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その15
鬼岩城攻略戦Ⅴ
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「何だとっ!!あのマーリンの一番弟子だと!!」
黒騎士バーンが驚きの声を上げます。
ナロー姫の師匠であるマーリンは大陸に知らぬ者のない大魔術師でした。
彼はまさか勇者たちの影に隠れる様につき従っていたこの少女がそれほど大物だとは露ほども思わなかったのでした。
まぁ勘違いなんですけどね。
「行きますわよっ!覚悟しなさいっ!!」
ナロー姫は持っていた魔法杖を高々とかかげ呪文を唱えます。
「エロエモロエモトッパロエモッ!集え、業炎っ!!ファイヤーボール!!!」
「ムウッ!!」
黒騎士バーンはとっさに身をかがめ防御姿勢を取りました。
凄まじい攻撃が自分を襲うと思ったのです。
ところがー
「な、なにいっ!!」
ナロー姫の杖の先から放たれたのは火の玉とは名ばかりのなんかポヨポヨした丸っこいこぶし大の熱気の固まりでした。
これでは当たっても紙さえ燃やす事は出来なかったでしょう。
その物体はタンポポの綿毛の様に空気の流れに乗ってフワフワと黒騎士バーンの方へ漂っていきます。
「くっ!!」
防御姿勢で身構え前のめりになっていた黒騎士バーンは完全に身体のバランスを崩します。
彼は物凄いスピードと威力の大火球が自分に向かい飛んでくると思っていたのです。
これは武道やスポーツでいうフェイントみたいなものでした。
そしてこの一瞬の隙を見逃さなかった人物がいました。
ナロー姫の護衛騎士シールズです。
「もらった!!」
シールズは地を這うような低い姿勢で剣を抜き放ち矢のように素早く黒騎士バーンめがけて突っ込んでいきます。
「ぐあああーっ!!」
一瞬後にシールズの長剣がバーンの漆黒の鎧の隙間に深々と突き刺さっていました。
苦痛に身悶えする黒騎士バーン。
そしてシールズは彼に剣を突き立てたまま床に倒れている勇者たちに向かって叫びます。
「今ですっ!勇者様!!とどめをっ!!」
それに呼応するかの様に倒れていた勇者パーティーのメンバーが次々と立ち上がってバーンに攻撃を加えていきます。
勇者アルファポリスと傭兵騎士オグマがそれぞれ剣で切りつけエルフのジーナ姫が矢を放ちます。
そして最後に大賢者サルマーが魔族に対して特効がある特大の光魔法をバーンに向けて発射しました。
これは先程ナロー姫が撃った魔法とは違い正真正銘の大魔法でした。
黒騎士バーンの身体は青い光に包まれていきます。
こうして鬼岩城の指揮官であり魔王四天王の一人黒騎士バーンはとうとう人間たちの手で倒されたのでした。
「無念だ。魔王様の期待を裏切ってしまったー」
青白い光に包まれた黒騎士バーンは思います。
彼はもうすぐ自分が死ぬ事を知っていました。
彼の心残りは自分を信頼してくれた魔王の期待に答えられなかった事それから国に残した妻と娘に最期に一目会えなかった事でした。
既に死期が迫っている為でしょうかもう焦点が合わずぼんやりとした視界の中、青白い光のスクリーンに彼の妻子の懐かしい姿の幻が浮かび上がりました。
バーンは苦しい息をしながらもその幻の方へ懸命に手を伸ばします。
するとどうでしょう。
幻の妻と娘が彼の手を取りしっかりと握りしめたではありませんか。
幻であるにも関わらずその手はとても暖かくまるで血が通っているかの様でした。
黒騎士バーンは幻の妻子の顔を見つめると何故か謝罪の言葉を口にしました。
「ごめん、ごめんな」
次の瞬間、彼は事切れていました。
そしてバーンを包んでいた青白い魔法の光が部屋から消え失せた時ー。
その部屋の中には床の上に横たわる黒騎士バーンの亡骸とその伸ばした手を握りしめるナロー姫の姿がありました。
バーンが幻の妻子のものだと思っていた手は実はナロー姫の手だったのです。
断末魔の苦しみの中、必死に手を伸ばす彼を見て哀れに思ったナロー姫は思わず近づいてその手を握りしめたのでした。
横たわるバーンの手を取るナロー姫は息絶えた彼の姿を見つめポロポロと涙を流します。
「わたくしやっぱり戦は嫌いですわ。仕方ない面もあるのも解りますけどー。やっぱり大嫌いです」
彼女の側に立つシールズが頷きながら言いました。
「それでいいのです我が君。戦好きの王族など民にとっては災いでしかありません」
そんな二人の様子を勇者たちは少し離れた場所で見守っていました。
部屋にある高窓から見える城内の様子は先程までとは打って変わって静まり返っていました。
人間側の軍勢はすでに城内のほとんどを制圧し魔族の兵士たちは逃げ出した少人数以外は全て殺されるか囚われていました。
こうして後の世に「鬼岩城攻略戦」と呼ばれる戦いは人類側の勝利で終わったのでした。
この戦いは長く続く人間と魔族との争いの歴史において大きな転換点となったのです。
しばらくバーンの死体の横で床にうずくまるナロー姫を見つめていた勇者アルファポリスでしたがやがて他のパーティーの仲間たちと共に彼女の側に近づいてその肩にそっと手を置きました。
そして優しさの中に悲しみの入り混じった静かな声で言いました。
「さぁ、姫。そろそろバーンを土に埋めて弔ってやりましょう。他の戦死者たちも葬ってやらねば。味方も敵もね。もう戦いは終わったのですから」
ナロー姫は辛そうに目を伏せながらもコクリと頷きました。
涙で頬を濡らしながら。
[続く]
黒騎士バーンが驚きの声を上げます。
ナロー姫の師匠であるマーリンは大陸に知らぬ者のない大魔術師でした。
彼はまさか勇者たちの影に隠れる様につき従っていたこの少女がそれほど大物だとは露ほども思わなかったのでした。
まぁ勘違いなんですけどね。
「行きますわよっ!覚悟しなさいっ!!」
ナロー姫は持っていた魔法杖を高々とかかげ呪文を唱えます。
「エロエモロエモトッパロエモッ!集え、業炎っ!!ファイヤーボール!!!」
「ムウッ!!」
黒騎士バーンはとっさに身をかがめ防御姿勢を取りました。
凄まじい攻撃が自分を襲うと思ったのです。
ところがー
「な、なにいっ!!」
ナロー姫の杖の先から放たれたのは火の玉とは名ばかりのなんかポヨポヨした丸っこいこぶし大の熱気の固まりでした。
これでは当たっても紙さえ燃やす事は出来なかったでしょう。
その物体はタンポポの綿毛の様に空気の流れに乗ってフワフワと黒騎士バーンの方へ漂っていきます。
「くっ!!」
防御姿勢で身構え前のめりになっていた黒騎士バーンは完全に身体のバランスを崩します。
彼は物凄いスピードと威力の大火球が自分に向かい飛んでくると思っていたのです。
これは武道やスポーツでいうフェイントみたいなものでした。
そしてこの一瞬の隙を見逃さなかった人物がいました。
ナロー姫の護衛騎士シールズです。
「もらった!!」
シールズは地を這うような低い姿勢で剣を抜き放ち矢のように素早く黒騎士バーンめがけて突っ込んでいきます。
「ぐあああーっ!!」
一瞬後にシールズの長剣がバーンの漆黒の鎧の隙間に深々と突き刺さっていました。
苦痛に身悶えする黒騎士バーン。
そしてシールズは彼に剣を突き立てたまま床に倒れている勇者たちに向かって叫びます。
「今ですっ!勇者様!!とどめをっ!!」
それに呼応するかの様に倒れていた勇者パーティーのメンバーが次々と立ち上がってバーンに攻撃を加えていきます。
勇者アルファポリスと傭兵騎士オグマがそれぞれ剣で切りつけエルフのジーナ姫が矢を放ちます。
そして最後に大賢者サルマーが魔族に対して特効がある特大の光魔法をバーンに向けて発射しました。
これは先程ナロー姫が撃った魔法とは違い正真正銘の大魔法でした。
黒騎士バーンの身体は青い光に包まれていきます。
こうして鬼岩城の指揮官であり魔王四天王の一人黒騎士バーンはとうとう人間たちの手で倒されたのでした。
「無念だ。魔王様の期待を裏切ってしまったー」
青白い光に包まれた黒騎士バーンは思います。
彼はもうすぐ自分が死ぬ事を知っていました。
彼の心残りは自分を信頼してくれた魔王の期待に答えられなかった事それから国に残した妻と娘に最期に一目会えなかった事でした。
既に死期が迫っている為でしょうかもう焦点が合わずぼんやりとした視界の中、青白い光のスクリーンに彼の妻子の懐かしい姿の幻が浮かび上がりました。
バーンは苦しい息をしながらもその幻の方へ懸命に手を伸ばします。
するとどうでしょう。
幻の妻と娘が彼の手を取りしっかりと握りしめたではありませんか。
幻であるにも関わらずその手はとても暖かくまるで血が通っているかの様でした。
黒騎士バーンは幻の妻子の顔を見つめると何故か謝罪の言葉を口にしました。
「ごめん、ごめんな」
次の瞬間、彼は事切れていました。
そしてバーンを包んでいた青白い魔法の光が部屋から消え失せた時ー。
その部屋の中には床の上に横たわる黒騎士バーンの亡骸とその伸ばした手を握りしめるナロー姫の姿がありました。
バーンが幻の妻子のものだと思っていた手は実はナロー姫の手だったのです。
断末魔の苦しみの中、必死に手を伸ばす彼を見て哀れに思ったナロー姫は思わず近づいてその手を握りしめたのでした。
横たわるバーンの手を取るナロー姫は息絶えた彼の姿を見つめポロポロと涙を流します。
「わたくしやっぱり戦は嫌いですわ。仕方ない面もあるのも解りますけどー。やっぱり大嫌いです」
彼女の側に立つシールズが頷きながら言いました。
「それでいいのです我が君。戦好きの王族など民にとっては災いでしかありません」
そんな二人の様子を勇者たちは少し離れた場所で見守っていました。
部屋にある高窓から見える城内の様子は先程までとは打って変わって静まり返っていました。
人間側の軍勢はすでに城内のほとんどを制圧し魔族の兵士たちは逃げ出した少人数以外は全て殺されるか囚われていました。
こうして後の世に「鬼岩城攻略戦」と呼ばれる戦いは人類側の勝利で終わったのでした。
この戦いは長く続く人間と魔族との争いの歴史において大きな転換点となったのです。
しばらくバーンの死体の横で床にうずくまるナロー姫を見つめていた勇者アルファポリスでしたがやがて他のパーティーの仲間たちと共に彼女の側に近づいてその肩にそっと手を置きました。
そして優しさの中に悲しみの入り混じった静かな声で言いました。
「さぁ、姫。そろそろバーンを土に埋めて弔ってやりましょう。他の戦死者たちも葬ってやらねば。味方も敵もね。もう戦いは終わったのですから」
ナロー姫は辛そうに目を伏せながらもコクリと頷きました。
涙で頬を濡らしながら。
[続く]
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