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第3章 銀河の中枢 [央星]
第3話 殷生師団調査
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【登場人物】
▼何でも屋
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍トップの大元帥。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍ナンバー2の元帥。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
~レストラン・『クレール・ドゥ・リュヌ』~
「帰れ」
涙流華はラルトに言い放つ。
「てめえ! こちとら30分も並んだんだぞ! しかも4人のボックス席で3人客と相席OKするのにどんだけ勇気が要ることか!」
「それに見た感じお前らもうしこたま食ってんじゃねえか!」
バリスが言葉を挟む。
「いやこれはほぼルルカで……」
「なんと器の小さい男よ」
涙流華は呆れた様子でラルトを見る。
それを聞きイラついたラルトも言い返す。
「お前今なんも食ってねえじゃねえか! お前が帰れよ!」
「私はこれからスフレケーキを食べるのだ」
涙流華は誇らしそうに答える。
「お客様おすわり頂いて……」
ウェイトレスが困った様子で着席を促す。
「まぁ、座れよ!」
ダウンしていたプラズマがいつのまにか復活している。
ラルトは舌打ちをしながら座り、メニューを見て即座に注文した。
「あ、俺このリゾットでお願いします」
あからさまにムスっとする涙流華をプラズマがなだめている。
「全く、なぜこいつと相席なのだ。せっかくのスフレケーキが不味くなるわ」
「まぁまぁ、甘いもの食えばそんな気持ちもどっか行くって……」
「そうならどれだけいいか……! はぁ……」
へそを曲げる涙流華についため息が漏れた。
涙流華のお守りに耐えかねたのかプラズマはラルトに話題を振った。
「ってか政府軍の中佐でも普通のレストラン使うんだな、意外だ」
「軍の食堂は野郎だらけで、どうも華がなくてな。出会いがてらに外に出てんだ」
ラルトはお手上げといった様子で両手を上げながら言う。
「けど、今日のは最悪の出会いだけどな」
ラルト涙流華の方を向き舌打ちをする。
「何を言う、こんな美人と食事を共にできるなど滅多にないぞ」
涙流華はなぜかまた誇らしそうな顔で言う。
(こいつ街で美人って言われたの結構嬉しがってるな)
バリスは心の中でつぶやいた。
「てめえみてえなカタブツ女誰が嬉しがるか!」
ラルトは反論し、鼻を鳴らす。
「なんだと!」
涙流華が立ち上がる。
「なんだよ!」
ラルトも立ち上がる。
するとウェイトレスがまた困ったように着席を促した。
続けてウェイトレスはバツが悪そうにプラズマとバリスに退店を遠回しに伝える。
「お客様申し訳ありません。もしお食事がお済みであれば、現在大変混雑しておりますので……」
「ああ、構わないぜ、会計はそのお姉さんにな。涙流華さっきの金で頼む」
バリスが涙流華に言伝して2人は退店する。
ウェイトレスががプラズマとバリスのテーブルを片付けると、次の客を案内する。
相席となった客は、若いチンピラ風の2人の男だった。
「うわー、カップルの隣かよ~」
「いや、でも見ろよ彼女の方、すげえ美人だぜ!!」
「誰がカップルだ!!」
涙流華とラルトは声を合わせて反論する。
「お姉ちゃん、このあと俺たちといっしょに遊びに行こうぜ~」
男達はお決まりのナンパを涙流華にかます。
「おい、中佐殿。美人な彼女が困っておるぞ。対処しろ。私はこっちで忙しくなる」
涙流華は運ばれてきたスフレケーキをむさぼり始める。
「てめえなぁ……まぁいい。おい、お前らそういう品のねえことはすんな」
ラルトは一瞬涙流華にイラつきつつも、男達に大人の対応を示した。
政府軍中佐たるもの紳士な振る舞いを心掛けねば、そう自身を言い聞かせていたのだ。
「あぁ?お前なんか知らねえわ。俺たちゃヴァンガルド・キル一派のもんだぞ、調子こいてんじゃねえよ」
ヴァンガルド・キル一派
その言葉にラルトの目つきが変わる。
「よし、話が変わった。てめえら今からついてこい」
ラルトは2人に退店を促し、ウェイトレスに会計を伝えた。
「俺の分の代金は政府軍中佐宛てに送っといてくれ」
それを聞いた涙流華はすぐにスフレケーキを片付け、しれっとラルトの後に着いて行く。
「馳走になったな、中佐殿。では」
店を出てすぐに涙流華は右手を上げて少し振ると猛ダッシュしようとする。
がしかし、ラルトに襟を掴まれる。
「タダメシ食ったんだ、働け。お前らもな」
ラルトは店外で待っていたプラズマ達にも目を向けた。
ラルトがそう言ったところで、男達は能力を発動させた。
「おれはテリー、能力は……葉の刃だ!!」
葉の刃で斬りつけるが、ラルトは難なく躱した。
「おりゃーー!これならどうだ!」
もう1人の男の攻撃は雪の塊。
「葉に雪か……医星のときみたいだな」
ラルトはチンピラ2人を炎で包み一掃する。
丸焦げになった2人は尻餅をつく。
「長い白髪、鋭い目つき、炎の能力者……」
「もしかして政府軍中佐の【獄炎】……?」
「今更か……とにかくお前達には政府軍に来てもらう」
ラルトは2人をプラズマとバリスにそれぞれ預け、歩き出す。
「なんかめんどくさいことにまきこまれてないか?」
プラズマがバリスにそう確認すると、バリスはジト目で睨み返した。
「いつもの俺の気持ちが分かったろ。反省しろ」
~政府軍・取調べ室~
ラルトの執務室で2人への取り調べを始める。
「ヴァンガルドの一派、と言ったな。やつは手配中で表では動けないはずだ」
「今はNo.2が仕切ってるからな」
「おい、アウザ!喋りすぎだぞ!」
テリーがアウザを止める。
「No.2?そいつは誰だ?」
「言うわけねぇだろ!」
テリーはそっぽを向くが、ラルトがテリーの髪を燃やし始める。
「うわっ、ほんとに燃えてる!」
燃える髪をはたきながら、No.2と呼ばれる男の二つ名を答える。
「俺達下っ端じゃぁ、誰かなんて知らないんだって!」
テリーの大声が取調べ室外にも響いた。
室外の政府軍執務室では、参考人としてプラズマ、バリス、涙流華がパーテーションで区切られた空間に座らされていた。
「で、いつになったら解放されるんだ」
涙流華はいらいらが募り、貧乏ゆすりをしている。あからさまに苛立つ侍を前に、少佐のジョン・マイヤードは困り顔で必要事項を聴取している。
すると、パーテーションからスキンヘッドの中年男が顔を覗かせる。
「ラルトが引っ張ってきたの、威勢のいいやつだな。だいぶ声が響いてる」
「デーモン上級大将!」
マイヤードは勢いよく立ち上がるとその名を呼んだ。
現れた男は深緑の軍服を着たスキンヘッドの厳つい男、政府軍No,3の上級大将、ジェイク・デーモンだった。体はごつく、筋骨隆々という言葉が似合う。
「かしこまらなくていい。そちらは?」
「今取調べをしている奴と会ったときにローズ中佐と一緒にいた方です。サンダー・パーマー=ウラズマリーさん、バリス・スピアさん、スオウ・ルルカさんです」
マイヤードは手の平で丁寧に一人一人説明した。
「ウラズマリーさん…スピアさん…水王さん…ね」
デーモンは順番に名前を一致させながら顔を見ていく。
「捜査のご協力ありがとうございます。ヴァンガルド・キルの捜査は政府軍の直近の課題でね。熱が入ってるんだ」
デーモンという男は厳つい見た目からは想像できない程、穏やかな口調だった。
「なんで上級大将なんてお偉いがこんなチンピラの取調べを見に?」
バリスがデーモンに尋ねる。
「ヴァンガルド・キルという男が関係していると聞いたからだよ」
「ばんがるどきる?」
プラズマは“聞いたことがない”と顔をかしげている。
「殷生師団という組織をニュースやらで耳にしたことはあるだろう?」
デーモンの問いかけにプラズマは再度顔をかしげた。彼の代わりにバリスがその組織について語る。
「My Gene崇拝して、実際に探してるっていう過激派犯罪集団だろ?」
「俺らと同じじゃん!」
プラズマは“My Geneを探している”という点で同じと言ったのだが、今の文脈では自分達も過激派組織だとカミングアウトしたことになってしまった。
「ややこしいこと言うな。My Geneの存在を信じてるってのが同じなだけだろ」
すかさずバリスがプラズマの後頭部を軽く叩く。
「君らは殷獣は知っているだろう?」
デーモンの問いに頷いたのはバリスだけで、プラズマと涙流華は互いに目を見合わせ、前に向き直った。
その仕草で察したのか、デーモンは殷獣の説明を始める。
「殷獣というのは、深星という一日中雲に覆われた暗黒の星に巣くう気性の荒い獣だ」
その獣は血が乾いたような暗赤色の肌をしているため、それを発見した研究者が赤黒いという意味を持つ殷という言葉をつかったのだ。国際的には“Inju”もしくは“dark-red alien”と呼ばれている。
「それでその“いんじゅー”ってのと、何とか師団と、どう関係があるんだ?」
そう尋ねたプラズマのみならず、隣にいた涙流華にもクエスチョンマークが浮かんでいた。
「まだ研究中ではあるが、殷獣っていうのは何かの形を持った生物じゃない可能性が高い。それが何かの物質なのか、ウィルスのようなものなのかは定かではないが、既存の生き物に取り憑いて乗っ取るんだ。だから、深星の原生生物は全て殷獣によって乗っ取られている。それを総称して殷獣と呼ぶ」
深星には接近禁止令が政府によって敷かれているが、好奇心が強い者や個人研究者等、警備網をかいくぐって入星する者も少なくなかった。
「乗っ取られた生物は、知能が芽生え、筋力や遺伝子能力が大幅に強化されるような突然変異を起こしやすくなる。政府軍も一度調査に行ったんだが、返り討ちにされてな」
デーモンはポンと手を叩くと、一呼吸置いた。
「前置きが長くなったが、その殷獣の力を利用しているのが殷生師団だ。奴らは大きく4人のグループに分かれる」
デーモンは指折りその4人の特徴を上げる。
「ウィンドと呼ばれる若い男。アナイア・パイカという男。現在は投獄中だが一番大きな派閥を持つヴァンガルド・キル。そして、殷獣の力を利用する研究を成功させたアクスグフスという狂気の研究者」
「もちろん殷獣の利用は違法。そいつらを取り締まるって政府軍が一旗揚げた。だから上級大将の私と大将の二人が特命班として、一大派閥のヴァンガルド一派を追ってるってわけだ」
「まぁそのうちのウィンドってやつは、礎星の遺伝子学校校長、あの有名なイヴ・パラムが捕まえたんだがな」
プラズマが遺伝子能力養成学校にいたときに、彼を襲撃した緑色の髪の男、ウィンド。学校長のイヴ・パラムに捕まり、そのことは速報で政府軍にも共有されていた。もっとも、共有されるのみでその身柄はイヴ・パラムの所属母体である一神四帝に引き渡されたのだが。
身をもってその襲撃を受けたプラズマは、“イヴ・パラム”、“礎星”と聞いても全くピンと来ていない。
おそらく聞いているふりをして、晩御飯のことでも考えているのだろう。
「いくらお互いが監視関係だからって、一神四帝も少しは師団の情報提供してくれよな」
政府軍と対をなす組織、一神四帝はウィンドに関する調査の情報をほんの一握りしか政府軍に提供していなかった。そのことにデーモンは苛立ちを覚えていたのだ。相互監視組織として、政府軍のみが師団メンバーを逮捕できないのは名折れなのだろう。
「そのおかげで、今じゃ政府軍の師団捜査は“税金の無駄遣い”って言われてるよ」
デーモンは困ったようにスキンヘッドの頭を撫でた。
彼の言うように、いまいち思うような結果が出ない政府軍の働きに対して、特に主に指揮を執っている上級大将のデーモンと、大将のグラズ・ボルボンという男に批判が集まっていた。
断片情報をもとに現地に行くのだが、誰かが痕跡を消したかのように、不自然にヴァンガルドに繋がる物が見つからなかったのだ。
すると彼の後ろから低く、重い声が響く。
「デーモン、ラルトは甘い。取調べは俺が変わる」
そう言ってプラズマ達の前に姿を現した男は、白髪のオールバックに殺気を含んだ鋭い目つき、軍服の上に黒いコートを着た男だった。デーモンと同じくらいの年で、素人でもわかるほどの貫禄があった。
「ボルボン大将!」
男の登場に、マイヤードは再度勢いよく立ち上がった。
政府軍No,4の大将、グラズ・ボルボン。
彼はデーモンと違ってマイヤードに着席を促すこともなく、ただ彼やプラズマ達を睨みつけていた。
「ボルボン。こちらはウラズマリーさん、バリスさん、水王さんだ。今捜査に協力してもらっている」
「そうか」
ボルボンは頭から足までを舐めるように観察している。彼は観察し終えると、取調べ室に向かって歩き始めた。
「すまん、ボルボンが取調べするようだから監視で一緒に入ってくる。私も後で君達の話を聞かせてもらってもいいかな」
そう言ってデーモンはボルボンの後を追う。
To be continued.....
【EXTRA STORY】
~レストラン・『クレール・ドゥ・リュヌ』~
「あ、俺このリゾットでお願いします」
「へぇ~、リゾットなんてやっぱ洒落てんな」
「医者なんかもよくカッコつけて食うんじゃねぇのか?」
「カッコつけるために飯食ってるわけじゃないからな。ってことは、お前はカッコつけてリゾット食ってんのかよ」
「いや……子供んとき手作りのを食わせてもらってから好きなんだ」
「お袋さんか?」
「いや……違う…作ったやつは覚えてないな、多分」
「なんだそれ」
「ってか政府軍の中佐でも普通のレストラン使うんだな、意外だ」
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【登場人物】
▼何でも屋
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍トップの大元帥。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍ナンバー2の元帥。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
~レストラン・『クレール・ドゥ・リュヌ』~
「帰れ」
涙流華はラルトに言い放つ。
「てめえ! こちとら30分も並んだんだぞ! しかも4人のボックス席で3人客と相席OKするのにどんだけ勇気が要ることか!」
「それに見た感じお前らもうしこたま食ってんじゃねえか!」
バリスが言葉を挟む。
「いやこれはほぼルルカで……」
「なんと器の小さい男よ」
涙流華は呆れた様子でラルトを見る。
それを聞きイラついたラルトも言い返す。
「お前今なんも食ってねえじゃねえか! お前が帰れよ!」
「私はこれからスフレケーキを食べるのだ」
涙流華は誇らしそうに答える。
「お客様おすわり頂いて……」
ウェイトレスが困った様子で着席を促す。
「まぁ、座れよ!」
ダウンしていたプラズマがいつのまにか復活している。
ラルトは舌打ちをしながら座り、メニューを見て即座に注文した。
「あ、俺このリゾットでお願いします」
あからさまにムスっとする涙流華をプラズマがなだめている。
「全く、なぜこいつと相席なのだ。せっかくのスフレケーキが不味くなるわ」
「まぁまぁ、甘いもの食えばそんな気持ちもどっか行くって……」
「そうならどれだけいいか……! はぁ……」
へそを曲げる涙流華についため息が漏れた。
涙流華のお守りに耐えかねたのかプラズマはラルトに話題を振った。
「ってか政府軍の中佐でも普通のレストラン使うんだな、意外だ」
「軍の食堂は野郎だらけで、どうも華がなくてな。出会いがてらに外に出てんだ」
ラルトはお手上げといった様子で両手を上げながら言う。
「けど、今日のは最悪の出会いだけどな」
ラルト涙流華の方を向き舌打ちをする。
「何を言う、こんな美人と食事を共にできるなど滅多にないぞ」
涙流華はなぜかまた誇らしそうな顔で言う。
(こいつ街で美人って言われたの結構嬉しがってるな)
バリスは心の中でつぶやいた。
「てめえみてえなカタブツ女誰が嬉しがるか!」
ラルトは反論し、鼻を鳴らす。
「なんだと!」
涙流華が立ち上がる。
「なんだよ!」
ラルトも立ち上がる。
するとウェイトレスがまた困ったように着席を促した。
続けてウェイトレスはバツが悪そうにプラズマとバリスに退店を遠回しに伝える。
「お客様申し訳ありません。もしお食事がお済みであれば、現在大変混雑しておりますので……」
「ああ、構わないぜ、会計はそのお姉さんにな。涙流華さっきの金で頼む」
バリスが涙流華に言伝して2人は退店する。
ウェイトレスががプラズマとバリスのテーブルを片付けると、次の客を案内する。
相席となった客は、若いチンピラ風の2人の男だった。
「うわー、カップルの隣かよ~」
「いや、でも見ろよ彼女の方、すげえ美人だぜ!!」
「誰がカップルだ!!」
涙流華とラルトは声を合わせて反論する。
「お姉ちゃん、このあと俺たちといっしょに遊びに行こうぜ~」
男達はお決まりのナンパを涙流華にかます。
「おい、中佐殿。美人な彼女が困っておるぞ。対処しろ。私はこっちで忙しくなる」
涙流華は運ばれてきたスフレケーキをむさぼり始める。
「てめえなぁ……まぁいい。おい、お前らそういう品のねえことはすんな」
ラルトは一瞬涙流華にイラつきつつも、男達に大人の対応を示した。
政府軍中佐たるもの紳士な振る舞いを心掛けねば、そう自身を言い聞かせていたのだ。
「あぁ?お前なんか知らねえわ。俺たちゃヴァンガルド・キル一派のもんだぞ、調子こいてんじゃねえよ」
ヴァンガルド・キル一派
その言葉にラルトの目つきが変わる。
「よし、話が変わった。てめえら今からついてこい」
ラルトは2人に退店を促し、ウェイトレスに会計を伝えた。
「俺の分の代金は政府軍中佐宛てに送っといてくれ」
それを聞いた涙流華はすぐにスフレケーキを片付け、しれっとラルトの後に着いて行く。
「馳走になったな、中佐殿。では」
店を出てすぐに涙流華は右手を上げて少し振ると猛ダッシュしようとする。
がしかし、ラルトに襟を掴まれる。
「タダメシ食ったんだ、働け。お前らもな」
ラルトは店外で待っていたプラズマ達にも目を向けた。
ラルトがそう言ったところで、男達は能力を発動させた。
「おれはテリー、能力は……葉の刃だ!!」
葉の刃で斬りつけるが、ラルトは難なく躱した。
「おりゃーー!これならどうだ!」
もう1人の男の攻撃は雪の塊。
「葉に雪か……医星のときみたいだな」
ラルトはチンピラ2人を炎で包み一掃する。
丸焦げになった2人は尻餅をつく。
「長い白髪、鋭い目つき、炎の能力者……」
「もしかして政府軍中佐の【獄炎】……?」
「今更か……とにかくお前達には政府軍に来てもらう」
ラルトは2人をプラズマとバリスにそれぞれ預け、歩き出す。
「なんかめんどくさいことにまきこまれてないか?」
プラズマがバリスにそう確認すると、バリスはジト目で睨み返した。
「いつもの俺の気持ちが分かったろ。反省しろ」
~政府軍・取調べ室~
ラルトの執務室で2人への取り調べを始める。
「ヴァンガルドの一派、と言ったな。やつは手配中で表では動けないはずだ」
「今はNo.2が仕切ってるからな」
「おい、アウザ!喋りすぎだぞ!」
テリーがアウザを止める。
「No.2?そいつは誰だ?」
「言うわけねぇだろ!」
テリーはそっぽを向くが、ラルトがテリーの髪を燃やし始める。
「うわっ、ほんとに燃えてる!」
燃える髪をはたきながら、No.2と呼ばれる男の二つ名を答える。
「俺達下っ端じゃぁ、誰かなんて知らないんだって!」
テリーの大声が取調べ室外にも響いた。
室外の政府軍執務室では、参考人としてプラズマ、バリス、涙流華がパーテーションで区切られた空間に座らされていた。
「で、いつになったら解放されるんだ」
涙流華はいらいらが募り、貧乏ゆすりをしている。あからさまに苛立つ侍を前に、少佐のジョン・マイヤードは困り顔で必要事項を聴取している。
すると、パーテーションからスキンヘッドの中年男が顔を覗かせる。
「ラルトが引っ張ってきたの、威勢のいいやつだな。だいぶ声が響いてる」
「デーモン上級大将!」
マイヤードは勢いよく立ち上がるとその名を呼んだ。
現れた男は深緑の軍服を着たスキンヘッドの厳つい男、政府軍No,3の上級大将、ジェイク・デーモンだった。体はごつく、筋骨隆々という言葉が似合う。
「かしこまらなくていい。そちらは?」
「今取調べをしている奴と会ったときにローズ中佐と一緒にいた方です。サンダー・パーマー=ウラズマリーさん、バリス・スピアさん、スオウ・ルルカさんです」
マイヤードは手の平で丁寧に一人一人説明した。
「ウラズマリーさん…スピアさん…水王さん…ね」
デーモンは順番に名前を一致させながら顔を見ていく。
「捜査のご協力ありがとうございます。ヴァンガルド・キルの捜査は政府軍の直近の課題でね。熱が入ってるんだ」
デーモンという男は厳つい見た目からは想像できない程、穏やかな口調だった。
「なんで上級大将なんてお偉いがこんなチンピラの取調べを見に?」
バリスがデーモンに尋ねる。
「ヴァンガルド・キルという男が関係していると聞いたからだよ」
「ばんがるどきる?」
プラズマは“聞いたことがない”と顔をかしげている。
「殷生師団という組織をニュースやらで耳にしたことはあるだろう?」
デーモンの問いかけにプラズマは再度顔をかしげた。彼の代わりにバリスがその組織について語る。
「My Gene崇拝して、実際に探してるっていう過激派犯罪集団だろ?」
「俺らと同じじゃん!」
プラズマは“My Geneを探している”という点で同じと言ったのだが、今の文脈では自分達も過激派組織だとカミングアウトしたことになってしまった。
「ややこしいこと言うな。My Geneの存在を信じてるってのが同じなだけだろ」
すかさずバリスがプラズマの後頭部を軽く叩く。
「君らは殷獣は知っているだろう?」
デーモンの問いに頷いたのはバリスだけで、プラズマと涙流華は互いに目を見合わせ、前に向き直った。
その仕草で察したのか、デーモンは殷獣の説明を始める。
「殷獣というのは、深星という一日中雲に覆われた暗黒の星に巣くう気性の荒い獣だ」
その獣は血が乾いたような暗赤色の肌をしているため、それを発見した研究者が赤黒いという意味を持つ殷という言葉をつかったのだ。国際的には“Inju”もしくは“dark-red alien”と呼ばれている。
「それでその“いんじゅー”ってのと、何とか師団と、どう関係があるんだ?」
そう尋ねたプラズマのみならず、隣にいた涙流華にもクエスチョンマークが浮かんでいた。
「まだ研究中ではあるが、殷獣っていうのは何かの形を持った生物じゃない可能性が高い。それが何かの物質なのか、ウィルスのようなものなのかは定かではないが、既存の生き物に取り憑いて乗っ取るんだ。だから、深星の原生生物は全て殷獣によって乗っ取られている。それを総称して殷獣と呼ぶ」
深星には接近禁止令が政府によって敷かれているが、好奇心が強い者や個人研究者等、警備網をかいくぐって入星する者も少なくなかった。
「乗っ取られた生物は、知能が芽生え、筋力や遺伝子能力が大幅に強化されるような突然変異を起こしやすくなる。政府軍も一度調査に行ったんだが、返り討ちにされてな」
デーモンはポンと手を叩くと、一呼吸置いた。
「前置きが長くなったが、その殷獣の力を利用しているのが殷生師団だ。奴らは大きく4人のグループに分かれる」
デーモンは指折りその4人の特徴を上げる。
「ウィンドと呼ばれる若い男。アナイア・パイカという男。現在は投獄中だが一番大きな派閥を持つヴァンガルド・キル。そして、殷獣の力を利用する研究を成功させたアクスグフスという狂気の研究者」
「もちろん殷獣の利用は違法。そいつらを取り締まるって政府軍が一旗揚げた。だから上級大将の私と大将の二人が特命班として、一大派閥のヴァンガルド一派を追ってるってわけだ」
「まぁそのうちのウィンドってやつは、礎星の遺伝子学校校長、あの有名なイヴ・パラムが捕まえたんだがな」
プラズマが遺伝子能力養成学校にいたときに、彼を襲撃した緑色の髪の男、ウィンド。学校長のイヴ・パラムに捕まり、そのことは速報で政府軍にも共有されていた。もっとも、共有されるのみでその身柄はイヴ・パラムの所属母体である一神四帝に引き渡されたのだが。
身をもってその襲撃を受けたプラズマは、“イヴ・パラム”、“礎星”と聞いても全くピンと来ていない。
おそらく聞いているふりをして、晩御飯のことでも考えているのだろう。
「いくらお互いが監視関係だからって、一神四帝も少しは師団の情報提供してくれよな」
政府軍と対をなす組織、一神四帝はウィンドに関する調査の情報をほんの一握りしか政府軍に提供していなかった。そのことにデーモンは苛立ちを覚えていたのだ。相互監視組織として、政府軍のみが師団メンバーを逮捕できないのは名折れなのだろう。
「そのおかげで、今じゃ政府軍の師団捜査は“税金の無駄遣い”って言われてるよ」
デーモンは困ったようにスキンヘッドの頭を撫でた。
彼の言うように、いまいち思うような結果が出ない政府軍の働きに対して、特に主に指揮を執っている上級大将のデーモンと、大将のグラズ・ボルボンという男に批判が集まっていた。
断片情報をもとに現地に行くのだが、誰かが痕跡を消したかのように、不自然にヴァンガルドに繋がる物が見つからなかったのだ。
すると彼の後ろから低く、重い声が響く。
「デーモン、ラルトは甘い。取調べは俺が変わる」
そう言ってプラズマ達の前に姿を現した男は、白髪のオールバックに殺気を含んだ鋭い目つき、軍服の上に黒いコートを着た男だった。デーモンと同じくらいの年で、素人でもわかるほどの貫禄があった。
「ボルボン大将!」
男の登場に、マイヤードは再度勢いよく立ち上がった。
政府軍No,4の大将、グラズ・ボルボン。
彼はデーモンと違ってマイヤードに着席を促すこともなく、ただ彼やプラズマ達を睨みつけていた。
「ボルボン。こちらはウラズマリーさん、バリスさん、水王さんだ。今捜査に協力してもらっている」
「そうか」
ボルボンは頭から足までを舐めるように観察している。彼は観察し終えると、取調べ室に向かって歩き始めた。
「すまん、ボルボンが取調べするようだから監視で一緒に入ってくる。私も後で君達の話を聞かせてもらってもいいかな」
そう言ってデーモンはボルボンの後を追う。
To be continued.....
【EXTRA STORY】
~レストラン・『クレール・ドゥ・リュヌ』~
「あ、俺このリゾットでお願いします」
「へぇ~、リゾットなんてやっぱ洒落てんな」
「医者なんかもよくカッコつけて食うんじゃねぇのか?」
「カッコつけるために飯食ってるわけじゃないからな。ってことは、お前はカッコつけてリゾット食ってんのかよ」
「いや……子供んとき手作りのを食わせてもらってから好きなんだ」
「お袋さんか?」
「いや……違う…作ったやつは覚えてないな、多分」
「なんだそれ」
「ってか政府軍の中佐でも普通のレストラン使うんだな、意外だ」
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