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第3章 銀河の中枢 [央星]
第5話 軍内の亀裂
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≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍大元帥。政府軍のトップ。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍元帥。政府軍のナンバー2。
[デーモン]
政府軍上級大将。政府軍のナンバー3。
ラルトが駆け出しのころに教官を務めていた。
[ボルボン]
政府軍大将。政府軍のナンバー4。
ラルトに現場でのいろはを叩き込んだ。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
~央星・政府軍本部~
敵意を向けるラルトに対してデーモンは手を差し伸べた。
「ラルト、共に来い。一緒に戦おう」
ラルトはデーモンが差し伸べた手を荒々しく払いのけた。そして振り返ると、入口にいたボルボンを押しのけ上級大将執務室を飛び出す。
「共に来ると思っていたが、仕方がないか」
デーモンは残念そうな顔で言った。
「まぁ、まずはここを出る準備だ。時期オールが来る」
ボルボンは大将執務室に戻っていく。
~大元帥執務棟~
ラルトは大元帥執務室へひた走っていた。
自分が慕っていた二人が政府軍を裏切っていた。その事実を受け入れられず彼の息は荒くなっていた。
彼が向かっていたのは、その裏切りを予見してみせた大元帥のブラスト・オールの元だった。
いつからが嘘だったのか。つい最近?前の任務で一緒だった時から?それとも軍に入った時から?
そんな考えが彼の頭の中をぐるぐると回っている。
そして大元帥執務室に辿り着いたラルトは、声もかけることなく勢いよく扉を開ける。
突然の部下の来訪に大元帥のブラスト・オールは事務机から立ち上がった。
「その様子だと、デーモン上級大将とボルボン大将が敵だったようだな」
「政府軍の上層部2人が指名手配されてるヴァンガルド・キルと繋がってるって、どうなってるんですか!」
「それだけじゃない!俺の爺さんが死んだ理由だって政府軍は捻じ曲げて記録してる!」
オール大元帥は目を伏せた。
そしてラルトは静かに一言発した。
「政府軍は……黒だ」
「ということは今は私も疑われているのかな?」
オールはにこやかに問う。
「わかりません。ただ政府軍の中でこの話ができる人だと思っています」
ドゴーーーーン
室外から爆発音が聞こえ、建物が震える。
~約10分前~
涙流華は走っていた。
「あの馬鹿、確か上級大将とかなんとか……こっちか?」
――ローズ中佐はおそらく上級大将執務室に向かった
マイヤードが大元帥と呼ぶその男はそう言っていた。
政府軍のトップである大元帥、ブラスト・オールがわざわざプラズマ達の元にやってきてそう言ったのだ。大元帥は涙流華の方を向いていた。
「おい、その執務室はどこだ」
涙流華はマイヤードに尋ねる。
「え、この棟を出て右手にある棟ですけど……」
それを聞いた涙流華は走りだした。
▽▽▽▽
涙流華はラルトを追って上級大将執務室に向かっていた。
マイヤードが言っていたように、棟を出ると右に曲がり、目の前に見える棟へと駆けていく。
棟に掲げられた看板を一瞥する。
上級大将執務棟
涙流華は小さく“ここか”と呟くと、1階の受付を駆け抜けた。受付職員の呼び止めにも応じず、左手にあった階段を駆け上がっていく。
受付を通り抜けたときに地図は見ていた。上級大将執務室は最上階の5階だった。
階段を駆け上がり、5階廊下へと出ると“上級大将執務室”と掲示された表札を見つけ、その部屋へと近づいていく。
ガラズ張りの扉を開けると、中にいる人物に声をかけた。
「すまん、ラルト・ローズがここに来なかったか?」
部屋の中にいるスキンヘッドの男は涙流華の方に向き返る。
「ラルトが出ていったと思ったら、次は……」
その男、上級大将いのデーモンは自身に話しかけてきた女性に目を向けた。
「青色の髪の女剣士。水王ルルカだな?」
初対面の男に自分の名前を言い当てられた涙流華は左腰の刀に手を掛け、警戒心を露わにする。
「なるほど、君がいるということはウラズマリーもいるのか」
「なぜ私やプラズマを知っている?」
涙流華は柄を握り、いつでも抜刀できる体勢をとっている。
「みんな知っているさ。サンダー・パーマー=ウラズマリーとその仲間のことは」
そう言うと、デーモンの手が爬虫類のような鱗に覆われていく。
お互いに目をそらさず相手を見ている。
流れる静寂。
次の瞬間、デーモンの腕と涙流華の刀がぶつかり火花をあげる。
涙流華はデーモンの左腕と鍔迫り合いになるが、すぐさまデーモンの腕を凍らせた。
「この程度では私の鱗は凍らないぞ」
デーモンが力を入れると腕が膨張し、氷が勢いよく砕け散る。
「これが防げるかな?」
デーモンは左手で刀を掴むと、右手で涙流華を左肩付近を殴りかかる。
涙流華は咄嗟に氷の壁を1枚張り、それも簡単に破られると察した彼女はさらに熱湯の壁を張る。
それによって、攻撃の威力が下がるが涙流華は吹っ飛んでしまう。涙流華は立ち上がり、刀を肩の高さまで上げデーモンの方向へ切っ先を向ける。
「水王一式・水牢!」
切っ先から水の玉が膨らみながらデーモンに近づき、やがてデーモンを飲み込む。
「水王二式・氷華!」
デーモンを呑み込んだ水が凍り、地面に落ちる。
しかしデーモンはダメージを受けていなかった。
デーモンは体についた氷の破片を払っている。
「君の氷結は表面だけなんだ」
デーモンの体から赤黒い靄が発せられると、その靄が彼の体を覆う。
「これはどう防ぐ?」
デーモンの背後に赤黒い玉のようなものが浮かぶ。すると、そこからさらに小さい球の靄が射出され涙流華に向かっていく。緩やかな弧を描きながら迫りくる赤黒い球を袈裟斬りで両断するが、2つに分かれた球は尚も涙流華に迫る。
左に体を揺らして右側の一つは避けたものの、左側の赤黒い球は右肩に直撃した。
「これは……」
涙流華の右肩に当たった赤黒い靄は、彼女の肩に残りだんだんと力を奪っていった。
今まで感じたことのない感覚。鈍痛に近い、それでいて体の力が抜けていくようだった。
「これを受けるのは初めてかね?」
デーモンは手のひらの上に小さな赤黒い靄を浮かべ涙流華に問う。
「ああ……初めてだ……」
涙流華は冷や汗をかきながら答えた。
「意外だな。水王家ならすでに会得していると思ったが」
デーモンはそう言うと自身の目の前に暗赤色の靄でできた縦長の空間を開く。
「会得……?なんだそれは……?」
力が抜けていく涙流華は、ついにその場に膝をついてしまう。
デーモンは黒い空間の中を通り抜けると、赤黒い靄を鎧のように全身に纏った。
「じゃあこれも知らないわけだな」
次の瞬間、デーモンは地面を蹴ると急激に間合いを詰め、涙流華に近づいた。デーモンは靄を纏った状態で打撃を繰り出すが、涙流華は力を振り絞ってなんとか刀で防ぐ。
「まだまだ!」
デーモンはさらに力強く打撃を繰り出した。
そしてデーモンの手刀に涙流華の刀が真っ二つに折れてしまう。
「……なにっ……?」
折れる愛刀を目の当たりにした涙流華は反射的にすぐ様もう1つの刀、父から授かった水王家の宝刀である憑依刀を引き抜いた。
しかし、彼女はすぐに異変を感じることとなる。
「な、なんだこれは……」
涙流華が憑依刀を抜いた瞬間、怒り、憎しみ、悲しみ、あらゆる負の感情が湧き上がり、徐々に身体の力が抜けていくのが感じられた。
その瞬間、涙流華の意識は遠のく。
「なんだ?」
デーモンも感じとった雰囲気の変化。涙流華から感じられる邪悪な波動。
すると涙流華が水となり地面に染み込んでいく。
溶けた涙流華を探すようにデーモンが辺りを見回していると、背後から激痛が走る。デーモンが後ろを振り向くが誰もいない。背中を触ると服が皮膚に貼り付き、熱を持っていた。
「火傷……か?」
デーモンが最高硬度の鱗で全身を覆う。すると涙流華がデーモンの数メートル先に現れ、デーモンに向け手をあげる。
「なんだ……?」
急激な気温の上昇とともにカタカタという音が鳴り始める。デーモンは音の発生源である机の上のコップを見ると、水が沸騰し蒸発しはじめていた。
「まずい! 轟唱・水狂雨」
デーモンは煉術で巨大な水球を発生させ自分の身を覆って守るが、そのほとんどが蒸発してしまい、デーモンも少しダメージを受ける。
そうしている間に涙流華は頭上で巨大な水の玉を形成している。
「次から次にこのレベルの攻撃か……!」
デーモンも涙流華に対抗するため、煉術を発動する。
「轟唱・焔填火球!」
水と炎がぶつかり、強い衝撃とともに轟音が響き渡る。
その衝撃は上級大将執務棟のみならず、周囲の棟にも届くほどだった。
そして衝撃による土煙が晴れると、デーモンの目の前に広がる光景は目を疑うものだった。
「一体何が起こっている……?」
To be continued....
【EXTRA STORY】
「なんだよルルカのやつ。あの中佐とは仲悪かったんじゃなかったのか?」
「昔からの知り合いみたいだったからな。何かしらあるんだろ。戦星のサムライとは言っても年頃だしな」
「昔からの知り合いっていうと、幼馴染ってやつか? 俺とセリナみたいな」
「誰だそれ」
~央星某所~
「えっくしょん!」
「またですか? 体調管理はしっかりしてくださいよ?」
「分かってますって。きっと誰かが噂してるのよ」
「どうでしょうね。ウラズマリー君のことで色々と大変なんでしょう? 体に無理がきているのでは?」
「あなた、ウラズマリーのこと知ってたの?」
「もちろんです。あなたが単独で動いているのも知ってましたから。あなたと行動を共にすることが多いですからね」
「動きを悟られるなんて、私もまだまだね」
「いえいえ、私は隠密行動も訓練していましたから気に病むことはないですよ」
「なんか言い方が鼻につくわね」
「もしかしてこのこと…」
「心配せずとも言ってませんよ」
「あ、そう言えば。そのウラズマリー君ですけど…」
To be continued to next EXTRA STORY.....?
【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍大元帥。政府軍のトップ。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍元帥。政府軍のナンバー2。
[デーモン]
政府軍上級大将。政府軍のナンバー3。
ラルトが駆け出しのころに教官を務めていた。
[ボルボン]
政府軍大将。政府軍のナンバー4。
ラルトに現場でのいろはを叩き込んだ。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
~央星・政府軍本部~
敵意を向けるラルトに対してデーモンは手を差し伸べた。
「ラルト、共に来い。一緒に戦おう」
ラルトはデーモンが差し伸べた手を荒々しく払いのけた。そして振り返ると、入口にいたボルボンを押しのけ上級大将執務室を飛び出す。
「共に来ると思っていたが、仕方がないか」
デーモンは残念そうな顔で言った。
「まぁ、まずはここを出る準備だ。時期オールが来る」
ボルボンは大将執務室に戻っていく。
~大元帥執務棟~
ラルトは大元帥執務室へひた走っていた。
自分が慕っていた二人が政府軍を裏切っていた。その事実を受け入れられず彼の息は荒くなっていた。
彼が向かっていたのは、その裏切りを予見してみせた大元帥のブラスト・オールの元だった。
いつからが嘘だったのか。つい最近?前の任務で一緒だった時から?それとも軍に入った時から?
そんな考えが彼の頭の中をぐるぐると回っている。
そして大元帥執務室に辿り着いたラルトは、声もかけることなく勢いよく扉を開ける。
突然の部下の来訪に大元帥のブラスト・オールは事務机から立ち上がった。
「その様子だと、デーモン上級大将とボルボン大将が敵だったようだな」
「政府軍の上層部2人が指名手配されてるヴァンガルド・キルと繋がってるって、どうなってるんですか!」
「それだけじゃない!俺の爺さんが死んだ理由だって政府軍は捻じ曲げて記録してる!」
オール大元帥は目を伏せた。
そしてラルトは静かに一言発した。
「政府軍は……黒だ」
「ということは今は私も疑われているのかな?」
オールはにこやかに問う。
「わかりません。ただ政府軍の中でこの話ができる人だと思っています」
ドゴーーーーン
室外から爆発音が聞こえ、建物が震える。
~約10分前~
涙流華は走っていた。
「あの馬鹿、確か上級大将とかなんとか……こっちか?」
――ローズ中佐はおそらく上級大将執務室に向かった
マイヤードが大元帥と呼ぶその男はそう言っていた。
政府軍のトップである大元帥、ブラスト・オールがわざわざプラズマ達の元にやってきてそう言ったのだ。大元帥は涙流華の方を向いていた。
「おい、その執務室はどこだ」
涙流華はマイヤードに尋ねる。
「え、この棟を出て右手にある棟ですけど……」
それを聞いた涙流華は走りだした。
▽▽▽▽
涙流華はラルトを追って上級大将執務室に向かっていた。
マイヤードが言っていたように、棟を出ると右に曲がり、目の前に見える棟へと駆けていく。
棟に掲げられた看板を一瞥する。
上級大将執務棟
涙流華は小さく“ここか”と呟くと、1階の受付を駆け抜けた。受付職員の呼び止めにも応じず、左手にあった階段を駆け上がっていく。
受付を通り抜けたときに地図は見ていた。上級大将執務室は最上階の5階だった。
階段を駆け上がり、5階廊下へと出ると“上級大将執務室”と掲示された表札を見つけ、その部屋へと近づいていく。
ガラズ張りの扉を開けると、中にいる人物に声をかけた。
「すまん、ラルト・ローズがここに来なかったか?」
部屋の中にいるスキンヘッドの男は涙流華の方に向き返る。
「ラルトが出ていったと思ったら、次は……」
その男、上級大将いのデーモンは自身に話しかけてきた女性に目を向けた。
「青色の髪の女剣士。水王ルルカだな?」
初対面の男に自分の名前を言い当てられた涙流華は左腰の刀に手を掛け、警戒心を露わにする。
「なるほど、君がいるということはウラズマリーもいるのか」
「なぜ私やプラズマを知っている?」
涙流華は柄を握り、いつでも抜刀できる体勢をとっている。
「みんな知っているさ。サンダー・パーマー=ウラズマリーとその仲間のことは」
そう言うと、デーモンの手が爬虫類のような鱗に覆われていく。
お互いに目をそらさず相手を見ている。
流れる静寂。
次の瞬間、デーモンの腕と涙流華の刀がぶつかり火花をあげる。
涙流華はデーモンの左腕と鍔迫り合いになるが、すぐさまデーモンの腕を凍らせた。
「この程度では私の鱗は凍らないぞ」
デーモンが力を入れると腕が膨張し、氷が勢いよく砕け散る。
「これが防げるかな?」
デーモンは左手で刀を掴むと、右手で涙流華を左肩付近を殴りかかる。
涙流華は咄嗟に氷の壁を1枚張り、それも簡単に破られると察した彼女はさらに熱湯の壁を張る。
それによって、攻撃の威力が下がるが涙流華は吹っ飛んでしまう。涙流華は立ち上がり、刀を肩の高さまで上げデーモンの方向へ切っ先を向ける。
「水王一式・水牢!」
切っ先から水の玉が膨らみながらデーモンに近づき、やがてデーモンを飲み込む。
「水王二式・氷華!」
デーモンを呑み込んだ水が凍り、地面に落ちる。
しかしデーモンはダメージを受けていなかった。
デーモンは体についた氷の破片を払っている。
「君の氷結は表面だけなんだ」
デーモンの体から赤黒い靄が発せられると、その靄が彼の体を覆う。
「これはどう防ぐ?」
デーモンの背後に赤黒い玉のようなものが浮かぶ。すると、そこからさらに小さい球の靄が射出され涙流華に向かっていく。緩やかな弧を描きながら迫りくる赤黒い球を袈裟斬りで両断するが、2つに分かれた球は尚も涙流華に迫る。
左に体を揺らして右側の一つは避けたものの、左側の赤黒い球は右肩に直撃した。
「これは……」
涙流華の右肩に当たった赤黒い靄は、彼女の肩に残りだんだんと力を奪っていった。
今まで感じたことのない感覚。鈍痛に近い、それでいて体の力が抜けていくようだった。
「これを受けるのは初めてかね?」
デーモンは手のひらの上に小さな赤黒い靄を浮かべ涙流華に問う。
「ああ……初めてだ……」
涙流華は冷や汗をかきながら答えた。
「意外だな。水王家ならすでに会得していると思ったが」
デーモンはそう言うと自身の目の前に暗赤色の靄でできた縦長の空間を開く。
「会得……?なんだそれは……?」
力が抜けていく涙流華は、ついにその場に膝をついてしまう。
デーモンは黒い空間の中を通り抜けると、赤黒い靄を鎧のように全身に纏った。
「じゃあこれも知らないわけだな」
次の瞬間、デーモンは地面を蹴ると急激に間合いを詰め、涙流華に近づいた。デーモンは靄を纏った状態で打撃を繰り出すが、涙流華は力を振り絞ってなんとか刀で防ぐ。
「まだまだ!」
デーモンはさらに力強く打撃を繰り出した。
そしてデーモンの手刀に涙流華の刀が真っ二つに折れてしまう。
「……なにっ……?」
折れる愛刀を目の当たりにした涙流華は反射的にすぐ様もう1つの刀、父から授かった水王家の宝刀である憑依刀を引き抜いた。
しかし、彼女はすぐに異変を感じることとなる。
「な、なんだこれは……」
涙流華が憑依刀を抜いた瞬間、怒り、憎しみ、悲しみ、あらゆる負の感情が湧き上がり、徐々に身体の力が抜けていくのが感じられた。
その瞬間、涙流華の意識は遠のく。
「なんだ?」
デーモンも感じとった雰囲気の変化。涙流華から感じられる邪悪な波動。
すると涙流華が水となり地面に染み込んでいく。
溶けた涙流華を探すようにデーモンが辺りを見回していると、背後から激痛が走る。デーモンが後ろを振り向くが誰もいない。背中を触ると服が皮膚に貼り付き、熱を持っていた。
「火傷……か?」
デーモンが最高硬度の鱗で全身を覆う。すると涙流華がデーモンの数メートル先に現れ、デーモンに向け手をあげる。
「なんだ……?」
急激な気温の上昇とともにカタカタという音が鳴り始める。デーモンは音の発生源である机の上のコップを見ると、水が沸騰し蒸発しはじめていた。
「まずい! 轟唱・水狂雨」
デーモンは煉術で巨大な水球を発生させ自分の身を覆って守るが、そのほとんどが蒸発してしまい、デーモンも少しダメージを受ける。
そうしている間に涙流華は頭上で巨大な水の玉を形成している。
「次から次にこのレベルの攻撃か……!」
デーモンも涙流華に対抗するため、煉術を発動する。
「轟唱・焔填火球!」
水と炎がぶつかり、強い衝撃とともに轟音が響き渡る。
その衝撃は上級大将執務棟のみならず、周囲の棟にも届くほどだった。
そして衝撃による土煙が晴れると、デーモンの目の前に広がる光景は目を疑うものだった。
「一体何が起こっている……?」
To be continued....
【EXTRA STORY】
「なんだよルルカのやつ。あの中佐とは仲悪かったんじゃなかったのか?」
「昔からの知り合いみたいだったからな。何かしらあるんだろ。戦星のサムライとは言っても年頃だしな」
「昔からの知り合いっていうと、幼馴染ってやつか? 俺とセリナみたいな」
「誰だそれ」
~央星某所~
「えっくしょん!」
「またですか? 体調管理はしっかりしてくださいよ?」
「分かってますって。きっと誰かが噂してるのよ」
「どうでしょうね。ウラズマリー君のことで色々と大変なんでしょう? 体に無理がきているのでは?」
「あなた、ウラズマリーのこと知ってたの?」
「もちろんです。あなたが単独で動いているのも知ってましたから。あなたと行動を共にすることが多いですからね」
「動きを悟られるなんて、私もまだまだね」
「いえいえ、私は隠密行動も訓練していましたから気に病むことはないですよ」
「なんか言い方が鼻につくわね」
「もしかしてこのこと…」
「心配せずとも言ってませんよ」
「あ、そう言えば。そのウラズマリー君ですけど…」
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