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家族の事情
その10
その後、俺と乙白さんは、あやさんの給仕で、清田家の人々との会食を続けた。
そして食事をしながら、今後の捜査についても話し合い、俺と乙白さんはしばらくの間、この屋敷に留まり、精一氏の警護と、事件の解決に当たる事になったのだった。
テーブルの向かい側に間隔を空けて座る、冴子夫人と娘の有紗は、険悪な様子で、食事中も目を合わせなかったが、テーブルの一番端に座る信彦氏は、ナイフやフォークを操る合間に、積極的に家族や俺たちに声をかけ、ホスト役として、気を使っている様子であった。
こうして会食は淡々と続いたが、料理人兼給仕役のあやさんが用意してくれた、料理や飲み物はとても美味しく、俺は隣にいる乙白さんと共に舌鼓を打っていた。
だが俺には。料理にパクつきながらも、一つだけ気になる事があった。
それは、この屋敷の若き当主である信彦氏と。住み込みのメイドであるらしい、あやさんの箏だった。
あやさんは前述した通り、会食中は、俺たち刑事や清田家の人々の、食事の世話をしてくれたのだが、なんというか信彦氏に対してだけ、その態度が非常にきめ細やかというか、親しげだったのだ。
もちろん、俺たちや冴子夫人や有紗に対する態度が、そっけなかったわけではないのだが。おそらく無自覚のうちに。信彦に対する思いが態度に出ていた。
一方、信彦氏はといえば、甲斐甲斐しく世話をしてくれている、あやさんに対して、感謝の言葉を口にするものの、どこか、つっけんどんな態度をとっており、彼女とは距離を置こうとしているように思えた。
俺の隣に座る乙白さんも、テーブルの反対側にいる清田家の人々の様子に、違和感を覚えたらしく、俺に対して耳打ちすると、俺以外には聞こえない大きさの声でささやいた。
「何か、色々と、複雑な事情がありそうですね」
その後、しばらくの間、会食は続き、俺と乙白さんはあやさんの手料理を楽しんだが、やがて信彦氏の鶴の一声で、お開きする運びとなった。
「それじゃ、刑事さんたち。今日は用意した部屋で、ゆっくりと休んで。疲れを癒してください。明日から、よろしくお願いしますよ」
信彦さんのその言葉に従い、俺と乙白さんは、割り当てられた来客用の部屋へと向かい。そこで就寝する事にした。
あやさんは、食事の後片付け等の仕事があった為、信彦氏の指示で、今度は有紗が、俺たちを部屋まで案内してくれる事になり、俺と乙白さんは有紗に従い。挨拶もそこそこに部屋を後にした。
その後、有沙の先導で、屋敷内の通路を歩く俺と乙白さんであったが、俺には先ほど食事中に見た、あやさんと信彦氏の様子が妙に気になっていた。
だから、余計な事だとは思ったが、好奇心には勝てず、ついつい、前を歩く有紗に聞いてしまった。
「ねえ、有紗さん。信彦さんとあやさんって、すごくいい雰囲気だよね。もしかすると、恋人同士なのかな」
すると有紗は、俺たちの前を歩きながら、大きなため息をつき、どこか投げやりな声で喋った。
「あの二人が、好き合ってるのは確かよ。幼馴染だしね。でも、きっと一緒にはならない。いや、なれないでしょうね」
そして一息置くと、衝撃的な一言を、口に出した。
「実はね、あやは、父の愛人だったの」
その言葉を聞いて、俺はもちろん、隣にいる乙白さんも絶句する。
まさか、あの清純そうな、あやさんがー。
そんな俺たちの気持ちを、知ってか知らずか、前を歩く有紗は言葉を続ける。
「あやはね。ほら、覚えてるでしょ。運転手の時田さん。あの人の娘なの。時田さんは、いわゆる男やもめでね。あやが、ほんの小さな子供の頃に、うちの屋敷に来たのよ。住み込みの運転手としてね。その頃、わたしたちの家族は、パパと亡くなったママ、そして信彦兄さんとわたしの、四人家族だったの。あやは亡くなったママに、よくなついてね。わたしとあやは、信彦兄さんも含めて、本当の兄妹のように育ったの。でもそんな幸せな日々は、長くは続かなかった」
有紗の瞳が、憂いを帯びて、悲しげに光る。
「わたしの本当のママは、病弱な人でね。わたしとあやが、中学生くらいの頃に亡くなってしまったの。そして、それからしばらくすると。パパとあやは、何故か。男女の仲になってしまったわ。パパが淋しさのあまり、あやに手を出したのか、あやが妻を亡くしたパパに同情して、自分から誘ったのかは、わからないけどね」
俺は、有紗の話を聞いているうちに、だんだんと怒りが込み上げてきた。
あの、エロ親父め。
いくら妻を亡くして淋しいからって、実の娘のような存在に手を出すとは、倫理感が無いにも程がある。
隣を見ると、俺と並んで有紗の後ろを歩く乙白さんも、なんだか、不愉快そうな顔をしている。
「そりゃ、いくらなんでも酷いな。男としても父親としても、失格だよ。君は、何とも思わなかったの?」
すると、俺たちの前を歩く有紗は、肩越しに振り返ると、どこか気まずそうな口調で言った。
「そりゃ、わたしだって、ショックだったわ。でも、ほら、男女の仲って、そう簡単に、善悪で割り切れるものじゃないでしょ。それに、どうせ一時の気の迷いだと思って、静観してたの。でも、お兄さんはそうじゃなかったー」
有紗は少し間を開けると、更に話を続けた。
「お兄さんは、パパと大喧嘩をして、家を飛び出してしまったわ。まだ学生だったのにー。まぁ、あやとは昔から恋仲だったし、お互いに信頼もしていた。だから余計に、ひどい裏切りだと感じたのね。お兄さんは、それから何年も、わたしたち家族やあやとは、絶縁状態だったの。この家に戻ってきたのは、ごく最近、パパから社長の座を譲られてからよ」
有紗の話を聞き続ける、俺の胸に、新たな疑問が湧き上がる。
もしかしたら信彦氏は、自分の恋人を奪った父親の事を、まだ恨んでいるのかもしれない。
彼が社長業を継ぎ、この屋敷に戻ってきたのは、父親と、自分を裏切った恋人のあやさんに、復讐する為ではないのだろうか。
俺には、今回の一連の「霧男」による事件の裏側に、信彦氏がいるような気がしてならなかった。
そんな、黒々とした疑いを見透かしたように、俺たちの前を歩く有紗が、大きなため息をついた。
「もちろん今は、パパは冴子さんと再婚してるし、あやとの関係は。一時的なものだったと思うわ。だけど一度崩れた関係性は、二度と元には戻らない。ママという大きなパーツを失って、わたしたちの家族は、崩壊してしまった。まるで、積み木で作った城のように。不思議なものね。どんなに一生懸命に、信頼関係を積み上げても、たった一度の過ちで家族なんて、一瞬で崩壊してしまうんだからー」
屋敷内の通路を肩を並べて歩く、俺と乙白さんの耳に、前を行く有紗の放つ、嘆きの声が悲しげに響いた。
[続く]
そして食事をしながら、今後の捜査についても話し合い、俺と乙白さんはしばらくの間、この屋敷に留まり、精一氏の警護と、事件の解決に当たる事になったのだった。
テーブルの向かい側に間隔を空けて座る、冴子夫人と娘の有紗は、険悪な様子で、食事中も目を合わせなかったが、テーブルの一番端に座る信彦氏は、ナイフやフォークを操る合間に、積極的に家族や俺たちに声をかけ、ホスト役として、気を使っている様子であった。
こうして会食は淡々と続いたが、料理人兼給仕役のあやさんが用意してくれた、料理や飲み物はとても美味しく、俺は隣にいる乙白さんと共に舌鼓を打っていた。
だが俺には。料理にパクつきながらも、一つだけ気になる事があった。
それは、この屋敷の若き当主である信彦氏と。住み込みのメイドであるらしい、あやさんの箏だった。
あやさんは前述した通り、会食中は、俺たち刑事や清田家の人々の、食事の世話をしてくれたのだが、なんというか信彦氏に対してだけ、その態度が非常にきめ細やかというか、親しげだったのだ。
もちろん、俺たちや冴子夫人や有紗に対する態度が、そっけなかったわけではないのだが。おそらく無自覚のうちに。信彦に対する思いが態度に出ていた。
一方、信彦氏はといえば、甲斐甲斐しく世話をしてくれている、あやさんに対して、感謝の言葉を口にするものの、どこか、つっけんどんな態度をとっており、彼女とは距離を置こうとしているように思えた。
俺の隣に座る乙白さんも、テーブルの反対側にいる清田家の人々の様子に、違和感を覚えたらしく、俺に対して耳打ちすると、俺以外には聞こえない大きさの声でささやいた。
「何か、色々と、複雑な事情がありそうですね」
その後、しばらくの間、会食は続き、俺と乙白さんはあやさんの手料理を楽しんだが、やがて信彦氏の鶴の一声で、お開きする運びとなった。
「それじゃ、刑事さんたち。今日は用意した部屋で、ゆっくりと休んで。疲れを癒してください。明日から、よろしくお願いしますよ」
信彦さんのその言葉に従い、俺と乙白さんは、割り当てられた来客用の部屋へと向かい。そこで就寝する事にした。
あやさんは、食事の後片付け等の仕事があった為、信彦氏の指示で、今度は有紗が、俺たちを部屋まで案内してくれる事になり、俺と乙白さんは有紗に従い。挨拶もそこそこに部屋を後にした。
その後、有沙の先導で、屋敷内の通路を歩く俺と乙白さんであったが、俺には先ほど食事中に見た、あやさんと信彦氏の様子が妙に気になっていた。
だから、余計な事だとは思ったが、好奇心には勝てず、ついつい、前を歩く有紗に聞いてしまった。
「ねえ、有紗さん。信彦さんとあやさんって、すごくいい雰囲気だよね。もしかすると、恋人同士なのかな」
すると有紗は、俺たちの前を歩きながら、大きなため息をつき、どこか投げやりな声で喋った。
「あの二人が、好き合ってるのは確かよ。幼馴染だしね。でも、きっと一緒にはならない。いや、なれないでしょうね」
そして一息置くと、衝撃的な一言を、口に出した。
「実はね、あやは、父の愛人だったの」
その言葉を聞いて、俺はもちろん、隣にいる乙白さんも絶句する。
まさか、あの清純そうな、あやさんがー。
そんな俺たちの気持ちを、知ってか知らずか、前を歩く有紗は言葉を続ける。
「あやはね。ほら、覚えてるでしょ。運転手の時田さん。あの人の娘なの。時田さんは、いわゆる男やもめでね。あやが、ほんの小さな子供の頃に、うちの屋敷に来たのよ。住み込みの運転手としてね。その頃、わたしたちの家族は、パパと亡くなったママ、そして信彦兄さんとわたしの、四人家族だったの。あやは亡くなったママに、よくなついてね。わたしとあやは、信彦兄さんも含めて、本当の兄妹のように育ったの。でもそんな幸せな日々は、長くは続かなかった」
有紗の瞳が、憂いを帯びて、悲しげに光る。
「わたしの本当のママは、病弱な人でね。わたしとあやが、中学生くらいの頃に亡くなってしまったの。そして、それからしばらくすると。パパとあやは、何故か。男女の仲になってしまったわ。パパが淋しさのあまり、あやに手を出したのか、あやが妻を亡くしたパパに同情して、自分から誘ったのかは、わからないけどね」
俺は、有紗の話を聞いているうちに、だんだんと怒りが込み上げてきた。
あの、エロ親父め。
いくら妻を亡くして淋しいからって、実の娘のような存在に手を出すとは、倫理感が無いにも程がある。
隣を見ると、俺と並んで有紗の後ろを歩く乙白さんも、なんだか、不愉快そうな顔をしている。
「そりゃ、いくらなんでも酷いな。男としても父親としても、失格だよ。君は、何とも思わなかったの?」
すると、俺たちの前を歩く有紗は、肩越しに振り返ると、どこか気まずそうな口調で言った。
「そりゃ、わたしだって、ショックだったわ。でも、ほら、男女の仲って、そう簡単に、善悪で割り切れるものじゃないでしょ。それに、どうせ一時の気の迷いだと思って、静観してたの。でも、お兄さんはそうじゃなかったー」
有紗は少し間を開けると、更に話を続けた。
「お兄さんは、パパと大喧嘩をして、家を飛び出してしまったわ。まだ学生だったのにー。まぁ、あやとは昔から恋仲だったし、お互いに信頼もしていた。だから余計に、ひどい裏切りだと感じたのね。お兄さんは、それから何年も、わたしたち家族やあやとは、絶縁状態だったの。この家に戻ってきたのは、ごく最近、パパから社長の座を譲られてからよ」
有紗の話を聞き続ける、俺の胸に、新たな疑問が湧き上がる。
もしかしたら信彦氏は、自分の恋人を奪った父親の事を、まだ恨んでいるのかもしれない。
彼が社長業を継ぎ、この屋敷に戻ってきたのは、父親と、自分を裏切った恋人のあやさんに、復讐する為ではないのだろうか。
俺には、今回の一連の「霧男」による事件の裏側に、信彦氏がいるような気がしてならなかった。
そんな、黒々とした疑いを見透かしたように、俺たちの前を歩く有紗が、大きなため息をついた。
「もちろん今は、パパは冴子さんと再婚してるし、あやとの関係は。一時的なものだったと思うわ。だけど一度崩れた関係性は、二度と元には戻らない。ママという大きなパーツを失って、わたしたちの家族は、崩壊してしまった。まるで、積み木で作った城のように。不思議なものね。どんなに一生懸命に、信頼関係を積み上げても、たった一度の過ちで家族なんて、一瞬で崩壊してしまうんだからー」
屋敷内の通路を肩を並べて歩く、俺と乙白さんの耳に、前を行く有紗の放つ、嘆きの声が悲しげに響いた。
[続く]
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