元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ

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【回復師】

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 俺は、回復師達が待つ部屋に向かった。そこには、部屋に入りきれないほどの回復師達がいる。
「あのー。ここの部屋でいいんですか?」
「先生!!お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
「はぁ・・・」
 この部屋は、この回復院で一番大きな部屋なのだろう。俺は、講義台っぽい所に案内された。
「ここで話をすればいいですか?」
「はい。是非、お願いします。」
「分かりました。では、話を始める前に俺の方からいくつか皆さんに聞きたいことがあります。まず一つ目は、”回復師”とはどのような人を指し、どのよう手順でなるのでしょうか?」
 会場が、ざわざわっとした。その中で一人の回復師が俺の質問に答えてくれる。
「基本的に回復師には、治癒魔法が使えるヒーラーや賢者様、薬草やポーションなどを使って人を治癒する薬師がなります。ヒーラーや薬師が回復師として認められるためには、冒険者または教会での実績を積み、治癒魔法や薬草やポーションなどの知識を活用できる事が魔法相に認められた人が回復師となります。回復師は治癒魔法や薬草、ポーションなどを用いて患者の方々の治癒を行う人達の総称を指します。」
「なるほどですね。では、どのように治癒魔法や薬草、薬物などの効果を学ぶのですか?」
「そうですね。魔導学院にて治癒魔法や薬学を習うか、若しくは誰か著名な回復師の下で学ぶか、若しくは、自分自身で勉強し、独学で治癒魔法や薬草、ポーションを使えるようにするかでしょうか。」
「次に、薬草やポーションの薬効はどのように分かるのですか?」
「薬効は、回復効果のある薬草などを薬師若しくは鑑定師が鑑定し、その薬草を単体で使う若しくは、その効果を薬師が様々な組合わせにより症状に合うポーションを作り出し、検証し使用します。最近では、薬効の書かれた書籍などを用いて材料を集めるのが一般的です。鑑定のスキルがあればで薬効が分かるので必要となる材料を揃えて薬師の下でポーションにしてもらいます。」
「なるほど。最後に治癒魔法や薬学の知識はどのように発展しているのでしょうか?」
「高度な治癒魔法や術式が発見されれば、今回の様にその治癒魔法を使った先生に教えて貰うのが一般的です。また、新たな効用がある薬草が発見されれば薬師達によって新たなポーションを作り出され利用されます。」
「ふむ。つまり、治癒魔法の技術や薬学の知識は回復師の実戦で発展しているって事ですね。分かりました。ありがとうございます。それでは、今回の治療についご説明いたします。」
《モニター》
 黒板程度のモニターを魔法で作り出す。
《リンク》
 俺は、全記憶で記憶された先ほどのスキャン映像をマップ同様、自分の目の前のモニターに映し出し、その映し出したモニターと外部のモニターにリンクさせた。会場が少しざわざわした。生活魔法で用いられるモニターの魔法は外部映像を取り込むカメラのような魔道具とセットで用いられているらしい。今回と違うところは、魔道具を使わず、俺自身が外部出力になっている事だが、疑問に感じている人がほとんどいない様子だった。まぁ、変に突っ込まれるよりいいけどね。
「今回の患者は、脳のクモ膜下と言うところで出血を起こしていました。脳の仕組みは皆さん理解していますか?」
 会場がざわざわする。なるほど、今いる回復師は、過去の現象だけを頼りに、仕組みとか関係なく治療しているらしい。
「では、簡単に今回の事についてだけ話をします。」
 俺は、”医学の知識”とモニターを連動させ、脳の構造映像を映し出す。
「脳のこの部分は運動の機能や感覚、言語を司る部分ですごく大切な部分なんです。脳は沢山の血液つまり血が必要なので沢山の血管、つまり血が通う管があります。中にはとても小さく中には目で見るのが困難な物もあります。あの患者は、脳に打撃を受ける事によって脳のこの膜のような部分から出血、つまり血が出てしまいました。すると、出た血は行き場を探してこの周りの脳を圧迫、つまり押してしまいます。すると押された部分はダメージを受け機能が低下します。そのまま放置すると脳のこの部分が腫れ、死んでしまい死に至ります。そのため、この患者を助けるためには溜まった血を取り除き、出血を止め、脳の腫れを抑える必要があります。そこで俺は、脳のどの部分で出血が起きているか魔法で確認しました。それがこれです。」
 俺は、スキャンした時の脳の映像を映し出した。
「このように、脳のクモ膜下と言う所で出血が起きていることが確認できましたが、すぐにこの血を取り除くことが出来ませんでした。それは、患者の体力が取り除く作業に耐えられない恐れがあったからです。なぜだと思いますか?」
 俺の質問に会場がざわざわした。
「簡単な事ですよ。患者はかなり衰弱していました。食事も取れていない。水も飲んでいない。しかも3週間も。皆さんが3週間飲まず食わずで過ごしたらどうなりますか?それと同じ状態です。」
「しかし、患者は意識が無く飲み物も食べ物も食べられない状態だったんだ。どうすればいいと言うのだ!」
 会場の一部から声が上がる。
「いい質問ですね。これを見てください。」
 俺は、管に袋が付いた道具を出して、周りに見せる。
「この袋に消化に良い食べ物と水分を入れ、直接胃袋に食事を流し込むのです。」
 俺は、口から肛門までの簡単なイラストに切り替え、管を胃に入れるような動画を映し出す。
「ここで注意が必要なのですが、ここのところで、空気と食べ物を分別するところがあります。そこに管を入れ、食べ物を入れると空気が入らなくなり死にます。きちんとこっちに入れる必要があるのです。そして、この食べ物は胃で消化、つまり細かくされ、腸、ここの部分を通りエネルギー源として体に吸収されます。その残りカスが便となりここから排出されます。水分も同様です。」
 次に俺は、管に針が付いたものを見せる。モニターも血管か全身を巡る動画に切り替える。
「皆さんの腕をよく見てください。ここの所に血管があるでしょう。これは血が通る管です。ここには養分と水分も通っています。そこで、ここからこの針を使って直接養分や水分を送ることが出来ます。皆さんが身体を動かしているエネルギーは糖分がほとんどです。食事がとれない場合は糖分を水に溶かし、ここから入れる事も出来ます。しかし、このような処置を行われなかった患者は自分自身の身体をエネルギーに変え、生きながらえました。その結果、そのように痩せこけて、衰弱していく訳です。俺は、まず、作業に耐えられるように体内のエネルギーと水分その他、身体の調子を整えるために必要な物を転移の魔法を使い、補給を行う事で作業に耐えられるようにした訳です。」
 再度、スキャンした映像に切り替える。
「体力が回復した後、血の塊を取り除く作業を行いました。本来は、頭骨に穴をあけ、そこから血の塊を取り出します。しかし、患者は衰弱していたので、頭骨に穴を開けずに空間魔法と除去魔法を組み合わせた魔法を使い、脳の状態を確認しながら取り除きました。そして、次に脳の血管から出る血の止血作業をしましたが、発症からかなり時間が経っており、出血は止まっていました。つまり、この程度の出血で済んだことがすぐに命を落とさなかった要因の一つです。血管は自分で再生することが多少出来るので、再生魔法でその力を促進させる事で再生させ、切れたところに繋げたのです。これで、一旦は、脳の機能は正常に戻ります。そのため、患者が意識を取り戻したと思われます。しかし、最初に言った通り、脳のこの部分はとても大事な部分です。その部分が血の塊により圧迫され、ダメージを受ける事で脳の一部が死んでしまっています。そのため、左半身が動か無いのでしょう。脳は、再生する事がありません。そのため、これ以上の回復は、本来は見込めません。しかし、俺は、患者と治すと約束をしたので新たな治療を試みたいと思っています。今回の処置に関しては以上です。」
 俺は、モニターを消す。会場はシーンとしている。ほどんどの人が良く分かっていないのだろう。しかし、その沈黙が一瞬にして歓声に変わった。
「先生!!!!すごいぞ!!!これは画期的な方法だ!!!!これなら意識が無い患者を治すことが出来るじゃないか!!!」
 会場が”ワーワー”言っている。
「ちょっと、待って下さい。”今回は”って言いましたよね。患者が、意識が無い状態になっているのは様々な原因が考えられます。今回は、頭に打撃を受けた等の情報があり、その情報をもとに診察をし、原因を突き止めました。そして、その原因を取り除いたのです。しかし、原因が分からなければどうにも出来ないでしょ?今回の患者も同じです。原因が分からないからヒールで生き延びさせただけじゃないですか。ヒールは、万能ではありません。身体を活性化させ自己修復機能を促進させ一瞬で治癒するものです。原因を取り除いたり、エネルギーや水分を供給する魔法でもありません。しかし、今回の患者もヒールにより生命活動を活性化させていたため、確かに生き延びました。しかし、ヒールだけではいずれ身体のエネルギーが無くなり活性化しなくなります。その時が死です。
きちんと身体の構造や仕組みを理解、研究し、それを学問にする事。俺は、これを「医学」と呼んでいます。その医学を使い、身体を分析し、適切な知識の下、患者に適切な治療を施す。俺は、このような人を「医者」と呼んでいます。皆様が本当に患者を助けたいと思うのであれば生き物の様々な構造や機能を研究し、それにあった適切な治癒魔法を使用し、患者を助けてあげて下さい。最後に一つ、折角なので俺が知っている知識を披露します。そこの先生、ちょっとこっち来てもらえますか?」
 俺は、一人の回復師を俺の横に呼んだ。
「”痛み”について話をします。体中には神経と言う物が身体全体に張り巡らされています。その神経が刺激を受ける事で感覚として脳に伝わります。こう触ってみると触られている感覚があるでしょ。それを強くすればするほど、強い刺激になります。痛みは刺激が強くなりすぎて脳がこれ以上の刺激はまずいと知覚し、痛みとして認知する訳です。」
 俺は隣の先生の腕をつねって、少しずつ力を強くする。
「あいてててて!!!な、なにするんですか!?」
「これが痛みのメカニズムです。その感覚が神経を麻痺させる事で脳に伝えなかったらどうでしょうか?」
《アネスシージャ》
 俺は横にいる先生の腕に麻酔の魔法をかける。
「今、俺は、この先生に腕の感覚神経に魔法をかけ、感覚が脳に感覚を伝わらなくなるようにしました。痛みとは感覚の強さなのです。腕の感覚がないでしょ?」
 俺は、麻酔をかけた先生に問いかける。その先生は、自分自身の腕をつねってみせた。
「確かに何も感じない・・・モーヒネの薬草を使った時みたいだ。」
「そのモーヒネの薬草も同じように神経の感覚を遮断し、感覚を脳に伝えなくなるようにしているのです。これが痛みを遮断するメカニズムです。」
 周りがざわざわしている。
「では、これは何の為にすると思いますか?」
「患者の苦痛を取り除くためじゃないのか?」
「そうです!患者さんの苦痛を取り除くためです。しかし、これは一時的に感覚を麻痺させているにすぎません。その後にきちんとした処置を行わないと”ただ一瞬痛みを消しただけ”になってしまいます。」
 俺は、サーチとモニターを使いイボを持っている人を探す。あ、居た。
「そこの先生、ちょっとこっちに来てください。」
 俺に指さされた先生はかなり戸惑ったが俺の所に来る。
「この先生のこの指の部分が見えますか?これはイボと言って皮膚の一部が盛り上がってしまう病気です。これは取り除く必要があり、きちんと取り除かないと再発します。先生は、これを取ろうとしたことは無いですか?」
「確かに、何度か取ったがまた出来てしまうのだよ。」
「俺が処置します。いいですか?」
「うむ。やって見たまえ。」
 奇麗に手を洗ってきてもらい、処置をする。
《キュア バクテリア》
《キュア ウィルス》
《アナライズ》
《アネスシージャ》
「今行った魔法は、この手についている細菌とウィルスを除去し、状態を確認しました。そして指の感覚を無くしました。ちなみに、細菌やウィルスは目に見えない生き物です。どんなに奇麗にしても普通の場所であれば必ず存在します。」
《シール》
《絶対零度》
 俺は、血流を止め、イボを凍らし、凍った部分を取り除く。
「痛くないですよね。それに血液の流れを止める魔法を使ったので血はでません。」
《アンチ バクテリア》
《アンチ ウィルス》
《リジェネレイト》
 先生の傷口が塞がっていく。
《キュア》
「これで処置は終わりです。もう、そこからはイボは出来ないと思いますよ。最後にした処置は、抗菌と抗ウィルスです。傷口が腐らない様にしました。そして、最後に切り取った部分を再生させ、感覚と血流を戻して終了です。」
 会場が”わーわー”騒いでいる。
「つまり、処置をする時にもこの感覚を麻痺させる魔法は使います。魔法でなくてもいいです。これを”麻酔”といいます。これが無ければかなりの激痛だったと思いますよ。痛くなかったでしょ?」
「こ、これは、これはすごい!!!画期的な治療法だ!!!!」
 イボを処置された先生が目を丸くして驚いている。
「このようにきちんとした「医学」の知識を使い「医者」が適切な処置を行う事を俺は、
「医療」と呼んでいます。是非、皆さんには良い「医者」になってもらい「医療」の発展させてほしいと思っています。以上で俺の話は終わりです。」
 会場はシーンとしている。
”なんだ、この空気は?”
しかし、一人が拍手を始めるとそれが大喝采に変わった。
「せんせーーー!!!!!俺を弟子にしてください!!!!!」
「わたしも、私も弟子に!!!!!!」
「いや、私だ!!!私が先生の弟子にーーーーーー!!!!」
 会場は大騒ぎだ。俺に詰め寄ってくる先生たちもいる。
「ええええええ!!!!!勘弁してくださいーーーー!!!」
 弟子になりたいという先生が追っかけてくる。俺は、ひたすら逃げた。
 会場が大騒ぎになったので、俺はそそくさと逃げる様にして会場を去った。後日、”回復院に神が降臨した”という話が流れたらしい。

=============タカミのワンポイント=============
脳には血管が沢山ありますが、そこに何らかの異常が起きて脳が障害されます。脳の血管が破れる場合、詰まってしまう場合に起こる病気の総称が脳卒中です。
脳の血管が詰まってしまう事を脳梗塞、それに対して血管が破れる場合を出血性脳卒中と呼び、中でも脳の内部の血管が破れて出血するものが脳出血、脳の表面にある血管(動脈瘤)から出血するものがクモ膜下出血です。脳出血は、出血部位をはっきりさせるために脳内出血とすることもありますし、脳溢血と呼ばれることもあります。
<脳出血の症状>
脳出血の症状は出血を起こした場所や出血の量によって異なり、多彩な症状が見られます。多くの場合突然頭痛を感じ吐き気や嘔吐を自覚します。続いて手や足の痺れ、呂律が回らないなどの症状が出る事がありますが、ポイントはこれらの症状が突然起こる事です。出血が最も起こりやすいのは被殻で脳出血の40~50%を占めています。被殻は大脳の中央部左右1対あるもので、被殻出血を起こすと頭痛や片麻痺、感覚障害、失語症や構音障害などの症状を起こします。次に起こりやすいのが視床で脳出血の約30%と言われています。視床は感覚や痛覚など様々な感覚を集約する役割を持っており、視床出血を起こすと感覚生涯や半身の激しい痛みを起こすことがあります。特に”橋”は生命を維持する機能を司る”脳幹”に含まれる部位であるため、橋出血を起こすと多くの場合重症となります。
 脳の内部で出血している場合、CTを撮ると出血が白く写るため診断が付きます。脳梗塞と症状が似ているため、脳出血なのかどちらかを判別するためにはMRI検査が有効です。
 手術は、頭の骨を開けて脳にたまった血液の塊を取り除くことで脳の圧迫を減らす方法です。手術に至るような場合は損傷がすでに広がってしまっていることが多いため、手術は完治する方法ではありません。この場合には後遺症が残ってしまう事が多くなります。
 後遺症を残さないためには、発症直後の急性期に脳のダメージを出来るだけ少なくする必要があります。同じ脳拘束では、早期に血流を再開させるための作戦が複数あります。血管を詰まらせている血栓を溶かす薬やカテーテル治療により詰まりを治す治療です。
 一度死んでしまった脳の細胞は元に戻ることなく、後遺症として残存します。その常識を覆すかもしれないものが「再生医療」なのです。
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