美しき世界にご機嫌よう

白色ひつじ

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思案中

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 何か方法をと悩んでいるとさらに父様が厳しい顔で続けます。
 
「お前も知っているだろうが魔物を個人の所有物として登録するには、二つの道がある。一つは、商業ギルドにおいて一級魔物取扱商の免許を取得した商人となること。もう一つは、冒険者ギルドにおいて実績を積み、魔物使いであるテイマーのクラス認定を受けた冒険者となることだ。森に返してきなさい」

 な、何か方法が。
 
「サチコ、お前はまだ子供だ。どちらの資格も持っていない。つまり、その剛毛ベアである、あー、タワシとやらを、お前の名前で登録することは法律上不可能なのだよ。無許可で飼育すれば、私が逮捕される。我が家から犯罪者を出したいのかね」

 父様が捕まれば、我が家の資産が凍結され、私の美しきものを愛でるという人生計画が全て水の泡になってしまいます。私が法の高い壁に絶望し、打ちひしがれていると、父様とのやりとりをみていた兄様が声をかけてくださいました。

「サチコ、まずはおかえり。そして父上も落ち着いてください」

 一点の乱れもない艶やかな髪に、硝子細工のように涼やかな切れ長の瞳。それに優しさの中に鋭い知性を滲ませるその佇まいは、まさに母様の美貌を正しく継承された証です。私の自慢の幸一兄様のお声です。剣を携えるお姿も美しいですわ。
 
「兄様! お久しぶりでございます。兄様は美しさも全てお変わりはありませんね」

「ああ。で、その薄汚れた毛玉を飼育したいだというんだね?」

 お兄様はタワシを一瞥し、眉をひそめました。タワシを薄汚れた毛玉だなんて、ひどい言い草ですわ。私がどれだけ苦労してこの毛玉をブラッシングしたと思っているのでしょう。しかし、屋敷に着いてみると私もタワシも随分と薄汚れていますね。ウメに洗われる前に自分でも汚れを落としておきたいところです。

「ええ、ですが、私では飼うことはできません」

 そうなのです。どんなに頑張ったところで法律を犯すわけにはいかないのです。
 
「当たり前だ。無資格での飼育は重罪だぞ。だが、サチコにそこまで従順なのをみると山に返すのも惜しい。見たところ、かなり強そうだ。屋敷の警備くらいには使えるかもしれん」

 兄様は顎に手を当てて値踏みするようにタワシを見ると、父様に向き直りました。その仕草一つでも、絵画のようです。

「父上、この剛毛ベア、一時的に父上の名義で商用護衛獣として登録してみてはいかがでしょう。父上は一級魔物取扱商の資格をお持ちだ。所有権を幸田家当主である父上に帰属させれば、屋敷に置くことは法的に問題ありません。世話はサチコにやらせればよいでしょう。拾ってきた責任もあります」

「ふむ。幸一がそう言うならやってみるか。手続きは面倒ではあるが、な」

「剛毛ベアは本来、非常に獰猛な種族です。それをここまで手懐けたサチコの才、なのかは分かりませんが、その功績に免じて、剛毛ベアの処分は保留ということでどうでしょう。使い物にならなければそれまで、ということで皮も毛も牙も売ればよいでしょう。まあ、それとは別にサチコとは話をする必要がありますが」

 流石優秀な跡取りである兄様ですわ。

「ありがとうございます、兄様。父様、タワシのお世話はお任せください。原石であるタワシを美しく仕上げてみせましょう。屋敷の敷物にするよりも価値のあるものとしてみせましょう」

 まずは、剛毛ベアという名にもなっているこの剛毛をどうにか手触り良くブラッシングしていかなければならないわ。私は満面の笑みでタワシを振り返りました。

「よかったわね、タワシ。今日からアナタは幸田家の一員よ。ふかふかの寝床と、美味しいご飯が約束されたわ」

 大人しく話を聞いているのかと思いきやあろうことかタワシは私ではなく兄様に擦り寄り始めているではないですか。何事ですの。私の兄様ですのよ。

「グルルゥ」

 喉を鳴らし、巨大な体をくねらせ、兄様の足元に頭を擦り付けた上にゴロンとおなかを見せて服従のポーズをし始めました。どういうことですの。私には一度も見せたことのない甘え方ですわ。なんてこと!
 
「ちょっとやめてくださいまし!私の兄様ですのよ。タワシ、いうことを聞かないと食べるわよ」

 私が魔力を出し始めると慌てて伏せをいたします。そうでしょう、それでいいのですよ。
 
「妙に懐かれてしまったようだな」

 兄様は涼しい顔で、伏せをしたタワシの耳を無造作に撫で回し始めました。だんだんとタワシの口元が緩み、だらしない舌までだして喜んでおります。待ってくださいまし。兄様の手に触れるならもう少し綺麗にしてからに、それよりもどうして兄様に?

「何故なのです。兄様は何もしておりませんことよ。 タワシ、ちゃんとしなさい。警備の仕事を任されたのですよ。その態度ですと警備としての威厳もあったものではありません。敷物にしても質が悪いですし、このままですと肝を売るしか……」

「おそらく、魔力の質だろうな」

 父様がタワシの様子を分析しております。一級魔物取扱商の資格を持っているだけあり、詳しいですわ。
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