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第14章 新たな出会い編

第90話 初恋の人と共に良い思い出をつくる

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 【ホームルーム合宿後の授業初日の朝】 

 『ホームルーム合宿』が無事?に終わり、今日から普通に授業が行われる。

 しかし……なんてこった……

 水井京香には何となくだが気に入られてしまい、そして佐々木にもあんな形で出会ってしまうとは……

 挙句の果てに羽田から『佐々木が好き』発言まで飛び出してしまい、高校生になってからの約一ヶ月の間で俺の周りは目まぐるしい出来事満載だ。

 そしてその出来事についていけていない俺がいる。

 『前の世界』と同じ事が起こると思って多少、気持ちに『余裕』のあった俺だったが、目の前で起こる事は『前の世界』とかなり違ってきていて戸惑いが隠し切れない。

 一体どうなってるんだ……?

 俺が何かしたのか? 

 本当に自己紹介で『好きな女性のタイプは幼稚園の頃の先生』と言ってしまっただけで、こうも変わるのか?

 いや、そんな事は無いはずだ……

 俺があれこれと考えている時に新見が声をかけてきた。
 それも何かバツの悪そうな顔をして……

「五十鈴君……ゴメン!!」

「えっ、いきなり何だよ? 何がゴメンなんだ?」

 新見は答えづらそうな顔をしているが、俺の目を逸らしながら小声で呟いた。

「じ、実はね……私、五十鈴君との約束を破っちゃったの。合宿の夜にみんなから五十鈴君のことを根掘り葉掘り聞かれちゃって……」

「えっ!? もしかして『つねちゃん』と今も会っているって事を話したのか?」

「う、うん……でっ、でもね、最初はうまく誤魔化せてたのよ。ただ……」

 新見は少し半泣きの表情になっている。

「ただ、何だい?」

「ただね……水井さんが、あまりにも五十鈴君の事を『よく知ってる風』な感じで話をするもんだから……でも彼女の言ってることは五十鈴君がうまく誤魔化した内容をそのまま言ってるだけだろうと思ったし……ずっと彼女の話を聞いていたら何だかよく分からないけど腹が立ってきちゃってさ……」

 水井が話している内容はおそらくバスでの俺との会話の一部だろう。
 水井には『つねちゃん』は『過去に好きだった人』的な話の仕方をしていたし……

 でも何で新見がそれくらいの事で……自分の事じゃ無い事で腹が立ったのか俺には理解できなかったが、いずれにしても彼女はまだ『十五歳』……まだまだ子供だ。

 そんな子供に『本当の事』を話し、また『約束を守ってもらえる』と信じていた俺の方が甘かったのだろう。そう思えた俺は新見に対して頭にくるという感情は起こらなかった。

「それでアレだな? つい自分の方が俺の『本当の事』を知っているんだ、水井の言ってることは間違いだと思ったら思わず言ってしまったってことだな?」

「は、はい……その通りです……」

「ハハハ……まぁいいよ。別に新見は悪く無いから、気にしなくていいよ……」

「で、でも……」

「大丈夫!! 俺はこういったことは何故か慣れているし……それに皆に今の内から『本当の事』を知られている方が都合が良いかもしれないしさ。だから新見は全然気にしなくていいから……」

「あ、有難う……このお詫びは何か違う形でさせてもらうから……」

「そんな事、しなくていいよ。それより新見もこれから色々あると思うぞ……」

「えっ、色々って何!?」

「ハハハ、今は秘密さ。それまでのお楽しみということで……」

「えーっ、何よぉぉ? 教えてくれてもいいじゃない!?」

「ハハハ……ハハハハハ……」

 新見にいつもの笑顔が戻り俺はホッとするのだった。




 【ある日の日曜日】

「隆君、どうしたの? 今日はあまり元気がないみたいね? 学校で何かあったの?」

 『つねちゃん』が心配そうな顔をしながら聞いてくる。

「いっ、いや、何でも無いよ。ちょっと考え事をしてただけだから……」

 今日は『つねちゃん』と久しぶりに『水族館でのデート』……
 本来なら気持ちが舞い上がってもおかしくないくらいのはずなのに……

 しかし、『つねちゃん』がとても悲しそうな顔をしているので、これはマズいと思った俺は気持ちを切り替え口角を上げて無理矢理笑顔をつくった。そして……

「つねちゃん、ゴメン……せっかく久しぶりに会えたのに……考え事なんかしている場合じゃないよね? 今日は何も考えずに思いっきり楽しむよ……」

 俺がそう言うと『つねちゃん』に笑顔が戻り優しい声でこう言ってくれた。

「隆君、もし高校生活で困ったことがあったり、悩み事があればいつでも先生に相談してね? 高校生になったばかりで戸惑う事も色々あると思うけど、それも全て先では『良い思い出』だったと思えるように一緒に頑張りましょう……ねっ?」

 『良い思い出』か……

 そうだよな。俺は今までも『この世界』での出来事は全て『良い思い出』になっている。勿論、石田の『死』は『悲しい思い出』だが、それでも石田が死ぬまでの過程は本当に『良い思い出』になっていると思う。

 それに何でもかんでも『前の世界』と同じなんて面白くも無いし、努力も半減してしまうだろう。俺は『幼児』の時から『前の世界』ではあり得ないくらいの努力をしてここまで来れたのだから……

 やはりこれから起こる様々な事柄は俺と『つねちゃん』が結婚する為に神様がくれた『最終試練』だと思う事にしよう……

 そしてその『最終試練』を乗り越えた先には俺と『つねちゃん』の『明るい未来』が待っているんだと改めて思うことにした。

 シュッ……

「えっ?」

 まさかの『つねちゃん』から、なんとも言えないくらいの可愛らしい笑顔で腕を組んできたのだ。

「いつの間にか隆君、先生よりも背が高くなったわねぇ……昔はあんなに小っちゃかったのに……だから腕もとても組みやすくなったわ……フフフ」

 俺は身体中が熱くなっているのが分かったが、何も言わず『つねちゃん』の温もりを感じながら久しぶりの『水族館デート』を楽しむのであった。



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お読みいただきありがとうございました。

これで『新たな出会い編』は終了となります。
次回からは『新章』開始です。

どうぞ宜しくお願い致します。
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