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第13章 永遠の別れ編

第81話 初恋の人があなたで良かった

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 石田の告別式に俺達は参列した。

 寿をはじめ石田と交流のあった女子達は号泣している。
 特に岸本は演劇の結果を石田に報告できないままのお別れになってしまった為、人一倍号泣していた。

「ひっ、浩美にもっと会っておけばよかった……うっ、うう……」

 そんな岸本を抱きしめる形で稲田と川田も泣いている。

 寿は彼氏の山田の胸の中で泣いていた。

 
 告別式には『つねちゃん』や志保さん、山本さんも参列していた。

 『つねちゃん』が俺の肩をソッと触り声をかけてきてくれる。

「隆君、大丈夫?」

「う……うん、大丈夫だよ……石田の最後は見とれなかったけど……でも最後にたくさん話も出来たし、石田の想いも聞けたし……それに最後は笑顔で……うっ、うう……」

 俺の目から涙がボロボロとこぼれ落ちて来た。
 そんな俺に『つねちゃん』も涙を流しながらずっと俺の背中をさすってくれていた。

 そして『つねちゃん』は優しい声で俺にささやく。

「隆君、覚えているかな? 先生と隆君と二人で浩美ちゃんのお見舞いに行った時の事を……」

「えっ? ああ、うん……覚えているよ……」

「あの時の帰り際、先生だけが病室に残って浩美ちゃんと二人だけでお話していた事があったでしょ? あの時ね、浩美ちゃんにこう言われたの……『つねちゃん、私の分も五十鈴君のことお願いね』って……」

「えっ、そうなの……? 石田がそんな事を……」

「先生ね、あの時思ったんだ。浩美ちゃんはもう自分は長く生きられないって分かっていたんだと……だから先生にあんなことを……そして『浩美ちゃんも』隆君のことが大好きだったんだと……うっ、うう……グスン……」

 『つねちゃん』はそう言うとしゃがみ込み、両手で顔を押さえながら泣き出した。

 俺もしゃがみ込み周りの目など気にせずに、『つねちゃん』の頭を撫でていた。


 告別式が終わり石田の遺体が霊柩車に運ばれ火葬場へ行く準備をしている間に石田の母親が俺達に声をかけてきた。

「五十鈴君達、ちょっといいかしら……?」

 石田の母親はたくさんの手紙のようなものを持っていた。
 そしてその一つ一つを俺達に渡してくれたのだ。

 それは石田から俺達一人一人に対しての手紙だった。

 寿達は泣きながらその手紙を受け取った。

 しかし何故か俺だけ二通の手紙を渡された。

 不思議そうな顔をしている俺に石田の母親がこう説明してくれた。

「五十鈴君、一通はね、浩美から五十鈴君に対しての今までのお礼とお別れの言葉が書いてある手紙だから、いつでも読んでちょうだいね。でも、もう一通は今は読まなくていいらしいの……五十鈴君が高校生になって『悩んだ時』に読んで欲しいってあの子が言っていたから……だから『その時』まで開封しないでもらえないかな?」

 悩んだ時……? 何に悩んだ時だろう?
 と俺は思ったが

「わ、分かりました……」

 俺がそう返事すると石田の母親は涙を流しながら突然、俺をギュっと抱きしめこう言った。

「五十鈴君、今まで有難う。浩美のことを大切に思ってくれて本当に有難う。短い人生だったけど浩美にたくさんの幸せをくれて有難う……あなたが浩美の『初恋の人』で本当に良かったわ……」




 【十月某日】

 この日は岸本達『演劇部』のコンクールの日である。

 勿論、俺達は岸本を応援する為に会場に来ていた。

 寿の膝の上には石田の写真がある。

 この日の演劇部の演技は凄かった。

 特に岸本の演技が凄過ぎた。

 『主人公が親友と死に別れるシーン』があったのだが、その時の岸本の号泣する演技が『本物』だった。きっと死んでいく親友役を石田と重ね演技をしているのだろうと素人の俺でも理解できた。

 だから一緒に応援に来ていたみんなも涙を流しながら岸本の演劇を観ている。
 

 そして岸本達『演劇部』は当初の目標であった『優秀賞』を飛び越えて見事『最優秀賞』を受賞したのだった。

 コンクール終了後、俺達は岸本達がいる控室にお祝いの言葉を言いに行った。

 泣きながら抱き合って喜ぶ女子達、俺や高山達男子はその姿をジッと見ていた。

「浩美に直接報告したかったよぉぉ!! ウエ―――ンッ!!」

 岸本は顔をクシャクシャにしながら泣いていた……


 岸本達が少し落ち着きだしたので俺は岸本にこう投げかけてみた。

「き、岸本さぁ……」

「な……何、五十鈴君?」

「いや、岸本って将来『女優』を目指す気はないのかなぁと思ってさ……」

「えっ、私が『女優』にですって!? 五十鈴君、こんな時に変な冗談はやめてよっ!?」

 岸本は凄く驚いた顔をしながら言ってきたが俺は引き続き話し出す。

「いっ……いや、冗談で言ってる訳じゃないんだよ。さっきの岸本の演技力は凄く良かったし、それに岸本は美人なんだから、これからもっと頑張ればきっと『女優』になれるんじゃないかと思ったんだよ……」

「びっ、美人ですって!? この私がっ!? 私をからかっているの五十鈴君は!?」

 岸本は顔を真っ赤にしながら少し怒り口調で言ってきた。

「別にからかってなんかいないよ!! 俺は本当の事を言ってるだけで……」

 俺の横で少し呆れた顔をした寿が小さい声で呟く。

「ほらやっぱり……五十鈴君は誰にでも『美人』って言っちゃうんだから……」

「寿は余計なことを言うんじゃないよ。おっ、俺はさ、石田の夢を岸本が代わりに叶えさせれるんじゃないかと思っただけなんだよ……」

「えっ!? 浩美は『女優』になりたかったの!?」

 岸本の目の色が変わった。

「あ、ああ……多分な……」

 石田が『この世界』ではきっと無理だから『今度生まれ変わったら女優になりたい』って言っていたとは岸本に言わないでいた。

 岸本は少し考えたあと俺にこう言った。

「分かった……私、頑張ってみる!! 浩美の分まで……いえ、浩美と一緒に女優になる夢を叶えてみるわ!!」

 俺はこの時の決意をした岸本の真剣な顔を一生忘れることはないだろう……




 【あくる年の三月】


 俺は卒業の日を迎えた。
 卒業証書が入っている筒を手に俺は卒業式後の学校の光景を眺めている。

 笑顔の人、泣きじゃくる人、先生に握手を求める人、様々な光景が見える。
 後輩女子達から制服の第二ボタンをせがまれている男子生徒も複数見かけられた。

「誰か俺の第二ボタンを欲しがる子、いないかなぁ……」

 高山が俺の横でそう呟いていた。

 俺と高山そしてキャプテン下田や副キャプテンの藤木は四月から同じ高校に通う。
 俺は『前の世界』と同様『青葉東高校』に通うことになったのだ。

 ちなみに寿と彼氏の山田、そして川田は『青葉高校』
 稲田と岸本は『青葉女子学園高校』、村瀬と森重は『青葉西高校』
 大石は『北神崎高校』……

 皆、それぞれに新たな道を進む事になる。
 俺は胸の内ポケットに手を入れ、ある物を触っている。
 実は今日の卒業式に石田からの読んでも良い方の手紙を持って来ていたのだ。
 手紙を持ってきたら何だか石田と一緒に卒業式を迎えられそうな気がしたからだ。




 【石田からの手紙】

 拝啓、五十鈴隆君へ

 この手紙を読んでいるってことは私はもうこの世にいないということでしょう。

 五十鈴君、今まで本当に有難う。
 そして一緒に卒業できなくてごめんね。

 でも私は全然後悔はしていないの。だってそうでしょ?
 
 私は一度死んでいるのだから。それなのに『この世界』でやり直しができて、事故で死なずにすんで、そしてお母さんの命を救う事ができたんだもの。それだけで私は満足だわ。

 それに何も想いを伝えられないまま死んでしまった私が『この世界』ではちゃんと想いを伝えて死ぬ事ができたの。それも大好きな五十鈴君にちゃんと想いを伝えて死ぬ事ができる。だから私はとても幸せなの。

 だから私が死んでも悲しまないでね。
 それよりも五十鈴君には私の分まで頑張って生きて欲しい。

 そして五十鈴君の夢を叶えて欲しい。

 つねちゃんと幸せになって欲しい。

 これが私の最後の願いです。
 必ず私の願いを叶えてね。

 隆君、モテるからとても心配だわ。

 
 高校生になっても絶対に浮気しちゃだめよ。
 つねちゃんの事だけを考えてね。

 約束だからね。

 もし恋愛で悩んだ時はもう一通の手紙を読んでください。
 それまでは絶対に読まないように。

 これも約束だからね。

 これから私は

 私は夜空の星の一つになって五十鈴君達の幸せを願いずっと見守り続けます。

 本当に今まで有難う。
 私にたくさんの幸せをくれて有難う。

 さようなら、五十鈴君……
 大好きだよ……

 あなたが私の初恋の人で本当に良かった……


                   敬具



 俺は手紙を握りしめ、思い出のたくさん詰まった学校をあとにするのであった。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。

これで『中学生編』は終わりです。

石田との思い出を心に刻み隆は新たなステージへと歩み出す。
そして隆の夢、石田の最後の願いを叶える為、つねちゃんと幸せになるべく最後の三年を頑張る決意をする隆。

果たして高校三年間、何事も無く夢に向かって突き進めるのか!?
それとも……

次回からは遂に『高校生編』が始まります。

どうぞ次回も宜しくお願い致します。
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