去るだろう事は前もって予測していました。けれどわたしとしては彼にもあなたと共存し生き残る道を選ぶチャンスを与えたかったのです。まぁ、結局は無駄だったようですがー。あなたたちの戦いのあおりを受けてシュナン少年が死んだのは大変残念な事です」

ラピータ宮殿の上空に浮かぶ女神のその声を眼下に広がる石造りの床の上にいるメデューサを始めとする旅の仲間たちは困惑しながら聞いていました。
そんな彼らに対して今度は同じ石造りの床の上に立っているもう一柱の神、冥皇神ハーデスが声をかけてきます。

「君たちとの旅はまこと得難い体験であった。君たちはもちろん旅先で会った様々な人々の心情に触れアルテミスと同じくわたしの人間に対する見方はおおいに変わった。今後はその事を念頭において人間の生死を司るわたしの役目をしっかりと果たしてゆきたいー」

水で満たされた深い堀の中に屹立するラピータ宮殿を支える高い石造りの土台の上にいるメデューサを始めとしたシュナンの旅の仲間たちは月の女神アルテミスの出現についで自分たちの仲間であった吟遊詩人デイスの正体が実は冥皇神ハーデスであった事が明らかになるとさすがに驚きそれぞれの顔に困惑した表情を浮かべていました。
彼らは全宇宙を支配するというオリンポス12神のうちニ柱もの神が自分たちの目の前に突如として現れた事実に一様に衝撃を受けておりその心を千々に乱れさせていました。
レダとボボンゴはラピータ宮殿の門前に広がる石畳が敷きつめられた床の上に呆然と立ち尽くしながら上空に浮かぶ女神とすぐ隣で同じ石床の上に佇む死の神とを交互に見つめています。
石畳の上に転がっている二つに折れた師匠の杖も事の成り行きに戸惑っているのかその先端の円板についた大きな目を白黒させています。
けれど、シュナン少年の石像の傍らで石造りの床上に座り込んでいるラーナ・メデューサだけはその心は激しく動揺しながらも近くに立つ冥皇ハーデスの彫りの深い青白い顔をまるで見定めるかのように真っ直ぐな瞳で見上げていました。
そしてそんな旅の仲間たちの姿を彼らの周囲にいる強大なニ柱の神々ははるかな上空とすぐ隣から超然とした態度で静かに見つめています。
やがてそんな異様な状況下の中でシュナン少年の石像の傍らで床上にうずくまっていたラーナ・メデューサがついに意を決したかのように動き出します。
彼女は今まで石畳にぺったりと落としていた腰を浮かせると宮殿前に広がる石造りの床にスクッと両足で立ち上がりました。
そして足元付近の石畳の上に横たわるシュナン少年の石像に目をやると振り切るようにその物言わぬ石像に背を向けるとゆっくりと石畳の上を踏みしめながらすぐ側に立っている冥皇ハーデスの元へ歩いて行きます。
彼女のその目的はもちろん人間の生死を司る神である彼に頼み込んで石像と化して絶命したシュナン少年を元通りに生き返らせてもらう事でした。
対する冥皇ハーデスの方はといえば石畳を踏みしめながら自分に向かって近づいてくる波打つ金髪を持つ美しい少女の姿をその漆黒の瞳の中心にしっかりと捉えています。
上空に浮かぶ女神や周囲にいる仲間たちが悄然と見守る中、ラピータ宮殿の門前に広がる石造りのスペースを歩くメデューサは眼前に佇む死の神の方へ少しずつ歩み寄って行きました。

[続く]




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